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幕間 私達の歩んできた道 7

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メイドちゃんに人のものを勝手に拝借するのは良くないよっと、言いたいが、今の私では言えない、だって、よくよく考えると、私も同じだから…姫様の部屋から姫様の私物であるコンロを持ってきちゃったから、小言が言えない…

私の行動も予測したうえでの、コミコミで動いていた節がある気がする。
姫様の部屋に入って物色しない限り、メイドちゃんが持ってきている茶葉が姫様の部屋にあるものだと気が付かないし、魔導コンロも工場で生産して販売しているので持っている人は多いし、死の大地以外でキャンプする人達は必須といっても過言ではないくらいキャンプ必需品なので、もっている。

普通に考えれば、メイドちゃんが保有しているコンロだと思う、使ってる、これが姫様のコンロじゃないかと疑う方が稀。

更に、紅茶の茶葉の良し悪しを把握している人ってのは、数少ないし、カップの装飾まで気にするような繊細な人はもっと少ない、つまり!メイドちゃんは私と姫様以外、誰も気が付かないと踏んだうえで実行しているわけだ、そりゃ大胆な行動に出るよね、バレる可能性が低いのだから。

唯一、咎めれる私がこんな状況になっているわけってことね、ん?あれ?ここに戻るとは通信が入っているはずなのに、どうしてコンロを戻さなかった?茶葉を戻さなかった?

小言ついでに聞いてみると「こんな直ぐに再度、来てくれるなんて思ってなかったからつい嬉しくなって油断しました」と、笑顔で返事を返してくる辺り、これって、話題作りの為に行動した可能性もあるなぁ、小言という会話のきっかけづくり?だとすると、本当に厄介な妹だなー…

メイドちゃんとは心理戦で戦うのはやめよう、やりあうのなら直感という人が大昔に持っていたと言われる感覚で生き抜くこうかな。
そんなことを考えながら、手に持っている本をゆっくりと何処かで集中して読みたかったので、この塔であれば風も冷たいので知恵熱が出たとしても、直ぐに冷やしてくれるだろうし、宰相や、女将からの連絡があれば応答も出来るので、一つの行動で二度お得みたいな感じかな?
なので、連絡係は私がするからメイドちゃんは他に仕事があるのであればしてきていいよ、無いのであれば、休憩してきていいからねと、伝えると寂しそうな顔で「邪魔…ですか?」と、返されてしまう、これは流石にわかるよ?邪険にしてるわけじゃないからね?

邪魔じゃないよ、邪険にしてるわけじゃない、純粋に労っているだけだからと、本心を伝えると、
「それじゃ隊服だと落ち着かないのでメイド服を洗って干したり色々と掃除してきたいので少しの間、お暇させたいただきます!」
明るく元気な声で木箱を抱えて塔から降りていく…もしかしたらあの木箱の中身って洗濯物が詰まってた?

色々と苦労かけてしまったなぁと、メイドちゃんの苦労を感じながら淹れてもらった紅茶を飲みつつ、始祖様の、ううん、姫様が解りやすく解説付きで残してくれた方の秘術を閲覧していく。


集中して読んでいくと宰相から連絡が入ってきたので、こちらの現状を伝える
姫様は、命は繋ぎ止めているが、意識が戻る可能性は…後、死の大地での敵勢力が見当たらないくらい安全地帯になりつつあると伝える
南の砦も同じような状況で宰相は後方の愁いを断つために早急に壁を創る為に王都だけじゃなく近隣の領主にも通達を出して、数多くの人に協力を要請しており、様々な領地から人材が派遣されている現状では、彼らの魔力を使って魔石も素早く補充されており、風の建設はかなりのスピードで進んでいる。
終わり次第、次のアクションへと移行するために、重要な情報である、とある動きがあることを教えてくれた、この先に待ち受けている恐らく、人生で最後で最大の出来事になるであろう、事態が待っているのだと、知る。

