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Dead End ユ キ・サクラ (72)
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「待ちな!今回ばかりは!あたいもでるよ!」
後ろから私の体を突き抜けていくような、物凄い爆音によって、遠のいていく世界が一瞬で戻ってきた…背中にバンっと大きな衝撃が走る、忘れていた呼吸が戻ってくるかのように肺の中に溜まった悪い空気が抜ける。
「姫さんは、ここにいてな!後は…あたい達が何とかする!…大切な人を失う悲しみは、あたいもわかるよ」
振り返ると、鎧を身に纏ったおかみ…ううん、この出で立ちは女将じゃない、死の大地をその剛力で震わせ続けてきた粉砕姫…伝説の戦士マリン
巨大なスピーカーが如く、マリンさんから解き放たれる爆音が前方に向かって飛んでいく、肩を落とし、項垂れた人物に向かって
「カジカ!!!なに項垂れてんだい!年下に頼るのかお前は!男を見せな!」
私を突き抜けて飛ばされた爆音と共にマリンさんが私の横を通り過ぎていく、通り過ぎながら、ポンっと肩に置かれた手は…小さく震えていた…
「先輩!?いや、で、ぇ?」
横を通り過ぎて行ったマリンを追いかけるように、体の向きを、前方へと向き直すと、項垂れていた戦士が誰なのか把握する…ぁぁ、カジカさんだったんだ
「あんたってやつは!上に甘えて、下に甘えて!いつ男を見せんだ!お前は!ベテランって渾名はなんだい?腰抜けっていみかい?…違うだろ!!」
マリンさんが激を飛ばしながら、大地を震わせるように大きな音が鳴る。
ドンっと…大きな音が地面に広がり、私の足に振動が伝わってくる。マリンさんが愛用している武器、斧と槌が一体化している武器、その槌の部分で広場にいる全員を鼓舞するかのように大地を叩く。
その振動が…止まっていた私の心臓にも大きく響き、何処か遠くに行ってしまった世界が完全に思考とリンクし始める。
「違います!いや、違う!俺は、偉大なる戦士長の愛弟子!カジカ!誰がゆったか!ありとあらゆる武具を変幻自在に操り!繰り出すは千差万別!手数を変幻自在に生み出しどんな武器であろうと、我が手の如く!千の手数を持つ手練れ!千差万別!人呼んで戦いのスペシャリスト!!ベテラン!!俺に扱えぬ武器は無い!」
肩を落とし、頭を垂れ、見たことのない落胆した表情を見せていた人物とは…先ほどまで心が折れる寸前だった人とは思えない程に、表情に覇気が宿っている。
完全に正気を取り戻すだけじゃなく、闘うために必要な心の灯が燃え滾る様に輝いている。
その姿を見て釣られるように私の心も鼓舞されていく。明日を諦めない、未来を掴む為に希望を見出す!!
私って、まだまだ、駄目じゃんね、私ってさ…いつも、失ってから絶望のど真ん中に立たないと動けないのかって感じ…
違うでしょ!絶望ばかりに目を向けるな!希望を見いだせ!弱気になるな!
さっき見えたじゃん…私が最も信用できる人物が決死の表情をしているのが、見えたじゃないか!お母さんが病棟へと走っていくのを!!
まだ、希望はあると!まだ、未来はある!!全てを諦めるのはまだ早い!!ここで立ち上がらないと、全てを見失う!!
