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Dead End ユ キ・サクラ (11)

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そんな事をぼんやりと考えていると、驚いた声が聞こえてきたので何事かとユキさんを見ると
「ぅっわ!つっめたぁ!…ぇ、これはやり過ぎたかも、しれない?」
どうやら、私の為にタオルを水に浸そうとしてくれたみたいだけれど、桶の水が、想定以上に氷を産み出し続けた影響もあって、キンキンに冷えてしまったみたい。

特に、制限時間とか、出力調整などを考えず、氷を作るだけとして組み上げた陣だから、加減知らずに魔力を通せばそうなっちゃうよね。
ユキさんの驚いた表情や、タオルが冷たくなりすぎてどうしようかと悩んでいる表情を見て、どうしてもこの人の事ばかりを考えてしまう。

だって、正直に言うとファーストインプレッションは違う印象だったから。

以前に練習風景を見ていた時に感じたのが、この人は、表情が硬くて、自分の感情を表に出ないんだろうなって、感情の表現が苦手な人なんだろうなって印象を抱いていたけれど、それは、違うみたい。

初めて意識して観察してみた時は、単純に、緊張してたとか、目の前にある訓練に必死になっていただけなのかもしれない。
皆が休憩している時も独りで、表情一つ変えずに呼吸を整えたりしていたのは、集中力を高めていただけなのかもしれない。

きっと、誰かと仲良くなるのに何かきっかけが居る人なのかもしれない。誰かに歩み寄ってもらえるのが当然だと思っているのかもしれない、人に対してきっかげづくりが苦手な不器用な人なのかな?

「姫様、申し訳ありません、その、タオルが冷たくなりすぎてしまって…」
言葉に詰まっている様子から見て、『何度も考えたけれど、冷えた水は直ぐに温められない、どうしたらいいですか?』って感じかな?別に、そんな事で怒ったりしないよ。
っていうか、私が陣の調整をしなかったからだから、桶の水が冷えすぎてしまったという結果を招いてしまったのは、私の失敗なのにね、ユキさんが悪いわけじゃないよ。
「少しぬるくなるまで待てばいいよ、気にしないで」
貴方に責任は無いよ?っと、思いを込めて声を掛け、優しく微笑むと、申し訳なさそうに小さな声でうんっと言いながら頷いていた。
んー?あんまり伝わってないような気がするなぁ?気のせいかな?もっとはっきりと言うべきだったかな?

小さな沈黙が、大きな沈黙に連鎖すると気まずい空気に変わらないうちに声を掛ける
「それよりも、看病してくれてありがとう、男の人にこんなことをさせてしまって申し訳ない、かな」
貴族社会っというか、この大陸では男性が誰かの看病をすることは珍しい、何故なら男性の多くが不器用でそういう経験が乏しいため看病される側が苛つくからっという背景もあれば、貴族であり家の主である人物がどうしてそんなことをしないといけないのかっというプライドが邪魔をして、しようとも思ってくれない。

今のタイミングでこの様な声かけは良くないのはわかっているけれど、感謝と、どうして女性の部屋にいるのかという意味を込めて軽く先制パンチを送ると
「ぁ、どういたしまして、わ、ううん、僕は実家に居た時によくおか…母上を、みて、ぇっと、看病していたのでなれてございますです」
どうやら、皮肉的で遠回しな物言いは、通用しない類というか、言葉を真っすぐに捉える人かな?…まぁ、それが、普通なんだけどね。
そうだった、彼は平民だもの、こういった裏の意味が込められている様なメンドクサイ会話の仕方…
貴族と今まで一度も接したことが無かったらわからないだろうし、貴族とどういう風に会話したらいいのか、よくわからないって感じも伝わってくる、それもそうだよね、貴族じゃないんだもの。

…あの夜に感じた人の上に立つものとしての振る舞い、貴族が好みそうな遠回しな言い回し、セリフ選びのセンスが目の前に居るユキさんからは微塵も感じ取れない。
やっぱり、ユキさんと柳は完全に別物、同一人物ではない、次の新月の夜に、詳しい話を聞くべきだと、全ての私がその意見に肯定する。

「あ、の、そ…の…」
少し考え込んでいたら、ユキさんがどんどん、小さく小さくなっていく?…ぁ、返事してないから、何か機嫌を損ねたのかと思われているかも?時には沈黙は残酷であるってことだね。いけないけない。
「ぁ、ごめんね、ユキさん、寝起きだから頭うごいてなくて、ぽけっとしちゃってた」
素直に謝罪をのべ、真っすぐに受け答えをする、この人に変化球は要らない、飾らなくても良い気がする。
「ぁ、…そ、そうだったんだ、です。」
敬語とかそういうのも慣れていない感じだけど、最低限の教養はあるって感じ?まぁ、推薦者が王族と縁のある人物だし、多少は教育を受けていたのかも?
教育は受けていたけれど、実践する機会が無かったら、身に付くわけも無しってことだよね。実践こそ経験だもん。

こんな受け答えじゃなく、ユキさんにはもっとフランクに、年齢の近い人として接してもらいたいという我儘な感情が湧き上がってくる。
「畏まらなくてもいいよ、私だって貴族じゃないモノ」
なのでつい、本当は貴族出身で貴族のような振る舞いをし続けている、何処からどう見ても貴族だろ?っという疑問が生まれるのはわかっていても、声に出してしまう。

でもね、現時点では貴族ではない、嘘じゃないよ?
実家は貴族だけど、勘当されているので関係ないよね?街の代表ってポジションだけど、王族から爵位を頂いていないので平民だよね?へりくつだけどね!!

