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Dead End ■■■■■儀式 D●y ●日目 (9)

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頭痛がする…痛みで目を覚ます、いたたた、最近頭痛が酷いわね、どうしたのかしら?
上半身を起こして、周りを見渡す、お借りしている部屋にいつの間にか横になっていたのね
考えを走らせると脳がそれどころじゃないと痛みをアピールしてくる、早く薬を飲めと訴えかけてくる

ポケットの中を調べてみると薬の瓶が入っていない、きっと寝るときに何処かに置いたのだろう、寝返りの際に当たると痛いし、ポケットから出すのは至極当然よね、そうなると、薬を置くとしたら机の上がセオリーよね
若い頃に比べて、無意識で物を置くものだから、何処に何を置いたのかたま~に、忘れちゃうときがあるのよね…その状態を姫様に見られちゃって呆れられたこともあったわね。

一つの動作ごとに痛みが強くなっていく、日に日に、徐々に痛みが酷くなっている気がする…
これって、原因はなに?心当たりがないのよね、可能性があるとすれば、何かの感染症とか?…
あり得るわね~、不衛生な場所で活動していたのだから、何かしらの病魔に憑りつかれてもおかしくないのよね、洗浄は直ぐにしたけれど、ちょ~っと遅かったかもしれないわね。

頭痛と眩暈と耳鳴りによって平衡感覚も狂っているのか立ち上がった後も感覚は狂ったままで変わらない、そのせいもあっていつも通りに真っすぐに歩けない。
手を前に出して何かに捕まりながら進み、机の上に置かれている瓶を見て痛み止めの薬を探す、手にとってはラベルの色を見て確認する、何とか痛み止めの薬を見つけ開けると同時に躊躇うことなく呑み込む、水薬なので、物凄く苦いはず…苦みを覚悟して飲んだはずなのに、苦みが無い?痛みが強すぎて味がわからない?

不思議な感覚に疑問を感じるが、立っているのも辛いので、薬を飲み干した後は、近くにある椅子に全体重を預ける様に座ってしまい、ギギィっと木製の椅子が重みと衝撃によってしなる音が部屋中に響く様に聞こえた。

軋む椅子に助けられゆっくりと何も考えないでじっとする。
…徐々に薬が効いてくるのだと、思う、けれど、じっとしているのも辛い…
この痛みから解放されたい一心で何か気を紛らわせる物が無いか手を伸ばすと手に何か触れる、そのまま痛みから解放されることを祈りながら触れたものを掴み、胸元へ引き寄せる…

掴んだものは…本だった。表紙を見ると本の内容が何かわかる。
これは、日記?日記よね?表紙に書かれているし名前の部分は、汚れていて全ては読めない…誰の日記か知らないけれど、ごめんなさいね、どうしてかわからないけれど、これを手に取った瞬間に読まないといけない気がするの…


手に取った日記を読んでいくと徐々に徐々に痛みが落ち着いてくる、丁度、薬が効いてきたのだろう…


どうしてかわからないが、痛みが引いてからもページを捲る手が止められない、流し読みのはずなのに、何故か内容を知っているのかスラスラと読めてしまう、どうしてかわからないのに、私はこれを知っている?もしくは、似たような感じの本を何処かで読んだことがある?…記憶を探っていると何か思い当たる物が出てくる。

嗚呼、そうじゃない、この日記っていうか、日誌に近い感覚、姫様の…

何処かで読んだことのある日誌を閉じると、ふと後方から視線を感じたのでゆっくりと後ろを振り返る、だけれど、何もない、ドアも空いていない、だけど、嫌な視線ではなかった。
ここ数日、何処かしらから見られている様な感覚が、時折ある、自意識過剰ではないかと一瞬思ってしまったけれど、やっぱり視線を感じる、だけど、今回感じた視線は、つい最近感じた時の視線に比べると心なしか、害は無さそうな気がした。

痛みが無いうちに寝たほうがいい?そうね、そうさせてもらおうかしら…
何かに優しく肩を叩かれたような気がした、悪意も無く敵意も無い何処か慈愛を感じ取れるような柔らかい雰囲気に包まれながら、ベッドで横になり眠りにつく。


外から聞こえてくる大勢の人達の声、喧しくも感じるけれど、何処か心が落ち着く様な音によって目を覚まし、何も考えずにいつものように着替えて外に出る。

「追加の、食材貰ってきましたよー」「はーい、そこに置いといてー」「あいあーい、次は何を~…あ!先生、準備は出来てますよー!今日もお願いしますー!」
教会の外は思っていた以上に大騒ぎになっていた。
炊き出しの支度に追われるシスター達にここ数日、お顔を拝見したことが無いおばちゃん達が凄いスピードで食材を刻んで鍋に放り込んでいっている。
用意された寸胴鍋の数を数えると10個…大量にあるけれど、こんなに必要なのかしら?

