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Dead End ユ キ・サクラ (39)

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過去と未来を結ぶように私達が築き上げてきた防衛ライン、始祖様が遺してくれた偉大なる敵からの侵略を防ぐために生み出してくれた大いなる壁に視線を向けると
「姫様!我らも準備が整いました!お迎えに来ましたぞ!」
ガシャガシャと大きな鎧の音を重ねながら膝をつく戦士達…
迅速な動き、それでこそ、私の直轄部隊…って言いたいけれど、私が12歳の時に自然発生した姫部隊、親衛騎士、近衛騎士って言われる人達…
この街の戦力が整ってきてからは、滅多に前線に出ることが無いから、表向きと言うか書類上でも私直轄の部隊って言うのは、術式部隊だけでいいのに…
貴方達も緊急事態って程でもないのに、嬉しいけどさ…
今回くらいのケースだったら、普段通りに、戦士部隊、騎士部隊として、ちゃんとスケジュールを決めて交代制で勤務してくれてていいのに…
「あら、珍しいわね、外に出るの?」
「うん、カジカさんの穴埋め、新兵達を通して伝令を出したんだけど」
貴方達の出撃命令を出した覚えはないんだけどなぁ…っとジト目で睨むと人型が出現したわけでもないのに何で来たの?っという意味が伝わったのか、すぐに視線を逸らして
「勝手な判断だと思われますが、我らの意思は一つ!」
譲る気は無いと言わんばかりに頭を垂れるな!貴方達のそういう行動が!私が何処かのお姫様だっていう噂が色濃く広がっていくんだよ!
…悪い気はしないけどさ…
「まぁいいけどさ、出番なんて殆ど無いと思うよ?」
「活躍の場を頂きたいわけではありません!姫様の御身を案じ!」
あー、うん、こりゃ駄目だね、追い返す方法は無さそう、決意が漲っているしやる気に溢れている…
モチベーションが高いのは良いんだけどなぁ~…今じゃないのよ、そのモチベーションを出すタイミングって。

まぁ、致し方なしかな?長い事、私が死の大地に出る事なんて無かったし、親衛隊の出番なんてずっと無かったもんね。
フラストレーションも溜まっていただろうから、付き合ってあげますか
「そう、ならいいわ、付いてきなさい、出陣よ!」
姫様らしく、髪の毛をふぁさっとなびかせて親衛隊たちの横を通り過ぎ前に進むと
「応!!」
大地を揺るがすような咆哮が後ろから聞こえてくる

…最終決戦じゃないよ?ただの巡回任務だよ?わかってるのかな?人型ですらないんだよ?

滾る親衛隊たちを引き連れて騎士部隊と合流し、どうせなら、新兵達に先輩たちの勇姿を見せるのも良いかと判断する。
良い機会だし、現場での練度訓練も兼ねたいから、その事をこれから出撃する騎士部隊に伝えると後方で待機している親衛隊から恩威のままに!っと大きな声が聞こえてくる。
そんな、圧を出さなくても私の指示は通るよー、無理難題を吹っ掛けてるわけでもないのに、圧を出すな!

それにつられて騎士部隊も笑みを浮かべて、恩威のままに!!って叫ぶな!恥ずかしいだろ!
っていうか、私は本当の姫様じゃないからそんな恩威並行みたいな言葉を使うなっての!だれだよもーこんな言葉を教えたのー!

恥ずかしさに包まれながらも、皆が望む様に高貴な存在を振舞いながら出撃する…
嗚呼、これでまた、よく知らない新兵が勘違いするんだろうなぁ…

また、私と新兵との間に壁が生まれる…



出撃前に事前に作戦を伝えており、死の大地でのフォーメーションなどの段取りもばっちり!装備などの最終確認も完了!いざ出撃!

久しぶりに壁の外…
死の大地に出ると…

視線を感じる、近くでは無いけれども遠くから?見てる…見られている…
舌なめずりをしているわけでもない、この大地に踏み入れるもの、そいつの力量を測るような視線

値踏みをするような視線、知恵あるモノの視線だよね…

絶対何処かに指揮官が居るのだと感じる…
でも、尻尾を一切つかめることが出来てない!ヒントすらない!

