CYBER

Eve

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常識は通用しない

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     *2127年 4月 6日*



タッタッタッタ……


騒つく人並みの中、5センチほどの小さなヒールをかけて行く。



 はやくしないと!!遅れちゃう!!



時計を何度も見ながら少女は街の中をかけて行く。


商店街。たくさんの人もいて少女は何度も人にぶつかる。



 あぁーもう!こんなんじゃ本当に、待たせちゃうよ!



少女はついに膝に手をついた。

ハァハァと息をするのも辛いくらい走ってしまった。


なぜ、車などを使わないのだろうか。それはただ単に少女にお金というものがないだけ。




時計はすでに9時45分をさしている。


 やっぱ、もうだめだー45分も遅刻してる!!


バスに乗って1時間、そこで財布を家に忘れてたって、こんなドジで馬鹿、どこにいるっていうんだろう



 「もおおおおーーーーっっ!!!」



少女は喘いで思いっきり床を蹴飛ばした。

周りの人が見てるけど、そんなの気にせずに涙が出てくる。



 「よぉ、姫ちゃん!」



突然後ろから声がして、姫と呼ばれた少女はくるっと振り返った。


手を振って楽しそうに笑っている少女。そして2人の少年。


真っ黒で綺麗な髪の毛をしている少女。彼女のきれいな髪は肩したまで。頭には真白なリボン。


右目にある涙黒子がとっても可愛らしい。



そして後ろにいる少年は、一人は背がすらっと高く真っ黒な髪。もう一人は、綺麗な金髪。

三人とも美形揃いだ。



そんな三人を見て姫と呼ばれた少女は涙をポロリと流してしまった。



 「もう!!みんな何してんのよぉぉぉ!!こんなところでえ!!」



 「あーやれやれ、45分も遅刻とは、いい度胸だぞ」



少女が甲高い声でにっこりと笑う。




 「おいおい、姫奈。いつまでたってもそんなガキでいるなよな」


黒髪の少年はクスッと笑った。



 「だって!本当!久しぶりなんだもん!!みんな!会いたかった!!!」



姫と呼ばれ、姫奈とも呼ばれた少女は三人に飛びついた。


グループハグというものだろうか。




そう、この4人は、2年前に生き離れしてしまった…兄妹なのだ。




綺麗な金髪にウェーブをかけたこの少女は、月雛 姫奈 (つきひな ひいな) 高校1年生



肩下までの黒髪。涙黒子がチャーミングな元気な女の子は月雛 美帰 (みかえ) 中学2年生



綺麗な金髪の髪の毛。背は男子ではきっと小さめな月雛 千尋(ちひろ)中学3年生



黒く綺麗な髪にすらっと伸びた身長。モデルのような体つきは月雛 玲(れい) 高校2年生



 「全く、姫ちゃん、忘れてたのかと思ったよ!あの約束!」


美帰は呆れた声でそういった。




 「わ、忘れるわけがない!!!」



姫奈は思わず大声で答えた。


  
  あの約束を…絶対に忘れるわけない…。大好きなみんなと会えるこの日を…



2年前、4人はみんな別々の場所に行くことになってしまった。

そしてその日、みんなで『2年後。4月6日にこの原っぱで会おう』と約束をしたのだ。



 「結局、姫奈だけは約束守れなくて、こーんな街中でメソメソ泣いてる始末とは」



そんなことを言う玲に姫奈は頬を膨らませた。



 「泣き虫なのは変わらないけど、大きくなったね、姉さん。美人になってくよ」



千尋はそう言ってフワフワした笑顔を浮かべた。

 一応兄妹なのに…

そんなことを思いながら姫奈は顔を赤くした。


千尋の笑顔は、ホワホワして、とっても美形だ。

兄妹である姫奈も美帰も可愛い、カッコいいと思うことは昔からあった。




 「ところで、どうして、みんなは私がここにいるって?」


姫奈がそう聞くと美帰は「へへん」と偉そうに笑った。


そして腰のあたりから黒い銃を姫奈に向けた。



 「ただーんっ!あたしのセルフバティよっ!ふふん!姫ちゃん、あたしのアビリティーを甘く見ないでよね」


 「わぁーっ!それ、美帰のセルフバティ?!いいパートナーね!」


 「あったりまえでしょ?これで、姫ちゃんの場所、すぐに分かっちゃった!」



美帰はそう言って空に一発撃つと、水色の透明な丸い光が出てきた。

そして宙でそれは止まり、今度は横に広く光が広がって行った。そして、そこにはこの街の図のようなものが浮かんできた。



いつのまに凄いデルフバティーゲットした美帰に姫奈は驚きを隠せなかった。



「ほら、これで、誰がどこにいるか、分かるのよ!」



確かに、浮かんで来た地図には赤い丸、黄色い丸がついている。

姫奈のいる場所には三つ赤い丸。一つ緑色の丸。他のところにもちょこちょこ黄色い丸があり、それが動いている。


セルフバティは、持っている人の体と心、脳が一つになっている。