視線を広場のその先に向けると、既に多くの人が集まってきていて、今か今かと待ち遠しく遠目に見ながらもこちらの準備が終わるのを待ち続けている人達がいる、それも、少しずつ待機している人達が増えてきている。

炊き出しの日って凄い人が集まるのね。私の記憶の中でもこれ程、人が集まっていた記憶はない。

呆気に取られていると先ほどのシスターがトントンと肩を叩いて指を指す、どうやら、手伝って欲しいみたいね、申し訳ないけれど炊き出しは足を引っ張ることになるでしょうから違う仕事を…指さされる先にあるものを見て納得する。
嗚呼、成程ね、いいでしょう!私の戦場はそこね!生憎、私のような側室候補なんてね、料理を会得しようなんて誰も考えないから、料理に関しては、何もできないのよね!
だから、手伝えることはないなって思っていたところよ。こっちだったら任せなさい本職としてしっかりと頑張らせていただくわよ。

視線の先には昨日と同じように無料診療所が完成している、違う点があるとすれば昨日は用意されていないもの、恐らくだけれど医療道具でしょうね、私の力を十二分に発揮できるように用意してくれたのでしょうね。
用意された箱の中身を空けてみると、医療道具の他にも、大きな瓶が豊富に入っている。
張られているラベルを確認すると何かしらの水薬ね、ラベルに書かれているおおよその成分を見てみると、成程ね、有り触れた栄養剤ね。

後は、薬の原材料があるけれど…ふむ、昔ながらの製法で処方しろってことね、調合するための各種道具に、定番のすり潰す為の道具もある、うん、問題は無いわね。

準備が出来次第、営業…っというよりもボランティアね、出来る限りの応急処置しか出来なさそうだけれども、何かの為に繋がるのであればっよ!
診察の準備が出来次第、既に待っている患者に声を掛ける。



診察に訪れた人たちの症状を聞いて、手持ちにある原材料から作れる薬があれば、調合の仕方を手が空いているシスター達に頼み、調合するための下準備だけしてもらう、すり潰したり、葉と茎を分けたり、皮をむいたりするだけだったら誰でも出来る。

それにね、幸いにも、私の手の中には、姫様から持たされた回復術式の陣が描かれた紙があるから、ある程度の外傷であれば直ぐにでも治せれる、この術式が特筆して凄い部分がある、驚いたことに過去の古傷もある程度であれば、癒すことが出来るのよね。
火傷や、外傷の後遺症として動きが鈍くなってしまった指が、術式によって動かせれるようになったり、片方の耳が聞こえにくくなっているのも多少改善されたり、眼球が事故によって傷つき視力が大きく低下したという薬ではどうしようもない症状がこの術式によって、ある程度、改善されたりする。
使えば使う程本当に、この術式は素晴らしい、魔力の消費が激しそうな気がするけれど、不思議とまだまだいけそうな気がするって言いたいけれど…魔力回復促進剤を用意していないから、程々にしないとね。

倒れたらまた、あの子に心配かけちゃうもの。小さな耳鳴りがする…

お昼を過ぎた辺り、炊き出しが開始されてから暫くすると、末席の王子と司祭様が共に数多くの困窮者を連れてきた。
予め手伝いを募っていたのか、数多くの人達と共に広場の一部分を占拠して、連れてきた困窮者の体を綺麗に洗浄したり、食事を提供したり、色々と率先して救いの手を差し出している。

教会と王子が手を取り合って、何度も救いの手を払われ、今にも明日を諦め目を閉じようとした絶望という渦から助けていくその姿勢こそ、私が幼き日に望んだ姿、こういう日々が続けばいいのに…

っさ、よそ見をしていないで私は私で頑張りましょう。この記憶、凄いですね、貴女も頑張ってきたのですね…



今日は、起きてからずっと大忙し、怪我の手当てや薬の調合などに追われてばかりだった、でもね、外勤務の時よりもある意味ハードだったかもしれない。
でもね不思議と疲れて疲れて意気消沈って感じにはならない、充実した疲労感に包まれながら、優しい夜を迎える。

月が教会を照らす頃には、多くの人達が広場に集まり、気が付けば宴会騒ぎになっている。

集まってきた人達は私達の働きに賛同してくれた人たちで、貧困エリアの人達を保護するという名目で彼らに必要なものを寄付してもらっただけじゃなく、夜の炊き出しの手伝い迄しくれました。
これには、栄養不足の人達からすれば、心も体も温まるでしょう。
助けに来てくれた方達も、命が救われ感謝を捧げる人達を診て心なしか誇らしげな表情をなさっております。
良き事ですね。教会という場所としてこれ程までに尊き時間を過ごせるのは教会に携わる人としてではなく、一人の人間として正しきことを行ったのだと、誇っても良いでしょう。

炊き出しの中で司祭も、王子も、共に食事をしている、警護している騎士も一緒に食事をとっている。立場のある人達が親身になって傍に寄り添えれる、なんて尊き光景なのでしょうか、善なる行いに触れれる機会をいただけたことを感謝しましょう。

ふと、辺りをゆっくりと見回す、皆がみんな、優しくて柔らかい笑みを浮かべている。

覚えがあるわね、この感じって、ちょっとしたお祭りみたいな感じね…こういった日々を望んでいる人がきっと数多くいるのでしょうね、世界中がこんなにも笑顔で溢れれるような世界だったらいいのに、そうしたら騎士様もきっと微笑んでくれるわよね?
集まってきた人達は全員笑顔で誰も悲しんでいる様子はない。

何故か心の奥が穏やかな感情に包まれているような気がするわね。

遠巻きに今の状況を見ながら、自分自身に起きている変化に意識を向ける、耳鳴りがしたり、頭痛がしたり、不思議な感覚が湧いてくるような、包まれるような、気にし過ぎるのは良くないのはわかっている、心配性な部分が良くないのもわかっている、だから、これ以上は気にしないでおきましょう。いい?これ以上はきにしないキニシナイ…

嗚呼、気になると言えば忘れていたわね、そうよ、そういえば、手紙、手紙を書かないと今の状況とか伝えないといけないわね。

独り、宴会の会場から席を外して、自室に帰り、机の前に陣取り、愛用のペンを取り出し引き出しの中にはいつも使っている手紙用の紙がある、さぁ、久しぶりに文字を書くわ、さぁ、送りましょう…文を…送りましょう…無心で文を認める…


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