…それに…ここで、諦めたら私は一生、自分を許せなくなってしまう、だって、私を幾度となく助けてくれて、支えてくれた、恩を返しても返しきれない。大切な人の一人である女将は、まだ…
恐怖を克服していない
カジカさんと同様に、私の心、明日を諦めないという灯が轟々と燃え上がる様に宿る。
冷静に考えても、私が直接、動く方が全滅のリスクは大きく下がる。敵がどんなものであろうと、私が出れば…考えたくない選択肢だが…私が明日を捨てればどうとでもなる。
それに、街の最大戦力である二人をもしも、失ってしまったら…どの道、明日を諦めないといけなくなる。正念場ってやつがきたってこと!こういう日が来るっていうのは、いつかくるだろうって、呑気に考えていた時もある!…もう、覚悟は決まっている。未来を、託す覚悟は…出来ている。
大きな背中が二つ、その二つが高らかに祝詞を歌いながら転移陣に向かって歩いていく、その祝詞に割って入るように大きな声を出す。
「待ちな!」
自分でも驚いた、私でも術式に頼らずにこんなに大きな声が出せるなんて。
祝詞を歌っていた二人が振り返り驚いたような表情をしている、小さな笑みを浮かべながら…小さな存在を見守る様に、此方を見ている。
「二人だけで勝手しない!」
喉が裂けてもおかしくないくらい大きな声を出す。
私の叫びがおかしいのか、二人がより深く口角を上げて笑みを浮かべている
「誰か忘れてない?この街を支え、数多くの人型を仕留めてきた偉大な人物を忘れてない?」
昂る感情が抑えきれず、自然と目に涙が浮かぶ…脳裏に過る大切な人の笑顔が、私を更に奮い立たせる。
二人が私に釣られて同じように涙を浮かべている、そうだった、そうだったよね!!二人にとっても大切な人じゃん!
…辛いよね、大事な人だもんね…私だけじゃない…ユキさんが来て、勇気くんが来て…もう、一年も経つ!この街にいる多くの人が彼らを好いている!大切な人になっているんだ!仇を討つ!!仇を討たないといけない!!この恨みを晴らすのはこの街全員の総意だ!!!
なら、その総意を背負う人は誰だ!?
「その人物は誰?知ってるよね?叫んで!!誰が、この苦しみを晴らすの!?誰が、皆の心を背負うの!?叫んで!!」
「「「「我らが姫様!!!」」」」
広場に集まっている多くの人が叫び!大地をドン・ドン・ドン!!っと音を鳴らす様に地面を踏みぬきながらひーめ!ひーめ!!ひーめ!!!っと叫び続ける。
世界の中心は私だっていうのを、忘れさせない!相手にだって味方にだって!私がいることを忘れさせるわけにはいかない!!
全ての音を背負い、大きく息を吸い、覚悟を示す!!
「出るよ!!後は私に任せて!!」
決意を固めたセリフを叫ぶと、それに呼応して広場にいる全員が雄たけびを上げる、その声は一つとなり大きく大地を揺るがす。
この叫びは、死の大地にある防衛ラインを越え、人類が到達しては返ってこれないデッドラインを超え、人類未踏の大地にまで!!届いているだろう!!
…いつか、この声が届いたその先、その向こう、その奥へ私達は到達してみせると、言わんばかりの決意が漲った声だと、皆の決意を感じたような気がした。
思考がはっきりと定まったおかげなのか、唐突に、カジカさんが必死に語り掛けてきた内容を思い出すかのように再生される。
長々と話されていたような気がする、恐らく、状況報告も兼ねて話しかけてくれていたのだろう。もう一度聞き直すなんて、野暮なことはできないので、しっかりと記憶してくれた私の中にいる未来、過去、どちらかわからないけれど…私に感謝だね。
目の前にいるのは、激情に飲み込まれそうになりつつも自分なりに年下に不安を与えないように、ううん、きっと自尊心を保つためかな?平静を装っているカジカさんだ…
カジカさんが見てきた内容を細かくされど、かいつまんで教えてくれる。
自身のチームが担当しているエリアの巡回任務がある。吾輩が担当するエリアは接敵する敵が脅威になりやすい箇所である、吾輩のような熟練者が主に担当しているのである。
休憩が終わり、この先の未来を託すために存在感を示し始めている期待の騎士…託されたように感じてしまう、未来の戦士長であるユキと王都にいる武家出身の若い騎士達で構成されているチームが吾輩の代わりに巡回してくれている、今回の一件で敵の多くを殲滅で来たので、良い経験になるであろうと考え担当してもらっていた。
その考えが失敗だったのである、一言…今の状況が普段と違うと感じていたのに、一言…状況判断力に優れている姫様に相談しなかったのが、吾輩の落ち度である…
巡回任務に当たっているユキ達の部隊と交代するためになるべく駆け足で向かっていると、突如、目標地点の方角から地面を震わすほどの大きな音が伝わってきた。
