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Dead End ユ キ・サクラ (13)

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甘いため息が漏れそうになるのを堪え、心配している人にごめんなさいと素直に謝ると
「いいのよ、わかってくれたらね」
優しく頭を撫でてくれる、私も良い年齢になったと思うけれど、この人からすれば私は永遠に大切な子供扱いなのかもしれない。
それが別に嫌だというわけではない、甘えることに関しては大好きだから、こうやって甘やかしてくれるのは大歓迎だったりする。
何だったら、ご飯も食べさせて欲しいし、添い寝もしてほしいくらい、甘やかされるの大好きだからね!

今まで受けてきた愛を噛み締めていたら、語り掛けられてくる
「それにしても、慎重な貴女が体調を崩すなんて何年ぶりかしら?体調管理というか自分が仕事をする環境を徹底的に快適にしてきている貴女が、珍しいわね」
慈しむような瞳で、軽いジャブが飛んできているのが分かる、聡明な貴女がどうして体調を崩してしまったのか、その理由があれば教えて欲しいモノねっという意味が含まれている…
ありのままに言うわけにはいかない、僅かな真実ですら聞かれたくない真相に辿り着きそうな気がする、知らないふりをしようかと思っていたが、受け答えしないと怪しまれるのでそれっぽい話で切り抜けよう、うん、そうしよう。
「うん、ちょっと、外で考え事してたから、かな?その…夜遅くまで」
嘘は言っていないし、外で考え事をするのは私もお母さんも時折している。
研究に詰まって、行き詰ったときにお互いよくあることだからね!
息抜きも兼ねてウォーキングすることによって、椅子に座りっぱなしで血流の流れが滞って脳に迄、栄養や酸素が回らないから脳が動かないだけ!それを物理的に改善するために、血流を促進するためにウォーキングをする!
お母さんが昔から考えに詰まったときにしていたのを、私もそれに倣って歩いたりもしていた。
実際にしてみて効果を実感で来たりするから、今でも運動不足解消も兼ねて、考えが煮詰まったり、袋小路に入ってしまったりしたときとか、新しい閃きを求めたくなるときは自然と実行してしまっている。

その言葉を聞いて、ふぅっとため息をついて、此方を見ている、視線が意味するところ、汗をかくほど歩いた後に汗を拭かずに暑いからって裸で寝たでしょ?って思っていそう、過去に何度か、やらかしたことがあるので反論はしない。むしろ、そう思っていて欲しいまである。
「研究が行き詰まることはあるけれど、根を詰めすぎないようにするのよ?」
考えている内容を聞かないのは聞いても理解できない内容である可能性が高いのをお母さんは度重なる経験で知っているので深く追及はしてこないし、お母さんに知っておいて欲しい内容であれば考え事と言わずに、内容を伝えるので、お母さん的にも私が考えていた内容を知る必要性は無いと瞬時に察してくれるのがありがたい。

もう一度、こっちを見ては、ふぅっと心配そうに溜息をついた後は、子供を寝かしつけるようにお腹辺りをぽん、ぽん、っと優しくゆったりとしたリズムで叩いてくる。
そのリズムが心地よく、身を委ねると直ぐにでも眠りについてしまいそうになるのだが、胃が荒れているのか、小さな痛みを訴えてくる。
何時もなら、このまま、眠って回復に努めるのだが、今はこの刺激が胃を刺激してちょっと辛いかも?
かといって、善意を振り払う気にはなれないし、この優しさに包まれていたい…
胃が荒れているのも消化しようとしているだけだったら、暫く放置しておけば落ち着く様な気もするので、何かで気を紛らせよう

どうやって気を紛らせようか考える為に、少しだけ、思考を巡らせていると、ふと、非日常、本来であればあり得ない出来事を思い出す。

『目が覚めると男性が私の部屋にいた』っという、あり得ない出来事。

この街に来て長いわけでもない…ううん、それは違うか、仮にベテランさんが看病しに来るなんてことがあったとしても、お母さんは追い返す。
医療班でもない男性に寝ている女性を任せたりしない、病室であればまだしも、ここは女性の部屋だよ?あの男の人の黒い部分を十二分に経験してきたお母さんが無防備で寝ている娘を任せるとは考えられない。

どうして、ユキさんに看病を任せたのだろうか?

