最前線

TF

文字の大きさ
395 / 657

Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (9)

しおりを挟む
急いで広場に駆けつけると…周囲の状況は落ち着いている。
うん、この落ち着きよう、もはや人型と遭遇するのは日常になりつつある、危機感が足りていないのでは?って思ってしまうが、慣れるのと油断は別、誰しもが適度にひりついたような緊張感は持っている、油断はしていない。

周囲を観察していると、戦乙女部隊所属の人が駆け寄ってくれる、どうやら状況を伝えるために駆けつけてくれたみたい。
彼女が知る情報を受け取る…人昔なら私が直ぐにでも出撃するべき内容。

現れたのは人型が2体、されど、1体は自爆型で、既に自爆済み。
これによる被害は軽傷2名、もう1体は戦士長一団が対処に向かっている。
今のところ、魔道具の所持は見受けられない。ふむ、この程度であれば、私が出るまでもないかな。

真剣な顔立ちで如何なさいますかと指示を求められる。

受け取った情報、周囲の雰囲気から状況を判断する。
落ち着いた雰囲気、危険な空気を感じない、多少の事であれば問題なく対処できると信じられる、っであれば、私が出る必要性は無さそうかな?彼が向かっているのであれば問題ないんじゃないかな?
最終判断として、念のために誰が現場に向かったのか確認するとメンバーを聞いて最終決断が出来る、彼らなら問題なし。
彼らがちょうど集まっている時間帯に出てくるなんてね、敵からすれば、最悪のタイミングで出てきちゃったってことだね、あの三人が現場に向かっているのであれば問題なんてない。たぶん、直ぐにでも帰って来るんじゃないかな?千日手になる様な状況には陥らないでしょ。

指示を出そうとしたら
「おう!姫ちゃん!お疲れ様!」
大きな声で私の声が消される。そうか、早朝ってことは、彼女が持ち場から帰ってくる時間だよね。
後ろに振り返って大きな声の持ち主に返事を返す
「お疲れ様!マリンさんは、いま、帰ってきたとこ?」
愛用の甲冑に片手には愛用の大きな斧、笑顔で肩を回しながら、ズンズンっと足音を響かせながら近づいてくる
「おうさ!巡回任務を終えたとこさーね、惜しむらくは、すれ違いになっちまったってところさーね!ったく、あたいも参加したかったねぇ」
私からすれば過剰戦力だよ、タイミングばっちりだよ?ちゃんと休めれる時に休んで欲しい、働き過ぎなんだよマリンさんは

基本的に夜の巡回任務を担当してくれていることに対して、色々と気になることがある。無理をしていないか、確認は怠らない。
「いつも、夜ばっかり担当してない?大丈夫?家庭の事とか、さ、お母さんが居なくても大丈夫なの?」
育ち盛りで多感な時期の娘が二人もいるのに、戦士として外に出てもらい過ぎている気がするんだけど?娘さんとか、旦那さんから不平不満は出ていないの?
この質問をするたびに、優しい微笑みで返してくれる、この微笑みがある限り家庭円満なのだろう。

「何も問題ないさーね!従業員も増えていく一方!…あたいのする仕事が無くなっていくばっかりさ、娘達は増えていく従業員たちと一緒に駆けまわって毎日楽しそうにしてるさーね」
ん~、マリンさんの仕事が無くなることなんてないんじゃないのかな?その怪力を欲していないなんてあり得ないよ?
農場としてはマリンさんの怪力は重宝されていると思うんだけど?それに、子供達もお母さんと離れるのは寂しいんじゃないのかな?

本当に大丈夫なのか、もう一度確認する迄もなく、欲しい答えが慈愛に満ちた微笑みと共に流れていく
「問題ないさ、それにね、あたいはこれから家に帰るから、家族とは顔を合わせていないってわけじゃないさぁね。寝る前に、皆の作業を軽く手伝うし、家族としての団欒は、家族みんな、従業員たちと一緒に昼を共にして…娘達と軽く話をしてから寝ているさぁね。だから、姫様が家庭の事を気にすることはないさぁね!あたい達の事で頭を使う事ないさーね!」
心配かけさせまいと、ガッハッハと豪快な笑顔を見せてくれる。
こういう姿を見せている間は、きっと、大丈夫なのだろうけれど、私としてはさ、女将さんとして自分の店を経営してさ、裏方として街を支えて欲しいんだけどなぁ。今代のマリンさんは女将じゃないんだよね…

