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Dead End 6Ⅵ6の■■(2)

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だが、それを許してはくれなかった、耳に、聞こえてしまったから

「…ぅ……ぁ…」
こえが きこえた アイスル いらつげさまの おこえだ

湧き上がる怒りが一瞬にして消える

惨劇を、見るのも辛い悲劇を…もう一度、視線を向けると、薄っすらとイラツゲ様の瞳が開かれている
ボロボロになった肌を隠す為に羽織っている上着をかけるために近くに歩み寄る
「・・・・・・・・」
微かに吐息が聞こえる、イラツゲ様は生きていらっしゃる、まだ、ご存命で在らせられる!!
このような、このような…ひどいめにあってもなお、いきていらっしゃる、生きようとしている!!

汚れた…穢された…お姿を、少しでも綺麗にしたいのだが、男が触れても良いのでしょうか?イラツゲ様を穢した男が触れても…
近くにいる女性と言えば侍女の方がいましたが…
「ぅぅ、ぐ、ぅ、ひどい、あんまりよ、どうして、どうして…かれが、彼がなにを、なにをしたっていうのよ、酷過ぎる!こ、ここは教会じゃないの!?どうして、かみは、彼を…」
胴体に空洞が出来てしまった騎士の残骸に寄り添って混乱している侍女の様子を見る限り、難しそうだな…ほおっておけば何れその場で精神を崩壊させるでしょう、捨ておきますか。

イラツゲ様のお声により一度は燃えあがるような豪華の如き怒りは一度は鳴りを潜めたが、イラツゲ様を抱き上げた瞬間に再度、制御不能の怒りが湧き上がってくる。
湧き上がる怒りが俺の中でグルグルと廻る巡る回る…行き場のない怒りで今すぐにでもこの世全てを呪ってしまいそうになる。
だけど、今は、呪詛を撒き散らし世界を呪いに包み込んでいる場合ではない…イラツゲ様がご存命で在れば、私は、それでいい、それでいいじゃないですか。
不幸な過去は…無くせばいい、消せばいい、薬でも何でも使って辛い記憶は無くしてしまえばいい。

いまは、いまこの瞬間は、この怒りに耐えながらも、イラツゲ様のお体を清めなくては…

お体に触れるという、男が、イラツゲ様を穢した男が触れては良いものなのかどうかなんて、もう、考えない…わたしは、おれは、俺の想ったように生きる…聖職者?下らん…

ボロボロの薄くて透ける様な安い布、たったの薄い布一枚だけ着せられて、私達を挑発するかのようにこれ見よがしに教会の裏手に捨てられたイラツゲ様と共に、教会の中へ入っていく…

後ろから大きな大きな、王都を包み込みそうな程の絶望の淵から湧き上がってきそうな程の絶命する声が聞こえてきた。
その声は己の怒りを晴らせることが叶わないと伝わってくる悲劇の声として俺には届いたぞ…


弟よ…我が同志よ、我が同胞よ…死んだのだな…

俺たちは繋がっているからお前の最後を感じ取れたぞ…


思い返してみても、皮肉としか思えれない…
俺たちは正道を歩むと決めていた、共に行動をしていたけれど、何処か、お互いの心は遠いのだと感じていたのに…邪道へと堕ちた瞬間に俺たちの心は繋がったのだと遠い遠い心がすぐ傍に迄、繋がっていると感じれるほど近くに感じたよ。


安心して我らが神の下へ逝くがよい月の裏側なんぞに行くなよ現世に留まり続けるがいい俺がお前の仇を…討ってやるまでな。



イラツゲ様をベッドに優しく丁寧にちょっとしたことで直ぐにでも壊れてしまいそうな大切なモノのように寝かせる。
直ぐにお湯を沸かして桶の中に貯めていく、手持ちの中で最も綺麗な布を探し、穢されたお体を祈りを込めて拭いていく…