現王が、今の状況を好機と捉えており、長考したのち熟考として、死の大地に遠征することを決意し、残された人類最後の試練である、死の大地に住まう怨敵を討伐しに行く準備をし始めていると…

そうなるよね、その考えには賛同するよ。
今の現状を理解しているのであれば、今が一番、攻め時であると、私でも考えたことだもの。

その流れは私も賛成だから、こちら側でも準備を進めるように伝えないとね、明日、直ぐにでも幹部会議をする方針でいよう

女将の状況を確認すると、建設の手伝いよりも兵の練度を向上させる手伝いをして欲しいと願いを出したら、女将は快く承諾してくれたので、南の砦と王都の中間にキャンプ地を設営し、女将によるブートキャンプが開催されており、数多くの兵士達がみんな、地獄を見ているとの報告も受けた。
今度、女将の旦那さんに女将の所在地を伝えてあげよう、心配してそうだし。

報告会が終わり、今後に備えて会議をすることを誰かに伝えに行こうかと立ち上がると、メイドちゃんがいつものメイド服に着替えて戻ってきたので、先ほどの状況を伝えると、
「塔の上から下に連絡を伝えるための穴がありますので、そこに伝えたいことを書いた紙を入れてください。
 落ちた紙がある地点を通過すると塔の下に備え付けてある箱の近くに小さな旗があがる様に細工されています。
 ですので、その旗が上がっているのを誰かが塔の近くを通ったときに気が付くので、回収と同時に、小さな旗を下げてくれます。
 紙に書かれた内容を見て連絡を回してもらえるようになっています、ですので、わざわざ下に降りて誰かに連絡をする必要はないです。
 緊急時であれば、あちらに備え付けられている音声拡張魔道具を使って叫んでください。
 更に街全土に警戒を促す警報もあちらにありますので、あの魔道具につけられているハンドルをグルグルと回してください、大きな音が街全土に響き渡ります。
 相当煩いので、鳴らすときは耳栓してくださいね」
テキパキと塔に備え付けられている道具の説明をしてくれる、もはや、この塔の天辺はメイドちゃんのお部屋と言っても過言ではなさそうだ。

言われたとおりに今後の予定、宰相や女将の現状を書いた紙を投函する。
近くにいるメイドちゃんに視線を向けるとロープを取り出してピンっとテンションをかけてるけれど、何をするのだろうか?
不思議に思いながら見ていると、洗ってきたメイド服や下着を干し始める…ここで干すんだ、もう、完全にメイドちゃんのお部屋だね。

目の前に他人がいるのに、誰が来るかもわからない場所に下着を干すのは如何なものかと注意しようかと悩んでいると視線に気が付いたのかにっこりと笑顔で返してくるので、注意がしづらい…
私がまごまご注意をしようかと手を上げたりおろしたりと、挙動不審な動きをしていおり、どうしたものかと悩んでいると
「団長のお洋服も洗濯してきましょうか?」
どうやら、私も洗濯して欲しいのかと視線や動きから勘違いしたみたいなので、大丈夫だよっと伝えると一瞬だけ口元が動いたけれど、なんだろう、頼んでほしかったのかな?
もしかしなくても、仕事がない?…それもそうか、姫様があの状況だとメイドちゃんって仕事がないのかもしれない…

遠征時に持って行った下着とか隊服とか戦闘服とか、洗ってない気がするから気にはしてる、その、汗くさいだろうから、申し訳ないよ、そんな風に伝えると「遠慮しないでください!」屈託のない笑顔に押し切られて頼んでしまうと「喜んで!!」嬉しそうに鼻歌交じりで塔を降りて行った。

これは、仕事が無いと見るべきか、宰相とのやり取りから逃げれるから率先してこの場から離れるために動きたいのか、純粋に誰かの為に仕事がしたいのか、どれだろう?
些細な疑問が湧き上がるが、本当に些細なことだし、誰にも影響がないので気にしなくてもいいかと、さらっと考えを切り替えようね。
うん、どれでもいいか、本人が楽しそうで満足しているので、あれば、ね。

