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幕間 私達の歩んできた道 8
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姫様の病室から出て、ゆっくりと、目的地に向かって歩いていく。
ゆっくりと歩くのはここが病棟なので当然だよね。落ち着いてゆっくりと歩きながら真っすぐに外に向かう。
朝早くから年齢なんて関係なく熱心に仕事に従事してくれている人がいる、その人と廊下でバッタリ会うので朝の挨拶をすると報告があるからと呼び止められる。
現状について私も話をしたかったのでちょうどよかったと返事をして、医療班団長として話を聞く。
報告の内容として、No2の状態と、姫様の容態を教えてもらった。
まずは、No2の子供がいつ生まれても大丈夫なように医療班全員で体制を整えてくれているみたいで、医療班に所属している女性陣全員が楽しみにしながら勤務している。
訃報だらけに未来への不安が募る状況、常に心にストレスが生まれて心に影を生み出してしまうような日々、そんな中で、幸せで明日を夢見ることが出来る出来事が誕生しようとしているのだから、吉報を心待ちにしているのはとてもいいこと、やっぱり悲しいニュースよりも希望溢れるニュースの方がいいよね。
次に、姫様の容態として、一番の懸念である魔力量だが、完全に測定できないでいる、体内に流れる魔力は観測出来ている、となれば、魔力は、循環はしている、はず。
なので、命を維持する分においては問題はないだろう、恐らく、No2が妊婦だというのに魔力を注いでくれているのではないかと予想される。
その言葉に違和感を感じる、封印術式を用いて魔力を弾いて外からも中からも漏れ出ないようにしているのに、どうやって補充を?私の知らない何かがあるのだろう。
そのほかのバイタルサインも特に問題なく、心臓も動いているし、呼吸も安定している、各種臓器も動いているが、気になる点が多く、目が覚めたら全ての臓器を隈なく調べたい、可能であれば脳も調べたい、私とNo2が居れば、恐らくではあるが、脳まで意識を深く浸透出来るので、脳細胞も念入りにチェックできるし、魔力を得るために脳細胞を魔力へと昇華した場合でなければ…強引にでも、再生させて見せるよ、前例なんて関係ない、私が前例を作る。
現状報告を受け取り、今後の方針を軽く打ち合わせした後、言葉に影があるというか言い淀んでいる?
私の方を見て凄く言いづらそうにしている、視線の流れ的にも、察しはついている。
恐らく私が寝ている間に隈なく臓器を調べたのだろう、当然、犠牲にした臓器が何か知ってるってことだよね?
大先輩の視線は失った臓器の方に視線を向けたり、私の目を見たりと、視線を彷徨わせながらも、心を決めたのか、目くばせをしてから頷く。
やっぱり、そこの臓器、消えたんだね。痛かったもの…
ぽんと肩を叩かれ一言だけ「いてぇよなぁ、そこばっかしわよぉ」眉間と口元に皺を寄せながら去って行く。
どんな臓器であれ、肉体の一部を欠損するのは辛いし、痛い、生きる為、明日を得る為だもの…これくらいの痛み耐えて見せるし、未来を捨てる覚悟くらい、私にはあるから…だからいいの、これは仕方のない犠牲だから。
私の犠牲で、救える命が、数多くの未来があるのであれば、躊躇う必要はない、この様なね?半端な体で未来を繋ぐのは…これしか出来ないもの、私には命を代償にするしか道が残されていないから。
悲しい方向を背負いながら病棟から出ていく…
病棟を出て久しぶりの自室へ向かって歩いて行く、部屋に向かう目的は純粋に疲労回復、昼間には幹部会議が待っているので、少しでも脳の回転速度を低下させないために仮眠を取らないとね。
仮眠目的で辿り着いた久方ぶりの自室のドアを開けて中を見てみると、久しぶりの自室だっていうのに、想像以上に綺麗だった。
医療班の誰かだろうか?きっちりと掃除してくれているのが解る、皆の心遣いに感謝し、ベッドに潜り込むと、干してくれていたのかお日様の香りがする、気持ちよく寝れそう。
目を閉じて、皆に感謝の言葉を述べた瞬間に、意識は、麻酔でも投与されたのかと勘違いする程のスピードで深い眠りにつく。
