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Dead End 手紙(1)
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時は少し遡り…最前線の街で医療班の団長であるターア・ジラが所用で席を外した影響もあり、医療の父はそれらのカバーをするために大忙しだった。
彼女は多くの、本当に多くの仕事をこなしているため、その仕事量を各部署に分散してなんとか日々の業務をこなしているのだが、突発的に湧いてしまった仕事の影響が各部署にじわじわと影響が出ているのもあり最前線の街は少々慌ただしくもあり、大変な日常へと緩やかに変貌しようとしていた。
そんな多忙を極めようとしている昼下がり、慌ただしくドアをノックもせずに開けて声を掛けてくる人物が来訪する。
「大先輩!お手紙です」手紙を投げ渡す様にした後、走り去ったのは、行商の人から物資を受け取り各部署に搬入作業をしている非番の戦士部隊の一人
「お?ご苦労さん!」労いの言葉を投げかける前にドアを閉めて駆け出していく、ふむ、搬入作業にも影響が出始めていそうだな…
さて、っと、手紙か…渡された手紙を手に取る。
俺に手紙なんて送ってくる相手は決まっている、馬鹿弟子だろ?…手紙の差出人を見るとあいつの名前がしっかりと書かれている、予想通りじゃねぇか、けどなぁ…
あいつは~、っとに、約束を守らねぇな?三日に一度は手紙を出せっつっといたのに、初っ端から遅れやがったな…
まぁ、筆まめなやつじゃねぇから仕方がねぇけどな、姫ちゃんが来てからはよー?多少は、ほれ?律儀に、納期を、まもったり?…変化があったかな?って、多少は、ちょっとは成長を感じれた、ような気がするけれどよー、根っこのだらしない部分は変わる兆しがねぇなぁ。
まぁまぁ、あいつの成長過程なんざ今更だしな、ちょ~っと遅くなったけれどよ、ちゃんと手紙を送ってきたんだから良しとするか。
さてさて、送られてきた手紙を開封するとしますか。
手紙は特に何かで封がされている様子もなくただ紐で縛っているだけなのでささっと解いて中身を取り出す。
【報告書】
【こっちに来て何日目だったかしら?目まぐるしい日々を送っているせいで時間の感覚がおかしくて、だから、決して、その決して、手紙を送るのを忘れていたとかじゃないですからね?怒らないでくださいね?】
「ったく、長い付き合いだから、俺が約束を破る奴が嫌いなのをわかっていやがる、それがわかってんならよー、約束事くれぇ守れよな~、っとに、仕方がねぇやつだ」
出だしから言い訳三昧、謝る素振りすらねぇな、っとに、どうしようもねぇ馬鹿弟子の手紙は終始言い訳ばかりだった、けれど、こっちの事も忘れていないみたいで自分がほっぽってきた仕事がどうなったのか気にしてるじゃねぇか。
溜息が漏れてしまうのは仕方がねぇよな?ったく、まぁいいさ、元気でやってんならそれでいいよ、忙しくなってきたとはいえ、若手の連中からしたらこれも良い機会になるだろうからな、姫ちゃんもいるからな、心配するなってな、こっちは任せとけってな。
言い訳三昧の文を読み終わり、手紙から指を離すと、指の下から【裏面へ続く】と、書かれている。
あんだ?わざわざ裏面に?
手紙を裏っ返すと、言い訳ばかりの手紙に何か追記というか、文章を書き終わってから突如、思い出したのかって、感じで後から書き足したような部分があるな?