メイドちゃんも不安なんだよね?姫様がいなくなるということは、雇用主が居なくなるってことだから、この街から不必要だと言われて行く当てもないのに放り出されるのじゃないかって不安なのかもね、もしも、姫様の身に何かあったとしても、メイドちゃんの居場所はここだからね、出て行けなんて誰にも言わせないから、それに私だけがそう思ってるとは思えない、この街に住む、皆から必要にされているもの、だから、この街から放り出すような真似はしないし、だれも望んでいない、だから、安心して欲しいな。

うん、職が無くなる不安を解消するためにもドンドン仕事を振って、この街に貴女は必要なのだと心底理解するまで伝えていこう。

さてっと、私のするべきことをしよう!って、思うけれども、ちゃんと時間配分を考えないとね、無理をして倒れるわけにはいかないし。
また、夜になったらNo2が起きてくると思うから、眠くなるといけないから、今のうちにちょっとだけ仮眠を取ろうかな?
麻酔から覚めて、もう何時間起きてるのかな?時間の感覚が狂い過ぎていてわからない、1時間くらい仮眠取った方がいいだろう。

私の服を洗濯してもらっているメイドちゃんには悪い気がするけれど、一旦、下に降りて仮眠室で寝てこようかと立ち上がると片隅に布団らしきものが置かれているので、調べてみると掛け布団の下にベッドのマットレスが置いてある…

どうしようか悩んだ結果、メイドちゃんの巣をお借りして寝ることに。

見つかって怒って、起こされたら謝ろう、眠くなってきた時に寝るのが一番、このまま、仮眠室に向かったところで移動している間に目が冴えてしまうから、寝れるような気がしない。
いそいそと、ベッドのマットが置かれている場所に靴を脱いでお邪魔するのだけれど、掛け布団だけじゃ不安なので、ベッドの横に置かれている木箱の中を探ると、毛布がはいっていたので、取り出して包まって掛け布団をかけて横になると、物の数秒で眠りについてしまった。

心のエネルギーは満ちていても、体の疲労は抜け切れていないし、魔力も満たされているわけではないので、寝れないというのは杞憂だったみたい…




パチっと目が覚めるとすぐそばで、吐息を感じる。
吐息を感じた方に視線を向ける、メイドちゃんの顔が見える、気持ちよさそうに寝ている。
起きるために右腕を動かそうとするが右腕が動かない、肩の辺りからがっしりと捕まっているのか肩が重い、腕が太ももにも挟まっていたら動けないので毛布の中を見ると両腕が絡みつく様に私の腕をホールドしている。
太ももには挟まれていない、私の手のひらは何処にあるのだろうか?動かしてみると柔らかい感触が伝わってくる、恐らくお腹の辺りにあるのだろう、強引に引きはがしてもいいけれど、偶にはね、優しく起こしてあげよう体を捻って左手で頬を叩き起こしてあげると、直ぐに目を開けて起きてくれたので、あっさりと解放される。

一緒に上半身を起こすと寝る前にはなかったカーテンがある、どうやら、寝るときはカーテンを使って仕切り代わりにしているのだろう、カーテンレールなんてあったのかなと、上を見てみると、ロープが張ってあり、それをカーテンレール代わりにしている。

起き上がって周りを見ると洗濯物が干されている、見た限り私の隊服かな?見覚えのある下着もあるし、洗ってこちらで干してくれたんだね。
外を見ると日も暮れてきている、1時間以上寝てしまった、何時間くらい寝てたのだろうか?目をこすりながらカーテンを潜り、中央に置かれているテーブルに備え付けられている椅子に座ると、メイドちゃんがお湯を沸かしてくれている、きっとお茶を淹れてくれるのだろう。

