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Dead End 6■■の黙示(5)
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少し体を休めていると、教会の周りから色んな音が聞こえてくる、どうやら、広場を清掃するために何時もの人が集まってきたのでしょうね。
では、私も作業を再開するとしましょう、骨を摘出するために火葬するのだが、お別れの儀式などはするべきでしょうか?
少し考えると直ぐに答えが出てくる
ふむ、彼の者たちに対して生死の安否を気にされるような方がいらっしゃるとは思えませんね、何かに配慮など気にせずに、ささっと骨を摘出するために火葬しましょうか。
血を抜いた供物を火葬場に運び、一人一人、火葬していく。
普段から、神の火によって浄化している場所なので、ここで煙が登ろうが誰も気に留める事はないですからね、麻袋にいれられた供物を次々と放り込んでいく。
一度に全てを同時には出来ませんからね、当然、火葬場と言えど限界があります。
供物が燃え終わるまでの間にお集まりいただいた方達にお礼の言葉を述べに向かうとしましょうか。
集団の方に向かうと器がその一団に溶け込むように会話に花を咲かせているではありませんか、初めて会う人でも物怖じせずに会話するなんて社交性が高いのですね、良き事です。イラツゲ様に至るまでの間に粗相をされるような方では無さそうですし、その点は非常に安心できますね。
では、私も司祭として声をかけねばいけませんからね物怖じすることなく何時も通り、その輪の中にお邪魔させていただくと致しましょう。
輪の中に入り、何時もの様に皆様の会話に笑顔で頷くだけの作業を続けていると、談笑が終わりを告げるように解散すると、そういえば、器が教会に何か用事があるのだと思い出したので器の肩を叩き誘導する。
器としても話の内容を誰かに聞かれるのは宜しくないでしょうし、教会で滅多に人が訪れなくて、外に声が漏れない構造となれば、懺悔室以外にないでしょう、ではでは、懺悔室に向かって行くとしましょうか。
懺悔室に案内してから、ゆっくりと器から話を聞く、内容としては、どうしてここに訪れたのか理由を知る。
内容を知ると驚きとしかいいようがありませんえ、今の王都の状況で、その程度の捨ておいても良い理由なんかで、今の混沌とした王都に訪れるなんて…
もしかして、王都の外では今の状況などの情報が入ってこないのでしょうか?…いいえ、違いますね。情報を封じることなどできは無いでしょう、各町に行商人は常に動き続けているではありませんか。商人の口に戸を付けることは金を積んでも不可能ですからね。
であれば、これこそ!!神の意志!!神が用意された台本通りに事が進んでいる!!そう、これこそ神の意志ではありませんか!
器もどうして、足を運んだのか曖昧な意志の下、この場所に来られた、これを完全に神の台本以外になんという!?否!これこそ神の台本、御心が望むままに!!
そうであれば、器とピーカを引き合わせるのが神の台本なのでしょうね!!神よ、舞台上の道化はしっかりと働かせていただきますとも!!
さて、そうとも決まれば、器がここから離れにくくなるように誘導するのがよいでしょうね、となると、器は何も知らなさそうなので、ピーカと教会がどのような関係なのか、簡単な経緯でもお話してあげましょう。
それにね、不信感を抱きながらもこの場に留まるという事はですよ、自身の中で何かしら納得が出来ないような心境なのであれば、納得が出来るような話をして過去に感じた違和感を有耶無耶にするのが正解でしょう、神の台本とはいえ、舞台は常にアドリブ、何処でご破算となるか計り知れないですからね、当然、舞台の誰かがその意に背くという可能性は残念ながら常に付きまとう物です、舞台を誘導する道化としては不安材料を減らすに越したことはないですからね。
器と会話をしていると知ったのですが、器は医療の心得があるみたいですね、イラツゲ様の器として治癒の能力を開花する為に身に着けたのでしょう。
だからでしょうか、医療の心得がある影響によって、昨日の助かりようのない供物の事を心配されていらっしゃるようですね。
何処に向かったのか確証を得ていない、純粋にその後の行方を、安否を心配なさっているのですね、素晴らしい、素晴らしき御心!イラツゲ様の器なだけがある!覚醒に至らずともイラツゲ様の御心に影響されていらっしゃるのですね!なんと、なんと慈愛に満ちた心なのでしょうか!!