何事かと音がした方向を見ると、今は夜だというのに、世界が昼間のように明るく輝いたと思ったら、先ほどと同じような…地面が震える程の大きな音が伝わってきた。
今まで経験したことのないモノは全て、危険である。長年、この死の大地で敵と闘いぬいてきたからこそわかるのである。
未知なるは、魔道具であると!!緊急事態!余談も許さぬ危険な状況が起きていると、判断した吾輩達の部隊は大急ぎで、全力疾走で、音がした場所に向かって駆けだしたのだ。
音がした場所が遠目で見えてくると…我が目を疑いたくなる悲惨な状況だった…
今まで、剛腕な人型の攻撃が直撃しない限り撃ち抜かれることがない、過去と違って予算も潤沢にし王都騎士団が持つ盾よりも分厚い盾が…半分以上溶けて、いる…
盾以外がどの程度…敵の攻撃に耐えれているのか…身に着けた鎧が原型を留めていなかった…脳裏に過るは、デッドラインの悪魔…アレが、現れたのだと…
ユキは、この様な状況だろうと、目に輝きが宿っていた。心折れることなく敵を見据え、鋭い眼光で敵を睨みつけながら、必死に盾を構え…敵の猛攻に耐えているユキの姿があった。
少しでも早く、状況打開の為に震えそうになる足に力を込め大地を蹴り続けながらも打開するために何をするべきか考える。
だが、学が無い吾輩では敵がどの様な攻撃を行ったのか思いつかないのである。
ユキの周囲は観察しても、理解が出来ないのである、あのような光景見たことが無いのである。
何をどうしたらそうなるのか、吾輩の長い人生で一度たりとも経験のしたことのない光景、どう頑張っても理解が追い付くことが出来ない状況…
草木が吹き飛び、大地の表面を吹き飛ばし、何もかもが土色に染まっていた。
徐々に近づいてくると、見えてしまったのである、ユキがどうして、盾を構えるだけ、防戦一方の状況なのか…吾輩が、ユキに新人を任せたのが失敗だったのである…優しいユキが、誰かを見捨てるような事が出来ないのはわかっていたのに…まだまだ、経験が浅いユキに任せてしまった吾輩が悪いのである。
草木が吹き飛び、地表が丸裸にされ土色に染まった大地…盾を構えるユキの後ろには…ユキと共に巡回任務に出ていた騎士達が倒れていた。
この状況だと、ユキが逃げることも、攻撃することも、状況を打開することがユキ独りでは出来ないのだと判断した、吾輩達は、頭に血がのぼり、歯を食いしばりながら、この状況を産み出した諸悪の根源である人型に向かって剣を抜き、我先に攻撃せんと向かったのであるが…
吾輩達は、間に合わなかったのである…
人型が持つ、杖のような魔道具の先端から放たれた光の粒がユキの近くで弾けるように光り輝くと…ユキが…吹き飛んでしまった…
目の当たりにした…心臓が驚き慄き止まるかと…
敵が放った、恐ろしく凄まじい威力を目の当たりにして頭に登った血が一瞬で降りていくのがわかった…血の気が引くというのはこういうことなのだと、実感した。
これ以上…敵の攻撃が続くようだと救える命も完全に救えなくなる
吾輩達全員の意思が何も語る事も無く目を合わせ合図を送る事も無く、同じ選択肢を選んだ。
姫様が念のためにと、全部隊に持たせている催涙液が入っている瓶を敵に目掛けて全員が同時に投げつけると、敵は此方に気が付いていないみたいで全て的確に敵の顔面周囲に瓶の中身をぶちまけることが出来た。
催涙液で、視界が奪えているだろうと判断し敵の攻撃が再開される前に救出を急ぐ。
敵へと攻撃するという意識を完全に捨て、直ぐにユキが居た場所に向かって走り抜ける、敵の攻撃によって足場が悪くなっているが、何とか、衝撃で地面に埋まってしまったユキに辿り着き、抱えると、吾輩達のチームがユキが守っていた騎士達を抱えているのを確認した後、全力でその場から逃げようとしたのだが
敵が此方に向かって大きな声で叫んでいた、催涙液は効果が無かったのだろう…
吾輩は死ぬつもりで敵を抑えつけようと片手剣を抜こうとしたのだが…
同じ部隊の…長年共に戦ってきた友が「こいつを倒せる戦力をここで終わらせるわけにはいかない。殿は俺がやる、お前たちは直ぐに帰還して救援を求めるんだ!」そう叫んで槍を持って敵に向かって命を捨てる覚悟で駆けて行ったのである。
吾輩達だって、お前と共に残って戦うべきだと、言う間も無く、敵が持つ杖の先端に光が集まるのを見た瞬間…このタイミングを逃したら全てが泡となって消えると…
四の五の言う時間が無いと判断し、吾輩達は、一人の戦士を残して傷ついた者を背負って、後方から凄まじい風を感じ、背中ら伝わってくる轟音が腹の底に響くのを感じながら逃げてきた…
転移陣によって帰還し、直ぐにでも人型が待つ現場に戻ろうとしたら、我らが頭脳が居るのが見えたのである!