【いけない、書き忘れてしまうところだったわ、お時間がある時にでもいいので、奥様にお願いごとをしてもよろしいですか?奥様は確か、王都にある研究所と縁がおありですよね?本当に、無理でないのでしたら、そちらに保管されているであろう魔力測定器を触れる許可を貰えないかお聞きしていただいてもよろしいでしょうか?】
裏面に慌てて書き足された内容、急いで言い訳三昧の文を書きなぐって、慌てて思い出しやがったな。
内容を見て納得だよな、あ~なるほどなってな、姫ちゃんの為か、間を繋ぐくらいなら、実家嫌いのアイツも協力してくれんだろ、たぶん…後で好物片手に聞いてみるとするか
【急ぎではないので、私がそちらに戻ってからでも大丈夫ですので、お返事を下さい、返信は無くても大丈夫ですよ! これにて報告はお終いとなります。ターア・ジラより、親愛なる先輩へ】一か所、おかしい部分があるけれど、急いでいたのだろう、横線でけしゃ良いのにそれすらする時間がねぇ感じだな…忙しいのだろうな。あいつは何処に行っても仕事に追われてやがるな…
っふ、裏面の方がちゃんとした文を書こうとしてる、忙しくてもちゃんとした文章を書こうと思えば書けるじゃねぇか。
まぁ、あいつの普段を見てきた長い付き合いの俺からしたらよ~、表に書かれている普段通りの飾らないお前さんの文章の方が、読みやすくて好きだがな。
元気にやってんなら、それでいい、早く戻ってきて欲しい部署も数多くあるだろうが、長くても十日くらいだろ?それくらい何とかしてやるよ、巻き込まれ体質で責任感の強いお前さんならすぐに帰ってこねぇってのはこの街にいる全員が思っているからな。
読み終えた手紙を机の中に入れて、ぐぐっと背筋を伸ばしていると
「次の方、参られましたー」ドアの向こうから声を掛けられる、どうやら、次の患者がきたみてぇだな
「はいよー、次の方どうぞー」大きな声を出して、俺の仕事を再開させる。
俺の出来ることなんてな、たかが知れてるからな…俺の出来る事なんてよ、昔から病気と怪我しかねぇからな、それくらいしか俺には出来ねぇよ、必死に狂人者から学んだことなんてよ人の構造をしるだけだったからな、構造がわからない、人の心を掴み導くなんて繊細なことはできねぇ…
でもな、お前はちげぇ、きっとお前を中心に、この街に居たときみたいによ、何かに巻き込まれるんだろうっていうか、既に巻き込まれているんだろうな。
俺が出来るのはここでお前が無事に帰ってくるまでの間、この街を守り続けるしかねぇからな…頑張れよ。
慌ただしくなるであろう日々に覚悟を決め、今日を見つめる、あいつが守ってきた明日を繋ぐ
置いた老兵と言われようと俺が出来るのはこれしかねぇ、新しい風が紡ぐ物語ってのは、遠目で見ていても気持ちが良い、だからよ、生きて帰って来いよ…
そんな風に、思ってはいたがよー、次に手紙が届いたのも三日以上過ぎてからじゃねぇか…っとに、あいつはマメじゃねぇなぁ
あいつからの報告書という名の手紙を取り出す。
どうせ、中身なんて決まっている忙しかった、だの、言い訳が8割だろ?溜息をつきながら文に目を通すのだが、初手から違和感だった。
【拝啓、親愛なる先駆者様へ】
あん?なんだこれ?
差出人があいつじゃねぇのかと思いながら文の最後に書かれている名前を確認すると、やっぱり、あいつの名前だ、馬鹿弟子だな?
あー、たまにやるあれか?詩的なやつか?貴族様の鼻っ頭をたまーに披露したくなるアイツの悪い癖だな。
たまーにあるんだよなー、素養だか教養だかしんねぇけど、たまーにあるんだよなー…めんどくせぇ。
文字の始まりからして嫌な予感がしたが、予感は的中だよ、んだこれ?読めねぇよ…意味が解らん。
【今、白き月が見守り加護を与えし永遠の聖地に二つの星が生まれ…】
ああ?あんだこれ?何がいいてぇんだ?学のねぇ俺にはこういった表現が何を意味しているのかわっかんねぇよ?何の意図があんだよ?
