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覚悟を決めろ ①
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自分が今まで平穏で悪意に晒されてこなかったのは、世界が平和で暖かくて皆、心清らかで善性だったのだと思っていた…
自分の知らない所で、私は、色んな人に支えられ、見守られ続けてきたのが良く分かった…
人の気持ちや心がわからない、心の機微に疎いのは…私が人ではない可能性があるからっていうのも驚きだった…
けれど!
明かされる真実の中に納得が出来ないことがある!
「質問があります!よろしいでしょうか!?」
医療班が定期的に開催している勉強会で教授に対して質問するように背筋を伸ばし、挙手すると
「はい、質問を受けつけます、どうぞ」
教鞭をとる時と同じように振舞ってくれるっということは、此方の疑問に耳を傾けて応答してくれるってことだよね?たとえ、本筋から離れた質問でも!
「私、モテた記憶がない!好きになった人、皆、振り向いてくれませんでした!チャームの力なんて無い!これは嘘だと思います!」
無条件で人に好かれるのだったら、私が好いなって感じた人と結ばれて恋仲になってないとおかしくないと思いませんか?だから、そんな力なんて私には無い!
質問の内容が余りにも予想外だったのか、軽いため息をついた後
「…はい、その件に関しては姫ちゃんが起きてからその力を発見した人に確認しなさい、異論は認めません」
パンパンっと手を叩いて次の質問はありますか?っという、合図を出してくるので
「はい!わかりました!姫様に直接確認します!次の質問もよろしいですか?」
次の質問が答えたくない内容が来るのだろうと察しているのか少し嫌そうな顔をしている、だが!この場を伸ばすと今後、絶対に有耶無耶にして答えてくれそうにないので、空気なんて読まない!
「スピカのお父さんは、誰ですか?」
きっと、聞かれたくない、誰にも話すつもりは無いのであろう質問に対して極めて冷静な声で淡々と口に出すと
この質問が来るのを覚悟していたのか、表情一つ変えずにさも当然、日常の会話のように声を出す
「貴女のお父さんよ」
はぐらかすことなく、至極当然、日常会話のように答えてくれた、はぐらかされたときの為に追撃しようと質問するために上げようとした手はゆっくりと下がり、声を出そうとした口はゆっくりと閉ざされていく…
…薄々、そうじゃないのかって予感はしていた。
No2が歩んできた道のりを話してくれているのに、その部分を話さない様に避けようとしていた。
何かに気を遣おうとしているのが、薄々と感じ取れていたから、その何かっていうのが私だって言うのは、それくらいは、私だってわかるよ…
それにね、スピカを一目見た時から何か、何かわからないけれど、何か感じるものがあったから。血の繋がりっていうのが教えてくれたのかな?
うん、スピカのお父さんが、お父さんっていうのは、本当だとして、どうやって?お父さんはかなり昔に亡くなってるよね?どういう原理なの?過去に戻れるような魔道具があったりするのかな?そんな都合のいいモノがあるわけないよね、あったらこうなる前に使ってるはず。だったらどうやったんだろう?質問してもいいのかな?
「色々と質問したいけれど、いいのかな?聞いても、いいの?」
こういった内容って、凄くデリケートな内容だから確認を取ってから質問したかった。
その言葉の意図を察してくれたみたいで、表情を変えずにコクリと頷いてくれた…この質問が出てきたら全てを話そうと覚悟を決めていたのだろう
私は初めて、人が決して曲げないと決めていた部分を捻じ曲げてしまったような罪悪感を感じながら、気になることを質問していく
第一に、どうやって亡くなった人の精子を得たのか?
予想としては、培養する手段があるから、お父さんの遺体から、精巣を取り出して培養したとか?
自分なりに予想を組み立てていると、No2は、頬を少しピンクに染めながら唇を尖らして声を絞るようにゆっくりと口を開いていく。
「昔にね、貴女のお父さんから、その、相談されていたのよ…」
俯いたまま、表情は…少し恥ずかしそう?恥ずかしい相談?
