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とある人物達が歩んできた道 ~ 未知との邂逅1 ~
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坊やが背筋を伸ばして、うぉほんっと、わざとらしく咳ばらいなんてしてくるけど、何よ?まだ用事があるの?
「僕はですね、仕事上がりに貴女を探して、病棟まで出向いて、此方で作業をしているとお聞きして、足を運んだのですよ、その理由はですね、こ、この様な猥談っといいますか、そ、そういうのがしたくて、ささ…探していたわけじゃ…ないんですよ!医療班の団長として、姫様の管理者としての貴女に用件があって赴いてきたわけでして」
猥談の部分が恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしてるわね、純粋なるエロという心揺さぶられて仕方がない貪欲な貴方が、何?急に真面目ぶってんのよ?真面目ぶらないといけない何かがあるのかしら?
坊やらしくない、立ち振る舞いに違和感を感じたので、坊やから視線を外して周りを観察する。
坊やの後方を見てみると、あーそういうことね、物陰からゆっくりと姿が見えたのは、坊やが指導している戦士の皆様じゃない、なるほどね、坊やったら、はっは~ん、そういうことね~。
かっこつけたいのね?それならそうと言いなさいよ…
坊やが畏まりながら流れるように出てきた言葉、その最後の部分に引っかかりを感じてしまう。
ん?ちょっとまって、私って姫様の管理者って立ち位置になっているの?…まぁ、しょうがないわよね、四六時中一緒にいるのだから、肩書の一つや二つ増えてしまうわね。
まぁね、そういうのは百歩譲ってもいいわ、肩書が増えるくらいは!でもね、肩書の名前が気に喰わないわね。
管理者なんて呼び方よくないでしょ?そんな感じの肩書だと、姫ちゃんと関わっている全てが、仕事だから、面倒見ているみたいな言い方に感じ取れちゃうのよ。
それは良くないわね、愛がないわ。
お母さんって肩書に今度、変えるように根回ししておくか、私の肩書に姫ちゃんの管理者、なんて肩書が姫ちゃんの耳に入ったら、いい気持ちしないわよ。
まったく、人の心っていうの?感情っていうの?多感な12歳を相手にするのだから、その辺のさ?情操教育っていうの?しっかり考慮して、配慮していただきたいですわね!!
心から溢れる母親としての感情を相手に見せないようにしつつも坊やが、かしこまって大人になろうとしている、その姿を、坊やの姉貴分である、この私が!!変にちゃちゃを入れるのは違うわよね。坊やから成長したいと背伸びしたいという前へ向かおうと歩き出している背中を、押してあげるのが、あの人に託された部分でもあるわよね?ね、騎士様。
「ええ、そうですね、では、戦士の…」その先の言葉が出なかった、背中を教え上げないといけないの、声が出なかった。
嗚呼、駄目ね戦士長なんて肩書を言おうとしても私の喉を、通らせないように心が封殺してしまっているわね、なら、なんて、坊やを呼んだらいいのかしらね?
「その先の言葉は不要です、団長、僕には、戦士長の肩書は継げませんよ、あの人を超えたと思えれるような、その時が、その瞬間が、自他ともに認めてもらえるような、そんな日が、来るまでは、僕は僕で、僕のままでいますよ、だから、いつも通り坊やとお呼びください」
悲しそうな顔をさせてしまったけれど、こればっかりはごめんなさい、騎士様の肩書は、永遠に騎士様だけにあってほしい、何時まで経っても前へ歩き出せない、女としてのどうしようもない部分が、足を引っ張ってしまっているのよ。
「ご配慮いただきありがとうございます。それじゃ遠慮なく坊やって呼ぶとして、如何な理由で医療班団長である、私を、お探しかしら?」
この街の幹部としてキリっと表情を硬くしいかにも偉い人っという雰囲気を醸し出す。
これで、きっと、坊やがイメージするようなお堅い人のイメージに近づけてみたと、思うけれど、どうよ?私だって出来るのよ?
分厚い作業着のせいで足を組むのが非常に辛く、組むために上げた足を若干浮かせないといけないので、足をプルプルと震わせながら両腕を組んで、下から坊やを見上げていると、坊やは私の立ち振る舞いを見て限界が来たのか急に笑い出す。
っふ、そうね、作業着を着て何を偉そうにしてんだって話よね、そりゃ、笑っちゃうよね。
「すみません、いつも通りでいきましょう」
笑いながらそう提案されてしまってはね、応じるのが姉貴分ってわけよね!無理して組んでいた足を戻して、姿勢も楽な姿勢にするけど、この服、暑いのよね~流石に、お開けは良くないし、早く話を進めて欲しいわね。
そんなやり取りをしているといきなり
「お母さんどうしたのー?」
遠くでドアが開く音がしたと思ったら、姫ちゃんの声が聞こえるので、声のする方に返事をしながら視線を向ける
「お仕事の話よー?って、姫ちゃん!?すっごい汗じゃない!嗚呼、もう、水分飲んだ!?」
顎の下まで汗が滴り落ちている姫ちゃんの姿を見て直ぐに立ち上がって様子を見に行く。
姫ちゃんに駆け寄って状態を確認するために、作業服をすこし脱がすと作業着の下に着ていた服が汗でぐっしょりじゃないの、このままだと、風邪ひくわね、いや、それよりも、水分が必要ね。
坊やの方に顔を向けると、坊やも何か頼みごとを言われるのだと直ぐに気が付いたのか、私の言葉を言う前から私が何を言おうとしているのか察してくれて頷いてくれる
「ごめんだけど、何か飲み物を持ってきてくれる?」
言葉を言い終わる前に、坊やは、回れ右をして経過な足取りで軽やかに食堂へ向かって走っていく、偉くなっても、ああやって、誰かの為に率先して動くという、真摯な対応、相手の事を気遣う優しさってのは、それを見ていた部下たちにも伝わるからね、そういった姿勢を忘れない限り坊や良い教育者になりそうね。