この様な状況では人というのは自分にとって都合の良い、もとい、心が安寧へと向かう事象を求めるものですからね、それっぽく道筋をたてて器が納得する内容で伝えてあげましょう、悩める者には救いの手を…見たくもないモノには見えなくする為に煙に巻くのが、心を平穏に保つには最善だと思いませんか?
その後も色々と話をしピーカが教会に到着するまでの間、宜しければシスターとして教会の手伝いをしてくれないか頼んでみると、意外にも快く承諾してくれた。
この様に何かしらの役割を与えると人というのは流されやすくなるものです、ふらりと地元に帰られてしまうのは避けたいことですからね。
此方側を手伝うことに対して、多少の迷いや、躊躇いを感じていたような気がしたのですが、ふむ、彼女の中にあるイラツゲ様のご意思と言った感じでしょうか?
懺悔室での会話も終わり、彼女を懺悔室から送り出す、私は私ですべきことがあるので大願の為に本日も歩みを止めずに動き続けましょう。
教会から外に出て、外での所用が終わり教会に帰ってくると、休憩室に向かって器が運ばれていくのが見えたのですが、何かあったのでしょうか?
近くにいたシスターに声を掛けると、体調が優れないので、横になってもらった、っか、成程ね、これはもしや、魔術書に書かれている事象ではなかろうか?
…覚醒に至る前段階における、意識の喪失だろうか?
であれば、事は順調に進んでいるという事ですね、喜ばしい事ではないですか、待ち望んでいる結果が近づいてくるという喜びが体に溢れ出ないように笑みを露にせず、表情をしっかりと作り込む、表情は勿論、心配しているという顔にする。
器を介抱してくれたシスター達に感謝の言葉を述べ、看病は私が承りますので各々は職務を全うしてくださいと労いの言葉を添えるように一人一人、声を掛けていく。
休憩室からシスター達が居なくなってからドアを閉め、熱を帯び始めている物質を取り出すと目が開かれ器を見つめている…それだけなのに自然と笑みが零れそうになるのを一瞬で気を引き締める。
熱を帯びたエンブレム、中央の目がどの角度に変えても器を見つめている、それを両の手で包み込むように握ると更に熱を強く帯びていく…
辛そうな表情で眠り続ける器の体が小さく跳ねる、夢の中で何かが起きているのでしょう、事は順調、台本のページは確実に捲られていく、次はどのような内容なのか楽しみで楽しみで私の心は常に悦に染まりそうで気を付けないといけませんね。
祈りを捧げ続け、幾ばくかの時間が流れると、台本のページが捲れるような音が聞こえるので直ぐに、エンブレムをしまい、お湯を沸かす。
ドアをノックする音が聞こえるのでどうぞと声を掛けるとピーカ御一行がズカズカと我が物顔で入ってくる、教会としてはお前を保護しなければいけないのはわかりますが、ここは貴方の家ではありませんよ?多少は遠慮というか、配慮を覚えてもらいたいものですね愚劣なる弟よ。
入って来るなり器の前に膝をついて顔を覗き込む、その覗き込む表情から一瞬で理解する…
貴方も特別を見つけたのですね、それもイラツゲ様の器とはね、悲しい運命ですね、貴方の中に流れる聖女様を守る一族の血がそうさせるのですかね?
失われし宿業という繋がれし大きな流れに己も流されているのか、それとも、新しき運命に出会えたのか、当事者ではない私にとっては計り知れない何かがあったのでしょうね、さほど興味はありませんがね。なぜなら…
その器は俺のだからな
おっと、失礼、イラツゲ様の器ですからね、貴方如きが触れて良い存在ではないのです。
愚劣なる弟は、暫くの間、器を心配そうに見ているが、ただ寝ているだけだというのがわかったみたいで、立ち上がり私が座っている椅子の前に座り、今後の話をしましょうと主導権を握ろうとしてくるが、初手から…貴方というい人は偉くなったものですね、偽りの王子よ。
愚劣なる弟であるピーカの口からは浅はかで浅慮な下らぬ考えばかりが零れ落ちてくる。
取り合えず頷いてやるが、この、この愚行で愚劣な存在はどうして、そこまで王の座を目指そうとする?命を狙われたから?
だとすれば、今後も己の保身のためだけに、媚び諂って新しき王の庇護の下、生きれば良いのではないのですか?