小さな沈黙の後、少し声を震わせながら
「だ、第二子が、その、次の子供が出来ないことに対して、その、相談を受けていたのよ…貴女のお父さんから、ね、その、本当に色々と根掘り葉掘り聞いてるのよ」
当時の事を思い出したのか耳まで真っ赤に染めながら恥ずかしそうにしている、けれど、どんな内容だったのかは質問してはいけない気がする。
それにしても、想像していた内容と大きく違っていた内容なだけに私も少し、恥ずかしくなる…
No2の事だから、もっともっと、非人道的な行動をしていたのかと想像していたから…
っていうか、子供は授かりものって言うから、医療で解決できるものなの?あまり興味が無かっただけで、分野としてはあったのかも?
目の前にいる医療人として前を歩んでいる人を見詰めていると、小さな溜息をついた後
「…うん、同じ医療人として、言いたいことは伝わってくるわよ。子供なんて回数をこなしていけば自然と授かるっていうのはね、わかっているわよ」
何か後ろめたい事があるのか、すっと目線を下げて合わせようとしない
小さく唾を飲み込んだ後、一瞬だけ視線が交わったと思ったらすぐに視線を外し、秘め事を話し始める
「正直に言うわね、貴女のお父さん…愛する騎士様の…私が思案していた計画の為に、保険として…精子が欲しかったのよ」
意味の解らない内容が聞こえてきたんだけど?どういうこと?話の流れでどうしてそうなるのだろう?精子なんて手に入れてどうするの?計画?
「あの時は…ええそうね、今思い返しても都合がよすぎるほどに話の流れが良かった、神様が頑張り続ける私の願いを一つ叶えてくれたんじゃないかってくらい、凄く運が良かったと心の底から感じていたわね、もし、私が神に仕える人だったら、この流れを…神が齎した運命だと言われたら運命なのだと受け入れたと思うくらい会話の流れがありえないほどに都合が良かった…何度思い返してみても都合がよすぎる展開だって今でも思ってしまう程、自然な流れだったわね」
恥ずかしそうな表情ではなく、淡々と懺悔するような感じでもなく、事実を、前に話してくれた過去の話でも、濁していた部分を話してくれた
No2が人工的に出生を手助けするための人工授精という技術を研究していたこと。その研究は自分の願いを叶える為だった。
お父さんと結ばれることが出来なかったら、せめて、彼の子供だけでも良いので欲しかったという願い。
不妊治療という医療行為の一環として精子を検査するっかぁ…No2って、人工授精っていう研究もしていたんだね…知らなかった。
それで、医療と関係のない女将の旦那さんと交流していたのはそういうことだったんだ。
話の流れで、今まで滅多に来なかった健康診断もついでに受けてもらって、血液と精子をその都度、提出してもらい、魔道具で劣化しない様に保管していたって、そりゃぁ、うん…
世間一般の考えからすると、人として間違っていると石を投げられてもおかしくない気がする、けれど…
でも、そんな、何年も保存できるものなのかな?…現状を考えると出来ているって事になるんだよね?…凄い魔道具。
どんな魔道具なのか術式はどのように構築されているのかぼんやりと考えていると、No2が少し指を震わせながら続きを話してくれる
「私もね、正直に言えば、倫理観に悩まされたわよ…これでも一応、王都学院出身だから、そういった教養はあるのよ、教会の教えの一つとして命を尊重しないような行いをしてはいけないって教えだって、知っているわよ。王都に住んでいた者として常識よ、命の流れに逆らうようなことなんてしてはいけないってのはね。自然に授かるものを人の意志で思うがままに…そんな大それた考え抱いてはいけないって何度も葛藤したわよ」
葛藤したけれど実行したってこと?
つい、矛盾した結果に対してこの人は何を考えているのだろうかと、此方は睨むつもりは無くても、相手からすれば罪の意識がそう感じさせるのか、震える指を自分の胸元に持っていき抑え込むように握りしめながら罪の意識が織り交ざっているかのように声を出していく
「その視線の意味することはってことよね…私だってね、何度も何度も幾重にも葛藤したのに、それなのに倫理観とかを無視してでも実行したんだって言いたいのよね…」
罪の意識に悩まされ続け、忘れない様に背負い続けているのか、苦悶の表情をしている。
「私はね、正直に言えば、実行する気は無かったのよ…」
実行する気はなかった?じゃぁどうして?
