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Dead End ■■■■■儀式 D●y ●日目 (7)

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長い事、外に居たから暑くなってきたので帽子を脱ぐと、周りにいる人達からどよめきが聞こえてきたような気がしたのだけれど、帽子って脱いではいけないのかしら?
その事を近くに通りかかったシスターに質問してみると、帽子を被っていないといけないという作法とかないですし、髪の長い方は作業しずらいので被る方が多いだけなのね。
それじゃどうしてどよめきが沸き上がったのかしら?その事についても質問してみると、真っ白で長い髪の毛が珍しいのと伝承にある聖女様が白髪で長い髪だったからじゃないかと教えてくれる。

成程ね、そう言われると納得してしまうわね。教会に通う敬虔なる信者からすると白い髪は特別な意味を持っているのかもしれないわね。

始祖様を崇める貴族達からすれば、黒い髪は力の象徴だものね。それと同じようなことでしょうね。
…なら、私の白くて長い髪を出して、あたかも聖女様のように医療行為をする方が、敬虔なる信徒たちからは特別な意味を感じやすいのではなくて?この方がきっと、人々に印象を植え付けやすくなるんじゃないかしら?

少し考えてみても、自分の考えに間違いは無いと感じれる。

うんうん、ありじゃない、民衆の心を掴むためのパフォーマンスってやつね…ぁ、成程ね?そういった意図があったのかもしれないわね、私を偽物の聖女様に仕立て上げて民衆の心を掴む作戦ってことかしら?

成程ね~そっちの可能性があったのね。王子も私の事を聖女様聖女様って言うくらい、似ているのでしょうね、なら、尚更、本家本元の姫様を呼ばないのはどうしてかしら?姫様の事を知らないとか?お会いしたことが無いとか?
…姫様ならそれもあり得そうね、王族と関わりたくないから会わないようにしているとかね。私よりも先を見据える能力は格段も上だもの。

白い髪っか、私は生まれた時は金髪だったけれど、あのひをさかいにしろく…そう白くなっていった、わたし、わたしたちの、いいえ、力に目覚めし者は自然と髪の毛が白くなる。
私達の一族は、産まれた直後は白い髪ではないけれど、年を重ねるにつれて白くなる、白くなるという事は力に目覚めた証拠…悲しき運命を背負ってしまった証拠となるのよ、妹もそうだったわ…いもうと?私に妹なんていないわよ?頭が割れる様に痛い、耳鳴りが、酷いわね…
慣れないシスターの服装を着て仕事をしているから肩でも凝ったのかしら?鳴りやまない耳鳴りに、留まることを知らない頭痛を解消するために、グルグルと肩を回したりストレッチをしていると、次の相談者が声を掛けてくるので、頭痛が収まってはいないけれど、これくらいで集中力が途切れるほどやわじゃないっての、頑張って気合を入れて診察を開始する。

相談内容もたまにだけれど、専門道具が必要な内容がくることがある、こんな事なら基本的な医療道具も持ってくれば良かったわね…
いやいや、何を言っているの?こうなる予定なんてなかったじゃない、深くかかわる気は無かった筈よね?
でも、今の状態でそうは言えないし、困ったものよね、流されやすい性格ってやつは治りそうも無いわね。

どうせだったら、この間書いた手紙に医療道具を送ってもらえれないか書けばよかったわね…今度、書いてみようかしら?
いえ、駄目ね、私がこうやって教会側で医療行為をしているなんて伝えてはいけない気がする。

医療道具くらいなら王子に頼めば用意してくれるよね?ええ、用意してくれるでしょうね、だって、あの子は優しい子だもの、人々を救うのだと伝えれば応じてくれる。
…あんな小さかったのに大きくなって…幼少期にお会いしたことあったかしら?無いわよね?ぅぐ、耳鳴りが酷いわね、頭痛も…
痛み止めの薬を常備しておかないといけないわね。そういう天気かしら?原因が不明っていうのも嫌なのよね、純粋に風邪?可能性はあるわねー。