コンコンとドアがノックされる音で目を覚ますと同時に飛び起きて、周りの状況を確認する、車内じゃない、そうだ、そうだよ、もう、あの大地じゃない、緊急事態じゃない、落ち着かない心臓を落ち着かせる為に深呼吸をしてから返事をすると、幹部会議がもうすぐ始まるのでご足労願いますという声かけだった、聞き覚えのある声なので、ドアを開けると三つ編みちゃんが不安そうな顔で此方を見ているので頭を撫でてからお礼を言うと嬉しそうな顔をしている。
怖い上司の部屋に行くなんて勇気がいるものね、偉い偉い。
ささっと、身支度を整えて、一緒に会議室に向かいながら、三つ編みちゃんが医療班として頑張って活動しているのか話を聞いてみたり、悩みがあるのか聞いてみると、周りから優しくされて、勉強も頑張っている、現状における職場や勉強等の取り巻く環境での悩みなどは無い、無いのだけれど、組織のトップである私との接点が少ないのが寂しいって言われてしまった。
こればっかりはね?叶えてあげたい願いだけれど、今は勉強会とか開ける余裕が無いんだよね、でも、そうは言ってられないよね、可能な限り時間が作れたら個別で勉強を見てあげないとね~、そんな時間あるのかな?当日にならないと読めないよね…
今すぐには希望に添えれないと伝えると、俯いて悲しそうな顔をする、なので確約はできないけれど、全部が落ち着いたら幾らでも時間作るから、ごめんね、お互い一緒に頑張ろうねと声を掛けると、俯いていた表情から一転代わって笑顔になり上機嫌になる、寂しかったのかな?それとも、頼れる上司が居ないから不安だったのかな?上に立つものとして部下達のメンタルケアも大事だからね、しっかりしないと。
会議室の前で三つ編みちゃんと別れて、会議室に入ると、全員揃っているみたいなので、直ぐにでも会議を始めれる
宰相から得た情報を全員に開示し、今後の方針を固めていく。
騎士部隊、戦士部隊、全ての戦闘部隊
練度の向上、騎士部隊全員が術式による身体制御術を完全に掌握し、自由自在に扱えれるようにする。
現状、死の大地を警戒する必要性は低いので、最低限の偵察に留めて各部隊の練度向上を優先する。
術式研究所、術式部隊、研究塔
街を出る前に残された姫様からの勅命があるのでそれを優先する、何を置いても優先するべきと判断する。
内容も開示されたので、全員が納得する、姫様の先を見る目は確かだと確信する。
医療班
医療班も今後は死の大地での活動がメインとなるので、騎士部隊、戦士部隊と共に体術などの戦闘技術を小手先でもいいので身に着けるべきと判断し、死の大地の奥へと向かうのを志願したものだけを選定し戦闘訓練を行う方針が決まる。
隠蔽部隊
死の大地の奥地へと向かうことは決定事項なので、前線で生き抜くための必要な戦闘・医療・術式などの技術適性を各部隊で選定してもらい、隠蔽部隊を兼任でどれかの部隊に所属する形になる、先に向かう自信のない人は後方支援に徹してもらう、後方支援の1例として畜産の手伝い、研究塔管理の生産業など、手が足りない部署は、山ほどあるので、そちらの人員として機能してもらう
南の領民達
彼らの意志を尊重する
兵士として活動したいのであれば、街の警護にあたってもらう、志願があれば共に死の大地遠征部隊へと所属してもらう。
決して無理強いをしてはいけない、ここからは己の心との闘いになる、心から彼らが望む場所へと配属し、共に研鑽する方針とする。
避難したいのであれば、王都へ避難してもらっても構わない。自身が思う安全な暮らしが出来る場所を選んでもらえればいいと私は思っている。
各部隊の方針が決まり、この街に保存されている物資の残量などを把握するためにそれらを管理している部署に確認すると、姫様が蓄えている備蓄が凄まじく、長期保存を目的とされた長期保存用の加工食料が保存されている。
その量は途轍もなく多く、目録を確認するだけで全員が驚きを隠しきれない、何故ならその量を簡易的に計算すると、この街のみならず、王都に住んでいる人達を合わせて単純計算をしてみても、半年は籠城できるほどの物資が蓄えられていた。
畜産の王が常に作物を過剰にまで生産していたのはこういう日が来るのを予期して常に限界まで頑張ってもらっていたのだろう、今も私達が元気に活動で来ているのも彼の陰ながらのサポートがあるからこそである、彼がいる限り、私達は飢えによる作戦失敗はあり得ないだろう。