うーん?今のところ私からすれば、何がいけないのか今一つ実感がわかないんだけどなぁ…
睨んでみてるわけでもない、純粋に話の内容が、その、何がいけないのかわからないからつい考えちゃって眉間に力が入っちゃってるだけ…
私だって、お爺ちゃんから色々と教わったし、幼い時に教会で色んなお話は聞いたけど、命を尊重して無暗に奪ってはいけないってことくらいしか、教えてもらってないけれど?
うーん、No2と私では教えが変わってるんじゃないの?何をそんなに葛藤することがあるのだろうか?
それを口に出してしまえばいいのだけれど、今は口を挟む状況じゃないので暗い表情のまま動かない人が懺悔の感情を噛み締め切ってから…動くのを待ち続ける
「実行する気はなかったのよ、まさか、姫ちゃんが用意しているなんて思ってもいなかったのよ…」
姫様が用意していた?…用意?精子はNo2が持っていたんじゃないの?何を、用意していたの?
「姫ちゃんはね、どうやって手に入れたのか知らないけれど、持っていたのよ私の卵子を…いいえ、違うわね、手に入れる機会は山ほどあった、お互い幾度となく浸透水式という技術を身に着ける為に何度も練習した、きっと、その時に…私の意識が無いとき、でしょうね」
話の流れで理解する、姫様なら同意とか関係なしに、世間一般で言うところの倫理観なんて気にしないだろうな。
「用意されていたのよ、貴女のお父さんと私の…後は、それを女性の肉体に宿すだけの状態で保存されていたのよ…あの子お手製の、世界に一つしかない特別な魔道具を用意していたのよ、魔道具の中に入れた物は時間の影響を受けない様に作られているの、概念としては、時間を凍結するという概念ね、技術形態は、悪魔信仰…いいえ、下法の技術から生み出した魔道具によってね」
悪魔信仰って、あの悪魔信仰?下法?うーん、知らない単語ばかりでよくわかんないけれど、そういう技術形態があるってことでいいのかな?
「ある日、連続とした悲しみの出来事によって、精神的に弱っていた時に、ね、姫ちゃんが言うのよ、最後の保険を使うって…その言葉の意味で直ぐに理解したわよ、始祖様再誕計画の要、救世主を人工的に生み出す為の鍵を使うのだと、その時にね、誰と誰を組み合わせるのか配合するためのリストがあるのか確認しようとしたらね、机の上に、見慣れない魔道具を取り出して、この中にね、種があるって言うのよ、後は、宿す肉体を選ぶだけって…種の中身を聞いてもいいのか悩んだけれども、この場で出すってことは…その時点で察したわよ。人工授精をしたのだと…禁断の魔道具を前にして言うのよ」
「あの時の姫ちゃんはね真剣な表情、だけど、瞳の奥には何処かもの悲し気な光を宿しているように感じ取れた」
『選んで、宿すか、宿さないか…候補は、お母さんと…女将…選んで』
「その場で答えを出さないといけない質問にしては、重すぎる選択肢、精神的に参っている私に容赦ないと思わない?」
ふっと、寂し気な笑みを浮かべているけれど、姫様の考えだったら、救世主となるべく人物を産めるので在れば誰でも良い筈なのに、敢えて、二人だけ候補にするっていうのが、きっと、No2に産んで欲しかったからだろうな。No2を戦線から遠ざける為の口実ってことじゃないかな?
「そんな二択を迫られたら選ぶしかないじゃない…道徳とか、倫理観とか、そんなものはどうでも良かったわよ!あいつに…同じ人を愛したライバルに、愛する人の子供を産み育てるなんて、女としての新しい幸せを、易々と手放すなんて、その権利を渡すなんて!ライバルとして、その選択肢を譲るなんて出来るわけないじゃないっ!!…」
普段冷静で、激情を露にすることが無いNo2が言葉を荒げるということは、絶対に曲げる事の出来ない譲れないことなのだと伝わってくる。
No2と女将って古い知人って感じなのかと思っていたけれど、過去の話を聞いているからこそ、納得しちゃった。
若い頃の女将は怪力無双、故に、育った村では、肩を並べる相手がいなかったんだろうな、そんな時に自分よりも心も体も全てにおいて勝る相手に出会ってしまったのだから、惚れないわけがなかったんだろうな。
女将とNo2は、恋のライバルだったってわけだったんだね。
自分の知らない所で、私は、色んな人に支えられ、見守られ続けてきたのが良く分かった…
人の気持ちや心がわからない、心の機微に疎いのは…私が人ではない可能性があるからっていうのも驚きだった…
けれど!