坊やが離れていくのを見た後は、姫ちゃんを更衣室に連れて行って、作業服を脱がして、汗を拭こうと思っていたのだけれど!お互いが、うっかりしていたっというか、前もって知らせてほしかったわね、作業着を着るということを、聞かされていないものだから、タオルとか予備の着替えなんて持ってきていないわね。
部屋まで取りに行こうかと思っていたら更衣室のドアが勢いよく開かれる音がしたと思ったら、音と同時に声が聞こえてくる、声の方を見ると
「ひめっちゃん!汗!服!」奥様がドアを開けた衝撃と同じように勢いよく近づいてきて、姫ちゃんにタオルを渡してくれる、ありがたく、それを受け取り全身から溢れる汗を拭いていく。
「お気遣いありがとうございます、助かりました」汗を拭きながらも、必死に姫ちゃんのことを想って、考えてくれて行動してくれた、運動嫌いの奥様に感謝の気持ちを伝える。
お礼を述べた後、念のために奥様の状態を確認するために、視線をうつすと、肩で息をして今にも膝から崩れ落ちそうな作業着を着たままの奥様がゆっくりとサムズアップで返事を返してくれる、声を出せいない程、頑張ってくださった姿に、本当に、その気持ちに対して、感謝の心を伝えたいと思ってしまう。
きっと、姫ちゃんの汗が凄いのを見て、慌てて自室から服とかタオルを取ってきてくれたのだろう、本当は相談するべきか悩んだけれど、よかった、姫ちゃんの体質を相談しておいて、相談していなかったら、この人はこんな気遣いしてくれなかったと思う。
だって、奥様って、運動嫌いだからね、先輩が連れ出さないとウォーキングすら嫌がる時があるって先輩が愚痴っているのをお聞きしていますからね。
気が利くことにタオルは2枚あるし、服もしっかりと私の分と姫ちゃんの分を用意してくれているあたり、この人も、変わりつつあるのかもしれないわね。
いいえ違うわね、この人も、一児の母、だからこそ、母親としての感性は持ち合わせているのかしらね?そこに気が付いてしまう、母としての心遣いに共感を得ることが出来る、そのような視点を得られたのだと、女でしかなかった私が…変わっただけかもしれないわね。
そんなことを考えながら姫ちゃんの汗をしっかりと拭きとった後、服を着せるのだが、姫ちゃんからすると用意された服装が、可愛くないみたいで眉間に皺を寄せているが、文句を言葉にしない辺り、奥様の頑張っている姿を見て言えないのだろう。ちゃんと人のことを思いやれるいい子ね…
なのに、どうして私には容赦がない時があるのかなー?心を許しているからかなー?それとも私だったら何をしてもいいと思っているのかなー?どれだろうねー?
真っ白な子供が着る様ちょっと大きめの布着のどこが嫌なのかしら?有り触れた服だから?…
確かに姫ちゃんが普段から着てる服って如何にも、お嬢様って感じのフリルがついているのよね。
私も奥様から受け取った服を着るけど、まぁそうなるわよね、奥様よりも身長が高いし胸も大きいからおへそが見えちゃってるわね…それも、がっつりと…
まぁいいでしょう!坊や相手にへそを見せたくらいで気になんてしないわ…乙女ちゃんが傍にいない限りね!!
お尻のサイズは奥様の方が大きいみたいでズボンはちょっとブカブカなのが勝った気持ちにさせてくれる!!いやーウェストも私の方が細いのか~、何故かしら?この勝ち誇った様な気分になるのは?
姫ちゃんが着ている布着はちょっとぶかぶかのサイズなので、スカートを穿いていると、布着の部分がスカートのウエストの部分を隠してしまって、布着の下からスカートがしっかりと見える、姫ちゃんがお気に入りのスカートはハイウエストで、スカートにあるウエストの部分を見せるのが、彼女にとって好ましい着方なのかしらね?
だから、ウエストの部分が隠れてしまう布着が気にいらないのかしら?
姫ちゃんのスカートも膝下まである長めのサイズ、傍から見たら、そんなに気にするような服装じゃないと思うけどね?私はね?
でも、姫ちゃんからすると可愛くない組み合わせなのだろう。
うーん、早めに姫ちゃんが汚してもいい上下の服装を用意しないといけないわね、今日は解体作業だけど、姫ちゃんは遠巻きに見るだけで、率先して解体なんてしないだろうって思ってスカートで、出てきちゃったのよね、一応、姫ちゃんがいうには、汚してもいい服装ってことだけど、それでも、上物って感じなのよねぇ…
あ、勿論、スカートは脱いできちんと畳んで更衣室に置いておいたわよ?だから、姫ちゃんは下は下着の状態で用意された作業着に着たわよ?そうしないと皺になってしまうもの。
奥様のおかげで無事、汗も完全に拭き取れたり、汗を吸った服から別の服に着替えることも出来たし!感謝の気持ちを伝えようと振り返ると
いつの間にか、更衣室に備えてある椅子の上に移動している。
死んだように呼吸を整えている奥様に感謝の気持ちを伝えて先ほどの場所に戻ると、瓶を二つ持った坊やが待っていてくれたので、「ありがと」っと、可愛く感謝の気持ちを伝えながら、瓶を受け取って椅子に座ると、私の隣に姫ちゃんも椅子に座るので瓶を渡すと勢いよくゴクゴクと飲みはじめる。
小さな口で一生懸命に飲もうとする仕草がたまらなく可愛いわね。ついつい、見ちゃうわね。
その場にいる全員が姫ちゃんの姿に見とれているのか、何も言わない。
ぷあっと、水分を飲んだ後の独特の呼吸までしっかりと見つめ終わってから
「それじゃ、話の続きをしましょうかね」
キリっと団長らしく大人らしく振舞おうとするが、あれ?坊やしかいないわね
「もう、いいですって、団長、彼らも暇じゃないので持ち場に戻りましたよ、時間があれば紹介しようと思っていたんですけどね」
あらそうだったの?まぁ、どうせ、怪我をしたら絶対に運び込まれる場所に私が居るのだから、その時にでも自己紹介してあげるわよ。
こほんっと咳払いをしてから、真面目な表情で
「要件ですけど、あの一帯の何処から敵が接近したのか、念入りに調査をしようと思っていたんですけどね、やっぱり二本足との戦闘で敵が誘き寄せられていて、それらの殲滅をずっとしていまして、やっと、ひと段落つきましたって感じですね、それの報告に来たってわけなんですよ」
あーなるほどねー、それはね、私も気にしていたのよ、あいつらって音に引き寄せられる傾向があるでしょ?