ふと、思い出したように湧き上がる疑問を聞いてもいいのか、ちらりと視線を向けると目が合う。
「?眠れないの?それとも、何か知りたいことがあるの?」
直ぐに、突如見てきた視線に何か意味があるのだと気が付いたみたいで声を掛けてくる、相変わらず、こういうときの洞察力は高い。
誤魔化さずに疑問に思ったことは聞くのが大正義だというのはわかっているけれど、今回の一件は単純そうに見えて複雑…

だって、この街にいる全員が少なからず魅了の魔眼に浸されている、そう、私も…体制があると言っても完全レジストは出来ていない。現状、防ぐ手立てがない。
そんな状況の人達にユキさんに関することを尋ねたとしても、問い詰めたとしても、やんわりと肩をもつのはわかりきっている…

そんな、わかり切っている問いかけをしないといけないというのもまた、心がやるせなくなってしまう、魅了の魔眼によってその選択肢を選ばされていないのか?と、貴女の本心は本当にそこにあるのか?と、問いかけたとしても理解されることは無いのだから。

それ以外にも、ユキさんに関しては謎だらけ、知らないといけないこと、知る必要があること、解読・解析しないといけないことが多すぎる。
ユキさんは、本当に悩みの種という事だ。

難点なのが、器量よし、愛嬌良し、性根も良しっときたもんだから、罪状が無ければ断罪できない。
周りの評価は極めて良好、客観的に見ても良好、物腰は優しく丁寧、私生活での問題点はない、訓練も真面目に参加、参加しているのなら誰しも真面目だろうっという部分は一旦置いといて、体の動かし方が非常に巧みで戦闘技術が高水準。
端麗美麗、美しさも、かわいらしさ、相反しそうな美を体現している、その見た目も重なって、周囲からは完全に高嶺の花と評価されている。
各部署の女性たちがユキさんとオリン、その何方かが至高だという派閥が生まれていてるのを小耳にはさんで知っている。
メイドちゃん調べだと、ユキさん派閥が8割とかなり幅を利かせているが、何でもオリン派閥はユキさんとオリンのカップリング派閥であると教えてもらった…男同士のカップリングという部分に困惑するが、そういう趣向を持った人が居ることは知っているので、深くかかわらない様にしている。

「何を黙っているの?何かを考え込んでいるのはわかってるわよ?何?本当に、聞きづらい内容?」
考えていることが少々脱線している影響もあって、沈黙している時間が長引いてしまった。
これ以上、沈黙すると、今から話す内容が想定以上に重たく受け止められてしまうので、軽口を言う様にさらっと話そう
「頭が、ぼんやりとしてるだけだよ、考え込んでないよ?考えていたって言うか、気になることがあったんだよね、ほら、その、あの、ね?この間、起きたら隣に、ほら、新兵のシヨウさんとこの息子さん、ユキさんが隣に居たから、その、どうしてなのかなって…」
その一言にああ!っと思い出したかのような仕草、っという事は、お母さんからすれば些細な問題、気にするような事じゃないっということになる。
…つまり、ユキさんであれば、裸同然、下着も薄っすらと見えるネグリジェの娘が横に寝ていても問題が無いと判断できるほどに好印象を抱いているという事になる。

男女の関係という部分にしっかりと根を下ろし、迂闊な行動をしないジラさんがその選択肢を安易に取る程に、彼が持つ魔眼は脅威なのかもしれない。

「そう、よね、よく考えたら、年頃の男性と女性を、二人っきりにしていて尚且つ、女性の方は抵抗が出来ない状況っていうのが、よくないわね…万全な状態の姫ちゃんだったらユキ君如き、相手にならないけれど、今の状態を考えれば、そうよね、万に一つがあるってことじゃないの」
此方の質問の意図を直ぐに読み解く判断の速さに驚きと共に長年の信頼関係、故に私の思考をパターンを知り尽くしたかのように答えに辿り着いてくれる。
基本的に、些細なことであれば気にしない、そんな時もあるかとスルーする、そんな性格の私がわざわざ、声に出して疑問を感じていることを話すという、ことに対してすぐに、私が感じた違和感を理解してくれる、やっぱり地頭はいいんだよね、この人。