命を狙った相手に媚び諂うなど腐り果てた始祖という存在を崇める連中は皆していますよね?下らぬプライドなど捨ててしまえばよろしいのに…
教会側もまさか、ここまでピーカが王族に対して楔に似もならず毒にもならず、まったくもって機能しないとは誰も思わなかったでしょうね、こいつをねじ込んだことに何の意味があったのでしょうね?当時の教皇は何を願い生後間もない彼に背負わせたのやら?理解できませんね…
…まさか、彼が火種になることがわかっていたからねじ込んだとか?実は、教皇様がどの様に動くのか、それすらも神の台本の一部なのでは?争ってくれた方が贄が多く手に入る。
最近身近に感じる神の意志、私が知らぬ前々から既に決まっていたのでは?だとしたら私としては問題はありませんね…
この流れも神の台本であるならば、私の考えは間違っていなかったという事になる。
ふふ、自然と笑みが零れそうになるのを抑える、全てが満たされ大願が成就する迄、気を引き締めて緩ませるわけにはいきませんからね。綻びはどこにあるのかわからないですからね。
神の御業を感じながら、これから先の流れを読み解くために二人で話し合いをしていると、器から一瞬だけ声が漏れてくる、その声を聞いた瞬間に心臓が大きく跳ねる
器の声はとても似ている、思い出すきっかけとなったことは確かだ、だけど、私は本物を忘れてしまっていた…先ほどの漏れた声こそ記憶の片隅へと追いやられてしまったイラツゲ様の声にそのものだったからだ、目覚めつつある、覚醒しつつある、私が生涯、求めてやまない聖女様の魂が蘇ろうとしている。
ピーカも声に驚き慌てて駆け寄り声を掛ける、寝ている器から苦悶の表情がうかがえる辺り、器はまだ夢の中にいるのでしょう、彼女の心の中で何かが行われているのは間違いなさそうですね、私では計り知れない神の御業によって…
苦悶の表情を浮かべていた器が目を覚まし、此方の状況を知りたそうにしていたので参加する流れとなった。
器が目覚めてからも私達の討論が収まることが無く、収拾がつかなくなり長引く、まさか、朝まで討論が行われるとは想定していませんでしたよ、相変わらず聞き分けの悪い愚劣なる弟という事ですか…
ですが得るものは有りましたよ、流石はイラツゲ様の器に選ばれしものといったところでしょうか。
頭の回転も速く度胸もある、愛嬌があるのは当然として、イラツゲ様が年を重ねたような雰囲気、今も生きていれば同じくらいのご年齢だろうか?傍で眺めているだけで涙が溢れ出てきそうになるのを堪えるのも大変ですね。
さて、討論も朝まで続いたけれども、多少の進展はありましたから、良しとしましょう。私としては大願成就こそが全てであり、その他の出来事など些事ではありますが、イラツゲ様が生きにくい世界というのは望んではいませんからね、策の一つとして多少は王族に恩を売っておくのは大事という物です。
なので、ピーカという存在が高値で売れるほどになってくれると…良きことなのですがね。
朝日が差し込む中、各々がするべき仕事が決まりましたので、少しだけ仮眠をとることになった。
器には少しでもイラツゲ様の心に触れてもらい速くの覚醒を促せれることを願ってイラツゲ様の部屋で過ごしてもらうことにしましょう。大切に大切に保管し続けてきたイラツゲ様のお部屋、誰であろうと立ち入ることを許さなかった特別な部屋。
今では、イラツゲ様の残り香すら残されていない主のいない部屋に、やっと生きた血が、魂が通うのだと想像してしまうだけで、たったの、それだけではててしまいそうです…ふふ。
さてさて、私も少しだけでも横になって体を休めるとしましょうか、これから先に待ち構えているであろうハードワークに備えないといけませんね。
疲れを感じないとはいえ、いざという時に鈍ることなく動けなくなるのは宜しくないのでね…
いざ自室の部屋に戻ってベッドで横になるが、色々と興奮してしまっているのか直ぐに眠れなかった、ふふ、私もまだまだ若いですね。
滾る感情を抑えることはしない、もっともっとその生きた感情を全身で受けとめたい、感じていたい。
湧き上がる感情が全身に満たされるように感じながら、目を瞑ると、全身を駆け巡るように感じる衝動、それに包まれながらそれに抗うことなく身を任せる。
今まで動き出すことが無かった私の時計が動き出そうとしているのが心地よくて心地よくて、愛おしく感じてしまう…
では、私も作業を再開するとしましょう、骨を摘出するために火葬するのだが、お別れの儀式などはするべきでしょうか?