吾輩達が見てきた情報は伝えたのである!!
我らが姫よ!我らに知恵を!力を!策を!!
もしくは!先の魔道具を貸してくれ!吾輩は…俺は!!師匠から託された大事なお子の仇を!!共に戦ってきた友の仇を討たねばならん!!
姫よ!どうか!俺に!先の魔道具を!!貸してくれ!!頼む!!!
師匠である戦士長から教わった戦う為に磨いてきた技術、何年も、何年も、研鑽を積み、憎き敵を討ち滅ぼす為に磨いてきた技術なんかよりも、より確実性のある道具をねだるなんて、プライドとか、そういうもの全てを置き去りにしてしまう程に…敵を殺したかったのだろう、今まで見たことのない形相だった…
それ程までに思いつめていたのに、肝心の私は…呆けていて、返事を返せていなかった、遺恨に繋がると良くないし、今のうちに返事を返しちゃおう。
憂いなく、死地へ向かいたいからね…この先、生きて帰れるなんて、誰もわからないもの。
後ろから私の体を突き抜けていくような、物凄い爆音によって、遠のいていく世界が一瞬で戻ってきた…背中にバンっと大きな衝撃が走る、忘れていた呼吸が戻ってくるかのように肺の中に溜まった悪い空気が抜ける。
「姫さんは、ここにいてな!後は…あたい達が何とかする!…大切な人を失う悲しみは、あたいもわかるよ」
振り返ると、鎧を身に纏ったおかみ…ううん、この出で立ちは女将じゃない、死の大地をその剛力で震わせ続けてきた粉砕姫…伝説の戦士マリン
巨大なスピーカーが如く、マリンさんから解き放たれる爆音が前方に向かって飛んでいく、肩を落とし、項垂れた人物に向かって
「カジカ!!!なに項垂れてんだい!年下に頼るのかお前は!男を見せな!」
私を突き抜けて飛ばされた爆音と共にマリンさんが私の横を通り過ぎていく、通り過ぎながら、ポンっと肩に置かれた手は…小さく震えていた…
「先輩!?いや、で、ぇ?」
横を通り過ぎて行ったマリンを追いかけるように、体の向きを、前方へと向き直すと、項垂れていた戦士が誰なのか把握する…ぁぁ、カジカさんだったんだ
「あんたってやつは!上に甘えて、下に甘えて!いつ男を見せんだ!お前は!ベテランって渾名はなんだい?腰抜けっていみかい?…違うだろ!!」
マリンさんが激を飛ばしながら、大地を震わせるように大きな音が鳴る。
ドンっと…大きな音が地面に広がり、私の足に振動が伝わってくる。マリンさんが愛用している武器、斧と槌が一体化している武器、その槌の部分で広場にいる全員を鼓舞するかのように大地を叩く。
その振動が…止まっていた私の心臓にも大きく響き、何処か遠くに行ってしまった世界が完全に思考とリンクし始める。
「違います!いや、違う!俺は、偉大なる戦士長の愛弟子!カジカ!誰がゆったか!ありとあらゆる武具を変幻自在に操り!繰り出すは千差万別!手数を変幻自在に生み出しどんな武器であろうと、我が手の如く!千の手数を持つ手練れ!千差万別!人呼んで戦いのスペシャリスト!!ベテラン!!俺に扱えぬ武器は無い!」
肩を落とし、頭を垂れ、見たことのない落胆した表情を見せていた人物とは…先ほどまで心が折れる寸前だった人とは思えない程に、表情に覇気が宿っている。
完全に正気を取り戻すだけじゃなく、闘うために必要な心の灯が燃え滾る様に輝いている。
その姿を見て釣られるように私の心も鼓舞されていく。明日を諦めない、未来を掴む為に希望を見出す!!