詩的過ぎて報告書になってねぇ手紙、取り合えず意味は理解できなくても読み進め、読み終えるころには溜息という感想しか出てくることが無かった。
何がいいてぇのかさっぱりわかんねぇ…
頭をガシガシとかきむしりたくなる手紙を机の中に放り込む…
こういうのはな、学のある奴に読み解いてもらうのが一番だな…
頭に浮かぶのは愛する妻か、姫ちゃんだが、両者ともに頼みづれぇ相手だなぁ、まぁ、いいか、こんな風に書くくらいだから気にするような内容じゃねぇだろ、わざわざ、忙しい二人に頼んで中身を確認しなくても問題ねぇだろ。
【今、白き月が見守り加護を与えし永遠の聖地に二つの星が生まれ、世界が星々の輝きに包まれ光の中から新たなる輝きが生まれ、新星するでしょう。
二つの星が新たなる星の輝きを生み出すことにより、滅びの唄に包まれし穢れた大地が清浄なる大地へと生まれ変わるきっかけとなるでしょう。
世界は悠久なる時を経て始まりの刻を思い出すかのように輝きを取り戻すでしょう、私は白き月と成りて新しい光を穢れた大地だけではなく、遍く大地へと照らし
困窮し闇へと陥る魂に救いの光となって手を差し出しましょう
二つの星も白き月から溢れ出る光を支えてくれると信じております】
【親愛なる先駆者様、愛する弟子はここに健在です】
頭の中にもう一度、文の中身を思い出すが、やっぱり意味が解んねぇな…
意味がわからない手紙の中身を忘れる前に次の手紙が届く…
次の手紙は早かったが、未だにあの手紙の内容が理解できねぇから、同じような手紙だったらってのが過ってしまうとな…読む気力がわかねぇよ、前回の意味不明過ぎる報告書が続く様だったら、もう、開ける気すらなくなるってもんだぜ?
頭をガシガシとひっかきながら意味不明な報告書でないことを祈りながら手紙を読む
【先輩へ!】
【忙しすぎて手紙が遅くなって申し訳ありません、こちらは大変忙しいです!正直に言いますと助けが欲しいです!
本気で人手も物資も足りてません!何か、王都で働いている医者などに、助けを求めれる伝手がありませんか?
もしくは知り合いで手の空いている医療関係に携わる人はいませんか?
こちらの現場では、人も物資も何もかもが足りません!
泣き言が言いたくなるような段階ですが、先輩から教わった全てを駆使して、順調とは言えませんが、何とか命を救えています。
正直、王を決める云々よりも人の命を救うことが私の仕事だと感じて頑張っています。
傷ついた人達を出来る限り治療して、王を決める投票日までには人段落つけて、憂いなく帰れるように頑張りたいと思っているので
今の状況を中途半端に投げ出したくないのでひと段落が付くまでは帰る気はありません、皆には申し訳ないけれど、少しお時間を下さいとお伝えください。
あ!だからといって其方を見捨てるつもりはないですから!事態が急変したら容赦なく呼び戻してください!
二足歩行の襲来とか、街の存続が危ぶまれるような危機があれば絶対に連絡してくださいね!!】
【愚劣なる馬鹿弟子 ターア・ジラより】
手紙を読み終えると、心がホッと落ち着くのが感じ取れたのだが…
…ん?なんだ?今回は普通っと言うかまともじゃねぇか?なんだ?
強烈な違和感が泥となってこびりついてくる、こびりついた泥がざらつく様な気持ち悪さを確かめるために前回の手紙を引き出しから取り出し、確認する。
差出人の名前は何度確認しても、同じ、あいつの名前だ…
だけど、よくよく見ると、筆跡が…微妙に違うな、俺はアイツの字を何度も読んでいるがこんな整った書き方は、滅多にしねぇ…
考えられる違和感、これにはちょっと覚えがある、王都から外に出る文は、公的な文章、貴族が出す文じゃないかぎり、指示があれば、中身を検閲されて中身がそぐわない内容であれば勝手に変な文章へと書き替えられたりするってのが、過去にはあったんだよな。
っとするとだ、これ、あれだ、検閲されてねぇか?手紙の中身を改められている気がするな…
ってなるとだ、こりゃぁ、王都もきなくせぇことになってんなぁ…そこまでするかぁ?恐らく、次の王候補が何かしらの対策を講じてやがるのか?