少し考えると直ぐに答えが出てくる
ふむ、彼の者たちに対して生死の安否を気にされるような方がいらっしゃるとは思えませんね、何かに配慮など気にせずに、ささっと骨を摘出するために火葬しましょうか。
血を抜いた供物を火葬場に運び、一人一人、火葬していく。
普段から、神の火によって浄化している場所なので、ここで煙が登ろうが誰も気に留める事はないですからね、麻袋にいれられた供物を次々と放り込んでいく。
一度に全てを同時には出来ませんからね、当然、火葬場と言えど限界があります。
供物が燃え終わるまでの間にお集まりいただいた方達にお礼の言葉を述べに向かうとしましょうか。
集団の方に向かうと器がその一団に溶け込むように会話に花を咲かせているではありませんか、初めて会う人でも物怖じせずに会話するなんて社交性が高いのですね、良き事です。イラツゲ様に至るまでの間に粗相をされるような方では無さそうですし、その点は非常に安心できますね。
では、私も司祭として声をかけねばいけませんからね物怖じすることなく何時も通り、その輪の中にお邪魔させていただくと致しましょう。
輪の中に入り、何時もの様に皆様の会話に笑顔で頷くだけの作業を続けていると、談笑が終わりを告げるように解散すると、そういえば、器が教会に何か用事があるのだと思い出したので器の肩を叩き誘導する。
器としても話の内容を誰かに聞かれるのは宜しくないでしょうし、教会で滅多に人が訪れなくて、外に声が漏れない構造となれば、懺悔室以外にないでしょう、ではでは、懺悔室に向かって行くとしましょうか。
懺悔室に案内してから、ゆっくりと器から話を聞く、内容としては、どうしてここに訪れたのか理由を知る。
内容を知ると驚きとしかいいようがありませんえ、今の王都の状況で、その程度の捨ておいても良い理由なんかで、今の混沌とした王都に訪れるなんて…
もしかして、王都の外では今の状況などの情報が入ってこないのでしょうか?…いいえ、違いますね。情報を封じることなどできは無いでしょう、各町に行商人は常に動き続けているではありませんか。商人の口に戸を付けることは金を積んでも不可能ですからね。
であれば、これこそ!!神の意志!!神が用意された台本通りに事が進んでいる!!そう、これこそ神の意志ではありませんか!
器もどうして、足を運んだのか曖昧な意志の下、この場所に来られた、これを完全に神の台本以外になんという!?否!これこそ神の台本、御心が望むままに!!
そうであれば、器とピーカを引き合わせるのが神の台本なのでしょうね!!神よ、舞台上の道化はしっかりと働かせていただきますとも!!
さて、そうとも決まれば、器がここから離れにくくなるように誘導するのがよいでしょうね、となると、器は何も知らなさそうなので、ピーカと教会がどのような関係なのか、簡単な経緯でもお話してあげましょう。
それにね、不信感を抱きながらもこの場に留まるという事はですよ、自身の中で何かしら納得が出来ないような心境なのであれば、納得が出来るような話をして過去に感じた違和感を有耶無耶にするのが正解でしょう、神の台本とはいえ、舞台は常にアドリブ、何処でご破算となるか計り知れないですからね、当然、舞台の誰かがその意に背くという可能性は残念ながら常に付きまとう物です、舞台を誘導する道化としては不安材料を減らすに越したことはないですからね。
器と会話をしていると知ったのですが、器は医療の心得があるみたいですね、イラツゲ様の器として治癒の能力を開花する為に身に着けたのでしょう。
だからでしょうか、医療の心得がある影響によって、昨日の助かりようのない供物の事を心配されていらっしゃるようですね。
何処に向かったのか確証を得ていない、純粋にその後の行方を、安否を心配なさっているのですね、素晴らしい、素晴らしき御心!イラツゲ様の器なだけがある!覚醒に至らずともイラツゲ様の御心に影響されていらっしゃるのですね!なんと、なんと慈愛に満ちた心なのでしょうか!!
