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王位継承戦 Side-S 1日目 ②

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広い空間である聖堂にカツカツと響き渡るように足音を広げ、音の主が只者ではないという、雰囲気を保ちつつ歩き続ける。
教会で職務を全うしているシスターたちよりも、特別であると、強く存在感を民衆に植え付けるために…

内心、正直、めんどくさいけど、仕方がないんだよね~。こういった人達って雰囲気に酔う人達でしょ?なら、しっかりと演じきらないとね~、はぁーだっる。
気持ちの影響で一瞬だけ表情が緩みそうになる
っとと、いけないいけない、お母様達が繋げてきたキセキを穢すわけにはいかないものね、気を張らないとね。
直ぐに、気を引き直して演技を続けていく。

カツカツと歩いていき、目指す場所は、教会の中央にある、月のオブジェ。
その前にゆっくりと歩み寄り、手が届く場所で立ち止まる…白き月、聖女様を表し、尚且つ、始祖様が旅立った場所。教会のシンボル。

何処からどう見てもただの丸、ボール。駄目だ、私にはただのオブジェにしか見えない、綺麗に削ってあって職人さんいい仕事してるなぁしか感想が出てこない。

これに向かって毎日、信徒が祈りを捧げに来る、ご先祖様には申し訳ないけど、時間の無駄じゃんって思うんだけど…祈ってる時間があれば、本でも読んだら?って、思わない?非生産過ぎじゃない?…うーん、心の安寧により神経が研ぎ澄まされ一日の活動がより良い物になるのかな?なら、ルーティンとしては大いに有りかな。

オブジェの周りを見ると、床が一定の箇所が削れたのか少々、凹んでいる、つま先と膝が地面に着く場所…つまり、この教会が出来てからずっとこの場所で祈りを捧げ続けた人がいるってことだよね。
一日の始まりや、一日の終わりにどの様な願いがあるのか知りえないが祈りを捧げに訪れる…これって、何かに利用できないかな?この習慣を非生産なものから生産的なものへとシフトできそうな気がする。

祈りを捧げて、それが力になったりしないかな?

力、純粋に筋肉からの力ではなく、私達が始祖様から授かったある意味純粋なる暴力の塊…【魔力】それを集めることが出来て、何処かで貯蔵出来ないかな?
直感的に頭の中で繋がっていく、未来の記憶と、今の記憶、始祖様が持ちえる技術…

…出来る、理論上…出来る。あの時、魂までも取り込んだ術式を応用すれば出来る…

そうなんだ、出来るんだ。なるほど、ね。
突拍子もない計算に驚くというよりも出来て当然、経験してあるからっという理由で不思議と納得ができてしまう。私自身は経験してないんだけどなぁ。

それにしても、魂って存在するんだ、なら、どうしてお母様は私に語り掛けてくれないのかな?…長く留まれないとか、かな?あいされて…

考えたくない答えを払拭するために、考えを直ぐに切り替える。

知りたいな、魂ってどんな感じなんだろう?経験してみたいなぁ
直ぐにでも知りたがる危険な好奇心をしてはいけないと、否定する、踏み込んでいい領域を超えている
…知ったが最後、経験して、理解した瞬間に、私の人生は終わってしまうから立証できないのが辛いなぁ。試せないじゃん。
ちょっとした空想を考えるくらい余裕がある、っていうか、敢えて何もしないで見つめるっていう時間が必要だったから、色々と考えちゃったけど、手っ取り早く全てを終わらせたいなぁ…空気づくりってめんどくさーい。

適度にシスター以外の人達から視線を集めることが出来ているので次のステップにいこうかな

そっとオブジェに向かって手を伸ばす。
本当はオブジェに触れるなんて恐れ多いし、絶対にしてはいけない!ご法度だ!なんだけどさー、意外とねオブジェを見てるとね、わかっちゃったんだけど、結構、祈りを捧げに来た人かな?触れた痕跡があるんだよねぇ…

先人に倣って、オブジェに優しく汚さないように気を付けながら触れてみるが…何も感じない。
ツルっとしてる部分もあればざらっとしてる部分もあって、ひんやりとしている。
触り心地も変哲のないごく普通の石像…神秘的な感じなんてしない、するわけがないっか、神秘を帯びてもいいと思うけどなぁ、だってさ、毎日、まいにち…長い年月、多くの人々からの幾星霜、長い時間、祈りを受け止め続けてきたのにさ…これはただの石像、魔力の欠片もない。ただの、せきぞう・・・人々の祈りは何処に消えるの?