だから、敵が集まってこないのかと不安に思っていたけれど、やっぱりこの近くまで来ていたのね、2足歩行以外も、この街に接近して門を潜らせるわけにはいかないわ。
非戦闘員であれば、その辺にいる獣ですら危険なのですから。
それに、2足歩行がどうやってあそこ迄、巡回している人達に悟られずに接近を許してしまったのかも、気になるところね。
坊やからの報告に悩んでいると、服を引っ張られる感覚がするので、引っ張っている主に振り返ると
「この人って、ゴリ…えっと、二本足だっけ?それの喉元を突き破った人だよね?」
そうか、戦闘中は鎧を着ているし後ろ姿くらいしか見ていないものね、今は、鎧を脱いでいて、普段着だもの、坊やがあの時に闘っていた人なのか、確信が持てないわよね。
そうよっと返事を返すと、私の声を遮るように坊やが言葉を被せてくる
「姫様!!昨日は、ご助言いただき、誠に感謝しております。貴女様の英知によって我々は一命を取り留め、今もこうやって人類の為に戦うことが出来ております」
深々と頭を下げて挨拶する坊やをじーっと姫ちゃんは、眉をひそめて目つき鋭く、むっとした表情で見ているなぁっと、思っていたら私の太ももをぺちぺちと叩くけど、何?抱っこして欲しいの?腕を広げてあげると太ももの上に座って体重を預けてくるので瓶を持っていない方の手でしっかりと抱きしめると、うんうんっと頷いている、っていうか、坊やを見る目が険しかったのはどうして?
「いいのよ、私の様な、未熟な人の意見を聞き入れてくださって、此方こそ感謝の気持ちよ」
坊やの方を見ずに返事をするけど、人見知りかしら?
がばっと勢いよく下げていた頭を持ち上げてこちらを見た瞬間、坊やも一瞬残念そうな表情をしなかった?見間違いかしら?
「では、ご報告も終わりましたので、僕は、作業に戻りますね、仕留めた獲物を此方まで、運ばないといけないので」
笑顔で手を振って離れていく坊やを見送った後、姫ちゃんが私の胸に後頭部を何度もぶつけてくるけど、なに?おっぱいが恋しいの?
「お母さん!ちゃんとして!」
あら?何かご立腹みたいじゃないの…ちゃんとして?ちゃんとしてたわよ?団長として報告も受け取ったし、仕事…ちゃんとしてるわよね?おかしな点があったのかしら?
「お母さんだって私に注意する癖にちゃんとしてない!」
ぽいんぽいんと私の胸に後頭部で攻撃しないの、何?何が言いたいの?
「あの人、その、ほら、そういう人なんでしょ?おへそ見てた!ずっとお母さんのおへそ回り見てた!!」ぺちぺち私の腰回りを叩くので言いたいことが完全に伝わる。
…ああ!そういうことね!ぁぁ~そうだったわね、そう、思うわよね~、姫ちゃんに坊やに伝えるように頼んだ言葉を思い返してみても、姫ちゃんからすれば坊やは、THE雄って、感じの印象になっちゃってるよねー。うっかりうっかり。
坊やと私達の関係を姫ちゃんは知らないものね~、そうよねー、っていうかあいつ、私は意識しなくてもやっぱり女性ってだけで、ついつい、見てしまうのね、露出されている肌色の部分を!
はぁ、私も気を付けて相手しないといけないの?めんどくさいわねー。
むーむー!っと唸り声でぽいんぽいんと攻撃を繰り返す姫ちゃんに、私達の関係を、どうやって説明したらいいのか悩み続ける。
いざ、言語化しようと、言葉で伝えようとするのって難しいわねー。
まぁ、ここは、取り合えず軽く、で、いいのかしらね?
坊やと私は、弟と、姉、みたいな間柄と伝えると
「…なるほど」
腑に落ちたのかあっさりと納得してくれたみたいだけど、あれ?もしかして姫ちゃんてご姉妹がいるのかしら?聞いてみると自慢げに
「そうだよ!私ってね!お姉ちゃんなんだよ!ちゃ~んと弟と妹のお世話したんだからね!!」
…うそでしょ?っと、つい声が漏れてしまったみたいで
「嘘じゃないもん!ちゃんとお世話したの!しーたーのー!!」
ペチペチペチペチと私の太ももを叩き続ける姫ちゃんに、それは同じ母親?それとも
「違うよ?お母さんいっぱい、いたよ?でも、あんまり私とはお話してくれなかったからよく知らないかな、弟や妹、お兄様にお姉さまとは、よく相手をしてもらったよ?ちゃんとお姉さまやお兄様が私にしてくれたように下の子達も相手をしたよ?」
話の内容的に、側室がいるっというか、姫ちゃんのお母様が側室の可能性があるわね、予想通りというか、あの時に見えた家紋からしても、東の豪族、その直系で間違いなさそうね。
いつか、姫ちゃんが自分の家系、ご実家の事を詳しく話してくれる日がくれば、真相が掴める気がするけれど、左程、どうでもいいって思ってしまっている部分なので、語ってくれたら耳を傾ける程度でいいわよね!こんな可愛い子を手元から手放そうとする時点でね!荷物もちょっとずつ送ってきて、帰ってくるな!っていうような意志がちょっとずつ含まれてるんじゃないの?って勘ぐっちゃうのよね!この子の未来を将来を考えて、大事に思っているのなら手紙の一つくらい荷物の上にいれているでしょ?
それすらないのよ!その部分で、私の中では姫ちゃんのお父様を疑ってしまうのよね~、姫ちゃんの未来を考えてこの街に連れてきたんじゃなくて、本気で捨てに来たんじゃないかってね!豪族なら、愛する娘を預ける場所に、多少は寄付とかするわよね!?それもないのよね!!…金品じゃなくても気持ちでいいから何かを普通は渡すわよね?
