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Dead End ユ キ・サクラ (10)

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目が覚める…誰だろう?近くに誰かの気配を感じた…それも、この部屋に居ても何も感じない人、ではない人の気配。
つまり、私の部屋にお母さんじゃない、誰かの気配がある?お母さん以外の人が私の部屋にいるっという、違和感を感じた…
違和感を起きてすぐに感じたからこそ、ベッドのすぐそばにいる人物を寝ぼけながらお母さんだろうと思って話しかけなくてよかった。

目が覚めた時に何となく感じた違和感というか、直感というか、それを信じて良かった。
隣に居るのがメイドちゃんだったらまだ、寝ぼけてたんですか?っで済まされるのだが、隣に居る人物は私とお母さんの関係を知らない…完全に誤解される。いや、されてもいいのかな?ぁぁ、でも、ややこしくなるから良くないか?

気取られない様にちらっと、視線を向ける、うん、わかってた、わかってたけど、再度の確認は大事だよね?やっぱり、お母さんじゃないしメイドちゃんでもない。
うんうん、違う違う…っていうか、隣には何故?どうして?この人が居るのかわからないんだけど?どうしているの?…

何故か、そう、何故か!
私のベッドのすぐ傍、お母さんが私を看病するために用意したであろう椅子に…

ユキさんが座ってる…

どうして彼がいるのか、この状況に、困惑する。

だって、ここって、女性の部屋だよ?ぇ?夜這い!?っとか、考えちゃう人もいるよ!?
っていうか、お母さんは何処に居るの?部屋の中に弱った女性と、男性、二人っきりにさせるのはどうなの?お母さん的にありなの?OKなの?

日常では考えられない、アクシデントの影響なのか、体が本調子ではないせいなのか、この特殊な状況によって、思考が、考えが、まとまらず、ちょっとしたパニック寸前に陥ってしまう、ううん、もうパニックだよ!

心の中で大きなため息をついて、都内にいる人に起きているのをばれないように、鼻からゆっくりとふかくふかく、息を吸い込んで、ゆっくりと吐いてパニック寸前?最中?の心を落ち着かせようと頑張るが…

体が弱っている時って、冷静になりにくくなるよね?それも重なって、より一層、心が落ち着かなくなる。
それに、私の部屋に男性を入れた経験なんて無いよ!改めて思い返す、青春とは無縁だった日々。その初心な事実に、より一層、心が落ち着かなくなってしまう。

混乱してる最中、視線を何処に向けたらいいのかわからず、彷徨わせるように動かしているが、どうしても視界に入ってしまう人物が…

やっぱり、どう足掻いても!隣に居る人物が気になって仕方がない!

もう一度、心の中で深呼吸をしてから、ちらりと、ユキさんに悟られない様に、視線をゆっくりと、もう一度ユキさんに向けると…

何か本を読んでいる?どんな本を真剣に、食い入るように読んでいるのか、本の表題を見ると見覚えがある。

あれは、確か、医学書で、お母さんが読んでいたっというか、なんというか?っていうか、どうして、医学書を読んでいるの?…
普段、冷静な私だったら直ぐにでも気が付く様な事も、今の私では直ぐにその答えに辿り着けない。

どんな医学書を読んでいるのか、もう一度、表紙を見ると見覚えのある本…そうじゃん、あの本って。

見覚えがあるも何も、昨日、お母さんが読んでいた本で、著者はお母さん。
お母さんの昔から出版している収入源の一つで、医療班で得た新しい発見とか、薬の知識を発表するために、定期的に販売している本。
私を看病している間に、誤字脱字などが無いか、不備が無いか検品の為に読んでいたと思われる本。

どうして、検品中の発売前の本を持っているの?…そうじゃない、今考えるのはそうじゃないじゃん。駄目だちょっとパニック起こしていたかも。
冷静になればすぐにわかることじゃん!さっきから、何馬鹿になってるの?たぶん、お母さんが居てたけど、何かの弾み?どんな弾みだよってなるけど、何か、きっかけがあって、看病を一時的に交代したとかじゃない?きっと、うん、きっとそうだよね?

それで、お母さんが置いて行った本があるから、なんとなしに、手に取って読んでるだけだよね?看病っていっても、相手が起きていないと何もすることないもん。暇つぶしだよね?

もう一度、一瞬だけ、視線を向けると…暇つぶしで読んでいるであろう難しい内容の本なのに、彼は、没頭する様に本に吸い込まれる様に集中して本を読んでいる。
看病しないといけない人物がじっと見つめても…向けた視線に気が付く様子が無い…
気が付いて欲しいのか、欲しくないような、不思議な感覚を宿しながらも彼の真剣な表情を眺めていると…

どうしても、昨晩?二日前?の出来事が思い浮かんでしまうのだけれど、正確な日付すら合間になっている自分の記憶力、感覚能力の低下に溜息が零れそうになる。

ぁぁもうだめだ、日付の感覚も鈍くなってる…
そうだよ、ユキさんの真剣な表情が、どうしても、新月の夜に出会った柳さんのイメージと重なってしまうから、余計に混乱しちゃうんだよなぁ
…色んな事が多重に重なりすぎて、だめ、頭、まわんない…

心も思考も落ち着くことが無いっという私の事なんて気にすることなく、集中力が途切れることなく本を読み続けるユキさん。
気が付けば、私の瞳は、彼の姿を、呆然と、眺めるだけで楽しいのだと錯覚を起こしてしまいそうに成程、眺め続けてしまっていた。

自分の感情がどういう感情なのか、冷静に分析する様に自問自答してしまいたくなる。
どうして、目が離せないの?…それはどうして?彼が魔眼の持ち主だから?それとも、何処かの未来で私は彼に惹かれてしまったから?この感情は私の?それとも未来の?