私って、まだまだ、駄目じゃんね、私ってさ…いつも、失ってから絶望のど真ん中に立たないと動けないのかって感じ…
違うでしょ!絶望ばかりに目を向けるな!希望を見いだせ!弱気になるな!
さっき見えたじゃん…私が最も信用できる人物が決死の表情をしているのが、見えたじゃないか!お母さんが病棟へと走っていくのを!!
まだ、希望はあると!まだ、未来はある!!全てを諦めるのはまだ早い!!ここで立ち上がらないと、全てを見失う!!
…それに…ここで、諦めたら私は一生、自分を許せなくなってしまう、だって、私を幾度となく助けてくれて、支えてくれた、恩を返しても返しきれない。大切な人の一人である女将は、まだ…
恐怖を克服していない
カジカさんと同様に、私の心、明日を諦めないという灯が轟々と燃え上がる様に宿る。
冷静に考えても、私が直接、動く方が全滅のリスクは大きく下がる。敵がどんなものであろうと、私が出れば…考えたくない選択肢だが…私が明日を捨てればどうとでもなる。
それに、街の最大戦力である二人をもしも、失ってしまったら…どの道、明日を諦めないといけなくなる。正念場ってやつがきたってこと!こういう日が来るっていうのは、いつかくるだろうって、呑気に考えていた時もある!…もう、覚悟は決まっている。未来を、託す覚悟は…出来ている。
大きな背中が二つ、その二つが高らかに祝詞を歌いながら転移陣に向かって歩いていく、その祝詞に割って入るように大きな声を出す。
「待ちな!」
自分でも驚いた、私でも術式に頼らずにこんなに大きな声が出せるなんて。
祝詞を歌っていた二人が振り返り驚いたような表情をしている、小さな笑みを浮かべながら…小さな存在を見守る様に、此方を見ている。
「二人だけで勝手しない!」
喉が裂けてもおかしくないくらい大きな声を出す。
私の叫びがおかしいのか、二人がより深く口角を上げて笑みを浮かべている
「誰か忘れてない?この街を支え、数多くの人型を仕留めてきた偉大な人物を忘れてない?」
昂る感情が抑えきれず、自然と目に涙が浮かぶ…脳裏に過る大切な人の笑顔が、私を更に奮い立たせる。
二人が私に釣られて同じように涙を浮かべている、そうだった、そうだったよね!!二人にとっても大切な人じゃん!
…辛いよね、大事な人だもんね…私だけじゃない…ユキさんが来て、勇気くんが来て…もう、一年も経つ!この街にいる多くの人が彼らを好いている!大切な人になっているんだ!仇を討つ!!仇を討たないといけない!!この恨みを晴らすのはこの街全員の総意だ!!!
なら、その総意を背負う人は誰だ!?
「その人物は誰?知ってるよね?叫んで!!誰が、この苦しみを晴らすの!?誰が、皆の心を背負うの!?叫んで!!」
「「「「我らが姫様!!!」」」」
広場に集まっている多くの人が叫び!大地をドン・ドン・ドン!!っと音を鳴らす様に地面を踏みぬきながらひーめ!ひーめ!!ひーめ!!!っと叫び続ける。
世界の中心は私だっていうのを、忘れさせない!相手にだって味方にだって!私がいることを忘れさせるわけにはいかない!!