意識のないイラツゲ様を綺麗にしていく…その美しく整った顔立ちに、世にいる男性であれば誰もが虜になってしまう劣情を催さないのが失礼だと感じてしまう程の素晴らしき姿態を拭いていくと俺の怒りは更に燃え上がってしまう。
この世のものとは思えない程の美しく綺麗で柔らかく吸い付く様な肌を触れたであろう人物を…俺の…俺は許しはしない、絶対に、絶対に…殺してやる一族郎党全て絶望の中で救いようのない愚者を殺しつくしてやる。

心の中に湧き上がる怒りという感情はその域を越え、怨念、怨讐という物へと変化していく…
地獄というモノがあるのであれば、俺の心こそ地獄だと感じる。

我が怒り、怨念は、この世全てを滅ぼしても治まることすらかなわず…
全てを破壊しても晴れることのない感情の渦を、愚かな人という小さな器に宿す、今すぐにでも地獄をこの世界に広げたくなるが、冷静な俺が語り掛けてくる、まだ準備が終わっていないと…その忠告に従いこの感情を器の中に飼い殺す決意をする。

怒りの炎が俺の全てを焼き尽くそうとしてくるが、全ての準備が終わったら世界も終わらせてやる、だから、その時が来るまで俺の体でも燃やし続けるがいい、いずれ、解放してやる…
どうしようもない、どうすることもできない、感情を人という器に宿しながらも、俺の体は丁寧に怒りに任せるような稚拙な動きをすることなくイラツゲ様を綺麗にしていく…だが、どうしても、どうしても、怒りが俺の心を焦がさせようと思い返してしまう、己の迂闊な行動を、愚かな日々を悔い改めさせるために…




イラツゲ様が目覚められたあの日から、俺たちの心はイラツゲ様という大いなる存在に包まれながら過去の虚ろなる日々を忘れるように、イラツゲ様と共に聖職者として、愚かなる弟は王族としての自覚に目覚めたかのように全てを改め、生きとし生けるもの全てが正しいと思え感じれる、白き月の光に包まれているかのような日々を歩んでいた。

傷ついた人を助け、飢えた人を助け、明日を諦めようとする人を助け、貴族だろうが、平民だろうが関係なく、迷える魂に救いの手を差し伸べ続けた。

私は私で普段よりも心に感情という熱が加わりながら貴族達に説法をしたり、教えを知りたい人達に聖書を開き、尊き教えをこの大地に住まう人々に読み聞かせる日々。
そう、聖職者としていつもと変わらない日々、変わらない日常のはず…なのに、人々が、大地が、空が、目に映る全てが煌めいて見える。


神に持てる全ての感謝を捧げねばなりませんね…これこそ、私が、あの日、止まってしまった私が望み続けた日々…この日々を取り戻せるとは、思っても居ませんでした。


さて、今日も外回りが終わったことですし、真っすぐ帰っても良いのですが、折角、王都ご自慢の紹介の近くに来ているのですからね…うんうん、そうですね、この様な輝く日々を与えたもうてくれた慈悲深き我らが聖女様、いいえ、女神様に何かを献上するために素晴らしき品を見繕ってから帰るとしましょうか。
我らが女神様ことイラツゲ様は、私が知る限りでは、焼き菓子がお好きですからね、紅茶と共にあのステキな甘い声で読み聞かせてくれたあの日々をささやかな望みでも託すように買って帰るとでもしましょうか。

そうですねそうですね、たまの業褒美を頂きたいものですね、ではでは、淡い期待を込めていじらしくお願いしてみる為にも、買いに行くとしましょう。

司祭の服を着たまま商店街を歩くなんて、普段であれば絶対にしないのですが、今日ばかりは自分を抑えきれないのですよ。本当にね、この姿は目立ってしまいますから、紹介が集まるこのエリアには近寄らないんですけどね。
なれば、一度教会に戻って有り触れた服に着替えるのが正しき判断かと思うのですが、今の私は先に待ち受ける褒美を楽しみにしてしまいまして、一度戻るという時間すら惜しいと感じてしまう。

幸いにも礼服のお陰か教会の信徒たちが声を掛けてくださり、最近話題の焼き菓子店を教えていただき、それだけではなく貴婦人に人気の商品、一見客にはお売りしない特別な商品まで都合してくれたのは僥倖と感じますね、まさに神の御意思!