っとなるとだ、王都以外に何かしら発信されては困る内容があるってことだよな?かー、やってらんねぇなぁオイ!
…一体全体、王都はどうなってやがんだ?あいつは何の内容を書きやがったんだ?王族批判か?ありえそうだが、それだったら差出人であるあいつは捕まってるはずだから、次の手紙なんて来ることはない、ってことはだ、次の王候補が不利になる何かを書いたってことか?
もしくは、普通の手紙すら中身が問題ありだと判断したら適当な文に書き換えられて送ってるってこともありそうなのか?
あいつからの手紙の一つや二つで王都が良くない状況になりつつあるのだと察してしまう。
かぁー、きっなくせぇ!こうなるとよー、俺から手紙を送ったところで素直にアイツに届くとは思えねぇな~…
仕方ねぇ、こっちで何かあったら取り合えず手紙を出すよりも行動に起こす方がはぇえか?王都にある教会に行けばあいつを捕まえられるか。
移動用の魔道具であれば、姫ちゃんに事情を説明すれば何かしら用意してくれるだろう、何かあれば、使いを出すことも考えねぇとな…
困ったのは、暫くはアイツからの手紙が信用ならなくなるのは、つれぇな、あいつが本当に危ない時に助けに行けなくなっちまう。
手紙が来ない時は検閲で引っかかって破棄されてるってことだろうな、手紙の内容次第ではあいつが困っているのだと判断して、助けを出す様にしないといけないってのも考えねぇといけないのか…あの馬鹿弟子は厄介ごとに巻き込まれる才能だけはピカイチだな。
問題は、あの意味不明な文章を代筆する誰かが検閲班の中に居たからこそ、意味不明な手紙の無い様にすり替えたのか、はたまた、元から手紙がああせざるをえなかったか、っていう、部分の読みあいもあるんだよな…
いや、その考えはちげぇか?どんな状況に陥ってんだっての、そんな状況の後に普通の手紙が来てる時点で、この考えはちげぇわな…
なら、王都に在住する検閲する連中は、こういった手紙を予め用意しといて、外に向かって出される手紙を検閲して、宜しくない内容だったら差し替えてるってことか?
予め大量に作っておけば、可能ではあるが、筆跡の部分だ、あいつに似てるんだよなぁ…ちょっと違うような感じがするけどよ、あいつが丁寧に書くとあんな感じになるんだよなぁ、貴族様は字を綺麗に書く練習が必須だって教えてもらったことがあるからなぁ…似通るんだよなぁ。
湧き上がる、自分の考えだというのに、どうしても納得できない部分が多すぎる
第一に、そこまでするかね?第二に、何を書いたんだあの馬鹿は?第三に、不穏すぎやしねぇか?
こんな事したらよ、受け取った側からすれば、より一層、王都にいる人物達について疑心暗鬼になる気がするけどな?
こういうのって、悪手ってやつじゃねぇのか?