日が沈むと風も強くなり、より一層、塔の天辺であるこの場所は冷え込んでくる、肌寒いのでつい肌をこすっていると肩に毛布を掛けられる「ありがとう」毛布を掛けてくれた人に声を掛けると「いいんじゃよ、大切な孫ちゃんの体が冷えてはいけないからのぅ」メイドちゃんかと思っていたら、予想外の声に驚いて声を上げそうになる
驚きの余り心臓がバクバクと耳にまで届きそうなくらい音が鳴っている。
視線をメイドちゃんに向けるとメイドちゃんも驚いた表情をしているので、二人に気づかれないように近寄ってきたってこと?昇降機の音しなかったけど?階段で登ってきたってこと!?

お爺ちゃんに視線を向けなおすと「どっこっしょっとぉ」椅子にドカっと勢いよく座り「ほれ、メイドのわしにも茶をくれ、こんな高い塔を登ってくると汗かいちまうわ」
熱そうに手をパタパタと仰いでいる、状況的様子から階段を上ってきたのは確実、昇降機使いなよ…
お茶を受け取りズズズっと飲んでいる「ほほ、よいお茶じゃのう、なんじゃ奮発してくれたのかの?」紅茶の薫りが気に入ったのかティーカップに鼻を近づけて薫りを堪能している。

そんなお爺ちゃんにどうして昇降機を使わなかったのか尋ねてみると、純粋に運動目的と言っているが、歩く音などの気配を隠して登ってきた理由は?っと、重要な部分を追求すると暫く沈黙した後「…これもまた鍛錬じゃ」視線を明後日の方向に向けている、嘘だな…

何か目的をもって行動しているはずなので、一体何を企んでいたのかじーっと見つめ続けていると罰が悪くなったのか
「ええい、爺ちゃんを信じなさい孫ちゃん、やましい気持ちなんてないわい」
焦って弁明する、はい、これはもう決まりてですね!何か絶対に良からぬこと考えてたでしょ!あーやだやだ!お爺ちゃんが誤魔化すときは、殆どがエロい事を考えていた時だから、ここにいる人と言えばメイドちゃんだから、メイドちゃんに何か悪戯しようとしてたってことだよね?これはもう、ぎるてぃだね、お祖母ちゃん連合に手紙書かなきゃ。
「まてぃ!未確定事項であり憶測を文にしたためるのはよせ!今度、好きな物を買ってやるからよすんだ!」
私の表情から次に起こすアクションを見抜く辺り、褒めるべきなのだろうか?
「…今回だけは見逃してあげる」
ジト目をやめずに許してあげるとほっとして紅茶を飲んでいる、視線を合わせてこない辺り、反省はしていないだろう。

「さて。っと、お遊びはここまでにしておこうかの」
トントンっと机を爪で叩き場の空気を換えてくるので、私も気持ちを切り替える
お爺ちゃんは真剣な空気を作りゆっくりと話し出す
「殿下から、伝令がきての、帰らねばならぬ、わしのようなロートルくらい自由に動いてもよかろうに、引退した身じゃぞ?まったく…」
机と叩く音が速くなる辺り、不本意な状況みたいだね。
「はぁぁもう、わしだってここから離れたくないぞ?育ちきっていない若造がいっぱいじゃし、こいつらを育てるということはじゃ、大切な孫ちゃんを守ってくれるってことじゃからのぅ、それにの、むさ苦しい騎士団に比べたら若くてピッチピチした可愛い女子ばかりじゃし、飯は美味いし、久方ぶりの一人じゃから好きなように酒も飲めるし、風呂も綺麗じゃし、皆、邪な考えもなく純粋に人類の為に頑張ろうとするその姿勢が素晴らしいしのぅ、そればかりか、わしよりも年上の御仁がまだまだ第一線で医者として活躍しとるという部分に勇気を貰えたし話をしてみると息子の健康診断とかでも世話になっとったみたいじゃし、恩を返しきれてないわい、それにのぅ、可愛い娘ちゃんの孫を見ていないのに離れたくないのぅ、ここに居たいのぅ、帰りたくないのぅ、いやじゃいやじゃぁぁ…伝令が無ければ、嫁ちゃん達を呼んでここで隠居生活しようかとおもっとったのにぅ、あんの若造がぁ!!!」
溢れ出る感情はきっと、誰も聞き耳を立てれない場所だからだろう、通信の魔道具もスイッチを入れていないので、ここでの戯言は誰の耳にも届かない、だから、遠慮しないで本音を漏らせれるのだろう。