この様な状況では人というのは自分にとって都合の良い、もとい、心が安寧へと向かう事象を求めるものですからね、それっぽく道筋をたてて器が納得する内容で伝えてあげましょう、悩める者には救いの手を…見たくもないモノには見えなくする為に煙に巻くのが、心を平穏に保つには最善だと思いませんか?
その後も色々と話をしピーカが教会に到着するまでの間、宜しければシスターとして教会の手伝いをしてくれないか頼んでみると、意外にも快く承諾してくれた。
この様に何かしらの役割を与えると人というのは流されやすくなるものです、ふらりと地元に帰られてしまうのは避けたいことですからね。
此方側を手伝うことに対して、多少の迷いや、躊躇いを感じていたような気がしたのですが、ふむ、彼女の中にあるイラツゲ様のご意思と言った感じでしょうか?
懺悔室での会話も終わり、彼女を懺悔室から送り出す、私は私ですべきことがあるので大願の為に本日も歩みを止めずに動き続けましょう。
教会から外に出て、外での所用が終わり教会に帰ってくると、休憩室に向かって器が運ばれていくのが見えたのですが、何かあったのでしょうか?
近くにいたシスターに声を掛けると、体調が優れないので、横になってもらった、っか、成程ね、これはもしや、魔術書に書かれている事象ではなかろうか?
…覚醒に至る前段階における、意識の喪失だろうか?
であれば、事は順調に進んでいるという事ですね、喜ばしい事ではないですか、待ち望んでいる結果が近づいてくるという喜びが体に溢れ出ないように笑みを露にせず、表情をしっかりと作り込む、表情は勿論、心配しているという顔にする。
器を介抱してくれたシスター達に感謝の言葉を述べ、看病は私が承りますので各々は職務を全うしてくださいと労いの言葉を添えるように一人一人、声を掛けていく。
休憩室からシスター達が居なくなってからドアを閉め、熱を帯び始めている物質を取り出すと目が開かれ器を見つめている…それだけなのに自然と笑みが零れそうになるのを一瞬で気を引き締める。
熱を帯びたエンブレム、中央の目がどの角度に変えても器を見つめている、それを両の手で包み込むように握ると更に熱を強く帯びていく…
辛そうな表情で眠り続ける器の体が小さく跳ねる、夢の中で何かが起きているのでしょう、事は順調、台本のページは確実に捲られていく、次はどのような内容なのか楽しみで楽しみで私の心は常に悦に染まりそうで気を付けないといけませんね。
祈りを捧げ続け、幾ばくかの時間が流れると、台本のページが捲れるような音が聞こえるので直ぐに、エンブレムをしまい、お湯を沸かす。
ドアをノックする音が聞こえるのでどうぞと声を掛けるとピーカ御一行がズカズカと我が物顔で入ってくる、教会としてはお前を保護しなければいけないのはわかりますが、ここは貴方の家ではありませんよ?多少は遠慮というか、配慮を覚えてもらいたいものですね愚劣なる弟よ。
入って来るなり器の前に膝をついて顔を覗き込む、その覗き込む表情から一瞬で理解する…
貴方も特別を見つけたのですね、それもイラツゲ様の器とはね、悲しい運命ですね、貴方の中に流れる聖女様を守る一族の血がそうさせるのですかね?
失われし宿業という繋がれし大きな流れに己も流されているのか、それとも、新しき運命に出会えたのか、当事者ではない私にとっては計り知れない何かがあったのでしょうね、さほど興味はありませんがね。なぜなら…
その器は俺のだからな
おっと、失礼、イラツゲ様の器ですからね、貴方如きが触れて良い存在ではないのです。
愚劣なる弟は、暫くの間、器を心配そうに見ているが、ただ寝ているだけだというのがわかったみたいで、立ち上がり私が座っている椅子の前に座り、今後の話をしましょうと主導権を握ろうとしてくるが、初手から…貴方というい人は偉くなったものですね、偽りの王子よ。
愚劣なる弟であるピーカの口からは浅はかで浅慮な下らぬ考えばかりが零れ落ちてくる。
取り合えず頷いてやるが、この、この愚行で愚劣な存在はどうして、そこまで王の座を目指そうとする?命を狙われたから?
だとすれば、今後も己の保身のためだけに、媚び諂って新しき王の庇護の下、生きれば良いのではないのですか?