俺は学がねぇからわかんねぇけどよ?これ、駄目なやつじゃねぇのか?…
今の状況に納得は、できはしない、できはしないが、此方側としては対策の練りようが無いしどう動いたらいいのかわからない。
今の状況では、どうしようもないので取り合えず、あいつから助けの声が届かない限りは動かないでおくか、俺たちが駆けつけて現場をかき回すのはよくねぇしな。
…こちらも人手が足りているわけじゃねぇしな、本気で危なくなったらストレートに助けを呼ぶだろうしな。
椅子の背もたれに体重を預け、軋む音と共に、何処か落ち着かない気持ちを深呼吸と共に吐き捨てる。嫌な予感ってのは当たる時は当たるって言うがよ、嫌な予感ってのは、心のどこかでそういう事態を望んじまっているんじゃねぇかって、不幸を望んでいる様な気がするからよ、考えねぇようにしねぇとな…
頼むから死ぬなよ…
彼女は多くの、本当に多くの仕事をこなしているため、その仕事量を各部署に分散してなんとか日々の業務をこなしているのだが、突発的に湧いてしまった仕事の影響が各部署にじわじわと影響が出ているのもあり最前線の街は少々慌ただしくもあり、大変な日常へと緩やかに変貌しようとしていた。
そんな多忙を極めようとしている昼下がり、慌ただしくドアをノックもせずに開けて声を掛けてくる人物が来訪する。
「大先輩!お手紙です」手紙を投げ渡す様にした後、走り去ったのは、行商の人から物資を受け取り各部署に搬入作業をしている非番の戦士部隊の一人
「お?ご苦労さん!」労いの言葉を投げかける前にドアを閉めて駆け出していく、ふむ、搬入作業にも影響が出始めていそうだな…
さて、っと、手紙か…渡された手紙を手に取る。
俺に手紙なんて送ってくる相手は決まっている、馬鹿弟子だろ?…手紙の差出人を見るとあいつの名前がしっかりと書かれている、予想通りじゃねぇか、けどなぁ…
あいつは~、っとに、約束を守らねぇな?三日に一度は手紙を出せっつっといたのに、初っ端から遅れやがったな…
まぁ、筆まめなやつじゃねぇから仕方がねぇけどな、姫ちゃんが来てからはよー?多少は、ほれ?律儀に、納期を、まもったり?…変化があったかな?って、多少は、ちょっとは成長を感じれた、ような気がするけれどよー、根っこのだらしない部分は変わる兆しがねぇなぁ。
まぁまぁ、あいつの成長過程なんざ今更だしな、ちょ~っと遅くなったけれどよ、ちゃんと手紙を送ってきたんだから良しとするか。
さてさて、送られてきた手紙を開封するとしますか。
手紙は特に何かで封がされている様子もなくただ紐で縛っているだけなのでささっと解いて中身を取り出す。
【報告書】
【こっちに来て何日目だったかしら?目まぐるしい日々を送っているせいで時間の感覚がおかしくて、だから、決して、その決して、手紙を送るのを忘れていたとかじゃないですからね?怒らないでくださいね?】
「ったく、長い付き合いだから、俺が約束を破る奴が嫌いなのをわかっていやがる、それがわかってんならよー、約束事くれぇ守れよな~、っとに、仕方がねぇやつだ」
出だしから言い訳三昧、謝る素振りすらねぇな、っとに、どうしようもねぇ馬鹿弟子の手紙は終始言い訳ばかりだった、けれど、こっちの事も忘れていないみたいで自分がほっぽってきた仕事がどうなったのか気にしてるじゃねぇか。
溜息が漏れてしまうのは仕方がねぇよな?ったく、まぁいいさ、元気でやってんならそれでいいよ、忙しくなってきたとはいえ、若手の連中からしたらこれも良い機会になるだろうからな、姫ちゃんもいるからな、心配するなってな、こっちは任せとけってな。
言い訳三昧の文を読み終わり、手紙から指を離すと、指の下から【裏面へ続く】と、書かれている。
あんだ?わざわざ裏面に?
手紙を裏っ返すと、言い訳ばかりの手紙に何か追記というか、文章を書き終わってから突如、思い出したのかって、感じで後から書き足したような部分があるな?
