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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (8)

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一呼吸するたびに鼻の奥へと心地よい香りが届き、深海の奥に住まう深海魚の様に誰にも悟られないように会議中の私達が豊満な香りによって朝になったのだと理解し、会議は終了を告げる、深海のような水中から抜け出る様に一人がゆっくりと浮上していき、水面下から顔を出すと静かな水面が大きく揺れ湧き上がる衝動が胸を叩く。

嗚呼、今日も私の鼓動は強く荒れている。

瞼をゆっくりと開き、視界から情報を得ていく。
窓から差し込む光が優しく感じる、朝だ。そして、豊満な香りは…うん。王室御用達の茶葉かな?メイドちゃんってそれ好きだよね。

部屋の奥から漂ってくる香りで今日はどの茶葉なのかわかってしまう程に、幾度となく私はこの香りと言う名の日常に包まれている。ずっとこんな穏やかな日常で在れば、どんなに幸せなのかと、思わない日は一度足りとてない、これが幸せの一つだと言われたらそうだよって教えて上げれる様な、世界を目指す為に今日も胸に燃え滾る様な衝動と共に体を起こす。

香りと共に鼻歌が漂っているのをバックミュージックとし、ゆっくりとベッドから降りると、ベッドの脇には今日の予定に合わせた服が用意されているので、ネグリジェから作業着に着替える。こういう細かい気配りが出来るのがメイドちゃんの良い所だと思うけれど、気になるのはちゃんと寝ているのだろうか?っという点。
今代のメイドちゃんはメイクで隠しているけれど目の下にずっとクマを作り続けている。
メイドちゃんの精神状況も気にはなるけれど、気にし過ぎていても致し方ない、その原因を取り除くのは難しい、私が藪にいる蛇を突いた結果だもの。
さて、今日の予定を考えると直ぐに動く必要はない、時間的にまだまだゆっくりと出来るから、直ぐに着替える必要性は無かった、この作業服はあまり可愛くないから、もう少しネグリジェでゆったりしていても良かったかも?

作業服、通常隊服って皆が呼んでいるこの街で作業をする時に着てもらおうと用意した作業服。
この隊服ってのはね、ただの服じゃない、ちゃんと防塵を施しているので見た目以上に長持ち頑丈!そして、鎧に比べて軽い!我ながら良い物を作ったものだよ。って頷いてしまう、出来ればもう少し可愛く作りたかった…せめてスカートだけでも作ってみようかな?同じ素材で。
どんな時で在れ、どんな状況で在れ、彩ってのは大事だよね、彩りを無くしてしまっては心が荒んでいくからね。はぁ、お洋服屋さんとか誰か運営してくれないかな?この街で。

日々の彩については後々だよね、世界が平和になれば自然と発展する、今後の激戦に向けて私が用意するべき戦闘服が出来上がれば…私個人の準備は終わりかな?
決戦用の魔導システムは構築済み、施術方法も確立済み、人体実験のデータも…私の中にある人物が全て用意してくれた。問題はない。

胸に手を当てて感謝を捧げると、にししっと照れた様な笑い声が聞こえてきたような気がした。

靴を履いて、トントンっと、つま先を地面に蹴って踵を合わせていると音によって気が付いたのか鼻歌と言う名のバックミュージックが止まり、声が聞こえてくる。
「あ!起きられたのならベルで知らせてくださいよ姫様ー!」
声と共に、パタパタとスリッパが地面を叩く音を出しながら、急いでこっちに駆けつけようとしてくれるのはいいんだけど、まだネグリジェじゃん、珍しくメイド服に着替えてない、ん~…これは、私が起きるのって、メイドちゃんからすれば予想外に早すぎたかも?…それにしても、メイドちゃん…ネグリジェって透けるっていう特性を忘れてないのかな?私は気にしないけれどさ、誰か訪れる、可能性は無いか、それ程までに早朝だもんな。でも、一応、上司として注意しとこう、かな?
「ちゃんと下着つけないと垂れるよ?」
ネグリジェから薄っすらと見えたモノに対して注意すると
「寝苦しくて、つい、外しちゃいました」
可愛らしい返事が返ってくるから、まぁいいかっと思ってしまう。
ん~まぁ、いいかな、この部屋にこっそりとやってくる男性なんていないからいいけどさ、恥じらいないの?…って、言いたいけれど、人の事、言えないなぁって、自覚している部分もあるから深くは注意しない。上司とはいえ、プライベートにまで踏み込むのは良くない、よね?…どうなんだろう?よくわからなくなってきた。
手前に思った事が直ぐにどうでも良くなってしまう程にメイドちゃんの照れた様な笑顔が可愛かった。心なしか昨日よりも顔色が優れている様に感じたのもあるのかもしれない。

「姫様、早朝ではありますが、何か、お仕事がありますよね?」
机がある方向を指を刺してすました顔をしている。この意図が汲めないほど私達の関係は浅くない。
はいはい、まったく、変なところにプライドあるよね?付き合ってあげるのも雇い主としての務めだよね。

彼女の思い描く意図通りに動いてあげる様に、机に座り、引き出しから書類を取り出して私の視界をメイドちゃんから外させる、その間に、メイドちゃんは手早くメイド服に着替え、丁寧に脱いだ服を畳み、私が脱ぎ散らかした寝巻も綺麗にたたんでいる。

