4 / 4
洋子ちゃんと柴犬 2
しおりを挟む
本当にゆっくりであるが少しずつ少しずつ近づいて、遂に右手を柴犬に伸ばした。
「あ。やっぱりだめ、怖くて目をあけていられないわ」
と洋子ちゃんが叫ぶと目を閉じたまま、しかし右手を伸ばし続けた。
柴犬はゆっくりであるが確実に背後に忍び寄る洋子ちゃんの右手に警戒心が高まり、鼻と口のあたりに皺をつくりヴヴゥゥゥと唸り始めている。
これは噛まれる。これは噛まれるぞ。
野良犬でもない柴犬にクラスメイトの洋子ちゃんが噛まれますって頭に流れた。
噛まれたら血が出るかな。どうかな。社会科見学の日に時間調整で立ち寄った、動物触れ合いパークで噛まれます。なんて、もうどうしようって私の頭の中いっぱいに洋子ちゃんが噛まれる事で充満した。
近くに他のクラスメイトはいないかな。出来れば一人でも多くの人に見てほしい。洋子ちゃんが噛まれるところを。
そして、洋子ちゃんにとって英雄の私が「大丈夫かい、洋子ちゃん。言ったじゃない、犬に慣れた頃が一番危ないんだよって」と言おうと決めた。
併せて先生には「洋子ちゃんが犬に慣れてきたところで、手を伸ばしたら噛まれました。私は充分注意したのですが」って報告しようとも決めた。
さぁどうぞどうぞ噛んで下さいお犬様という段階で、洋子ちゃんが不安定な姿勢の中、ゆっくりと手を伸ばしたためか、大勢を崩して伸ばしていた右手が急に加速して柴犬に迫った。
そしてなんと洋子ちゃんの右手、人差し指と中指の二本の指が柴犬のお尻付近に生えているふわふわした毛を掴んだまま、地面に倒れる形で柴犬の毛がむしりと大量に抜けた。
ギャギャギャヴヴゥゥゥゥン
って、柴犬って鳴けるのねって思うと同時に柴犬の目の前にいた私の腕をかぶりと噛んだ。
私は目が飛び出るかと思うほど両目を広げ、口を横長に開いて歯を食いしばると
「ギャン」
っと小さく犬のように鳴いた。私はそのあと少しの間、気を失っていたようだ。
何やら声が聞こえる。
声の感じから、どうやら洋子ちゃんが先生に状況を説明してくれているらしい。
良かったこれで安心だ。
「先生、私は晶子ちゃんに充分注意したんです。犬は慣れた頃が一番危ないんだよって。それなのに晶子ちゃん、調子に乗って犬に噛まれて。せっかくの社会科見学の日なのに。きっと今日という日を晶子ちゃんだけでなく、誰もが忘れられない日になってしまった事でしょう。本当に残念な人です」
そうそう。私が慣れてきたところで犬に噛まれて。
ちゃうわ。
あんたが犬の毛をひん剥いたからでしょと思ったが、あまりにも私を囲むクラスメイトの多さと、その皆んなの笑いを必死に堪える顔を見て、薄らと開けていた目を静かに閉じた。
閉じる瞬間、柴犬の頭に左手を乗せ、右手の親指をピンと伸ばしてグーのポーズをとる洋子ちゃんが目に映った。
「あ。やっぱりだめ、怖くて目をあけていられないわ」
と洋子ちゃんが叫ぶと目を閉じたまま、しかし右手を伸ばし続けた。
柴犬はゆっくりであるが確実に背後に忍び寄る洋子ちゃんの右手に警戒心が高まり、鼻と口のあたりに皺をつくりヴヴゥゥゥと唸り始めている。
これは噛まれる。これは噛まれるぞ。
野良犬でもない柴犬にクラスメイトの洋子ちゃんが噛まれますって頭に流れた。
噛まれたら血が出るかな。どうかな。社会科見学の日に時間調整で立ち寄った、動物触れ合いパークで噛まれます。なんて、もうどうしようって私の頭の中いっぱいに洋子ちゃんが噛まれる事で充満した。
近くに他のクラスメイトはいないかな。出来れば一人でも多くの人に見てほしい。洋子ちゃんが噛まれるところを。
そして、洋子ちゃんにとって英雄の私が「大丈夫かい、洋子ちゃん。言ったじゃない、犬に慣れた頃が一番危ないんだよって」と言おうと決めた。
併せて先生には「洋子ちゃんが犬に慣れてきたところで、手を伸ばしたら噛まれました。私は充分注意したのですが」って報告しようとも決めた。
さぁどうぞどうぞ噛んで下さいお犬様という段階で、洋子ちゃんが不安定な姿勢の中、ゆっくりと手を伸ばしたためか、大勢を崩して伸ばしていた右手が急に加速して柴犬に迫った。
そしてなんと洋子ちゃんの右手、人差し指と中指の二本の指が柴犬のお尻付近に生えているふわふわした毛を掴んだまま、地面に倒れる形で柴犬の毛がむしりと大量に抜けた。
ギャギャギャヴヴゥゥゥゥン
って、柴犬って鳴けるのねって思うと同時に柴犬の目の前にいた私の腕をかぶりと噛んだ。
私は目が飛び出るかと思うほど両目を広げ、口を横長に開いて歯を食いしばると
「ギャン」
っと小さく犬のように鳴いた。私はそのあと少しの間、気を失っていたようだ。
何やら声が聞こえる。
声の感じから、どうやら洋子ちゃんが先生に状況を説明してくれているらしい。
良かったこれで安心だ。
「先生、私は晶子ちゃんに充分注意したんです。犬は慣れた頃が一番危ないんだよって。それなのに晶子ちゃん、調子に乗って犬に噛まれて。せっかくの社会科見学の日なのに。きっと今日という日を晶子ちゃんだけでなく、誰もが忘れられない日になってしまった事でしょう。本当に残念な人です」
そうそう。私が慣れてきたところで犬に噛まれて。
ちゃうわ。
あんたが犬の毛をひん剥いたからでしょと思ったが、あまりにも私を囲むクラスメイトの多さと、その皆んなの笑いを必死に堪える顔を見て、薄らと開けていた目を静かに閉じた。
閉じる瞬間、柴犬の頭に左手を乗せ、右手の親指をピンと伸ばしてグーのポーズをとる洋子ちゃんが目に映った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
ありがとうございます✨
とても励みになりますー☺️