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洋子ちゃんと柴犬 1

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 社会科見学で街の工場を見学した後、時間調整のためか動物と触れ合えるパークに来ている。

 家では犬や猫と一緒に暮らしている私にとって、そこまで特別感はないけど、本来では授業中な訳だし、何よりクラスのみんなで訪れている事で、きっと面白い事が起こると確信している。

 パーク内では犬や猫、うさぎやカピバラの他、山羊や馬など、たくさんの動物たちと触れ合えるようだ。

 色々な動物と触れ合えるのだが、私は同じ班でクラスメイトの洋子ちゃんと二人で犬を見ている。

 犬なんて家に帰れば会えるのだが、なぜ犬かというと。

 どうやら洋子ちゃんのお母さんが犬アレルギーだかで家で飼えないらしく、それでこの機会に犬と触れ合いたいそうなのだ。

 これは格好の良い時間潰しが出来そうだと私のセンサーがもうビビビ、ビビビと反応して鳴り止まない。

 「ねぇねぇ晶子ちゃん、本当に犬は噛まない。怖くない。」

 早速、普段触れたこともない洋子ちゃんが怖いもの見たさ全開で私の後ろに回り、隠れるように柴犬を見ている。
 
 これこれこれ。この怖がっている感じ。最高ではないか。安心させて、そして慣れてきたところでちょっと脅かしてやろうなんて思って

 「もちろん大丈夫だよ。ほら見て見て、ワンちゃんったら、頭を撫ぜてもらいたくてしっぽをふりふりしているよ」

とそれらしい台詞の後に、犬越しに洋子ちゃんを見る。洋子ちゃんは両手を不安げに重ねて口の辺りに寄せている。ぶるぶると子羊のように震えさせているではないか。

 「怒ってない。大丈夫かな」

 まだ、警戒しているらしい。大丈夫だって、犬が噛むなんて野良犬じゃない限りそうそうないでしょと内心思いながら、けけけと笑った。

 「晶子ちゃんいいな。そんなに犬に触れられて、私も犬に触れるようになりたい」

 洋子ちゃんは私を憧れの眼差しで見ていた。

 いい気味だ。どうだ、よく見ろ私を。犬だって触れるんだぞ。洋子ちゃんは触れないけど、私は触れるぞと見せつけるように柴犬の頭をなぜなぜしながら、犬を見ているふりをしてずっと横目で洋子ちゃんを見ていた。

 もうこんなことだって出来ますみたいな感じになって、柴犬の頭の他に顎や耳、背中などをゴシゴシ撫ぜた。

 その度、洋子ちゃんは
 「晶子ちゃん、凄い凄い。」
って歓喜をあげている。これだから堪らない。犬が触れる事なんて特段大した事ではないのだが、犬が苦手な子からしたらもう英雄扱いなのだ。

 私は英雄になったつもりで、
 「さあ、洋子ちゃんもそろそろ犬触ってみたら」
と左手を柴犬の頭に乗せ、右手の親指を立て、ウィンクしてみせた。

 洋子ちゃんは
 「うん。私、やってみる」
というなり、犬に近づく。
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