後は、街にある施設の見直しとして。過去の遺物である爆薬を精製する施設も再度使用できるようにする。
何が起こるかわからないし、古のプランも発令出来るようにするべきだろう、火薬の原材料も畜産の所に行けばあるはずなので、稼働再開は問題なさそう、あるとすれば、作り手が少ないってことかな?火薬は取り扱いに注意しないと危ないからね…
姫様が過去に作成したり、何かの為にって、用意していた魔道具の点検、稼働ができるのかの確認、後は、敵から奪い取った魔道具の点検、及び、稼働が可能なのかも確認する。
生存率を上げるためにも、街の予算を最大限に投入し、各部隊に戦闘服を配備できないか確認する、予算的に問題は無いのだけれど、生産が追い付かない可能性が高いので、ランクを落とした量産品を用意することに。
人類の損棒を賭けた最後の戦いに向けて各々が出来る全てを悔いのないように命がけで行うという方針が決まる、それに伴い旗印がいるのではという、声が上がるのだが、誰しもが声を揃えて指名する
姫様の意志を継ぐ者として、姫様代理執行人として団長がこの街の総括として医療班のみならず死の大地から死を運ぶ獣達から守るための一団
前線都市の団長と任命される
人類の未来を背負う覚悟も責任を背負う覚悟も、人類の偉業を成し遂げる覚悟もある、姫様に託されたのだから。
新たな、ううん、正式に多数決により、恐らく、この街で最初で最後の最前線を、人類全ての未来を守る一団の団長、であり、統括責任者が民主主義に乗っ取って誕生した。
姫様がいない会議はこれにて終了を迎えた。
会議が終わった後も、会議室に最後まで残り、集められている資料で私が知りえていない情報などの抜けが無いか確認していると珍しくベテランさんも会議室に残っている。
普段なら会議が終われば真っ先に出て行って自分のやりたことをする人なのに、残るということは私に用事があるのだろう
資料を置いて声を掛けようと思ったのだが躊躇ってしまう、何故なら、今まで見たことのない表情をしている、何とも言えない神妙な面持ちで此方を見ているから。
此方から声を掛けるよりも向こうで何か覚悟が決まったら声を掛けてくれるだろう、今は焦らずまとう、彼の心が前へと進むその時を。
向こうから声を掛けてくるまで待ちながら書類やレポートに目を通していく。ふと、声が聞こえてくるので顔を上げてベテランさんの方を見る
「すまない、年長者である、俺が本来であれば責任を背負う立場へと至るべきなのに…お前に背負わせてしまった」俯いたままで絞り出すように声を出す、彼の中にあるプライドか、情けない自分を嫌悪しているのか声が辛そうだった。
それにさ、先の会議で決まったのは、それは、その、しょうがないよね?各部隊総意の元、決まったことだし、会議が始まる前からこうなるって、私自身も思っていたから
「すまない、どうしても、俺の様にあの時代を知っている世代はお前の…いや、貴女の背中にあの人を重ねてしまう、重ねてしまうのだ、強くなったと、守られるばかりのあの頃に比べて守る立場に成れたのだと実感も沸いているのに、重ねて、夢をみてしまうんだ、優しい優しいゆりかごの中で見守られるような感覚を抱いてしまうのだ…俺は、おれは…弱い…」言葉の節々から、怒気?悲しみ?などが伝わってくる、きっと、成長できていない自分を下げずんでいるのだろう…
ベテランさんが弱かったら全人類弱いよ?…そんな当たり前でわかりきってる様な慰めは欲しがってはいないだろう。
珍しく弱音をいうってことは、何かあったのだろう…少し考えるとどうしてそうなったのか、凡その予想はつく、姫様が槍で貫いた特別製の人型と対峙したときでしょ?あの時に、全ての何かが圧し折れてしまったのだろう、そして、お爺ちゃんという柱に支えられてしまったのがまた、弱い自分を見てしまって心の葛藤から抜け出せないでいるのだろう。
「あの時、あの瞬間、恐怖によって足が竦んでしまっていた、俺がそうなるのを姫様は見抜いていた、だからなのだろうな、俺に託さずに父君に託したのだろう、作戦の要である魔道具を…」やっぱり、予想通りってことか、あの魔道具の説明書にたぶん、姫様だったら渡す人の優先順位も記載していると思う、作戦を成功させる為なら関わる人のプライドとかそういうのをかなぐり捨てて指示を出すのが姫様だから、その部分でも感情の波をコントロール出来ていないのだろう。