【いけない、書き忘れてしまうところだったわ、お時間がある時にでもいいので、奥様にお願いごとをしてもよろしいですか?奥様は確か、王都にある研究所と縁がおありですよね?本当に、無理でないのでしたら、そちらに保管されているであろう魔力測定器を触れる許可を貰えないかお聞きしていただいてもよろしいでしょうか?】
裏面に慌てて書き足された内容、急いで言い訳三昧の文を書きなぐって、慌てて思い出しやがったな。
内容を見て納得だよな、あ~なるほどなってな、姫ちゃんの為か、間を繋ぐくらいなら、実家嫌いのアイツも協力してくれんだろ、たぶん…後で好物片手に聞いてみるとするか
【急ぎではないので、私がそちらに戻ってからでも大丈夫ですので、お返事を下さい、返信は無くても大丈夫ですよ! これにて報告はお終いとなります。ターア・ジラより、親愛なる先輩へ】一か所、おかしい部分があるけれど、急いでいたのだろう、横線でけしゃ良いのにそれすらする時間がねぇ感じだな…忙しいのだろうな。あいつは何処に行っても仕事に追われてやがるな…
っふ、裏面の方がちゃんとした文を書こうとしてる、忙しくてもちゃんとした文章を書こうと思えば書けるじゃねぇか。
まぁ、あいつの普段を見てきた長い付き合いの俺からしたらよ~、表に書かれている普段通りの飾らないお前さんの文章の方が、読みやすくて好きだがな。
元気にやってんなら、それでいい、早く戻ってきて欲しい部署も数多くあるだろうが、長くても十日くらいだろ?それくらい何とかしてやるよ、巻き込まれ体質で責任感の強いお前さんならすぐに帰ってこねぇってのはこの街にいる全員が思っているからな。
読み終えた手紙を机の中に入れて、ぐぐっと背筋を伸ばしていると
「次の方、参られましたー」ドアの向こうから声を掛けられる、どうやら、次の患者がきたみてぇだな
「はいよー、次の方どうぞー」大きな声を出して、俺の仕事を再開させる。
俺の出来ることなんてな、たかが知れてるからな…俺の出来る事なんてよ、昔から病気と怪我しかねぇからな、それくらいしか俺には出来ねぇよ、必死に狂人者から学んだことなんてよ人の構造をしるだけだったからな、構造がわからない、人の心を掴み導くなんて繊細なことはできねぇ…
でもな、お前はちげぇ、きっとお前を中心に、この街に居たときみたいによ、何かに巻き込まれるんだろうっていうか、既に巻き込まれているんだろうな。
俺が出来るのはここでお前が無事に帰ってくるまでの間、この街を守り続けるしかねぇからな…頑張れよ。
慌ただしくなるであろう日々に覚悟を決め、今日を見つめる、あいつが守ってきた明日を繋ぐ
置いた老兵と言われようと俺が出来るのはこれしかねぇ、新しい風が紡ぐ物語ってのは、遠目で見ていても気持ちが良い、だからよ、生きて帰って来いよ…
そんな風に、思ってはいたがよー、次に手紙が届いたのも三日以上過ぎてからじゃねぇか…っとに、あいつはマメじゃねぇなぁ
あいつからの報告書という名の手紙を取り出す。
どうせ、中身なんて決まっている忙しかった、だの、言い訳が8割だろ?溜息をつきながら文に目を通すのだが、初手から違和感だった。
【拝啓、親愛なる先駆者様へ】
あん?なんだこれ?
差出人があいつじゃねぇのかと思いながら文の最後に書かれている名前を確認すると、やっぱり、あいつの名前だ、馬鹿弟子だな?
あー、たまにやるあれか?詩的なやつか?貴族様の鼻っ頭をたまーに披露したくなるアイツの悪い癖だな。
たまーにあるんだよなー、素養だか教養だかしんねぇけど、たまーにあるんだよなー…めんどくせぇ。
文字の始まりからして嫌な予感がしたが、予感は的中だよ、んだこれ?読めねぇよ…意味が解らん。
【今、白き月が見守り加護を与えし永遠の聖地に二つの星が生まれ…】
ああ?あんだこれ?何がいいてぇんだ?学のねぇ俺にはこういった表現が何を意味しているのかわっかんねぇよ?何の意図があんだよ?