トントントンと机を爪で叩きながらもグチグチと愚痴交じりで言う辺り、本当に仲が悪いのだろう、よく王様に成れたよね、今の王様って、どんだけ悪どいことしたのかな?
「はぁ、わしが王都を離れる許可をすんなり出したのは、わしに死の大地にいる獣との戦闘経験を積んできて欲しいという意図なんじゃろうなぁ、わしだったら、相当なことが無い限り死なぬし、仮に死んだとしてもアイツからすれば、替えがきく駒と思ってそうじゃしなぁ!!!薄々、わかっておったがのぅ…引退したわしを自由が利く物かなんかと勘違いしとらんかあれ?敬意を感じんのじゃが?おめぇの父ちゃん命がけで守ってきたんだじゃぞ?わし…」
机を叩くのをやめると紅茶を飲みながら悲しそうに眉毛を八の形にしている、ここに出発するのにちゃんと許可を取っているのは偉いよ、私だったら、引退したのだから拘束されるいわれないからって何も言わずに行動しちゃうもの。

お爺ちゃんの立場を考えれば、筋を通すのは正解だよね。
「そんなわけでじゃ、非情に!心の底から!不本意じゃが!勝手言って申し訳ないのぅ、中途半端に責務を投げ出してのぅ、帰りたくないが、王都に帰らんとのぅ、王都に帰ってわしが得た獣対策、人型対策を王都騎士団全ての団員に骨の髄まで叩き込まんといかんのじゃ、殿下からの通達じゃからのぅ…第二の余生を息子と同じ志を…胸に抱いて正義の為に戦いぬいて死ぬのも悪くないっと、感じておったのにのぅ、くぅ、自由気ままに己の信念で生きた息子が心底羨ましいぞい、ベテランのやつとわいだ…えふんえふん、タノシミモアッタノニノゥ」
最後に言いかけた言葉は聞かなかったことにしてあげ「夜はお楽しみでしたものね」にっこりと邪悪な笑みでお爺ちゃんのティーカップにおかわりの紅茶を入れているメイドちゃん
の言葉にお爺ちゃんがポツリと「要望はなんじゃ?何が欲しい?」真剣なお爺ちゃんの声を聞いたメイドちゃんが邪悪な笑みを浮かべながら耳元で要望を伝えると
「ほ?ええよ、ええよ!なんじゃい、そんなもの許可なんかいらんわい!ほうかほうか、そういう愛もあるものじゃ、ええぞええぞ?好きにせい」
何を言われたのか凄く嬉しそうにしてるけど?何を要望したの?あと、夜はお楽しみってことは、そういうことだよね?ぅぅぅ、この街の若い子に手を出したのじゃなく、その手のプロだからいいのか?いいのだろうか?…お祖母ちゃん連合の目が無いからって、羽目を外し過ぎじゃないの?