託された魔道具がどのような効果を持っているのか、仕様書を見ていないけれど、何となくだけれど察しはついている、当てるだけの魔道具。
予想としてはそれを当てることで姫様が秘術を用いて槍を投擲した際に、その場所に向かって飛んでいく座標固定の魔道具だろう。
だからこそ、あのような超長距離での投擲を成功させることが出来たのだろう、そう、本当に作戦の要である、その魔道具を敵に当てるというのは簡単に聞こえるが至難の業である。
眼前に迫る死の恐怖に打ち勝ち尚且つ、敵の動きを見定めて的確に敵が槍を投擲されることで致命傷を負う場所に当てないといけない、腕や足に当ててしまうと致命傷に至らない可能性が高い。
ベテランさんでは、死の恐怖に打ち勝てない可能性があると姫様は判断し、お爺ちゃんに託したのだろう、誰でもいいと発言していそうだけど、用意してあるマニュアルに託す人の優先順位を絶対に書いているはずだ、名指しでね、多少は相手のプライドを傷つけない配慮はされていると思いたいけれど、姫様との長い付き合いだと、ね、ああ、これは気を使われているなってわかっちゃうよね…
前線にいる人でアレに接触して魔道具を当てれる人をしっかりと優先順位を決めていると見ていいだろう。
「俺は、今の俺を情けなく感じて仕方がない、何時からこんなに、こんなにも…死を恐れるようになってしまったのか?若い頃は死を恐れたりはしなかった、今でも思い出しては体の芯から湧き上がる恐怖を乗り越えようとしても…一歩が踏み出せない、敵の幻影を思い浮かべては逃げることだけを考えてしまう」
手も足も震え、その震えを止めるために手を叩いたり、足を叩いたりしているが震えが収まることがなかったか。
「ねぇ、先輩」
震えが止まらない先輩に優しく声を掛ける
「逃げようとさ、本能が反応した時にね、どうして逃げようと思ったのか、その思考に至った魂の底にある願いは見えた?」
ただ、生きたいだけなら、それはそれで正しいと思う、生き物が持つ本能だから、でも、過去にそれが無かった人が今になって出てくる、それってさ、まだ死ねない理由があるからでしょ?自分が何を望んで生きたいと思ったのか、それを知らない限り恐怖と向き合えない。
「…そう、か。俺はまだ至れていないのか、だから、未だに俺は見えない…みえないんだ」
ぽろぽろと涙を流しながら悔しそうにしている、心が強くて決して他人に弱みを見せないようにしているこの人が弱みを見せてくる、しかも、後輩であり年下である私に、よっぽど、堪えたのだろう、敵と対峙した時に感じた絶望と己の弱さに。
「貴女は、師匠と同じように見えるのか?」
恐らく、死の一撃、それの発動条件の事を言っているのだろう、今も目を瞑れば見えるよ。
いつだって、押せる、発動できる…近寄ると生存本能が押すなって叫び引き留めてくるけれど、振り払って押せる自信はある。
今の彼には残酷な一言だろう、だけれど、真摯に受け止め真っすぐに応えてあげないと
「…うん、見えるし何時でも使えれる…自信がある」
私の発言と同時に何度も何度も自分の太ももを叩き始める、後輩が至れているのに、長年戦士として戦ってきたのにいまだに、あの領域に至れていないのことに憤っているのだろう。きっと、先輩は技量などは到達していると私は信じている、足りないのは心の問題なのだろう、本能的に死を恐れている限り、あれには至れない。
「…ありがとう、不躾な質問をして申し訳ない、貴女が、この街を、人類全てを・・・救う一団の長であり団長であるのは、今ので完全に納得が出来た、俺ではダメなのだと、至れぬものではダメなのだと、痛感しておる」
そんなことないよ、先輩はダメじゃないよ、貴方にすくわれた数多くの戦士達は貴方に感謝しているし、駄目な人じゃない。でも、これを伝えたところで彼の心には響かないだろう、彼自身が向き合わないといけないのだから、自分が生きたいと願う理由を、失いたくない未来を知らないと、たぶん、心の部分で到達できていないのだと思うから。
握った拳から溢れんばかりの圧を発生させながら、悲しみを背負い、会議室から出ていく…