詩的過ぎて報告書になってねぇ手紙、取り合えず意味は理解できなくても読み進め、読み終えるころには溜息という感想しか出てくることが無かった。
何がいいてぇのかさっぱりわかんねぇ…
頭をガシガシとかきむしりたくなる手紙を机の中に放り込む…
こういうのはな、学のある奴に読み解いてもらうのが一番だな…
頭に浮かぶのは愛する妻か、姫ちゃんだが、両者ともに頼みづれぇ相手だなぁ、まぁ、いいか、こんな風に書くくらいだから気にするような内容じゃねぇだろ、わざわざ、忙しい二人に頼んで中身を確認しなくても問題ねぇだろ。
【今、白き月が見守り加護を与えし永遠の聖地に二つの星が生まれ、世界が星々の輝きに包まれ光の中から新たなる輝きが生まれ、新星するでしょう。
二つの星が新たなる星の輝きを生み出すことにより、滅びの唄に包まれし穢れた大地が清浄なる大地へと生まれ変わるきっかけとなるでしょう。
世界は悠久なる時を経て始まりの刻を思い出すかのように輝きを取り戻すでしょう、私は白き月と成りて新しい光を穢れた大地だけではなく、遍く大地へと照らし
困窮し闇へと陥る魂に救いの光となって手を差し出しましょう
二つの星も白き月から溢れ出る光を支えてくれると信じております】
【親愛なる先駆者様、愛する弟子はここに健在です】
頭の中にもう一度、文の中身を思い出すが、やっぱり意味が解んねぇな…
意味がわからない手紙の中身を忘れる前に次の手紙が届く…
次の手紙は早かったが、未だにあの手紙の内容が理解できねぇから、同じような手紙だったらってのが過ってしまうとな…読む気力がわかねぇよ、前回の意味不明過ぎる報告書が続く様だったら、もう、開ける気すらなくなるってもんだぜ?
頭をガシガシとひっかきながら意味不明な報告書でないことを祈りながら手紙を読む
【先輩へ!】
【忙しすぎて手紙が遅くなって申し訳ありません、こちらは大変忙しいです!正直に言いますと助けが欲しいです!
本気で人手も物資も足りてません!何か、王都で働いている医者などに、助けを求めれる伝手がありませんか?
もしくは知り合いで手の空いている医療関係に携わる人はいませんか?
こちらの現場では、人も物資も何もかもが足りません!
泣き言が言いたくなるような段階ですが、先輩から教わった全てを駆使して、順調とは言えませんが、何とか命を救えています。
正直、王を決める云々よりも人の命を救うことが私の仕事だと感じて頑張っています。
傷ついた人達を出来る限り治療して、王を決める投票日までには人段落つけて、憂いなく帰れるように頑張りたいと思っているので
今の状況を中途半端に投げ出したくないのでひと段落が付くまでは帰る気はありません、皆には申し訳ないけれど、少しお時間を下さいとお伝えください。
あ!だからといって其方を見捨てるつもりはないですから!事態が急変したら容赦なく呼び戻してください!
二足歩行の襲来とか、街の存続が危ぶまれるような危機があれば絶対に連絡してくださいね!!】
【愚劣なる馬鹿弟子 ターア・ジラより】
手紙を読み終えると、心がホッと落ち着くのが感じ取れたのだが…
…ん?なんだ?今回は普通っと言うかまともじゃねぇか?なんだ?
強烈な違和感が泥となってこびりついてくる、こびりついた泥がざらつく様な気持ち悪さを確かめるために前回の手紙を引き出しから取り出し、確認する。
差出人の名前は何度確認しても、同じ、あいつの名前だ…
だけど、よくよく見ると、筆跡が…微妙に違うな、俺はアイツの字を何度も読んでいるがこんな整った書き方は、滅多にしねぇ…
考えられる違和感、これにはちょっと覚えがある、王都から外に出る文は、公的な文章、貴族が出す文じゃないかぎり、指示があれば、中身を検閲されて中身がそぐわない内容であれば勝手に変な文章へと書き替えられたりするってのが、過去にはあったんだよな。
っとするとだ、これ、あれだ、検閲されてねぇか?手紙の中身を改められている気がするな…
ってなるとだ、こりゃぁ、王都もきなくせぇことになってんなぁ…そこまでするかぁ?恐らく、次の王候補が何かしらの対策を講じてやがるのか?