一瞬湧き上がる憤りを抑えてから、姫ちゃんに軽くかいつまんで、戦士の一団である、坊やと乙女ちゃんと巨躯の女性の事を伝えると
「お母さん?話はちゃんと正確に伝えないとだめだよ?そんな女性がいるわけないじゃない、わかりきった噓はよくないよ?」
…そうよね、常識的に考えたら、そこの部分で引っかかるわよね、そうよね、あれは規格外過ぎるわよね、常識の外よね、私もあれを見た時は男性だと思ったもの。
実際に合わせて見せるのが早いかもしれないわね。
「明日にでも会いに行ってみる?」
私の言葉が予想外なのか返事が遅いわね?…少しの間、沈黙しているので瓶の中にある水を飲み干すと
「お母さん…明日って、嘘を真にするためには準備する時間がないんじゃないのー?そんなので私の目をごまかせると思っているの?」
これは確実に信じていないわね、ふっふっふ、それならそれで!明日は驚くがいいわ!…
ついでに、私も久方ぶりにしっかりと挨拶するのもいいわね、肉塊君の一件以来、お会いしていないし、子育てに勤しんでいるアイツの姿をじっくりと見て、子育てが大変だという話をするのも、いいかもしれないわね。
姫ちゃんがどの様に驚くのか、どんなリアクションを見せてくれるのか、微笑ましい姿を想像しながら、いつも通りに過ごしたのだけれど、ちょっと楽しみになっちゃってしまって、中々、寝付けなかったわね。
翌朝、寝ぼけている姫ちゃんを叩き起こして、今日は歩くわよーっと、姫ちゃんの支度を手早く済ませて出ていく間ずっと、不満そうな顔をしていたわね。
「お母さんの我儘に付き合ってあげますか~」っと、部屋を出てきて数分の間は生意気な発言をしながら歩いていたのだけれど、30分も歩いたら、もう歩けない宣言されるとは思ってもいなかったわね。
まぁ、仕方がないと言えば仕方がないわね、ここ数日、結構、普段よりも、歩き回っていたものね、疲労が溜まっているのは仕方がないけど、おかしいのよね、不思議に感じているのが、子供にしては、回復力低すぎない?私が子供の頃って、こんなにも疲れやすくて、疲れが抜けにくかったかしら?
これは、予測であって欲しいのだけれど、この子って、封印術式の影響で疲労とか、そういった体を回復させる能力とかも、体に関係する時が解決するっていう、部分が普通の人よりも、遅くなっている可能性が高いのじゃないかって最近、感じているのよね。
だとしたら、この子は絶対に怪我なんてさせられないわね、怪我をしたら回復する迄、普通の人の何倍も遅くなってしまうがゆえに、その治っていく過程で発生する痛みという苦しみが長くなってしまうので、普通の人と比べて、何倍も苦痛を味わうってことになるのよね?
気を付けないといけないわね、それが解っていたら、死の大地に連れていくなんて、危険すぎる案を許可なんてしないわよ。
「大丈夫?重たい?」
険しい顔つきをしていたのかしら?心配されちゃっているわね
「これくらいなら、大丈夫よ、ちょっと気になることがあって考え事をしていたのよ」
背中でおんぶしているとはいえ、顔は私のすぐ横にあるのだから険しい表情をしているのが、見えてしまう?そうね、見えちゃうわよね、いけないいけない、心配かけないようにしないとね。
深呼吸をして気持ちを切り替え
心配してくれてありがとーっと笑顔で言いながら側頭部を姫ちゃんの顔にぐりぐりと押し付けると
「痛い!もーわかったからやめてよー」っと、嬉しそうな声で押し付けた部分を押し返そうとしてくるじゃないの。
最もっと、心深くにまで刻まないといけないわね。この子の体は普通とは違うっと言う部分を。
だからこそ、もっともっと、先の事象を想定して、考えて、慎重にならないといけない、しっかりと怪我をしないように、無茶をしないように、監督しないといけないわね。
だって、この子ってさ
自分の寿命が短いの知っているから、自分の命を、勘定に、物事に対する天秤に、自分の命というカテゴリーが、入っていない気がするのよ、危なっかしいのよね。
危なっかしいのっていう部分は、常識的に考えても、子供ってそういうものなのよね。
好奇心が勝っちゃって、やりたいことが頭の中でいっぱいになっちゃうから、単純に後先考えていないってだけな気もするけどね、無鉄砲に大怪我をしてからでは、取り返しのつかないような状況になりかねないのよね~。うん、気を付けないといけないわね。
てくてくと歩いていく間、ふと、思い出してしまう、着替える際に見えてしまった、裸の私を…そう、足の部分を!
…最近、私って足への負担、強すぎる気がしない?…
筋肉って過度な負荷を与え続けて、暴食すると肥大するって戦士の人達が言うじゃない?…
足、太くなってるような気が、しないでも、ないのよね…うん!食事を気を付けましょう!食べ過ぎないように!
最近、ご飯が美味しいのは運動量が増えているからかも、しれないわねぇ…
一人で食べる食事じゃなく、心許せる誰かと一緒に食べるからこそ美味しいのだと心の問題だと思っていたけれど、肉体的に欲している可能性もあるわね…
そんなことを考えながら歩き続ける、むしろ考えないと歩けない。
細身の体とはいえ、人ひとりの重さを背負いながら歩き続けるのは、堪えるので少しでも意識を逸らしながら歩かないと歩けなくなりそうなのよね。
こんなことになるのなら、もっと運動を定期的に取り組むべきだったわね。
連日に渡る肉体を酷使するような状況に、日々の怠惰な部分を反省していると漸く、畜産の旦那が管理しているエリアの中央辺りに到着したみたいで、従業員の姿が見えたと思ったら草木の中にしゃがみ込む、お仕事中に声を掛けるのは申し訳ないと思うけれど、声を掛けないと旦那の場所がわからないので、声を掛ける。
従業員から、旦那さんの居場所を聞いてみると、「旦那様は娘と一緒に収穫してっから、あっちのほうだ」しゃがみながら作業をしているみたいで、腕だけがギリギリ見える。
その腕で旦那さんがいるであろう方角を指さしてくれるのでありがとうっと大きな声で返事を返すと、特に返事もなく手が引っ込み作業に戻ったようだ。
仕事中とはいえ、もう少し愛想よくしてもいいんじゃないのって、貴族なら考えるのでしょうね。
あの街で生きる人からすれば、今日もご苦労様です、皆さまのおかげで美味しいご飯が食べれていますとしか感謝の気持ちしか湧かないので、姫ちゃんを背負いながらお辞儀してから教えてくれた方角に向かって歩いていく。
「ねぇ、どうしてお辞儀したの?教えてもらった人からだと、こっちの動きは見えないと思うわよ?」
私の行動に疑問を持ちそうな気がしたのよ、絶対に質問してくると思っていたわ。
合理的な姫ちゃんからしたら、ありがとうと相手に聞こえるほどの大きな声で感謝の気持ちを伝えただけでも十分だと思っているのでしょうね。
「僕はですね、仕事上がりに貴女を探して、病棟まで出向いて、此方で作業をしているとお聞きして、足を運んだのですよ、その理由はですね、こ、この様な猥談っといいますか、そ、そういうのがしたくて、ささ…探していたわけじゃ…ないんですよ!医療班の団長として、姫様の管理者としての貴女に用件があって赴いてきたわけでして」
猥談の部分が恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしてるわね、純粋なるエロという心揺さぶられて仕方がない貪欲な貴方が、何?急に真面目ぶってんのよ?真面目ぶらないといけない何かがあるのかしら?