頭痛と耳鳴りに耐えながら、なんとか診察を続けていくと日が暮れるころには教会に訪れる人も減り、集まった人達の診察を終える。
頭痛と耳鳴りに耐え続けた状態でも、まだ体を動かすことが出来そうなので、設営していた仮テントも片付けているとシスター達が私服に着替えてきてお疲れ様でーすっと手を振りながら帰っていく。

そうなのよね、みんな教会に勤めているって感じで夜には帰るのよね、だから、夜になると教会には私と司祭様だけになるのよね。
…なのに、どうしてかわからないが、他にも人がいるような気がするのはどうしてだろうか?


仮設テントの片付けも終わったので、汚れたシスター服を脱ごうかと思って更衣室に向かおうとすると司祭様が帰ってきたので条件反射のように、体が勝手に動き出す、何時も、日常をそうやって過ごしてきたのが当然のようにごく自然に条件反射のように動き出す。
「おかえりなさい、疲れたでしょ」
何時もの様に外回りで疲れた彼を優しく出迎えてあげる、彼が好きな甘めの紅茶を淹れてあげなきゃね…司祭様って紅茶が好きなのね、何処かで、そんな話をしたかしら?みみなりがする。
体が自然とお湯を沸かしに向かう、彼もその後ろ姿に釣られる様に付いてくる。
ピーカ王子はまだお見えになっていないし、昔みたいに二人で一緒にお茶でも飲みながら、貴方の好きだった、教本でも読み聞かせるのもいいわね。
彼がいつもの席に座り、お湯を沸かしている間にジャムが入っている瓶を取り出すのだけれど、困ったわね、ジャムが見当たらないわ
「ぁ、聖女様、ジャムの保管場所は変えたんです」
私が困っているのに気が付いたのか直ぐに駆けつけてくれる、気の利く優しい子ね。
ジャムを戸棚から取り出している間に紅茶の支度が出来たので運ぼうとすると手伝ってくれるので、紅茶を一緒に肩を並べて運び机の上に何時もの様にセッティングする。

淹れたての紅茶を司祭様に渡すと、ジャムの瓶を開けて自分の好みの味にして紅茶を飲んでいる。
美味しそうに安らかな笑顔で紅茶を堪能しているのを見ると私の心も紅茶のように暖かくなるのを感じますね。それでは、折角ですし私も紅茶をいただきましょう…わた、私は、ジャムを入れるのは好きじゃないのでそのままストレートで飲む、ジャムによっては折角の放漫な紅茶の薫りを邪魔するのよね、薫りがとても良い紅茶であれば苦くてもストレートが好きよ。ジャムを入れるのが嫌いってわけじゃないわよ?紅茶の質によるって感じね。

淹れたてのストレートティー、薫り楽しむように一口、口の中に含み薫りを堪能する。
紅茶を飲んでいると隣の方から視線を感じたので、視線の送り主である司祭様の方に視線をゆっくりと向けると、司祭様が悲しそうな顔で見ている?あら?ジャムを入れるのがこの教会では作法とか、かしら?それとも自分の好みを共有したかったのかしら?それだったら、我を通して申し訳ない事をしたわね。

でも、これくらい人の好き好きに任せても良いわよね?社交界の場ではないのだから。
そんな事を考えながら、紅茶を堪能していると、ふと机の上に置かれている教本が目に留まる…聖書の類かしら?
誘われる様に手を伸ばして、左程興味がない筈なのに、つい中を見たくなってしまい、パラパラとめくって中を見てみる…

教本の中身は想像していた物とは違った。
幼い子供に読み聞かせるタイプの本だった。内容は、難しい言葉使いも無し、冒険譚のように始まりの話を描かれているのよね。
そうよね、この物語ってそのままダイレクトに描いてしまうと物騒過ぎるのよ、こういった感じに尊き部分だけ、清き部分だけを抽出したほうが子供たちにとってわかりやすいわね、参考になるわね…奥様の絵本もこの様なテイストを盛り込んでいくのもいいわね…

白き月に黄金の太陽、始まりの聖女様の物語

それを面白おかしく描こうと努力したって感じなのね、いいじゃない、わかりやすくて。
一つ問題があるとすれば、この本の保存状況が良くないわね?かなりボロボロじゃないの、新しく製本しないのかしら?貴重な本では、無いと思うのよね、貴重な本であればこの様な休憩所に置いたりしないわよね?長い事、この教会で子供達に読み聞かせてあげていたのかしらね?