「っというわけじゃ、孫ちゃん、後は任せたぞ」
ぽんと肩を叩いて昇降機に向かって歩いていく、昇降機に乗り込む直前に言い忘れたことがあったのか思い出したような顔で
「No2の子供が生まれたら写真おくっとくれ!!お義父さんは楽しみにしとると、伝えといての!」
言い忘れたことを大きな声で言いながら昇降機でゆっくりと視界から消えていく。
手を振りながら見送った後はメイドちゃんにどんな要望をしたのかと問いかけると「秘密です」と笑顔の一言で逃げられてしまう

密談は見なかったことにして、始祖様の秘術が書かれている本を読むことに没頭する。

読んでいると姫様が使った秘術に該当する、ていうか、近しい物かな?を見つける。
姫様が魔道具を使って再現したのがこれだろう、ホーリーバースト、魔力を光の粒子へと変換して、それを一点に収束させた後、収束させた光の帯を敵に向けて放つ。
説明を読んでみても原理が理解できない、そもそも、光の粒子って何?確かに、光の柱みたいなのが真っすぐ向かって行ったけれど、あれが、りゅうし?りゅうしって何?

姫様が考察し追記した内容がある、恐らく、再現するための術式理論なのだろうが、意味が解らな過ぎて理解できない。
メイドちゃんに話しかけるとにっこりと笑顔のまま何も言わない…聞くなよっと伝わってくる辺り、メイドちゃんも理解できないのだろう。

更に、それに指向性を持たせて、特定の箇所に誘導する方法も書かれている。
えっと、つまりは、あの光の柱は曲がるってことでいいのかな?それがほーりーれい、なのかな?

術式の理論を読むが見たことのない方式を使っている、なにこれぇ?

読めば読むほど知恵熱どころか、脳みそが沸騰して溶けてしまいそう。
これ以上考えると頭がおかしくなりそうなので、一旦本を閉じて、姫様の様子を見に行こう。

その事をメイドちゃんに伝える、ついでに、誘ってみる一緒に行かない?っと、メイドちゃんからすれば直接の雇用主で仕える主だもの、傍にいなくてもいいのかな?気を利かせたつもりだったけれど、悲しそうな顔で首を横に振る…今の姫様を見る勇気がまだないのかもしれない。

頭を撫でてから昇降機に向かって行くと
「洗濯物は乾き次第、お部屋に運ぶのでご心配なさらず…姫様の事、おねがいします。みまもってあげてください。」
後ろから声を掛けてくれる、気が利き、心苦しい声で見送ってくれるメイドちゃんに手を振りながら姫様が寝ている病室へ向かって行く。

部屋のドアをノックすると
「あら?今日はちゃんとノックするのね偉いわね、鍵は空いてるわよ」
No2の声が病室から聞こえてくる、よく私が来たってわかるね?関心しながら部屋の中に入ると、片方の手でお腹を摩りながら、もう片方の手で軽く手を振って出迎えてくれる。

部屋の中に手を振りながら入りNo2の許可を貰ってから前回、触り損ねていたお腹を触らせてもらう、実はずっと触って見たかったの~。
人間の体の中に新しい命があるなんて神秘的でいまだに信じられない、私が求めてやまない生命の神秘
触れているだけで涙が溢れそうになる。

耳を当ててごらんと言われたので耳をお腹に当てると不思議な音がする、大腸の腸蠕動音とは違う音がする、不思議と心が休まるような温かくなるような、不思議な音がする。
目を閉じてじっとしていると
「この子のね、名前はもう決まっているのよ、姫ちゃんがね、名前を考えてくれたの、男の子ならスピカ、女の子なら、ランって名前」
何処かで聞いたような名前、どこだろう?すぴからん、、、響きが、覚えがある。どこだったろうか?

音を堪能した後は昨日の夜、正確には、今日の早朝?と同じように隣に座ってお母さんの物語に耳を傾ける。

こんなにも穏やかで親子の時間が永遠と続けばいいのにって思ってしまう部分もあれば、姫様も一緒に話を聞けたらもっと良かったのになって思ってしまう。
ううん、ここに姫様も寝ているのだから一緒に話を聞いているじゃない。

お母さんの物語は、いつも全力、だけれど、ちょいちょいずれていて、色んな出来事があって、面白かった。
女将と犬猿の仲みたいな時があるのは、そういうことだったんだね、お母さんからすれば女将も恋のライバルだったんだね。
ベテランさんが若い頃って、すっごく素直だったんだね…何処でどうして、ああなったのだろうか?何処でエロスに目覚め弾けたのだろうか?
聞いてみたいような、聞きたくないような、何とも言えないこの感情は何?