足取りも軽く心が浮ついた状態で教会に帰ってきたのはよいの…ですが?おかしいですね、違和感が拭いきれない…小さな違和感、私程の信者で無いと気が付かない程の小さな違和感。
玄関前からすでに違和感を感じる、小さな違和感もここまで重なってくると強烈に感じますね。
普段であれば、この時間だと、教会にはシスター達がお仕事をしている時間ではありませねんか?どうしてかわかりませんが、教会の中も外も…気配がしませんね。
それだけじゃない、独りで外をうろつくことが殆どなくなったイラツゲ様の気配を教会の中から感じませんね?シスター達と共に何処かに赴かれたのでしょうか?
それとも、いや有り得ませんね、その考えは否定しますよ、流石にね、この私がイラツゲ様の気配を感じないという有り得ない可能性、イラツゲ様への信仰が薄いわけがない…何故なら、私程の信者で在れば、彼女の残り香でも空中に漂っていればすぐにでもそれを辿り彼女の存在を見つけることが出来ますとも、それなのに…

その残り香すら、感じ取れない?

…残り香が無いというのが物凄く不信感を感じますね、ここに居ない可能性とすれば、何かしら汗をかく様な作業をされたので、シスター達と共に御身を清めに行かれたという事もあり得るのですが、移動しただけで在れば、残り香は残るはずですよね?…

残り香が無い理由として普通に考えれば誰でも考えるのが故意に消すという部分、だけど、その部分を考えたくないその可能性を認めたくないためにその答えに辿り着かないようにしていたが現場の状況を感じれば、脳裏に過った可能性が高いのだと嫌でも突きつけられてしまう。

痕跡を消した?消された?…だれ、に?、どう、して?だれ、が?もく、てきは?きんぴんか?

全ての現場から伝わってくる状況から不穏な残滓を肌からも心からも感じた瞬間に…自身の心臓がバクンと大きな音を出す、その勢いはすさまじく千切れそうなくらい跳ね上がる…

その衝撃からどうしても脳裏に過ってしまう惨劇…

考えたくない、そうであってほしくないという願いと共に、脳裏に過った最悪の予感を振りほどくために教会の奥へと向かって駆けだす、教会の大きなドアは開かれたまま血痕がこびり付いた様子はない、祈りの間はいつも通りシスター達が殺害された様子はない、何時も通り精悍なただ住まいで誰も守ってこなかったのだと伝わってくる。
縺れそうになる足を何とか前に出して彼女がいる可能性が高い休憩室に入った瞬間に



私の心から正気という名の清浄なる思考は欠き消えた…



部屋の中に入った瞬間に私程の洞察力を持つ人物で在れば直ぐにでも気が付きましょうぞ…
何かが暴れた痕跡、それを消した後がある時点で、この凶荒を行った不埒者たちが衝動的に行ったものではなく組織的で統率された動きを持ち明確な意思がある計画的な犯行だと瞬時に理解する…
何故なら、ここ迄、用意周到に全ての痕跡を消せるというのは知能犯がするべき行動、それだけじゃない、更には特殊な訓練を経てであろう技能を持っているのが状況から判断ができる、普通の物取りがここまでするとは思えない、何故なら残り香すら用意周到に消すのだから…匂いで人を辿るなどという行為は普通では出来ない特殊な魔道具さえあれば可能ではあるが、その様な高価なものを持ちえているのは…王族かそれに連なる上流階級の貴族だけだろう。
物乞いや強盗であれば、まだ助ける道筋は有りましょう、ですが、ここまで用意周到に事を運べるという事は彼らが誰にも見つからないように入念に事を起こしているだろうし、万が一に備えて、彼らを追えないように通路すら封鎖などをして断っているでしょう。

神の庇護の下にある教会を襲撃するという事は、並大抵の貴族ではその考えに至らない、上流階級の貴族ですらその思考には至らない神をも恐れぬ凶荒…神をも恐れぬ我を通す人物、考えらえる答えなぞ一つ

エンコウ・センア・イレブン

気が付くと俺はその名を叫びながら地面を殴打していた

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