下手にそういう鎖をつけられないように全力で逃げてるからね。
貴族の流儀とか面子とかどうでもいいっていうか邪魔、古臭くて厄介で身動きに制限があるものなんて要らないっていうか、あると敵に後れを取る。
だから、私は下手な鎖なんて要らない、そんな物が無くても世界を救うために私は動き続ける、私の…目的の為に。

…いっつも、二手三手四手遅いだろっていう野暮なツッコミはなしだよ?いつか先手を打てるように万全な状況つくってみせるんだから。

私の放った一言に目を点にするというか、真ん丸にするというか、不服があるのか、混乱している。
「…ぇ?でも、姫様、ぇ、です、よ、ね?街のだいひょ…ぅ?」
完全に何を言ってるんだろうこの人はっという不可思議な表情で見詰められてしまう。
うん、その感情や混乱するのは理解も出来るし共感も出来るよ!だって、私がユキさんと同じ立場ならそう思うもん!

それにしても、聡明な始祖様と瓜二つの顔で、そんな風にあどけない垢ぬけない表情されてしまうと、良くない感情が芽生えてきちゃいそう。
湧き上がる悪戯心のままに声を出してしまう。
「そうだよ、不本意ながらこの街を取り仕切らせていただいている幹部の一人だよ?」
余りにも驚いたり、コロコロと変わる表情が可愛らしい、その仕草を見ていると、ちょっとした悪戯心が芽生え育ってきてしまう。
だから、つい、魔が差すというのかな?もっと見たくなってしまったから、ついつい、混乱を加速させてみたくなってしまう。
「…なら、貴族じゃん、だ、です。」
腑に落ちないような顔をしながら、此方を見て納得しようとしている。これは、流石に…からかわれているのだと感じ始めている?
「違うよ、貴族じゃないよ」
納得した内容を即座に否定すると、からかわれているのだと気が付いたのか、一瞬だけむっとした表情をする。
ふふふ、この人は表情が硬いポーカーフェイスだと思っていたけれど、ぜんぜん、そうじゃない、違うみたい。
けっこう表情豊かじゃん、感情を表に出しやすいから、気を張っていただけなのかも。
「わたし、ぅぉっと、僕ってからわれてる?ぃや、ませんか?です?」
少し口を尖らせて、眉間に小さな皺を作っている、あどけないな、いや、年齢を考えれば…いや、それでもおぼこいね、この人。
…私と一緒で同世代の人と深く関りを持ててこれなかった、ある意味、世間を知らないで育ったとか?それとも、平民だとみんなこんな感じなのかな?

…んなわけないか、この街の9割?8割?近くが平民じゃん。みんな、世間の荒波にもまれて擦れに擦れて、ズタボロだったじゃん。
プライドも何もかもなくして生きる事すら望み薄って感じの人達が多かったじゃん…心にゆとりが無く疑心暗鬼になっていた人が多かった。

この人が育った環境こそ、全てに愛され、全てに害されることなく、見守られ、過干渉なく、自由に育って来たのかもしれない…もしくは魔眼の力か…
「…」
あ、いけない、また考えこんじゃった、うっすらと涙を浮かべ始めてる、無視してるわけじゃないからね?沈黙は時として武器となり毒となるってやつだよね。
普段なら、ちゃんと気遣ってあげたりするんだけど、やっぱり、頭の回転が遅い、思考がいったりきたりする。
「からかってないない、私は平民、この街にいる殆どの人が平民だよ」
「ダウト!やっぱりからかってる!私だって知ってるよ?医療班のトップは貴族じゃん、それに、かじかさん?名前間違ってたらごめんなさい、あの人もすっごく高そうな鎧持ってる、あの紋章が入ってるのは王族お抱えの意匠の作品ってくらい私、知ってるよ?馬鹿にしてない?」
ムっとした表情で捲し立ててくる
おっと、小さなからかいとタイミングの悪さでユキさんの機嫌を大きく損ねちゃったかも?
「馬鹿にしてないよ?ジラさんは貴族の出だけど、うーん、私から聞いたって言わないでね?」
真剣な表情で、この先の話題は本人も気にしている内容だという雰囲気を作るが、ジラさんの出自は多くの人が知っている、ただ、突く必要が無いだけだし、本人もたまに自身でネタにしている。
「ジラさんの一族は代々、貴族の側室として生きてきた一族で、貴族としての家名を持っているけれど、貴族としての責務は殆ど無い。だって、側室だもの。不運なことに代々、産まれてくる子供は女性が殆どだった、だから、側室という道しか選ぶことが出来なかった一族。側室として迎えられても籍を入れられたことがない不遇の一族…だよ。」
お酒を飲んだりするとちょくちょく自虐ネタとして披露しているくらいだから、はいはいって感じでみんな流してるし本人も側室として生きるのは悪くないことだと思っているから何も気にしてないんだけどね!特に冷遇されたり批判されたり非難されるような言葉の石を投げられたことは一度も無いんだよね!だって、側室でしか生きられない人ってジラさん以外にも多くいるから。
本妻だって、政略結婚が殆どで愛で結婚するような人は殆どいないって思っていた…お父様もそうなのだろうと思っている、だから、側室であるお母様を救う気が無かったのだろう。
そんな風に貴族には愛が無いと思っていたけれど、全てがそうじゃないと知ることになった、筆頭騎士の家系を見るまでは、その考えを否定することはできなかったもん。
あの人たちだけは、他の貴族と違って愛で生きてきた。きっと、そういう血筋なのだろう。

だから、ジラさんも叔母様もシヨウさんのことが好きで好きで愛してやまないのだろう、他の貴族とは全てに置いて違い、高貴だから、人としての魂が。
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