明かされる真実の中に納得が出来ないことがある!
「質問があります!よろしいでしょうか!?」
医療班が定期的に開催している勉強会で教授に対して質問するように背筋を伸ばし、挙手すると
「はい、質問を受けつけます、どうぞ」
教鞭をとる時と同じように振舞ってくれるっということは、此方の疑問に耳を傾けて応答してくれるってことだよね?たとえ、本筋から離れた質問でも!
「私、モテた記憶がない!好きになった人、皆、振り向いてくれませんでした!チャームの力なんて無い!これは嘘だと思います!」
無条件で人に好かれるのだったら、私が好いなって感じた人と結ばれて恋仲になってないとおかしくないと思いませんか?だから、そんな力なんて私には無い!
質問の内容が余りにも予想外だったのか、軽いため息をついた後
「…はい、その件に関しては姫ちゃんが起きてからその力を発見した人に確認しなさい、異論は認めません」
パンパンっと手を叩いて次の質問はありますか?っという、合図を出してくるので
「はい!わかりました!姫様に直接確認します!次の質問もよろしいですか?」
次の質問が答えたくない内容が来るのだろうと察しているのか少し嫌そうな顔をしている、だが!この場を伸ばすと今後、絶対に有耶無耶にして答えてくれそうにないので、空気なんて読まない!
「スピカのお父さんは、誰ですか?」
きっと、聞かれたくない、誰にも話すつもりは無いのであろう質問に対して極めて冷静な声で淡々と口に出すと
この質問が来るのを覚悟していたのか、表情一つ変えずにさも当然、日常の会話のように声を出す
「貴女のお父さんよ」
はぐらかすことなく、至極当然、日常会話のように答えてくれた、はぐらかされたときの為に追撃しようと質問するために上げようとした手はゆっくりと下がり、声を出そうとした口はゆっくりと閉ざされていく…
…薄々、そうじゃないのかって予感はしていた。
No2が歩んできた道のりを話してくれているのに、その部分を話さない様に避けようとしていた。
何かに気を遣おうとしているのが、薄々と感じ取れていたから、その何かっていうのが私だって言うのは、それくらいは、私だってわかるよ…
それにね、スピカを一目見た時から何か、何かわからないけれど、何か感じるものがあったから。血の繋がりっていうのが教えてくれたのかな?
うん、スピカのお父さんが、お父さんっていうのは、本当だとして、どうやって?お父さんはかなり昔に亡くなってるよね?どういう原理なの?過去に戻れるような魔道具があったりするのかな?そんな都合のいいモノがあるわけないよね、あったらこうなる前に使ってるはず。だったらどうやったんだろう?質問してもいいのかな?
「色々と質問したいけれど、いいのかな?聞いても、いいの?」
こういった内容って、凄くデリケートな内容だから確認を取ってから質問したかった。
その言葉の意図を察してくれたみたいで、表情を変えずにコクリと頷いてくれた…この質問が出てきたら全てを話そうと覚悟を決めていたのだろう
私は初めて、人が決して曲げないと決めていた部分を捻じ曲げてしまったような罪悪感を感じながら、気になることを質問していく
第一に、どうやって亡くなった人の精子を得たのか?
予想としては、培養する手段があるから、お父さんの遺体から、精巣を取り出して培養したとか?
自分なりに予想を組み立てていると、No2は、頬を少しピンクに染めながら唇を尖らして声を絞るようにゆっくりと口を開いていく。
「昔にね、貴女のお父さんから、その、相談されていたのよ…」
俯いたまま、表情は…少し恥ずかしそう?恥ずかしい相談?