坊やらしくない、立ち振る舞いに違和感を感じたので、坊やから視線を外して周りを観察する。
坊やの後方を見てみると、あーそういうことね、物陰からゆっくりと姿が見えたのは、坊やが指導している戦士の皆様じゃない、なるほどね、坊やったら、はっは~ん、そういうことね~。
かっこつけたいのね?それならそうと言いなさいよ…
坊やが畏まりながら流れるように出てきた言葉、その最後の部分に引っかかりを感じてしまう。
ん?ちょっとまって、私って姫様の管理者って立ち位置になっているの?…まぁ、しょうがないわよね、四六時中一緒にいるのだから、肩書の一つや二つ増えてしまうわね。
まぁね、そういうのは百歩譲ってもいいわ、肩書が増えるくらいは!でもね、肩書の名前が気に喰わないわね。
管理者なんて呼び方よくないでしょ?そんな感じの肩書だと、姫ちゃんと関わっている全てが、仕事だから、面倒見ているみたいな言い方に感じ取れちゃうのよ。
それは良くないわね、愛がないわ。
お母さんって肩書に今度、変えるように根回ししておくか、私の肩書に姫ちゃんの管理者、なんて肩書が姫ちゃんの耳に入ったら、いい気持ちしないわよ。
まったく、人の心っていうの?感情っていうの?多感な12歳を相手にするのだから、その辺のさ?情操教育っていうの?しっかり考慮して、配慮していただきたいですわね!!
心から溢れる母親としての感情を相手に見せないようにしつつも坊やが、かしこまって大人になろうとしている、その姿を、坊やの姉貴分である、この私が!!変にちゃちゃを入れるのは違うわよね。坊やから成長したいと背伸びしたいという前へ向かおうと歩き出している背中を、押してあげるのが、あの人に託された部分でもあるわよね?ね、騎士様。
「ええ、そうですね、では、戦士の…」その先の言葉が出なかった、背中を教え上げないといけないの、声が出なかった。
嗚呼、駄目ね戦士長なんて肩書を言おうとしても私の喉を、通らせないように心が封殺してしまっているわね、なら、なんて、坊やを呼んだらいいのかしらね?
「その先の言葉は不要です、団長、僕には、戦士長の肩書は継げませんよ、あの人を超えたと思えれるような、その時が、その瞬間が、自他ともに認めてもらえるような、そんな日が、来るまでは、僕は僕で、僕のままでいますよ、だから、いつも通り坊やとお呼びください」
悲しそうな顔をさせてしまったけれど、こればっかりはごめんなさい、騎士様の肩書は、永遠に騎士様だけにあってほしい、何時まで経っても前へ歩き出せない、女としてのどうしようもない部分が、足を引っ張ってしまっているのよ。
「ご配慮いただきありがとうございます。それじゃ遠慮なく坊やって呼ぶとして、如何な理由で医療班団長である、私を、お探しかしら?」
この街の幹部としてキリっと表情を硬くしいかにも偉い人っという雰囲気を醸し出す。
これで、きっと、坊やがイメージするようなお堅い人のイメージに近づけてみたと、思うけれど、どうよ?私だって出来るのよ?
分厚い作業着のせいで足を組むのが非常に辛く、組むために上げた足を若干浮かせないといけないので、足をプルプルと震わせながら両腕を組んで、下から坊やを見上げていると、坊やは私の立ち振る舞いを見て限界が来たのか急に笑い出す。
っふ、そうね、作業着を着て何を偉そうにしてんだって話よね、そりゃ、笑っちゃうよね。
「すみません、いつも通りでいきましょう」
笑いながらそう提案されてしまってはね、応じるのが姉貴分ってわけよね!無理して組んでいた足を戻して、姿勢も楽な姿勢にするけど、この服、暑いのよね~流石に、お開けは良くないし、早く話を進めて欲しいわね。
そんなやり取りをしているといきなり
「お母さんどうしたのー?」
遠くでドアが開く音がしたと思ったら、姫ちゃんの声が聞こえるので、声のする方に返事をしながら視線を向ける
「お仕事の話よー?って、姫ちゃん!?すっごい汗じゃない!嗚呼、もう、水分飲んだ!?」
顎の下まで汗が滴り落ちている姫ちゃんの姿を見て直ぐに立ち上がって様子を見に行く。
姫ちゃんに駆け寄って状態を確認するために、作業服をすこし脱がすと作業着の下に着ていた服が汗でぐっしょりじゃないの、このままだと、風邪ひくわね、いや、それよりも、水分が必要ね。
坊やの方に顔を向けると、坊やも何か頼みごとを言われるのだと直ぐに気が付いたのか、私の言葉を言う前から私が何を言おうとしているのか察してくれて頷いてくれる
「ごめんだけど、何か飲み物を持ってきてくれる?」
言葉を言い終わる前に、坊やは、回れ右をして経過な足取りで軽やかに食堂へ向かって走っていく、偉くなっても、ああやって、誰かの為に率先して動くという、真摯な対応、相手の事を気遣う優しさってのは、それを見ていた部下たちにも伝わるからね、そういった姿勢を忘れない限り坊や良い教育者になりそうね。
坊やが離れていくのを見た後は、姫ちゃんを更衣室に連れて行って、作業服を脱がして、汗を拭こうと思っていたのだけれど!お互いが、うっかりしていたっというか、前もって知らせてほしかったわね、作業着を着るということを、聞かされていないものだから、タオルとか予備の着替えなんて持ってきていないわね。
部屋まで取りに行こうかと思っていたら更衣室のドアが勢いよく開かれる音がしたと思ったら、音と同時に声が聞こえてくる、声の方を見ると
「ひめっちゃん!汗!服!」奥様がドアを開けた衝撃と同じように勢いよく近づいてきて、姫ちゃんにタオルを渡してくれる、ありがたく、それを受け取り全身から溢れる汗を拭いていく。