ぐるぐると、ぐるぐると、自分のしっぽを捉えようとぐるぐると回り続ける犬みたいに、思考が追いかけっこをし続ける。
絶対に捕まえれることのない答えを追い求めて、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐるり…まわりにまわって、とけてしまいそう…

どれだけの時間が流れたのかわからない、ただただ、廻り続ける思考を添えて、ユキさんを見ていると、パタンと本を閉じる仕草で我に返るが、それでも視線を外すことが出来ない。
どうやら、本を読み終えたみたいで凄く満足げな表情で鼻息をむふーっと漏らしている、もしかして、純粋に本が好きとか?
…そんなわけないか、医療に関する本で読みごたえがあったからだろうな、医療というジャンルは彼が求めているジャンルなのかもしれない、戦いが苦手だからという理由で医療班を選択したわけではなく、純粋に医療という世界に憧れなどの強い想いがあるのかもしれない。

ぼんやりと、そんな事を考えていたら、ユキさんと視線がぱちりと重なると柔らかい雰囲気で挨拶をしてくれる。
「ぁ、おはようございます、姫様」
雪さんは、今、私は看病の為にここにいてたのだと思い出したのか、いけないっという表情をした後、あたふたと、慌てるような仕草をしたかと思ったら、意を決したような表情で、失礼しますと声を掛けてから、おでこの上に乗っている渇いた布を取り、そっと、おでこに手を当ててくる…暖かい…ユキさんは筋肉があるから体温が高いのかもしれない。
「ん~、どうだろ?微熱、かな?少々お待ちくださいね」
少ない水が入っている桶をもって炊事場に向かおうと立ち上がる、ちょっとした悪戯心なのか、看病してくれたことへの感謝なのか、彼にちょっとした物を見せたくなってしまう。
「ユキさん、ちょっとまって」
ユキさんを呼び止めてベッドのすぐわきに置いてある、術式の陣をかいても強度的にある程度、術式に耐えれる様に改良を施した紙に陣を書いていく。
書き終わるころにはユキさんも何を書いているのか、物珍しそうに興味津々で此方の様子を覗き込んできていた。
「これ、手に持っている桶の真上に持ってきて、紙に書かれた陣があるでしょ?そこの真ん中に親指を当てて魔力を通してみて、感覚的に簡単な魔道具を起動するかんじ、かな?」
術式を描いた紙を、そっとユキさんの右手に、手を添えて渡す。
「これ、に?」
受け取ると少し首を傾げながらも言われたとおりにアクションを起こしてくれる。人を疑うという心が無いのではと思ってしまうくらいに純真なのだろうと感じてしまう。
紙に書いた陣にユキさんが魔力を通し始めると、紙の角から冷たい水が滴り落ちていく
「わ、すご…」
ユキさんが驚きながらも魔力を通し続けているのだが、想定よりも魔力の質が良いのか多いのか、陣から産まれる事象が想定を超えたスピードで変化していく。
想定していた内容は、最初は水で、ゆっくりとゆっくりと水が冷えていき、小さな氷の欠片が時折産まれる、程度として陣を描いたのだが、出力調整はしていないので、魔力を注げば注ぐだけ、温度変化が激しくなってしまう。

想定よりも早くに、徐々に紙からしたたり落ちていく水が小さな氷となって桶の中に落ちていく

陣の出力が安定してきたのか、出来たらいいなくらいの感覚で軽く計算した現象が発生する。
それは、この街では見ることが出来ない雪のようなふわふわとした白い塊、氷の結晶が桶にゆっくりと落ちていく…

ユキさんの名前を初めて見た時に、可能であれば、見せたあげたいなって思っていた、そんなささやかな願いである、雪もどきを見せることが出来たということに満足であり、嬉しいと感じてしまう。

ユキさんも初めて見る現象に、心惹かれているのか、目を輝かせて魔力を通し続けている。
興奮のあまり、手に力が入ってしまうのか、流す魔力が強く成って行っているのか、陣を描いた人の想像をはるかに超える勢いで、桶には大量の雪もどきの結晶がゆっくりと優雅に降りていき…桶の中にある水に溶け込んでいく

幻想的な小さな世界を二人で堪能していると、ユキさんから困惑したような驚いたような焦るような声が聞こえてくる。
どうやら、手に持っている紙の強度が限界にきたみたいで、紙に書いた陣が崩れていき雪を産み出すことが出来なくなってしまった。

即興で作った魔道具だもの、陣を保護する内容を刻んでいない、使い捨てる気持ちで作った単純な構造だもの、長い時間、稼働するわけないよね、でも、頑張った方じゃないかな?

もう、雪が零れ落ちなくなってしまった紙を名残惜しそうに寂し気に、少しだけ唇を尖らせて、眺め続けている。

純粋な瞳に感情、この人はどうしてここ迄、純真無垢なのだろうか?きっと、この人は愛に囲まれ、誰かも害されることなく、イノセンスとして育って来たのだろう。

人の悪意に晒され続けてきた私とは正反対、真っ白な私、でも、中は真っ黒
それに対してこの人は、髪の毛は黒くて艶々して綺麗、瞳も真っ黒、光の角度を変えるとちょっと青みがある。見た目は真っ黒なのに、中は真っ白…本当に、見た目も心も真逆みたい。

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