畳み終えるとパタパタとスリッパの音を部屋に響かせながら台所へ向かっていく、靴を履きかけ忘れているのは、紅茶の風味を優先したのだろう。
「おはようございます、姫様」
会釈をする程度に頭を下げながら、淹れたての紅茶を机の上に置いてくれるので、うむっと出来るだけ声を低くして返事を返し、貴族とメイドと言えばこうだよねっという雰囲気を出しながらティーカップを持ち口元へ近づけ…おっと、いけない作法がなっていない行き成り口につけてはいけない、まずは、香りをかぎ、その後にゆっくりと唇を湿らせるように口をつける…うん、熱い。もう少し冷めてないと飲めない。あちち。
「うむ、今日も良い一日となろう、下がってよいぞ」
「お褒め頂き光栄です」
スカートの両端を掴んで丁寧にお辞儀をした後、台所へ下がっていくのだが、足音が変わっている。
今度は、足音を鳴らさずにすり足気味で台所に向かっていく、メイドとしての流儀として足音を派手に鳴らすのは良くない、そういった流儀をメイドちゃんはしっかりとしている、特に人が増えてから。
気のせいかもしれないけれど、奥へと去っていく後姿はどことなく機嫌が良さそうだと感じた。

貴族のような優雅な流れを堪能していたら、私達の日常が直ぐに戻ってくる
「っで!姫様~今日は起きられるの早くないですかー?何時もだったら、こんな時間に起きないですよねー?」
メイドとしてどうなの?ってツッコミを入れてしまいたくなるほどに気安く話しかけられる、それも台所の奥から…私達の関係はこれくらいがちょうどいい、姉と妹のような家族のような関係の方が落ち着く…のは、良いんだけど、非難される様な内容だけれど、しょうがないじゃん、起きちゃったものは仕方ないじゃんね?

きっかけは、紅茶の香りだというのは伝えてしまうとメイドちゃんが私のせいだと思ってしまうので、気を使ってあげないとね。
台所の奥へ届く程度の声量で返事を返す、声色も何時も通り、優しく語り掛ける様に。
「何となく目が覚めちゃったの!そういう日ってさ、あるよね?」
「ふーん?ん-、それじゃそういうことにしておきますー!お食事取られますかー?」
返事が直ぐに返ってくる辺り、私がどういう返事を返すのかある程度想定済みってことか、その想定してある内容に含みを感じる返事だなぁ…
何だろうなんて勘ぐらないよ、こっちだってそっちが考えている内容はわかってるよ、まったく、貴女だって恋愛脳だよね?お母さんの事を馬鹿にできないよ?たまたま、今日の予定がそうだからって、ついつい楽しみにしているから早くに起きたってわけじゃないからね?まったく、お母さんといい、メイドちゃんといい、恋バナが好きだよね。
…私もその手の話は嫌いじゃないからいいんだけどね。だって、誰かを好きになって誰かを想いあうっていうのは、良い事じゃん?

誰かと想いあい、幸せな未来を願う日々を送れるような日を迎えれる様にする為に、日々のコンディションを整えるのは大事、されど…
「軽くでいいかなー?」
「は~い、承りましたー」
台所から出てくると完全に足音が変わっていた、台所で履き替えたのだろう、何時もの様に小さなコツコツとした音になっている。
足音が鳴りやすい靴に履き替えたとしても、メイドとしての嗜みとして部屋の中に足音を響かせないように綺麗に歩き、台所から持ってきた焼き菓子を乗せた小皿を置き、綺麗な動作で部屋を出ていく。
食堂に料理を取りに行ったのだろう。こんな早くに食堂は…時計を見て作業している時間だとわかる。ひと昔だとルッタイさんも寝ている時間。

だけど今となってはそうもいかない、人が増えてきた影響もあって下準備に物凄く時間がかかってしまうから、食堂はほぼ24時間稼働している。
人が増えた影響もあって、食堂を大きく大改装してはあるんだけど、それでも、席は食事時には満席になる。
そんな過酷な状況を長年食堂を支えてきて皆から食堂のおばちゃんっと慕われているルッタイさん一人で支えているわけじゃない、当然、食堂で働く人はかなり増えた。
昔からこの街を支えてきた人を下げる必要もないので、そのまま流れていくように彼女には料理長っという肩書を与えられた、本人はその肩書に対して大変不服そうにしていたけれどね。

本人としては、しゃれた場所で働いた事も無いのに、料理長なんて肩書重くていやだってさ。
この街でずっとずっと、働いてくれていたから、王都とかの料亭とか、そういうところは無縁だもんなぁ。

無縁だけれども、ルッタイさんが作る料理は基本的にみんなから大好評だよ?だって、料理のレシピに関しては、方々から用意して渡してある。それにね、味付けは無難な感じになるけれど、味の決め手ってさ、つまるところ鮮度じゃん?それに関しては問題ない、だって食材の殆どが採れたて新鮮だもの、農場が直ぐ近くにある利点だよね。
それにね、地方からの料理に心得のある人も多く駆けつけてくれてその影響もあってルッタイさんの料理の腕は日々向上し続けている、王都にある庶民食堂を営んでいる人達よりも上だと思うけどね。
ルッタイさんは世界を知らないだけで、あなたの作る料理は誰からも賞賛を与えられているんだよって、伝え続けてあげないとね。

毎日を支えてくれる人たちの事を想いながら、紅茶を飲み、焼き菓子を口の中に放り込み口の中に広がる豊かな風味に感謝を捧げていると、沸々と湧き上がるこの優しい世界を壊そうとする奴らの怨讐…その怨讐に導かれる様に音が聞こえてくる。
はぁ、朝からの一連の流れだけを見れば、本当に理想的な世界なんだけどね…

カーンカーンっと鐘が叩かれる音が聞こえる。
はぁ、今日もまた激しくなりそうだ。

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