先輩、私は信じていますから、貴方が来るべき時までに、成長し最後の殻を破り、極致へと至ることを。
ゆっくりと歩くのはここが病棟なので当然だよね。落ち着いてゆっくりと歩きながら真っすぐに外に向かう。
朝早くから年齢なんて関係なく熱心に仕事に従事してくれている人がいる、その人と廊下でバッタリ会うので朝の挨拶をすると報告があるからと呼び止められる。
現状について私も話をしたかったのでちょうどよかったと返事をして、医療班団長として話を聞く。
報告の内容として、No2の状態と、姫様の容態を教えてもらった。
まずは、No2の子供がいつ生まれても大丈夫なように医療班全員で体制を整えてくれているみたいで、医療班に所属している女性陣全員が楽しみにしながら勤務している。
訃報だらけに未来への不安が募る状況、常に心にストレスが生まれて心に影を生み出してしまうような日々、そんな中で、幸せで明日を夢見ることが出来る出来事が誕生しようとしているのだから、吉報を心待ちにしているのはとてもいいこと、やっぱり悲しいニュースよりも希望溢れるニュースの方がいいよね。
次に、姫様の容態として、一番の懸念である魔力量だが、完全に測定できないでいる、体内に流れる魔力は観測出来ている、となれば、魔力は、循環はしている、はず。
なので、命を維持する分においては問題はないだろう、恐らく、No2が妊婦だというのに魔力を注いでくれているのではないかと予想される。
その言葉に違和感を感じる、封印術式を用いて魔力を弾いて外からも中からも漏れ出ないようにしているのに、どうやって補充を?私の知らない何かがあるのだろう。
そのほかのバイタルサインも特に問題なく、心臓も動いているし、呼吸も安定している、各種臓器も動いているが、気になる点が多く、目が覚めたら全ての臓器を隈なく調べたい、可能であれば脳も調べたい、私とNo2が居れば、恐らくではあるが、脳まで意識を深く浸透出来るので、脳細胞も念入りにチェックできるし、魔力を得るために脳細胞を魔力へと昇華した場合でなければ…強引にでも、再生させて見せるよ、前例なんて関係ない、私が前例を作る。
現状報告を受け取り、今後の方針を軽く打ち合わせした後、言葉に影があるというか言い淀んでいる?
私の方を見て凄く言いづらそうにしている、視線の流れ的にも、察しはついている。
恐らく私が寝ている間に隈なく臓器を調べたのだろう、当然、犠牲にした臓器が何か知ってるってことだよね?
大先輩の視線は失った臓器の方に視線を向けたり、私の目を見たりと、視線を彷徨わせながらも、心を決めたのか、目くばせをしてから頷く。
やっぱり、そこの臓器、消えたんだね。痛かったもの…
ぽんと肩を叩かれ一言だけ「いてぇよなぁ、そこばっかしわよぉ」眉間と口元に皺を寄せながら去って行く。
どんな臓器であれ、肉体の一部を欠損するのは辛いし、痛い、生きる為、明日を得る為だもの…これくらいの痛み耐えて見せるし、未来を捨てる覚悟くらい、私にはあるから…だからいいの、これは仕方のない犠牲だから。
私の犠牲で、救える命が、数多くの未来があるのであれば、躊躇う必要はない、この様なね?半端な体で未来を繋ぐのは…これしか出来ないもの、私には命を代償にするしか道が残されていないから。
悲しい方向を背負いながら病棟から出ていく…
病棟を出て久しぶりの自室へ向かって歩いて行く、部屋に向かう目的は純粋に疲労回復、昼間には幹部会議が待っているので、少しでも脳の回転速度を低下させないために仮眠を取らないとね。
仮眠目的で辿り着いた久方ぶりの自室のドアを開けて中を見てみると、久しぶりの自室だっていうのに、想像以上に綺麗だった。
医療班の誰かだろうか?きっちりと掃除してくれているのが解る、皆の心遣いに感謝し、ベッドに潜り込むと、干してくれていたのかお日様の香りがする、気持ちよく寝れそう。
目を閉じて、皆に感謝の言葉を述べた瞬間に、意識は、麻酔でも投与されたのかと勘違いする程のスピードで深い眠りにつく。
コンコンとドアがノックされる音で目を覚ますと同時に飛び起きて、周りの状況を確認する、車内じゃない、そうだ、そうだよ、もう、あの大地じゃない、緊急事態じゃない、落ち着かない心臓を落ち着かせる為に深呼吸をしてから返事をすると、幹部会議がもうすぐ始まるのでご足労願いますという声かけだった、聞き覚えのある声なので、ドアを開けると三つ編みちゃんが不安そうな顔で此方を見ているので頭を撫でてからお礼を言うと嬉しそうな顔をしている。