っとなるとだ、王都以外に何かしら発信されては困る内容があるってことだよな?かー、やってらんねぇなぁオイ!
…一体全体、王都はどうなってやがんだ?あいつは何の内容を書きやがったんだ?王族批判か?ありえそうだが、それだったら差出人であるあいつは捕まってるはずだから、次の手紙なんて来ることはない、ってことはだ、次の王候補が不利になる何かを書いたってことか?
もしくは、普通の手紙すら中身が問題ありだと判断したら適当な文に書き換えられて送ってるってこともありそうなのか?
あいつからの手紙の一つや二つで王都が良くない状況になりつつあるのだと察してしまう。
かぁー、きっなくせぇ!こうなるとよー、俺から手紙を送ったところで素直にアイツに届くとは思えねぇな~…
仕方ねぇ、こっちで何かあったら取り合えず手紙を出すよりも行動に起こす方がはぇえか?王都にある教会に行けばあいつを捕まえられるか。
移動用の魔道具であれば、姫ちゃんに事情を説明すれば何かしら用意してくれるだろう、何かあれば、使いを出すことも考えねぇとな…
困ったのは、暫くはアイツからの手紙が信用ならなくなるのは、つれぇな、あいつが本当に危ない時に助けに行けなくなっちまう。
手紙が来ない時は検閲で引っかかって破棄されてるってことだろうな、手紙の内容次第ではあいつが困っているのだと判断して、助けを出す様にしないといけないってのも考えねぇといけないのか…あの馬鹿弟子は厄介ごとに巻き込まれる才能だけはピカイチだな。
問題は、あの意味不明な文章を代筆する誰かが検閲班の中に居たからこそ、意味不明な手紙の無い様にすり替えたのか、はたまた、元から手紙がああせざるをえなかったか、っていう、部分の読みあいもあるんだよな…
いや、その考えはちげぇか?どんな状況に陥ってんだっての、そんな状況の後に普通の手紙が来てる時点で、この考えはちげぇわな…
なら、王都に在住する検閲する連中は、こういった手紙を予め用意しといて、外に向かって出される手紙を検閲して、宜しくない内容だったら差し替えてるってことか?
予め大量に作っておけば、可能ではあるが、筆跡の部分だ、あいつに似てるんだよなぁ…ちょっと違うような感じがするけどよ、あいつが丁寧に書くとあんな感じになるんだよなぁ、貴族様は字を綺麗に書く練習が必須だって教えてもらったことがあるからなぁ…似通るんだよなぁ。
湧き上がる、自分の考えだというのに、どうしても納得できない部分が多すぎる
第一に、そこまでするかね?第二に、何を書いたんだあの馬鹿は?第三に、不穏すぎやしねぇか?
こんな事したらよ、受け取った側からすれば、より一層、王都にいる人物達について疑心暗鬼になる気がするけどな?
こういうのって、悪手ってやつじゃねぇのか?
俺は学がねぇからわかんねぇけどよ?これ、駄目なやつじゃねぇのか?…
今の状況に納得は、できはしない、できはしないが、此方側としては対策の練りようが無いしどう動いたらいいのかわからない。
今の状況では、どうしようもないので取り合えず、あいつから助けの声が届かない限りは動かないでおくか、俺たちが駆けつけて現場をかき回すのはよくねぇしな。
…こちらも人手が足りているわけじゃねぇしな、本気で危なくなったらストレートに助けを呼ぶだろうしな。
椅子の背もたれに体重を預け、軋む音と共に、何処か落ち着かない気持ちを深呼吸と共に吐き捨てる。嫌な予感ってのは当たる時は当たるって言うがよ、嫌な予感ってのは、心のどこかでそういう事態を望んじまっているんじゃねぇかって、不幸を望んでいる様な気がするからよ、考えねぇようにしねぇとな…
頼むから死ぬなよ…
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