命を狙った相手に媚び諂うなど腐り果てた始祖という存在を崇める連中は皆していますよね?下らぬプライドなど捨ててしまえばよろしいのに…
教会側もまさか、ここまでピーカが王族に対して楔に似もならず毒にもならず、まったくもって機能しないとは誰も思わなかったでしょうね、こいつをねじ込んだことに何の意味があったのでしょうね?当時の教皇は何を願い生後間もない彼に背負わせたのやら?理解できませんね…
…まさか、彼が火種になることがわかっていたからねじ込んだとか?実は、教皇様がどの様に動くのか、それすらも神の台本の一部なのでは?争ってくれた方が贄が多く手に入る。
最近身近に感じる神の意志、私が知らぬ前々から既に決まっていたのでは?だとしたら私としては問題はありませんね…
この流れも神の台本であるならば、私の考えは間違っていなかったという事になる。
ふふ、自然と笑みが零れそうになるのを抑える、全てが満たされ大願が成就する迄、気を引き締めて緩ませるわけにはいきませんからね。綻びはどこにあるのかわからないですからね。
神の御業を感じながら、これから先の流れを読み解くために二人で話し合いをしていると、器から一瞬だけ声が漏れてくる、その声を聞いた瞬間に心臓が大きく跳ねる
器の声はとても似ている、思い出すきっかけとなったことは確かだ、だけど、私は本物を忘れてしまっていた…先ほどの漏れた声こそ記憶の片隅へと追いやられてしまったイラツゲ様の声にそのものだったからだ、目覚めつつある、覚醒しつつある、私が生涯、求めてやまない聖女様の魂が蘇ろうとしている。
ピーカも声に驚き慌てて駆け寄り声を掛ける、寝ている器から苦悶の表情がうかがえる辺り、器はまだ夢の中にいるのでしょう、彼女の心の中で何かが行われているのは間違いなさそうですね、私では計り知れない神の御業によって…
苦悶の表情を浮かべていた器が目を覚まし、此方の状況を知りたそうにしていたので参加する流れとなった。
器が目覚めてからも私達の討論が収まることが無く、収拾がつかなくなり長引く、まさか、朝まで討論が行われるとは想定していませんでしたよ、相変わらず聞き分けの悪い愚劣なる弟という事ですか…
ですが得るものは有りましたよ、流石はイラツゲ様の器に選ばれしものといったところでしょうか。
頭の回転も速く度胸もある、愛嬌があるのは当然として、イラツゲ様が年を重ねたような雰囲気、今も生きていれば同じくらいのご年齢だろうか?傍で眺めているだけで涙が溢れ出てきそうになるのを堪えるのも大変ですね。
さて、討論も朝まで続いたけれども、多少の進展はありましたから、良しとしましょう。私としては大願成就こそが全てであり、その他の出来事など些事ではありますが、イラツゲ様が生きにくい世界というのは望んではいませんからね、策の一つとして多少は王族に恩を売っておくのは大事という物です。
なので、ピーカという存在が高値で売れるほどになってくれると…良きことなのですがね。
朝日が差し込む中、各々がするべき仕事が決まりましたので、少しだけ仮眠をとることになった。
器には少しでもイラツゲ様の心に触れてもらい速くの覚醒を促せれることを願ってイラツゲ様の部屋で過ごしてもらうことにしましょう。大切に大切に保管し続けてきたイラツゲ様のお部屋、誰であろうと立ち入ることを許さなかった特別な部屋。
今では、イラツゲ様の残り香すら残されていない主のいない部屋に、やっと生きた血が、魂が通うのだと想像してしまうだけで、たったの、それだけではててしまいそうです…ふふ。
さてさて、私も少しだけでも横になって体を休めるとしましょうか、これから先に待ち構えているであろうハードワークに備えないといけませんね。
疲れを感じないとはいえ、いざという時に鈍ることなく動けなくなるのは宜しくないのでね…
いざ自室の部屋に戻ってベッドで横になるが、色々と興奮してしまっているのか直ぐに眠れなかった、ふふ、私もまだまだ若いですね。
滾る感情を抑えることはしない、もっともっとその生きた感情を全身で受けとめたい、感じていたい。
湧き上がる感情が全身に満たされるように感じながら、目を瞑ると、全身を駆け巡るように感じる衝動、それに包まれながらそれに抗うことなく身を任せる。
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