あの人に焚きつけられちゃったからなぁ…燻ぶり続けていた闘志が燃えてきちゃってて、誰もマリンさんを止められないんだよなぁ。
気がつけばトラウマも解消されちゃっている、やっぱり戦士長っていうのは心の柱になるんだね、彼らと共に幾度となく戦い続け、気が付けば、一人で夜を担当し始めていたんだよね。
「それじゃ、人型が出てきてるってのにさ、警戒態勢の仲、悪いけれど、装備を外してから家に帰らせてもらうさぁね、あたいが出るまでもないさ」
そういって笑顔でドシドシと地面を揺らしながら去っていく、その姿を見送ってから戦乙女に指示を出す。

今日みたいな布陣だったら、私が出る必要性はない。
彼らが揃っているのであれば、問題なんて無い、魔道具持ちだって対処してくれる。

承りました、何か急変があれば直ぐにでも知らせますっと、可愛らしい笑顔と共に持ち場に戻っていった。
うん、全体的にみんなの心に余裕がある、戦乙女ちゃん達からすれば憧れの人達と共に働けているし、憧れの人に鍛えて貰えているから、毎日が充実しているのだろう。
…ある不安が残っているけれど、こればっかりは、どうしようもないし、彼が来てから一年以上経過しても相手不詳の身ごもる人が出ていないからちゃんと自重しているのだと信じたい。念のために隣町のある大人の組合に応援を要請して正解だったかな?

混乱する事も無く、各々の持ち場をしっかりと的確に動き続ける信頼できる人達の流れを見て
安心して広場から離れ、自室へ戻るために踵を返し歩いていく。

さてっと、部屋に帰って、メイドちゃんが用意してくれたご飯でも食べようかなっと、回れ右をすると、一人の人物が目に留まる。
フラフラと足取りがよろしくない貴族のおぼっちゃんがいたので、上官としてねぎらいの言葉くらいかけてあげないとね。
頑張りなよっと一声かけると「いつか憧れの戦士長と共に大地を駆け抜けますよ」っと。青ざめた表情だけれど、勇ましい言葉が返ってきた。
その言葉は、私の心も満たしてくれる、憧れを抱かれる様な存在に成っちゃって、彼もそんな風に慕われているとしったら嬉しいだろうね。
貴族のお坊ちゃんも今は、マリンさんの荷物持ちだけど、頑張って成長したら憧れの戦士長と共に、大地を駆ける日もくるんだろうね。

後続も育ち、過去から現在、未来への懸け橋が繋がっていっていくのを肌で感じるのは悪い事じゃない。
ただ、惜しむらくは、私は現在で止まる。未来への懸け橋は技術と知恵っという形でしか残せそうもないのが悲しいかな。
臍の下を摩りながら、何とも言えない感情と共に歩いていく…



部屋に戻るころには何とも言えない感情は落ち着き、ドアを開けるとメイドちゃんが笑顔で丁寧なお辞儀と共に出迎えてくれる。
部屋に入り、机の上に向かって歩いていく。机に座って鐘が鳴り響いた一連の顛末を説明しながら食事を優雅に頂きたいところなんだけど、途中である音によって足を止められてしまう。部屋をノックする音が聞こえてきたので中に入ってもらう様にメイドちゃんに声をかけると、ドアが開かれ一人の人物が顔を出す。
部屋にやってきたのは、戦況報告をしにきてくれた騎士の部所属、オリンくんだった。
オリンくんの報告を受けては見たものの、判断を仰ぐな、今の状況でどう判断しろってのオリンくんからすれば定時報告なんだろうけれど、上官として先を示す必要性があるのはわかっているけれど、まだ言う時じゃない、まだ本気で攻めるタイミングじゃないからね、敵に関しては適当に相手をしておくのが正解

正解なんだけどね…
でもね、理性ではわかっているんだよ?感情を爆発させるなって。
でもね、敵が近くにいるのだと思うだけでさ、本音としては、感情のままに明日を忘れる勢いで蹂躙したい、今すぐにでも前線に出て憂さ晴らしをしたくなってしまう。
感情が溢れ出そうになるのを押し込めるのも大変なんだよ?