「ごめんなさいね、迂闊な行動だと判断するわ、以後気を付けるようにするわね。でも、あの時は、急患で、この部屋にいる私を、ユキ君が、先輩に頼まれたみたいで、私を呼びに走ってきてくれていたのよ、だから、あのときは、そう、そう、浅慮だったわね、何も考えずにユキ君なら、看病を任しても良いなんて根拠も無く、何も考えずに、考えてしまった、そう、その看病を任しても良い状況なのかどうか、その状況を見誤っていたってことよね…」
流れるような状況説明を、口に出していると最後の方で何か気が付いたのかはっとした表情をして頬を染めてこちらを見ている?
「…ま、まさか、ぉぉ…ぉ、襲われて、ない、わよね?」
あ、その話題は危険、叔母様が起きる
「ないない!大丈夫!何もなかった!本当に何も無かった!…ちゃんと看病してくれていたよ?手慣れていた、って感じだった」
直ぐに否定した影響もあって叔母様が表に出る事も無く、何もなかったという言葉を信じてくれているみたいで、胸を撫でおろす様にほっとしている仕草をしている…
あっぶな、叔母様を爆弾扱いするのは良くないけれど、それ系統の話題で起きると本気で危ない、叔母様はその辺りの事件に関しては容赦がない…

焦った影響もあってか、手のひらに汗が滲み出てくる…汗の感触で思い出す、肌がべたつくような不快感を
「…」
どうしたものかとお母さんをじっと見ていると
「まだ何かあるの?」
視線の意味が先ほどとは違う内容であると直ぐに気が付く、甘えてもいいのだろうか?
「病人が遠慮することないわよ?夜中だろうとね、お腹空いたの?喉渇いた?」
それに関しては問題ないかな?っと、違うよ?っという視線を送り続けると
「…トイレ?行きたいのなら連れて行くわよ?」
まぁ、次の選択肢としてはそれになるよね~…うーん、ストレートに伝えようかな?でも、落ち着いたらシャワーくらいはできそうな気もするし。
幸いにも私の部屋には他の人の部屋には無いけれど、特別にお風呂を設置しているから、大衆浴場に向かわなくてもいいんだけど、私としては、おっきなお風呂に、趣味趣向をふんだんに盛に盛って、全力で飾り付けた大浴場がお気に入りだから、普段はそっちを利用しているんだよね。
「…違うとなると、汗で気持ちが悪いってことね、そうよね、綺麗好きな貴女がこの状態で求めるものってなるとそれしかないわよね、待っていなさい、お湯を沸かしてくるわね」
思考が逸れている間に、答えに辿り着かれてしまう。
長年、血は繋がっていないけれど、親子として過ごしてきたからこそ、私の考えが口に出さなくても伝わってしまう。
実の親子であるクソハゲデブクソ親父とは全然違うっと、こういう事があると、毎回、比べてはいけないのだろうけれど、比べてしまう。

私の両親はお母様とお母さんだったらいいのにって思ってしまう…
…この考えを永遠に変えることができない幼稚な私が居るなぁって鼻で笑ってしまうが、それも致し方ないと思う、お父様と接した思い出が嫌な思い出ばかりだから。

ぼんやりとそんな事を考えていると、時間の流れというか思考が如何に遅いのか、実感がわく。
だって、気が付くと桶一杯にお湯を用意して湯あみの準備が整っていて、手早く服を脱がされテキパキと体を拭かれているのだから。


体がスッキリするころには胃の中に放り込んだ丸薬と水が吸収されたのか胃からくる小さな痛みのような不快感も感じなくなる。
寝る前に、白湯を飲まされ、横になると、直ぐに意識がベッドに吸い込まれて行った…早く、体調をよくして…こんごについて、まとめよう…

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