その事を伝えてみると「やめときなさい、性の知識が薄い貴女には理解できない世界よ」踏み込んではいけない領域なのだと注意された。
確かに、性への興味が薄いってのは、わかってるけど、どうしてお母さんがその事を知っているのだろうか?誰にも言ったことが無いのに?何処かで態度に出てたのかな?

…ん?まって、お母さんは性の知識が豊富なの?素朴な疑問だけど、すっごく聞きづらい内容、お母さんと思わず、人生の先輩に若輩者の後輩として聞いてみると
引きつった笑顔で固まったまま答えてくれなかった、うん、態度でわかるよ、知識は、豊富なんだね知識は!

一途な人だから、お父さんのこと以外一切、目もくれていなさそうだから、今の旦那さん以外とはしたことがないのだろう。

でも、知識は、豊富なのかこの人…なんか不思議な感じだね。

色々なちゃちゃを入れながら物語は進んでいき、ある事件が発生する、嗚呼、そうか、この事件が後に繋がるデッドライン遠征に繋がるのだろう。
声色が悲しみを帯びているし、口調が当時の厳しさを物語る様に強張っている。

自然と、お母さんの手を握り、肩をくっつけると体重を預けてくる、心なしか重く感じる。
二人分の重みだと思うと、生命の神秘をより深く感じれる。

そこからの流れは、街の人達一丸となって動いているのだけれど、誰一人として、この先に待ち構えている絶望的な試練を知らない。
どうして、秘密にしていたのか、打ち明ければいいのにって思うけれど、今と当時では状況が違い過ぎるから、出来なかったのだろう。
今と比べて術式は扱えるけれども、ここまで発展していない、魔道具だって生活をすこしだけ便利にする程度、戦闘に使われたりはしない。
医療道具だって、今ほど便利は物はない、浸透水式もない、回復の陣もない、転移の陣もない、車も無い、無い物ばっかり。
魔石はあるみたいで驚いたけれど、数は多くないみたい、希少で高価なものだけれど、時折、人型以外からも材料が手に入るので、それを使って研究塔にいる奥さんが錬成してくれるけれど、今ほど多くの魔力を保持する程の高性能な魔石は無かったので、戦闘に用いれるほどのものはなかったんだ。

まぁ、今も魔道具を実戦に使ったりはしないけどね、出来るのは姫様くらいじゃないかな?

あーでも、姫様が指導して育てた術式部隊は、魔石を使った魔道具をもってたよね?そういえば、術式研究所、術式部隊長は、姫様だけど、今は誰が担当しているのだろうか?
今度、知っていそうな長辺り捕まえて聞いてみよう。

これから決戦ってタイミングでドアがノックされるので、どうぞーっと声を掛けると医療班で看護師として長年勤めてくれている人が入ってくると
「失礼しますー。朝になりましたので、姫様のお世話をしたいのですけどー」
邪魔だから帰れと暗に言われたので、お母さんに手を出して椅子から立ち上がらせると結構辛そうな表情をしている。
どうやら、いつ陣痛がきてもおかしくない状況で、実は病棟で寝泊まりしていると教えてくれた。
なので、夜に姫様の病室に居なかったら大先生を探してねっと、言うけれど、そんな状況で夜更かし、しちゃいけないんじゃないの?
大切な時期なのだから、大人しく病室にこもってなよって言うと
「いやよ、姫ちゃんも心配なの、大人しくしてられないわ」

その堂々たる発言はカッコいいけれど、それ、医療の父の前でも言える?




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