用意周到に悟られない見つからない様に徹底的に痕跡すら残さないその感じが、本当に腹が立つ。

そんな事を感じていると、手筈通りに全員が動き出す
術式部隊が前に出て即座に認識阻害の術式を展開する、どんな時だって不意打ちっていうのはやられたくない、敵は獣、五感に関しては向こうの方が確実に上、覆すことが出来ない事実、だからこそ、警戒は怠らない。

さてっと、今回の任務は、巡回任務だから、防衛ライン付近から敵を捜索して、見つけ次第殲滅って感じが基本的な内容かな?
イレギュラーはつきものだから、その辺りは臨機応変に動く感じになりそうかな。

術式部隊が認識阻害の術式を展開していると、直ぐに、私の左右を親衛隊が盾を構えて守ってくれる
壁の近くだってのに大袈裟だなぁ、この辺りに敵が居たらすぐに壁で監視している人が鐘をならすっての。

事前に打ち合わせたフォーメーションが完成してから、前へ進んでいく。
取り合えず、各々の部署が担当しているエリアは避けて、カジカさんが負傷したことで空いてしまったエリアに向かう。

向かいながらも、小声で皆が和気藹々と話をしている、危険地帯じゃないし、認識阻害の術式も展開しているから、この程度のおしゃべりくらい問題なし、注意する必要なんてないので何の会話をしているのか聞き耳を立てる。
どうやら、カジカさんが怪我をした現場に居合わせた、騎士部隊の人が、どのような敵が、あのカジカさんに傷を与えたのか話題にしている。
私がカジカさんの立場だったら同じようになる自信がある、そりゃ、しわっしわになってしょげるわ…

まさかの鹿タイプ…死の大地、最弱候補!雑魚オブザ雑魚!
そりゃ、角は要警戒だけど!そんなやつの攻撃くらうんじゃないっての!

どうして怪我したんだろうなー?新兵達に良いところ見せたかったのかな~?
ユキさんとオリンくんの会話からして二人をかばったっぽいからなぁ…庇い方が変にかっこつけたとかじゃないの?って邪推しちゃうよね。

青ざめて戦々恐々しているユキさんとオリンくんには、今後の任務に悪影響を与えないためにも、早いうちに恐怖心を払拭して欲しいから、敵を仕留める効率的な方法を現地で見て覚えて、学んでもらう為に付いて来てもらっている。
ちらりと、後方を確認すると、少々青ざめた表情をしているけれども張り詰め過ぎない程度に緊張を維持している。
二人とも直属の上司が大怪我をした場所だっていうのに懸命に勇気を振り絞っている、その姿を見て応援したくなってしまう。

和気藹々となれた雰囲気で進む一団、その中に紛れた死の大地に慣れていない緊張した面持ちをしている新人達、千差万別とも感じ取れる一団と共に30分ほど歩くと…

うわ、いるじゃん…

防衛ラインを軽々と突破されてる。
最終防衛ラインでは無いけれども、カジカさんが抜けた穴を掻い潜って、だいぶ接近を許しちゃってるね。
手を動かして部隊に合図を送る

距離と場所を伝えると全員がその方角に敵が居ることを理解したのか警戒態勢をとる
っていってもさ、鹿タイプが一機、あの距離だと、弓兵の一撃で難なく仕留めれると思うけれど
ここは、新兵達にアレが如何に雑魚なのかっていうのを見せつけてあげようかな

下げた右腕で部隊に指示を出す。
人差し指だけを伸ばして、横に振る、事前に打ち合わせしておいた手順1をしろっという指示を出す。

全員が指示を理解したのか、気配を殺しながらゆっくりと此方に気が付いていない敵にじわりじわりと距離を詰める様に接近していく。
認識阻害の術式を展開していても、気配を殺すのは大事、敵に違和感を感じ取られ、逃げられると厄介
鹿タイプってのは足が速いから後方に逃げられると追いつけれないし、慌てて追いかけると挟撃される恐れがある