祈りを捧げるだけではダメ、何も変わらない、なら、変えてあげるのが一番じゃない?…うん、組み込もう何かに。さっきの考えは正しい。もったいない。

「…オブジェに御触れにならないようにお願いします」
シスターに怒られちゃった、そうだね、見知らぬ人が触れていいものじゃないよね~、でも、そんなのかんけーねー、な~んてね、これも演技なんだけどね…声を掛けてもらうことによって周りの視線を更に高める作用があるからね!さぁ、演技を続けるとしましょう!
オブジェからゆっくりと手を離して祈りの姿勢を取り目を閉じて絞り出すように声をだす
「祈りは届きました」
静かに呟く様に、予定通りに、私の名を告げると声を掛けてくれたシスターが驚いた表情と共に両膝を付いて祈りを捧げる姿勢になる。
うんうん、ちゃんと練習してきてるじゃない!練習しといてね!っていう、話は通ってるみたいね。やるじゃん、ちゃんと報告連絡相談…出来てるって感じね。良い組織だね。

私に向かって祈りを捧げる姿を見た全てのシスター全員が同じように私に向かって祈りを捧げる姿勢を取る。良い雰囲気じゃん!いいねいいね!こんな光景見たことないでしょ?
これを見た、聖堂に居た人達全員が何事かとざわつく様にしている、うんうん、予定通り予想通り!掴みは完璧!

演技を続けていく、シスターたちにお辞儀をする為に、スカートの両端を掴んで、右足の膝を曲げて地面につま先をこすらないように気を付けながらちょっとだけ、つま先を浮かせて、右足のつま先の着地点は、ここ!つま先を左足の後ろ、踵に触れるくらいの場所に待っていく。何度やってもこの所作は体幹が必要でつっらぁ…慣れてきたとはいえ、やっぱりつっらぁ…
貴族たちが好む所作…この動き、慣れたくなかったのになぁ…私は、平民として生きていきたかったのになぁ、自由で楽しく、縛られることなく…人生を生きたかったのにな。

…まぁ、その前にね、恩を返したい、幸せにしたい人達がいるから、早々に死ねないけどね!それまでは絶対に私の時計の針は持たせる!持たせてみせらぁ!お母さんがね!!
他人のエネルギーで動くなんてね、始祖様の世界にある機械と変わらないね!…ああ、ダメダメ!
自分の発言に笑ってしまいそうになる、演技の途中なのに!だってさー、こういう厳格な雰囲気が演技だってわかってる側だからさ、なんていうかおかしくなってきちゃう感覚わかる?些細なことで笑っちゃいそうになるー、はぁ…笑わないように気を付けないと。

気を取り直して!機械らしく世界の歯車になりますかっと。

お辞儀をした後、聖堂の奥にある分厚いカーテンに向かって視線を泳がせる、私の視線が向いたのと同時にカーテンがゆっくりと外れていき、地面にばさっと落ちる。
その奥にある特別な時でしか公開されない、絵画が現れる。
当然、私の一挙手一投足を見ていた民衆の皆さんも視線の向かう先を見ていたので驚いている。奇跡のような出来事に全員が声を失っている。

聖堂に突如として現れた、徒ならぬ雰囲気によって存在感を醸し出し、最高の演出としてシスター達、全員が膝ついて出迎えるという司教様ですらさせたことないような行動をしてもらいシスターいいえ、教会全てから待ち望んでいた人物としての演出も完璧、聖女伝説を尊く感じている人の心はこれでばっちり、最後に始祖様を神のように拝めている新勢力の方にも、認めてもらうための演出として、絵画が姿を現す、これによって絵画に描かれている人物が、私がこの場に現れるのを待ち望んでいたかのように姿を現す、うん、演出としてこれ以上に物はない。