全ての音を背負い、大きく息を吸い、覚悟を示す!!
「出るよ!!後は私に任せて!!」
決意を固めたセリフを叫ぶと、それに呼応して広場にいる全員が雄たけびを上げる、その声は一つとなり大きく大地を揺るがす。
この叫びは、死の大地にある防衛ラインを越え、人類が到達しては返ってこれないデッドラインを超え、人類未踏の大地にまで!!届いているだろう!!
…いつか、この声が届いたその先、その向こう、その奥へ私達は到達してみせると、言わんばかりの決意が漲った声だと、皆の決意を感じたような気がした。
思考がはっきりと定まったおかげなのか、唐突に、カジカさんが必死に語り掛けてきた内容を思い出すかのように再生される。
長々と話されていたような気がする、恐らく、状況報告も兼ねて話しかけてくれていたのだろう。もう一度聞き直すなんて、野暮なことはできないので、しっかりと記憶してくれた私の中にいる未来、過去、どちらかわからないけれど…私に感謝だね。
目の前にいるのは、激情に飲み込まれそうになりつつも自分なりに年下に不安を与えないように、ううん、きっと自尊心を保つためかな?平静を装っているカジカさんだ…
カジカさんが見てきた内容を細かくされど、かいつまんで教えてくれる。
自身のチームが担当しているエリアの巡回任務がある。吾輩が担当するエリアは接敵する敵が脅威になりやすい箇所である、吾輩のような熟練者が主に担当しているのである。
休憩が終わり、この先の未来を託すために存在感を示し始めている期待の騎士…託されたように感じてしまう、未来の戦士長であるユキと王都にいる武家出身の若い騎士達で構成されているチームが吾輩の代わりに巡回してくれている、今回の一件で敵の多くを殲滅で来たので、良い経験になるであろうと考え担当してもらっていた。
その考えが失敗だったのである、一言…今の状況が普段と違うと感じていたのに、一言…状況判断力に優れている姫様に相談しなかったのが、吾輩の落ち度である…
巡回任務に当たっているユキ達の部隊と交代するためになるべく駆け足で向かっていると、突如、目標地点の方角から地面を震わすほどの大きな音が伝わってきた。
何事かと音がした方向を見ると、今は夜だというのに、世界が昼間のように明るく輝いたと思ったら、先ほどと同じような…地面が震える程の大きな音が伝わってきた。
今まで経験したことのないモノは全て、危険である。長年、この死の大地で敵と闘いぬいてきたからこそわかるのである。
未知なるは、魔道具であると!!緊急事態!余談も許さぬ危険な状況が起きていると、判断した吾輩達の部隊は大急ぎで、全力疾走で、音がした場所に向かって駆けだしたのだ。
音がした場所が遠目で見えてくると…我が目を疑いたくなる悲惨な状況だった…
今まで、剛腕な人型の攻撃が直撃しない限り撃ち抜かれることがない、過去と違って予算も潤沢にし王都騎士団が持つ盾よりも分厚い盾が…半分以上溶けて、いる…
盾以外がどの程度…敵の攻撃に耐えれているのか…身に着けた鎧が原型を留めていなかった…脳裏に過るは、デッドラインの悪魔…アレが、現れたのだと…
ユキは、この様な状況だろうと、目に輝きが宿っていた。心折れることなく敵を見据え、鋭い眼光で敵を睨みつけながら、必死に盾を構え…敵の猛攻に耐えているユキの姿があった。
少しでも早く、状況打開の為に震えそうになる足に力を込め大地を蹴り続けながらも打開するために何をするべきか考える。
だが、学が無い吾輩では敵がどの様な攻撃を行ったのか思いつかないのである。
ユキの周囲は観察しても、理解が出来ないのである、あのような光景見たことが無いのである。
何をどうしたらそうなるのか、吾輩の長い人生で一度たりとも経験のしたことのない光景、どう頑張っても理解が追い付くことが出来ない状況…
草木が吹き飛び、大地の表面を吹き飛ばし、何もかもが土色に染まっていた。