パラパラっと簡単にだけれど本を読み終えて机の上に置くと、司祭様が此方の様子を見守っている?…やっぱり貴重な本だったりするの?だとしたら、こんな場所に置かないできちんと保管して管理したほうがいいわよ?

大事そうな本であれば、直ぐにでも、そっと回収するのにしない辺り、そうでもない?うーん、意図が読み切れないわね?特に、気にしてもしょうがないから、これはこれで伊良しとしましょうね。考えすぎても仕方がないもの。

何故か愁いを帯びた視線をずっと向けてくるものだから、声をかけれない、かけかたがわからないわよ…どうしたらいいのかわからない気まずい空気が漂い始めたころに「遅くなりました」ドアが開かれ末席一同が流れ込んでくる、これで動きが消えてしまったこの部屋に新しい風が入ってくるので気まずい空気は流されていくわね。

一同のメンツは変わらずって言いたいけれど、見覚えのない方もいらっしゃるのね?協力者とかかしら?
中に入ってきたのは、共に動いていた侍女に、騎士に、初めてお会いする方も貴族の方、社交界とかに参加していたの大昔とはいえ、見覚えが無いわね。当然相手の方も私の事を知らないみたいで軽く会釈をするだけ。名乗りの口上をしないということは名前を知られたくないのね、関らない方がよさそうね。

全員が各々の場所に座ると、今後の方針を決める為の会議が開始されようとするので、その前にどうしても確認したいことがある。
開始する前に念のために、本当に私が協力する必要性があるのかを王子に確認すると、王子個人の狙いというか、考えとして私を通してあの街にいる人達を強制的に今回の一件について関係性を生み出し力を借りるつもりは毛頭ない、つまりは私の背後にいる一部の医療を志す人なら絶対に頭が上がらない医療の父、その奥様である王族と深く関りがある一族の出である奥様…街の代表者である最高の頭脳の持ち主、我らが姫様との橋渡しが目的ではなかった…
なら、私を呼びつけた意図がわからない、どうして私を呼んだのか、こればっかりは直接言葉にして確認しないと納得が出来ないと詰め寄ると

頬を染めながら恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべながら純粋に、私が傍にいて欲しいからという理由を赤面しながら発言すると侍女が良く言えました!と拍手する辺り、嘘も方便とか、たらしとかそういった類ではなく真剣に心の拠り所として傍で支えて欲しいって意図だったみたい…

あの街にいる明確な理由が無い限り絶対に動かないであろう重鎮を動かす為の作戦でもなく、純粋に人手が欲しかったって事でもなく?ただただ、純粋に想いという願いに近い、弱気な子供が母に縋りたくなるような感情ってこと?…予想外の内容にちょっと詰めてやりたくなってしまったけれど、そういった内容の方が裏が無くていいわよ、心の支えが欲しかったってことね。よっぽど不安を感じて心を許せる人がいなさ過ぎて、辛かった、私みたいな女に縋りたくなるほど、それ程までに追い詰められていたのね。

そんな風に思われてしまったら、包み隠さず打ち明けてくれたのだから、応えたくなってしまいものよね…小さな子が必死に前に向かって羽ばたこうとするのであれば、導くものとして協力することに迷いはないわ、優しいこの子だけでは、さぞつらかったでしょうに。

私の中にある王都に向かう前から心のしこりとなっていた部分が解消されたのは良いのだけれど、勝ち筋を見出す為の打算的な部分ではなかったのなら、どうやって勝利をその手に収めるのよ?やっぱり、考え無しだったってこと?
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