「お気遣いありがとうございます、助かりました」汗を拭きながらも、必死に姫ちゃんのことを想って、考えてくれて行動してくれた、運動嫌いの奥様に感謝の気持ちを伝える。
お礼を述べた後、念のために奥様の状態を確認するために、視線をうつすと、肩で息をして今にも膝から崩れ落ちそうな作業着を着たままの奥様がゆっくりとサムズアップで返事を返してくれる、声を出せいない程、頑張ってくださった姿に、本当に、その気持ちに対して、感謝の心を伝えたいと思ってしまう。
きっと、姫ちゃんの汗が凄いのを見て、慌てて自室から服とかタオルを取ってきてくれたのだろう、本当は相談するべきか悩んだけれど、よかった、姫ちゃんの体質を相談しておいて、相談していなかったら、この人はこんな気遣いしてくれなかったと思う。
だって、奥様って、運動嫌いだからね、先輩が連れ出さないとウォーキングすら嫌がる時があるって先輩が愚痴っているのをお聞きしていますからね。
気が利くことにタオルは2枚あるし、服もしっかりと私の分と姫ちゃんの分を用意してくれているあたり、この人も、変わりつつあるのかもしれないわね。
いいえ違うわね、この人も、一児の母、だからこそ、母親としての感性は持ち合わせているのかしらね?そこに気が付いてしまう、母としての心遣いに共感を得ることが出来る、そのような視点を得られたのだと、女でしかなかった私が…変わっただけかもしれないわね。
そんなことを考えながら姫ちゃんの汗をしっかりと拭きとった後、服を着せるのだが、姫ちゃんからすると用意された服装が、可愛くないみたいで眉間に皺を寄せているが、文句を言葉にしない辺り、奥様の頑張っている姿を見て言えないのだろう。ちゃんと人のことを思いやれるいい子ね…
なのに、どうして私には容赦がない時があるのかなー?心を許しているからかなー?それとも私だったら何をしてもいいと思っているのかなー?どれだろうねー?
真っ白な子供が着る様ちょっと大きめの布着のどこが嫌なのかしら?有り触れた服だから?…
確かに姫ちゃんが普段から着てる服って如何にも、お嬢様って感じのフリルがついているのよね。
私も奥様から受け取った服を着るけど、まぁそうなるわよね、奥様よりも身長が高いし胸も大きいからおへそが見えちゃってるわね…それも、がっつりと…
まぁいいでしょう!坊や相手にへそを見せたくらいで気になんてしないわ…乙女ちゃんが傍にいない限りね!!
お尻のサイズは奥様の方が大きいみたいでズボンはちょっとブカブカなのが勝った気持ちにさせてくれる!!いやーウェストも私の方が細いのか~、何故かしら?この勝ち誇った様な気分になるのは?
姫ちゃんが着ている布着はちょっとぶかぶかのサイズなので、スカートを穿いていると、布着の部分がスカートのウエストの部分を隠してしまって、布着の下からスカートがしっかりと見える、姫ちゃんがお気に入りのスカートはハイウエストで、スカートにあるウエストの部分を見せるのが、彼女にとって好ましい着方なのかしらね?
だから、ウエストの部分が隠れてしまう布着が気にいらないのかしら?
姫ちゃんのスカートも膝下まである長めのサイズ、傍から見たら、そんなに気にするような服装じゃないと思うけどね?私はね?
でも、姫ちゃんからすると可愛くない組み合わせなのだろう。
うーん、早めに姫ちゃんが汚してもいい上下の服装を用意しないといけないわね、今日は解体作業だけど、姫ちゃんは遠巻きに見るだけで、率先して解体なんてしないだろうって思ってスカートで、出てきちゃったのよね、一応、姫ちゃんがいうには、汚してもいい服装ってことだけど、それでも、上物って感じなのよねぇ…
あ、勿論、スカートは脱いできちんと畳んで更衣室に置いておいたわよ?だから、姫ちゃんは下は下着の状態で用意された作業着に着たわよ?そうしないと皺になってしまうもの。
奥様のおかげで無事、汗も完全に拭き取れたり、汗を吸った服から別の服に着替えることも出来たし!感謝の気持ちを伝えようと振り返ると
いつの間にか、更衣室に備えてある椅子の上に移動している。
死んだように呼吸を整えている奥様に感謝の気持ちを伝えて先ほどの場所に戻ると、瓶を二つ持った坊やが待っていてくれたので、「ありがと」っと、可愛く感謝の気持ちを伝えながら、瓶を受け取って椅子に座ると、私の隣に姫ちゃんも椅子に座るので瓶を渡すと勢いよくゴクゴクと飲みはじめる。
小さな口で一生懸命に飲もうとする仕草がたまらなく可愛いわね。ついつい、見ちゃうわね。
その場にいる全員が姫ちゃんの姿に見とれているのか、何も言わない。
ぷあっと、水分を飲んだ後の独特の呼吸までしっかりと見つめ終わってから
「それじゃ、話の続きをしましょうかね」
キリっと団長らしく大人らしく振舞おうとするが、あれ?坊やしかいないわね
「もう、いいですって、団長、彼らも暇じゃないので持ち場に戻りましたよ、時間があれば紹介しようと思っていたんですけどね」
あらそうだったの?まぁ、どうせ、怪我をしたら絶対に運び込まれる場所に私が居るのだから、その時にでも自己紹介してあげるわよ。
こほんっと咳払いをしてから、真面目な表情で
「要件ですけど、あの一帯の何処から敵が接近したのか、念入りに調査をしようと思っていたんですけどね、やっぱり二本足との戦闘で敵が誘き寄せられていて、それらの殲滅をずっとしていまして、やっと、ひと段落つきましたって感じですね、それの報告に来たってわけなんですよ」
あーなるほどねー、それはね、私も気にしていたのよ、あいつらって音に引き寄せられる傾向があるでしょ?