徐々に近づいてくると、見えてしまったのである、ユキがどうして、盾を構えるだけ、防戦一方の状況なのか…吾輩が、ユキに新人を任せたのが失敗だったのである…優しいユキが、誰かを見捨てるような事が出来ないのはわかっていたのに…まだまだ、経験が浅いユキに任せてしまった吾輩が悪いのである。
草木が吹き飛び、地表が丸裸にされ土色に染まった大地…盾を構えるユキの後ろには…ユキと共に巡回任務に出ていた騎士達が倒れていた。
この状況だと、ユキが逃げることも、攻撃することも、状況を打開することがユキ独りでは出来ないのだと判断した、吾輩達は、頭に血がのぼり、歯を食いしばりながら、この状況を産み出した諸悪の根源である人型に向かって剣を抜き、我先に攻撃せんと向かったのであるが…
吾輩達は、間に合わなかったのである…
人型が持つ、杖のような魔道具の先端から放たれた光の粒がユキの近くで弾けるように光り輝くと…ユキが…吹き飛んでしまった…
目の当たりにした…心臓が驚き慄き止まるかと…
敵が放った、恐ろしく凄まじい威力を目の当たりにして頭に登った血が一瞬で降りていくのがわかった…血の気が引くというのはこういうことなのだと、実感した。
これ以上…敵の攻撃が続くようだと救える命も完全に救えなくなる
吾輩達全員の意思が何も語る事も無く目を合わせ合図を送る事も無く、同じ選択肢を選んだ。
姫様が念のためにと、全部隊に持たせている催涙液が入っている瓶を敵に目掛けて全員が同時に投げつけると、敵は此方に気が付いていないみたいで全て的確に敵の顔面周囲に瓶の中身をぶちまけることが出来た。
催涙液で、視界が奪えているだろうと判断し敵の攻撃が再開される前に救出を急ぐ。
敵へと攻撃するという意識を完全に捨て、直ぐにユキが居た場所に向かって走り抜ける、敵の攻撃によって足場が悪くなっているが、何とか、衝撃で地面に埋まってしまったユキに辿り着き、抱えると、吾輩達のチームがユキが守っていた騎士達を抱えているのを確認した後、全力でその場から逃げようとしたのだが
敵が此方に向かって大きな声で叫んでいた、催涙液は効果が無かったのだろう…
吾輩は死ぬつもりで敵を抑えつけようと片手剣を抜こうとしたのだが…
同じ部隊の…長年共に戦ってきた友が「こいつを倒せる戦力をここで終わらせるわけにはいかない。殿は俺がやる、お前たちは直ぐに帰還して救援を求めるんだ!」そう叫んで槍を持って敵に向かって命を捨てる覚悟で駆けて行ったのである。
吾輩達だって、お前と共に残って戦うべきだと、言う間も無く、敵が持つ杖の先端に光が集まるのを見た瞬間…このタイミングを逃したら全てが泡となって消えると…
四の五の言う時間が無いと判断し、吾輩達は、一人の戦士を残して傷ついた者を背負って、後方から凄まじい風を感じ、背中ら伝わってくる轟音が腹の底に響くのを感じながら逃げてきた…
転移陣によって帰還し、直ぐにでも人型が待つ現場に戻ろうとしたら、我らが頭脳が居るのが見えたのである!
吾輩達が見てきた情報は伝えたのである!!
我らが姫よ!我らに知恵を!力を!策を!!
もしくは!先の魔道具を貸してくれ!吾輩は…俺は!!師匠から託された大事なお子の仇を!!共に戦ってきた友の仇を討たねばならん!!
姫よ!どうか!俺に!先の魔道具を!!貸してくれ!!頼む!!!
師匠である戦士長から教わった戦う為に磨いてきた技術、何年も、何年も、研鑽を積み、憎き敵を討ち滅ぼす為に磨いてきた技術なんかよりも、より確実性のある道具をねだるなんて、プライドとか、そういうもの全てを置き去りにしてしまう程に…敵を殺したかったのだろう、今まで見たことのない形相だった…
それ程までに思いつめていたのに、肝心の私は…呆けていて、返事を返せていなかった、遺恨に繋がると良くないし、今のうちに返事を返しちゃおう。
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