小さな沈黙の後、少し声を震わせながら
「だ、第二子が、その、次の子供が出来ないことに対して、その、相談を受けていたのよ…貴女のお父さんから、ね、その、本当に色々と根掘り葉掘り聞いてるのよ」
当時の事を思い出したのか耳まで真っ赤に染めながら恥ずかしそうにしている、けれど、どんな内容だったのかは質問してはいけない気がする。
それにしても、想像していた内容と大きく違っていた内容なだけに私も少し、恥ずかしくなる…
No2の事だから、もっともっと、非人道的な行動をしていたのかと想像していたから…
っていうか、子供は授かりものって言うから、医療で解決できるものなの?あまり興味が無かっただけで、分野としてはあったのかも?
目の前にいる医療人として前を歩んでいる人を見詰めていると、小さな溜息をついた後
「…うん、同じ医療人として、言いたいことは伝わってくるわよ。子供なんて回数をこなしていけば自然と授かるっていうのはね、わかっているわよ」
何か後ろめたい事があるのか、すっと目線を下げて合わせようとしない
小さく唾を飲み込んだ後、一瞬だけ視線が交わったと思ったらすぐに視線を外し、秘め事を話し始める
「正直に言うわね、貴女のお父さん…愛する騎士様の…私が思案していた計画の為に、保険として…精子が欲しかったのよ」
意味の解らない内容が聞こえてきたんだけど?どういうこと?話の流れでどうしてそうなるのだろう?精子なんて手に入れてどうするの?計画?
「あの時は…ええそうね、今思い返しても都合がよすぎるほどに話の流れが良かった、神様が頑張り続ける私の願いを一つ叶えてくれたんじゃないかってくらい、凄く運が良かったと心の底から感じていたわね、もし、私が神に仕える人だったら、この流れを…神が齎した運命だと言われたら運命なのだと受け入れたと思うくらい会話の流れがありえないほどに都合が良かった…何度思い返してみても都合がよすぎる展開だって今でも思ってしまう程、自然な流れだったわね」
恥ずかしそうな表情ではなく、淡々と懺悔するような感じでもなく、事実を、前に話してくれた過去の話でも、濁していた部分を話してくれた
No2が人工的に出生を手助けするための人工授精という技術を研究していたこと。その研究は自分の願いを叶える為だった。
お父さんと結ばれることが出来なかったら、せめて、彼の子供だけでも良いので欲しかったという願い。
不妊治療という医療行為の一環として精子を検査するっかぁ…No2って、人工授精っていう研究もしていたんだね…知らなかった。
それで、医療と関係のない女将の旦那さんと交流していたのはそういうことだったんだ。
話の流れで、今まで滅多に来なかった健康診断もついでに受けてもらって、血液と精子をその都度、提出してもらい、魔道具で劣化しない様に保管していたって、そりゃぁ、うん…
世間一般の考えからすると、人として間違っていると石を投げられてもおかしくない気がする、けれど…
でも、そんな、何年も保存できるものなのかな?…現状を考えると出来ているって事になるんだよね?…凄い魔道具。
どんな魔道具なのか術式はどのように構築されているのかぼんやりと考えていると、No2が少し指を震わせながら続きを話してくれる
「私もね、正直に言えば、倫理観に悩まされたわよ…これでも一応、王都学院出身だから、そういった教養はあるのよ、教会の教えの一つとして命を尊重しないような行いをしてはいけないって教えだって、知っているわよ。王都に住んでいた者として常識よ、命の流れに逆らうようなことなんてしてはいけないってのはね。自然に授かるものを人の意志で思うがままに…そんな大それた考え抱いてはいけないって何度も葛藤したわよ」
葛藤したけれど実行したってこと?
つい、矛盾した結果に対してこの人は何を考えているのだろうかと、此方は睨むつもりは無くても、相手からすれば罪の意識がそう感じさせるのか、震える指を自分の胸元に持っていき抑え込むように握りしめながら罪の意識が織り交ざっているかのように声を出していく
「その視線の意味することはってことよね…私だってね、何度も何度も幾重にも葛藤したのに、それなのに倫理観とかを無視してでも実行したんだって言いたいのよね…」
罪の意識に悩まされ続け、忘れない様に背負い続けているのか、苦悶の表情をしている。
「私はね、正直に言えば、実行する気は無かったのよ…」
実行する気はなかった?じゃぁどうして?