だから、敵が集まってこないのかと不安に思っていたけれど、やっぱりこの近くまで来ていたのね、2足歩行以外も、この街に接近して門を潜らせるわけにはいかないわ。
非戦闘員であれば、その辺にいる獣ですら危険なのですから。
それに、2足歩行がどうやってあそこ迄、巡回している人達に悟られずに接近を許してしまったのかも、気になるところね。
坊やからの報告に悩んでいると、服を引っ張られる感覚がするので、引っ張っている主に振り返ると
「この人って、ゴリ…えっと、二本足だっけ?それの喉元を突き破った人だよね?」
そうか、戦闘中は鎧を着ているし後ろ姿くらいしか見ていないものね、今は、鎧を脱いでいて、普段着だもの、坊やがあの時に闘っていた人なのか、確信が持てないわよね。
そうよっと返事を返すと、私の声を遮るように坊やが言葉を被せてくる
「姫様!!昨日は、ご助言いただき、誠に感謝しております。貴女様の英知によって我々は一命を取り留め、今もこうやって人類の為に戦うことが出来ております」
深々と頭を下げて挨拶する坊やをじーっと姫ちゃんは、眉をひそめて目つき鋭く、むっとした表情で見ているなぁっと、思っていたら私の太ももをぺちぺちと叩くけど、何?抱っこして欲しいの?腕を広げてあげると太ももの上に座って体重を預けてくるので瓶を持っていない方の手でしっかりと抱きしめると、うんうんっと頷いている、っていうか、坊やを見る目が険しかったのはどうして?
「いいのよ、私の様な、未熟な人の意見を聞き入れてくださって、此方こそ感謝の気持ちよ」
坊やの方を見ずに返事をするけど、人見知りかしら?
がばっと勢いよく下げていた頭を持ち上げてこちらを見た瞬間、坊やも一瞬残念そうな表情をしなかった?見間違いかしら?
「では、ご報告も終わりましたので、僕は、作業に戻りますね、仕留めた獲物を此方まで、運ばないといけないので」
笑顔で手を振って離れていく坊やを見送った後、姫ちゃんが私の胸に後頭部を何度もぶつけてくるけど、なに?おっぱいが恋しいの?
「お母さん!ちゃんとして!」
あら?何かご立腹みたいじゃないの…ちゃんとして?ちゃんとしてたわよ?団長として報告も受け取ったし、仕事…ちゃんとしてるわよね?おかしな点があったのかしら?
「お母さんだって私に注意する癖にちゃんとしてない!」
ぽいんぽいんと私の胸に後頭部で攻撃しないの、何?何が言いたいの?
「あの人、その、ほら、そういう人なんでしょ?おへそ見てた!ずっとお母さんのおへそ回り見てた!!」ぺちぺち私の腰回りを叩くので言いたいことが完全に伝わる。
…ああ!そういうことね!ぁぁ~そうだったわね、そう、思うわよね~、姫ちゃんに坊やに伝えるように頼んだ言葉を思い返してみても、姫ちゃんからすれば坊やは、THE雄って、感じの印象になっちゃってるよねー。うっかりうっかり。
坊やと私達の関係を姫ちゃんは知らないものね~、そうよねー、っていうかあいつ、私は意識しなくてもやっぱり女性ってだけで、ついつい、見てしまうのね、露出されている肌色の部分を!
はぁ、私も気を付けて相手しないといけないの?めんどくさいわねー。
むーむー!っと唸り声でぽいんぽいんと攻撃を繰り返す姫ちゃんに、私達の関係を、どうやって説明したらいいのか悩み続ける。
いざ、言語化しようと、言葉で伝えようとするのって難しいわねー。
まぁ、ここは、取り合えず軽く、で、いいのかしらね?
坊やと私は、弟と、姉、みたいな間柄と伝えると
「…なるほど」
腑に落ちたのかあっさりと納得してくれたみたいだけど、あれ?もしかして姫ちゃんてご姉妹がいるのかしら?聞いてみると自慢げに
「そうだよ!私ってね!お姉ちゃんなんだよ!ちゃ~んと弟と妹のお世話したんだからね!!」
…うそでしょ?っと、つい声が漏れてしまったみたいで
「嘘じゃないもん!ちゃんとお世話したの!しーたーのー!!」
ペチペチペチペチと私の太ももを叩き続ける姫ちゃんに、それは同じ母親?それとも
「違うよ?お母さんいっぱい、いたよ?でも、あんまり私とはお話してくれなかったからよく知らないかな、弟や妹、お兄様にお姉さまとは、よく相手をしてもらったよ?ちゃんとお姉さまやお兄様が私にしてくれたように下の子達も相手をしたよ?」
話の内容的に、側室がいるっというか、姫ちゃんのお母様が側室の可能性があるわね、予想通りというか、あの時に見えた家紋からしても、東の豪族、その直系で間違いなさそうね。
いつか、姫ちゃんが自分の家系、ご実家の事を詳しく話してくれる日がくれば、真相が掴める気がするけれど、左程、どうでもいいって思ってしまっている部分なので、語ってくれたら耳を傾ける程度でいいわよね!こんな可愛い子を手元から手放そうとする時点でね!荷物もちょっとずつ送ってきて、帰ってくるな!っていうような意志がちょっとずつ含まれてるんじゃないの?って勘ぐっちゃうのよね!この子の未来を将来を考えて、大事に思っているのなら手紙の一つくらい荷物の上にいれているでしょ?
それすらないのよ!その部分で、私の中では姫ちゃんのお父様を疑ってしまうのよね~、姫ちゃんの未来を考えてこの街に連れてきたんじゃなくて、本気で捨てに来たんじゃないかってね!豪族なら、愛する娘を預ける場所に、多少は寄付とかするわよね!?それもないのよね!!…金品じゃなくても気持ちでいいから何かを普通は渡すわよね?