オリンくんに笑顔で報告ありがとうっと手を振って見送るが、心の奥底では火事のような炎が燃え続けている、気が付くと奥歯からギシリと音が聞こえてくる。

ドアが閉まり、部屋に静寂が訪れると、小さな呟きが聞こえてくる
「私は、指揮官っと言う立場ではありませんが、こうやって報告を受けていると、感じてしまいます。日々、敵との闘いが激化しているような気がするのは…気のせいでしょうか?」
うん、その判断は正しい、先ほどの報告でそう感じるのは正しいと思うよ?メイドちゃんがこの街に来た時に比べて圧倒的に敵と衝突する頻度は増えている。
悪い事ではあるけれども、全てが悪い方向に繋がってるわけじゃない、接敵し激突する頻度が増えるってことはさ、お陰様で、此方の戦士達は敵との闘いを幾度となく経験することに繋がる。
度重なる経験によって、この時代の戦士達は、どの時代の兵士達と比べてもさ、最も練度が高いと感じることが出来る。
今代が最も武力が整い、前線基地として正しいありようを示していると感じてはいる。情けない男はこの情景が気に入らないご様子だけどね、ったく、ほんっと情けない。

ちゃんと戦況を判断できるメイドちゃんは実は指揮官としての才能を持ち合わせているのかもしれない、惜しむらくは心が弱いのがダメなんだよなぁ…
冷静に周囲の状況を判断できるってのは稀有な才能なんだけどなぁ…んー、色々と惜しい子だよね、私としては…お母さんと共に未来の担い手になってもらいたかったんだけどなぁ。

ふぅっと、心の中でため息を吐き捨ててから、状況判断が出来ていることを褒めてあげないとね
「気のせいじゃないよ、確実に敵の量は増えてきているし攻めてきている、過去の情報と今の情報を照らし合わせて冷静に判断で来てて偉いよ」
褒めてから、折角用意してもらった朝ご飯を食べ始める。もそもそと口の中に用意してもらったパンを小さくちぎりながら放り込んでいると
「…激化していく戦時の最中に…昨晩は本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げてもらっても困るかな?だって、そうなる元凶は私にあるし、さらに言えば、この情勢になったのも敵がいるからだからね。
第一!メイドちゃんが隠者共の元締めじゃないんだから、謝られてもね?指令を出している大国のボスが悪い。此方の寝首をかくことしか考えていない野心家が悪い。
ぶっちゃけると、お前たちがこの基地を、この大陸を手中に収めても、直ぐに崩壊するよ?獣共の手によってね…大国に一体だけ人型を送り込んで骨の髄まで獣共の脅威を知ってもらいたいよ。
「メイドちゃんが謝る必要性は皆無、貴女の所属は向こうではなく此方でしょ?些末なことを考えてないで、貴女は私の傍で全力を尽くしなさい。大国が何を言おうがどんな指示を出してこようが無視していいよ、大国如き私達の敵じゃないから、守ってあげるから安心しなさい、それに、もう橋渡しは終わっているから、メイドちゃんが大国に出向くことは金輪際ないから大丈夫」
色々な理由で口の中が渇いて仕方がない。
紅茶で口の中に潤いを取り戻していると、小さく細い返事が聞こえてくる。本当にもう、涙もろいなぁ、今代のメイドちゃんは心が弱い。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

精霊王の愛し子

百合咲 桜凜
ファンタジー
家族からいないものとして扱われてきたリト。 魔法騎士団の副団長となりやっと居場所ができたと思ったら… この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

【完結】温かい食事

ここ
ファンタジー
ミリュオには大切な弟妹が3人いる。親はいない。どこかに消えてしまった。 8歳のミリュオは一生懸命、3人を育てようとするが。

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

異世界ラーメン屋台~俺が作るラーメンを食べるとバフがかかるらしい~

橘まさと
ファンタジー
脱サラしてラーメンのキッチンカーをはじめたアラフォー、平和島剛士は夜の営業先に向けて移動していると霧につつまれて気づけばダンジョンの中に辿りついていた。 最下層攻略を目指していた女性だらけのAランク冒険者パーティ『夜鴉』にラーメンを奢る。 ラーメンを食べた夜鴉のメンバー達はいつも以上の力を発揮して、ダンジョンの最下層を攻略することができた。 このことが噂になり、異世界で空前絶後のラーメンブームが巻き起こるのだった。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

置き去りにされた聖女様

青の雀
恋愛
置き去り作品第5弾 孤児のミカエルは、教会に下男として雇われているうちに、子供のいない公爵夫妻に引き取られてしまう 公爵がミカエルの美しい姿に心を奪われ、ミカエルなら良き婿殿を迎えることができるかもしれないという一縷の望みを託したからだ ある日、お屋敷見物をしているとき、公爵夫人と庭師が乳くりあっているところに偶然、通りがかってしまう ミカエルは、二人に気づかなかったが、二人は違う!見られたと勘違いしてしまい、ミカエルを連れ去り、どこかの廃屋に置き去りにする 最近、体調が悪くて、インフルの予防注射もまだ予約だけで…… それで昔、書いた作品を手直しして、短編を書いています。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

処理中です...