うーん?今のところ私からすれば、何がいけないのか今一つ実感がわかないんだけどなぁ…
睨んでみてるわけでもない、純粋に話の内容が、その、何がいけないのかわからないからつい考えちゃって眉間に力が入っちゃってるだけ…
私だって、お爺ちゃんから色々と教わったし、幼い時に教会で色んなお話は聞いたけど、命を尊重して無暗に奪ってはいけないってことくらいしか、教えてもらってないけれど?
うーん、No2と私では教えが変わってるんじゃないの?何をそんなに葛藤することがあるのだろうか?
それを口に出してしまえばいいのだけれど、今は口を挟む状況じゃないので暗い表情のまま動かない人が懺悔の感情を噛み締め切ってから…動くのを待ち続ける
「実行する気はなかったのよ、まさか、姫ちゃんが用意しているなんて思ってもいなかったのよ…」
姫様が用意していた?…用意?精子はNo2が持っていたんじゃないの?何を、用意していたの?
「姫ちゃんはね、どうやって手に入れたのか知らないけれど、持っていたのよ私の卵子を…いいえ、違うわね、手に入れる機会は山ほどあった、お互い幾度となく浸透水式という技術を身に着ける為に何度も練習した、きっと、その時に…私の意識が無いとき、でしょうね」
話の流れで理解する、姫様なら同意とか関係なしに、世間一般で言うところの倫理観なんて気にしないだろうな。
「用意されていたのよ、貴女のお父さんと私の…後は、それを女性の肉体に宿すだけの状態で保存されていたのよ…あの子お手製の、世界に一つしかない特別な魔道具を用意していたのよ、魔道具の中に入れた物は時間の影響を受けない様に作られているの、概念としては、時間を凍結するという概念ね、技術形態は、悪魔信仰…いいえ、下法の技術から生み出した魔道具によってね」
悪魔信仰って、あの悪魔信仰?下法?うーん、知らない単語ばかりでよくわかんないけれど、そういう技術形態があるってことでいいのかな?
「ある日、連続とした悲しみの出来事によって、精神的に弱っていた時に、ね、姫ちゃんが言うのよ、最後の保険を使うって…その言葉の意味で直ぐに理解したわよ、始祖様再誕計画の要、救世主を人工的に生み出す為の鍵を使うのだと、その時にね、誰と誰を組み合わせるのか配合するためのリストがあるのか確認しようとしたらね、机の上に、見慣れない魔道具を取り出して、この中にね、種があるって言うのよ、後は、宿す肉体を選ぶだけって…種の中身を聞いてもいいのか悩んだけれども、この場で出すってことは…その時点で察したわよ。人工授精をしたのだと…禁断の魔道具を前にして言うのよ」
「あの時の姫ちゃんはね真剣な表情、だけど、瞳の奥には何処かもの悲し気な光を宿しているように感じ取れた」
『選んで、宿すか、宿さないか…候補は、お母さんと…女将…選んで』
「その場で答えを出さないといけない質問にしては、重すぎる選択肢、精神的に参っている私に容赦ないと思わない?」
ふっと、寂し気な笑みを浮かべているけれど、姫様の考えだったら、救世主となるべく人物を産めるので在れば誰でも良い筈なのに、敢えて、二人だけ候補にするっていうのが、きっと、No2に産んで欲しかったからだろうな。No2を戦線から遠ざける為の口実ってことじゃないかな?
「そんな二択を迫られたら選ぶしかないじゃない…道徳とか、倫理観とか、そんなものはどうでも良かったわよ!あいつに…同じ人を愛したライバルに、愛する人の子供を産み育てるなんて、女としての新しい幸せを、易々と手放すなんて、その権利を渡すなんて!ライバルとして、その選択肢を譲るなんて出来るわけないじゃないっ!!…」
普段冷静で、激情を露にすることが無いNo2が言葉を荒げるということは、絶対に曲げる事の出来ない譲れないことなのだと伝わってくる。
No2と女将って古い知人って感じなのかと思っていたけれど、過去の話を聞いているからこそ、納得しちゃった。
若い頃の女将は怪力無双、故に、育った村では、肩を並べる相手がいなかったんだろうな、そんな時に自分よりも心も体も全てにおいて勝る相手に出会ってしまったのだから、惚れないわけがなかったんだろうな。
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