怖い上司の部屋に行くなんて勇気がいるものね、偉い偉い。
ささっと、身支度を整えて、一緒に会議室に向かいながら、三つ編みちゃんが医療班として頑張って活動しているのか話を聞いてみたり、悩みがあるのか聞いてみると、周りから優しくされて、勉強も頑張っている、現状における職場や勉強等の取り巻く環境での悩みなどは無い、無いのだけれど、組織のトップである私との接点が少ないのが寂しいって言われてしまった。
こればっかりはね?叶えてあげたい願いだけれど、今は勉強会とか開ける余裕が無いんだよね、でも、そうは言ってられないよね、可能な限り時間が作れたら個別で勉強を見てあげないとね~、そんな時間あるのかな?当日にならないと読めないよね…
今すぐには希望に添えれないと伝えると、俯いて悲しそうな顔をする、なので確約はできないけれど、全部が落ち着いたら幾らでも時間作るから、ごめんね、お互い一緒に頑張ろうねと声を掛けると、俯いていた表情から一転代わって笑顔になり上機嫌になる、寂しかったのかな?それとも、頼れる上司が居ないから不安だったのかな?上に立つものとして部下達のメンタルケアも大事だからね、しっかりしないと。
会議室の前で三つ編みちゃんと別れて、会議室に入ると、全員揃っているみたいなので、直ぐにでも会議を始めれる
宰相から得た情報を全員に開示し、今後の方針を固めていく。
騎士部隊、戦士部隊、全ての戦闘部隊
練度の向上、騎士部隊全員が術式による身体制御術を完全に掌握し、自由自在に扱えれるようにする。
現状、死の大地を警戒する必要性は低いので、最低限の偵察に留めて各部隊の練度向上を優先する。
術式研究所、術式部隊、研究塔
街を出る前に残された姫様からの勅命があるのでそれを優先する、何を置いても優先するべきと判断する。
内容も開示されたので、全員が納得する、姫様の先を見る目は確かだと確信する。
医療班
医療班も今後は死の大地での活動がメインとなるので、騎士部隊、戦士部隊と共に体術などの戦闘技術を小手先でもいいので身に着けるべきと判断し、死の大地の奥へと向かうのを志願したものだけを選定し戦闘訓練を行う方針が決まる。
隠蔽部隊
死の大地の奥地へと向かうことは決定事項なので、前線で生き抜くための必要な戦闘・医療・術式などの技術適性を各部隊で選定してもらい、隠蔽部隊を兼任でどれかの部隊に所属する形になる、先に向かう自信のない人は後方支援に徹してもらう、後方支援の1例として畜産の手伝い、研究塔管理の生産業など、手が足りない部署は、山ほどあるので、そちらの人員として機能してもらう
南の領民達
彼らの意志を尊重する
兵士として活動したいのであれば、街の警護にあたってもらう、志願があれば共に死の大地遠征部隊へと所属してもらう。
決して無理強いをしてはいけない、ここからは己の心との闘いになる、心から彼らが望む場所へと配属し、共に研鑽する方針とする。
避難したいのであれば、王都へ避難してもらっても構わない。自身が思う安全な暮らしが出来る場所を選んでもらえればいいと私は思っている。
各部隊の方針が決まり、この街に保存されている物資の残量などを把握するためにそれらを管理している部署に確認すると、姫様が蓄えている備蓄が凄まじく、長期保存を目的とされた長期保存用の加工食料が保存されている。
その量は途轍もなく多く、目録を確認するだけで全員が驚きを隠しきれない、何故ならその量を簡易的に計算すると、この街のみならず、王都に住んでいる人達を合わせて単純計算をしてみても、半年は籠城できるほどの物資が蓄えられていた。
畜産の王が常に作物を過剰にまで生産していたのはこういう日が来るのを予期して常に限界まで頑張ってもらっていたのだろう、今も私達が元気に活動で来ているのも彼の陰ながらのサポートがあるからこそである、彼がいる限り、私達は飢えによる作戦失敗はあり得ないだろう。
後は、街にある施設の見直しとして。過去の遺物である爆薬を精製する施設も再度使用できるようにする。