基本的に、死の大地にいる獣共は殺意マシマシ、絶対に人を見つけたら殺しに来るってくらいやる気溢れているけれど
一部の草食獣共は、自身を囮にしようとする動きが確認されている、そして、本来は群れで行動する鹿タイプが単独でいる時は要警戒するように訓練している。

一定の距離に到達し、周囲を警戒、索敵術式を展開する。
反応は1…迷い込んできたタイプか?…初動で見極めるか…
下げた右腕、伸ばした人差し指を握り込み拳を作るのが作戦開始の合図

盾を持った戦士が認識阻害の術式、その範囲外に出て敵を見据えると一機にも関わらず突進してくる!
ってことは、何処かの部隊が鹿タイプの群れと衝突してはぐれてきたやつだと判断!
前に出た戦士もその動きを見て確信し前に出て対象を挑発する

鹿は真っすぐに突如目の前に現れた人物に向かって突進してくる
前に出た戦士であれば一人であの程度の敵なら難なく仕留めれるが、今回は新人達の教育も兼ねているので連携を取って仕留める
敵に悟られない様に認識阻害を展開したまま、各員が配置につく

鹿が頭を下げ、戦士に向かって徐々に加速しながらスピードを乗せて突進しようとしている、自慢の角で戦士を貫き掬い上げようと首に力を籠めている。

だが、その動きは良くない、私達が何年お前たちを殺し続けているのか知らないの?ってくらい読めている動き。

戦士は敵の初動を見て、直ぐに右足を後ろにし、左足を前に出し、体の向きを変える。
盾を持っている左腕を前に出し、右手は腰に備えてあるナイフを取り出して握りしめ、鹿の突進を待ち構える。

鹿の角が前に突き出した盾に当たる寸前、鹿が戦士の足元から鋭利な角を斜め上へと振り上げようとした、そのタイミングを完全に合わせるように前に出した左腕を下げ、前に出した左足を蹴り全身を後ろにそらし、体重を後ろにセットしてある右足に預けると

鹿の攻撃は空を切り、鹿の顔が地面すれすれから、上空にに上がる

生命の急所である喉が顕わになると同時に待機していた弓兵が、左右から弓矢を放ち、鹿の喉を二つの矢が貫く
喉に矢が突如、二つ刺さるという、敵からすれば予想外の痛みによって驚き、前足を高く上げ上半身を仰け反ると、鹿の前で盾を構えている戦士はこういう状況なるのを待っていたと言わんばかりに、後ろ足を全力で蹴り構えた盾を下げるように、左腕を下げ、予め握っておいたナイフによる渾身の突きを鹿の胸元へと突き刺す

刺すと同時に鹿とすれ違う様に前方へ転がると、鹿は、喉と胸を刺された痛みによって地面に転がるので、槌を持った戦士が倒れ込んだ鹿の頭蓋骨を叩き壊す
これによって鹿は完全に停止する。動きが完全に制止したのを確認した後、弓矢と突き刺したナイフを鹿から抜くと液体が飛び出る

飛び出し、流れる液体は少し白く濁った液体…どう考えても生き物じゃないでしょこれ?

そう思いながらも、生き物を模していることには、かわりない。命を奪ったことに対して祈りを捧げる。
一瞬だけ祈りを捧げた後は、お決まりの仕留めた獲物は最大限活用させてもらう!今の地点は、壁から30分ほどしか離れていない距離なので、二人の騎士に仕留めた獲物を私達の街に運ぶように指示を出す。

遠い場所だったら、セーフティーエリアでにいる認識阻害を全力で展開している隠蔽部隊がいる場所まで運んで、用意されている転送用の魔道具を使って、私達の街に仕留めた獲物を届けるのが、基本的な流れだけどさ、歩いて30分くらいの距離だったら直に獲物を運んだりする。

っていってもねー、30分もかからないんだよね。
だって、壁にはさ、常に死の大地を監視する部隊が常駐しているから、15分くらい歩いてその部隊に合図を送れば、後は、街にいる手の空いた部隊が獲物を回収してくれる。
なので、まぁ、大目に見て一時間も経てば獲物を運んでいる騎士達が戻ってくるでしょう、暫くの間は、現場で待機って流れになるかなっと。
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