一瞬湧き上がる憤りを抑えてから、姫ちゃんに軽くかいつまんで、戦士の一団である、坊やと乙女ちゃんと巨躯の女性の事を伝えると
「お母さん?話はちゃんと正確に伝えないとだめだよ?そんな女性がいるわけないじゃない、わかりきった噓はよくないよ?」
…そうよね、常識的に考えたら、そこの部分で引っかかるわよね、そうよね、あれは規格外過ぎるわよね、常識の外よね、私もあれを見た時は男性だと思ったもの。
実際に合わせて見せるのが早いかもしれないわね。
「明日にでも会いに行ってみる?」
私の言葉が予想外なのか返事が遅いわね?…少しの間、沈黙しているので瓶の中にある水を飲み干すと
「お母さん…明日って、嘘を真にするためには準備する時間がないんじゃないのー?そんなので私の目をごまかせると思っているの?」
これは確実に信じていないわね、ふっふっふ、それならそれで!明日は驚くがいいわ!…
ついでに、私も久方ぶりにしっかりと挨拶するのもいいわね、肉塊君の一件以来、お会いしていないし、子育てに勤しんでいるアイツの姿をじっくりと見て、子育てが大変だという話をするのも、いいかもしれないわね。
姫ちゃんがどの様に驚くのか、どんなリアクションを見せてくれるのか、微笑ましい姿を想像しながら、いつも通りに過ごしたのだけれど、ちょっと楽しみになっちゃってしまって、中々、寝付けなかったわね。
翌朝、寝ぼけている姫ちゃんを叩き起こして、今日は歩くわよーっと、姫ちゃんの支度を手早く済ませて出ていく間ずっと、不満そうな顔をしていたわね。
「お母さんの我儘に付き合ってあげますか~」っと、部屋を出てきて数分の間は生意気な発言をしながら歩いていたのだけれど、30分も歩いたら、もう歩けない宣言されるとは思ってもいなかったわね。
まぁ、仕方がないと言えば仕方がないわね、ここ数日、結構、普段よりも、歩き回っていたものね、疲労が溜まっているのは仕方がないけど、おかしいのよね、不思議に感じているのが、子供にしては、回復力低すぎない?私が子供の頃って、こんなにも疲れやすくて、疲れが抜けにくかったかしら?
これは、予測であって欲しいのだけれど、この子って、封印術式の影響で疲労とか、そういった体を回復させる能力とかも、体に関係する時が解決するっていう、部分が普通の人よりも、遅くなっている可能性が高いのじゃないかって最近、感じているのよね。
だとしたら、この子は絶対に怪我なんてさせられないわね、怪我をしたら回復する迄、普通の人の何倍も遅くなってしまうがゆえに、その治っていく過程で発生する痛みという苦しみが長くなってしまうので、普通の人と比べて、何倍も苦痛を味わうってことになるのよね?
気を付けないといけないわね、それが解っていたら、死の大地に連れていくなんて、危険すぎる案を許可なんてしないわよ。
「大丈夫?重たい?」
険しい顔つきをしていたのかしら?心配されちゃっているわね
「これくらいなら、大丈夫よ、ちょっと気になることがあって考え事をしていたのよ」
背中でおんぶしているとはいえ、顔は私のすぐ横にあるのだから険しい表情をしているのが、見えてしまう?そうね、見えちゃうわよね、いけないいけない、心配かけないようにしないとね。
深呼吸をして気持ちを切り替え
心配してくれてありがとーっと笑顔で言いながら側頭部を姫ちゃんの顔にぐりぐりと押し付けると
「痛い!もーわかったからやめてよー」っと、嬉しそうな声で押し付けた部分を押し返そうとしてくるじゃないの。
最もっと、心深くにまで刻まないといけないわね。この子の体は普通とは違うっと言う部分を。
だからこそ、もっともっと、先の事象を想定して、考えて、慎重にならないといけない、しっかりと怪我をしないように、無茶をしないように、監督しないといけないわね。
だって、この子ってさ
自分の寿命が短いの知っているから、自分の命を、勘定に、物事に対する天秤に、自分の命というカテゴリーが、入っていない気がするのよ、危なっかしいのよね。
危なっかしいのっていう部分は、常識的に考えても、子供ってそういうものなのよね。
好奇心が勝っちゃって、やりたいことが頭の中でいっぱいになっちゃうから、単純に後先考えていないってだけな気もするけどね、無鉄砲に大怪我をしてからでは、取り返しのつかないような状況になりかねないのよね~。うん、気を付けないといけないわね。
てくてくと歩いていく間、ふと、思い出してしまう、着替える際に見えてしまった、裸の私を…そう、足の部分を!
…最近、私って足への負担、強すぎる気がしない?…
筋肉って過度な負荷を与え続けて、暴食すると肥大するって戦士の人達が言うじゃない?…
足、太くなってるような気が、しないでも、ないのよね…うん!食事を気を付けましょう!食べ過ぎないように!
最近、ご飯が美味しいのは運動量が増えているからかも、しれないわねぇ…
一人で食べる食事じゃなく、心許せる誰かと一緒に食べるからこそ美味しいのだと心の問題だと思っていたけれど、肉体的に欲している可能性もあるわね…
そんなことを考えながら歩き続ける、むしろ考えないと歩けない。
細身の体とはいえ、人ひとりの重さを背負いながら歩き続けるのは、堪えるので少しでも意識を逸らしながら歩かないと歩けなくなりそうなのよね。
こんなことになるのなら、もっと運動を定期的に取り組むべきだったわね。
連日に渡る肉体を酷使するような状況に、日々の怠惰な部分を反省していると漸く、畜産の旦那が管理しているエリアの中央辺りに到着したみたいで、従業員の姿が見えたと思ったら草木の中にしゃがみ込む、お仕事中に声を掛けるのは申し訳ないと思うけれど、声を掛けないと旦那の場所がわからないので、声を掛ける。
従業員から、旦那さんの居場所を聞いてみると、「旦那様は娘と一緒に収穫してっから、あっちのほうだ」しゃがみながら作業をしているみたいで、腕だけがギリギリ見える。
その腕で旦那さんがいるであろう方角を指さしてくれるのでありがとうっと大きな声で返事を返すと、特に返事もなく手が引っ込み作業に戻ったようだ。
仕事中とはいえ、もう少し愛想よくしてもいいんじゃないのって、貴族なら考えるのでしょうね。
あの街で生きる人からすれば、今日もご苦労様です、皆さまのおかげで美味しいご飯が食べれていますとしか感謝の気持ちしか湧かないので、姫ちゃんを背負いながらお辞儀してから教えてくれた方角に向かって歩いていく。
「ねぇ、どうしてお辞儀したの?教えてもらった人からだと、こっちの動きは見えないと思うわよ?」
私の行動に疑問を持ちそうな気がしたのよ、絶対に質問してくると思っていたわ。
合理的な姫ちゃんからしたら、ありがとうと相手に聞こえるほどの大きな声で感謝の気持ちを伝えただけでも十分だと思っているのでしょうね。
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