何が起こるかわからないし、古のプランも発令出来るようにするべきだろう、火薬の原材料も畜産の所に行けばあるはずなので、稼働再開は問題なさそう、あるとすれば、作り手が少ないってことかな?火薬は取り扱いに注意しないと危ないからね…
姫様が過去に作成したり、何かの為にって、用意していた魔道具の点検、稼働ができるのかの確認、後は、敵から奪い取った魔道具の点検、及び、稼働が可能なのかも確認する。
生存率を上げるためにも、街の予算を最大限に投入し、各部隊に戦闘服を配備できないか確認する、予算的に問題は無いのだけれど、生産が追い付かない可能性が高いので、ランクを落とした量産品を用意することに。
人類の損棒を賭けた最後の戦いに向けて各々が出来る全てを悔いのないように命がけで行うという方針が決まる、それに伴い旗印がいるのではという、声が上がるのだが、誰しもが声を揃えて指名する
姫様の意志を継ぐ者として、姫様代理執行人として団長がこの街の総括として医療班のみならず死の大地から死を運ぶ獣達から守るための一団
前線都市の団長と任命される
人類の未来を背負う覚悟も責任を背負う覚悟も、人類の偉業を成し遂げる覚悟もある、姫様に託されたのだから。
新たな、ううん、正式に多数決により、恐らく、この街で最初で最後の最前線を、人類全ての未来を守る一団の団長、であり、統括責任者が民主主義に乗っ取って誕生した。
姫様がいない会議はこれにて終了を迎えた。
会議が終わった後も、会議室に最後まで残り、集められている資料で私が知りえていない情報などの抜けが無いか確認していると珍しくベテランさんも会議室に残っている。
普段なら会議が終われば真っ先に出て行って自分のやりたことをする人なのに、残るということは私に用事があるのだろう
資料を置いて声を掛けようと思ったのだが躊躇ってしまう、何故なら、今まで見たことのない表情をしている、何とも言えない神妙な面持ちで此方を見ているから。
此方から声を掛けるよりも向こうで何か覚悟が決まったら声を掛けてくれるだろう、今は焦らずまとう、彼の心が前へと進むその時を。
向こうから声を掛けてくるまで待ちながら書類やレポートに目を通していく。ふと、声が聞こえてくるので顔を上げてベテランさんの方を見る
「すまない、年長者である、俺が本来であれば責任を背負う立場へと至るべきなのに…お前に背負わせてしまった」俯いたままで絞り出すように声を出す、彼の中にあるプライドか、情けない自分を嫌悪しているのか声が辛そうだった。
それにさ、先の会議で決まったのは、それは、その、しょうがないよね?各部隊総意の元、決まったことだし、会議が始まる前からこうなるって、私自身も思っていたから
「すまない、どうしても、俺の様にあの時代を知っている世代はお前の…いや、貴女の背中にあの人を重ねてしまう、重ねてしまうのだ、強くなったと、守られるばかりのあの頃に比べて守る立場に成れたのだと実感も沸いているのに、重ねて、夢をみてしまうんだ、優しい優しいゆりかごの中で見守られるような感覚を抱いてしまうのだ…俺は、おれは…弱い…」言葉の節々から、怒気?悲しみ?などが伝わってくる、きっと、成長できていない自分を下げずんでいるのだろう…
ベテランさんが弱かったら全人類弱いよ?…そんな当たり前でわかりきってる様な慰めは欲しがってはいないだろう。
珍しく弱音をいうってことは、何かあったのだろう…少し考えるとどうしてそうなったのか、凡その予想はつく、姫様が槍で貫いた特別製の人型と対峙したときでしょ?あの時に、全ての何かが圧し折れてしまったのだろう、そして、お爺ちゃんという柱に支えられてしまったのがまた、弱い自分を見てしまって心の葛藤から抜け出せないでいるのだろう。
「あの時、あの瞬間、恐怖によって足が竦んでしまっていた、俺がそうなるのを姫様は見抜いていた、だからなのだろうな、俺に託さずに父君に託したのだろう、作戦の要である魔道具を…」やっぱり、予想通りってことか、あの魔道具の説明書にたぶん、姫様だったら渡す人の優先順位も記載していると思う、作戦を成功させる為なら関わる人のプライドとかそういうのをかなぐり捨てて指示を出すのが姫様だから、その部分でも感情の波をコントロール出来ていないのだろう。