視線を再度、始祖様が描かれている絵画を向ける、こんにちは、始祖様。

敬愛する始祖様が描かれた絵画に挨拶をしてから、目の前にいるシスターに教会の奥へと案内してもらう。
カツカツと足音をわざと出す様に歩き、注目を浴びるために鳴らしながら視線を集め、両脇に前後とシスターをお供にし、ゆっくりと関係者しか入ることが許されない教会の奥へと進んでいく…

祈りの前から離れ、教会で働ている関係者だけしか入れない場所に案内されると
「はぁ、緊張しました~」
案内してくれたシスターが硬い表情を崩して緩い雰囲気になる、ここでならネタ晴らししても問題ないものね、演技なんてさせちゃって、ごめんね。
「いい演技だったよ!ありがとう!」
ニパっと笑って女の子らしく、くるっと回ってスカートをふわりと浮かせながら、年相応の女の子ぽい感じの笑顔で労う。
「貴女も凄いですよー!役者顔負けだよー!どこぞの劇団員になったみたい!ふはぁ、今になって凄く心臓がバクバクしてるー!こんな経験初めてしましたー、はぁ~頬があつぅぃ~ぅぴゃ~」
一番注目を浴びる役割をしていたシスターの手が震えながら胸にあてている、よっぽど緊張したんだろうなぁ。演技とかそういうのと無縁な生活をしていたのでしょうね、無理をさせちゃったかな?でも、私に声を掛けるってことは、たぶん、一番適性があった人でしょ?

色々と目立ったことをして貰った人に申し訳ない気持ちでいてると
「お疲れー!凄く雰囲気があって、えっと、とにかく凄い感じがしたよー!」
奥からも裏方で色々と協力してくれたシスターたちが楽しそうな声と共に合流し、近寄ってくる。

無理強いしちゃったかな?強引に説き伏せられちゃったりしたのかな?って、思ってたけど、思っていたよりも特別なイベント感覚で楽しんでくれたのならよかったのかな?

今回の作戦を考えてシナリオを組んだのは私だもの、頼んだのは末席の人だと思うけれど、立案者は私だもの、こういった寸劇なんて考えたことも無かったから変な部分が無かったのかって言うのも気になっていたけれど、シスター的に違和感は無さそうだったのかな?

予想外なのが、まさか、こんなにも全力で取り組んでくれて劇に出せるほど演出含めて完璧に仕上げてくれるなんて思っても無かった!協力的で助かる!
…協力的ってことは、その他の作戦も頼りにしても問題なさそうだね。シスターたちが各々、何処かの派閥に与していてもしかしたら敵側の勢力なのかも、とか懸念材料があったけれど、杞憂だったかな?神聖な場所で劇をするなんてさ、不敬になりそうなのに。全員がおおらかでよかった~。

胸の突っ掛けが落ちていくのを感じながらシスターたちの会話に耳を傾ける。
「話し声きこえたわよー貴女も劇団員になれるわよー」「ええ~?そっかな~?なっちゃう?クジ引きで決まったときは、出来るかどうか不安だったけどー」
…協力的よね?運任せだったの?彼女たちからすると協力的っというか、日常にちょっとした刺激?遊びの範囲?…聞かなかったとにしよっと♪結果良ければ全て良し!

シスターたちの会話に少々の不安を覚えながらも、教皇様が待つ部屋と向かう、教皇っていうと語弊があるかな?立場的に変わんないと思うけどね、教皇の席は永遠に空席だし、司教も空席だし、司祭様って自分で名乗ってるけどさ、ここって教会の総本山でしょ?そこで一番の偉いさんでしょ?全ての教会に指示を出したり布教活動もしてるでしょ?王族にも口出ししてるでしょ?王族を匿ってるでしょ?やってることは教皇じゃん?っというか、そういう立場になってもいいのに、頑なにその座につかないのは…未来の記憶、その断片通りなら、後ろめたいことがあるから、かな?…お母さんがいれば、詳しい背景も知れるんだけどなぁ…

これから先に会う人の過去全てを知ってるわけじゃない、断片的だけど情報は得ている、一応、私達とは縁がある人だし、お母様の日記にも名前が書かれているほどの人物だもの。
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