託された魔道具がどのような効果を持っているのか、仕様書を見ていないけれど、何となくだけれど察しはついている、当てるだけの魔道具。
予想としてはそれを当てることで姫様が秘術を用いて槍を投擲した際に、その場所に向かって飛んでいく座標固定の魔道具だろう。
だからこそ、あのような超長距離での投擲を成功させることが出来たのだろう、そう、本当に作戦の要である、その魔道具を敵に当てるというのは簡単に聞こえるが至難の業である。
眼前に迫る死の恐怖に打ち勝ち尚且つ、敵の動きを見定めて的確に敵が槍を投擲されることで致命傷を負う場所に当てないといけない、腕や足に当ててしまうと致命傷に至らない可能性が高い。
ベテランさんでは、死の恐怖に打ち勝てない可能性があると姫様は判断し、お爺ちゃんに託したのだろう、誰でもいいと発言していそうだけど、用意してあるマニュアルに託す人の優先順位を絶対に書いているはずだ、名指しでね、多少は相手のプライドを傷つけない配慮はされていると思いたいけれど、姫様との長い付き合いだと、ね、ああ、これは気を使われているなってわかっちゃうよね…
前線にいる人でアレに接触して魔道具を当てれる人をしっかりと優先順位を決めていると見ていいだろう。
「俺は、今の俺を情けなく感じて仕方がない、何時からこんなに、こんなにも…死を恐れるようになってしまったのか?若い頃は死を恐れたりはしなかった、今でも思い出しては体の芯から湧き上がる恐怖を乗り越えようとしても…一歩が踏み出せない、敵の幻影を思い浮かべては逃げることだけを考えてしまう」
手も足も震え、その震えを止めるために手を叩いたり、足を叩いたりしているが震えが収まることがなかったか。
「ねぇ、先輩」
震えが止まらない先輩に優しく声を掛ける
「逃げようとさ、本能が反応した時にね、どうして逃げようと思ったのか、その思考に至った魂の底にある願いは見えた?」
ただ、生きたいだけなら、それはそれで正しいと思う、生き物が持つ本能だから、でも、過去にそれが無かった人が今になって出てくる、それってさ、まだ死ねない理由があるからでしょ?自分が何を望んで生きたいと思ったのか、それを知らない限り恐怖と向き合えない。
「…そう、か。俺はまだ至れていないのか、だから、未だに俺は見えない…みえないんだ」
ぽろぽろと涙を流しながら悔しそうにしている、心が強くて決して他人に弱みを見せないようにしているこの人が弱みを見せてくる、しかも、後輩であり年下である私に、よっぽど、堪えたのだろう、敵と対峙した時に感じた絶望と己の弱さに。
「貴女は、師匠と同じように見えるのか?」
恐らく、死の一撃、それの発動条件の事を言っているのだろう、今も目を瞑れば見えるよ。
いつだって、押せる、発動できる…近寄ると生存本能が押すなって叫び引き留めてくるけれど、振り払って押せる自信はある。
今の彼には残酷な一言だろう、だけれど、真摯に受け止め真っすぐに応えてあげないと
「…うん、見えるし何時でも使えれる…自信がある」
私の発言と同時に何度も何度も自分の太ももを叩き始める、後輩が至れているのに、長年戦士として戦ってきたのにいまだに、あの領域に至れていないのことに憤っているのだろう。きっと、先輩は技量などは到達していると私は信じている、足りないのは心の問題なのだろう、本能的に死を恐れている限り、あれには至れない。
「…ありがとう、不躾な質問をして申し訳ない、貴女が、この街を、人類全てを・・・救う一団の長であり団長であるのは、今ので完全に納得が出来た、俺ではダメなのだと、至れぬものではダメなのだと、痛感しておる」
そんなことないよ、先輩はダメじゃないよ、貴方にすくわれた数多くの戦士達は貴方に感謝しているし、駄目な人じゃない。でも、これを伝えたところで彼の心には響かないだろう、彼自身が向き合わないといけないのだから、自分が生きたいと願う理由を、失いたくない未来を知らないと、たぶん、心の部分で到達できていないのだと思うから。
握った拳から溢れんばかりの圧を発生させながら、悲しみを背負い、会議室から出ていく…
先輩、私は信じていますから、貴方が来るべき時までに、成長し最後の殻を破り、極致へと至ることを。
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