だから、美帰のセルフバティは美帰用。


赤い丸が、美帰の知ってる人で、黄色い丸が他の人。緑の丸が美帰自身を表している。




 「美帰、凄いわね。一体誰にこんなセルフバティを脳にコネクトしてもらったの?」


 「指導の先生!結構、調整が得意らしくて、いろーんな機能を作ってもらったのよ!今ではこのマーサは私の親友ってかぁー…夫みたいなものだよ~」


 「ま、マーサって名前つけているのね…」



姫奈は苦笑いをした。


すると、今度はポカッと頭に重さを感じた。


みてみると、玲が姫奈の頭に腕を載せて微笑んでいた。



 「セルフバティの調整と注入、データ削除は俺も得意だ。なんなら姫奈のもメンテナンスしてやるけど?」


まさか、玲がセルフエンジニア志望だったのは姫奈も知っていたけど、そこまで技術をつけていたとは思いもしなかった。



姫奈はスッとポケットから小さな四角いものを出した。


携帯のようで縦が長い。白いものだ。これは姫奈のセルフバティだ。



姫奈はそれを胸のあたりでぎゅっと握りしめた。



 「今度…やってもらうわね」



姫奈はそう微笑んだ。



 「さぁーてと、どっかレストランでも言ってゆっくりお話ししよっか。せっかくの再開だもの!どこかに入ろう!」



美帰はそう言ってセルフバティを腰のところに戻した。


美帰の腰には黒いベルトみたいなのがあり、そこに銃をいれることができるようだ。



 「ま、そうだね!いろいろお話もしたいし…姉さん、兄さん、美帰、僕、いいところ知ってるよ」



千尋はそう言ってにっこりと笑った。


 「うん!じゃあ、早く行こう!!私も話したいことがいーっぱいあるの!!」

 
 「じゃあ、決まりだな」


四人は同時に頷いた。






********



「はい、ごゆっくりどうぞ」


店員さんはテーブルに四人が注文した飲み物を置いた。

千尋はアイスコーヒー。玲はホットブラックコーヒー。中学生の美帰はメロンソーダ。姫奈はアイスショコラショーだ。




こうやってみると、好みもバラバラだ。


それぞれのコップの持つ手にはボタンがついている。

それを押すと、カップの底が熱くなったり冷たくなったり調節できる。

それでアイスコーヒーをホットにすることも出来る。




「じゃあさ、最初は、自分達のパートナー紹介から行こうよ!みんな、あたしのセルフバティもう見たのに、あたしみんなのまだ見てないもの!」




元気でムードメーカの美帰はそう言った。



三人は「そうだな」と相打ちをついた。



 「僕のはこれだよ」


千尋はそう言って左手で右腕の服をめくった。


そこにあるのは黒い機会だ。
ボタンが幾つかあり、小さなスクリーンもあった。



 「うわぁっ!!最新型じゃないの!!高くなかった?!身体にあったの?!」

 「うん、財布には痛かったけど、身体には、とっても。今では、いいパートナーだよ」



千尋はそう言ってスイッチをオンにした。

すると、ウィーンと音がして、その機械に青い光のわっかが出てきた。それは、魔法陣だ。


魔法ではないのだが、魔法のような働きをするから、そんな名前がついた。



魔法陣は何か技、アビリティーを出す時に出る。つまりは、機械を動かす元。

充電みたいなものだ。



「ほら」


魔方陣がすぅっと消えて行くと千尋のセルフバティのスクリーンに電源がついた。


 「すごーい!カッコいい!!他には?」


美帰は興奮して手をバタバタさせた。


姫奈はクスッと笑った。



 「これは攻撃や、退治方何だけど、他にもヒールがあるよ」



 すごい!


思わず姫奈も心の中で叫んだ。



ヒールというのは治療すること。


例えば、百年前は病院で放射線治療などを大きな機械でやってたりしてたけど、その治療を手軽に出来てしまう。



他にも応急処置なども出来る。いわゆるお医者さんのようなセルフバティだ。


でももちろん、もっと詳しい検査や治療は病院行きだけど。



 「さっすが、で、怜お兄さんはぁ?」



 美帰はやっぱり、テンションが高い。



 「俺は、運動系だな。」



玲はそう言ってポケットからとっても小さい四角いものを出した。


それは、指でつかめるくらい小さい。



姫奈も見たことがないセルフバティーだ。



姫奈がじぃっとそのセルフバティを見ていたのに気がついたのか玲は「そんなに珍しいか」と鼻で笑った。



 「当たり前よ。こんなの見たことない」

 「確かに、僕も始めて見たよ」


千尋もコクリと頷いた。


 「そりゃあ、そうだろうな。コレ、俺が作った」


玲は得意げにそう言った。もちろん、ドヤ顔で



「「「うっそーーーっっ!?!?」」」



三人の声が合わさり店内に響く。

玲はクスクスと笑った。


 好みもあってないし、顔もバラバラだけど、こうなるとやっぱり兄妹なんだなって実感する。


 そりゃあ、セルフバティを作るのは簡単ではない。かなりの技術がいる。




 「これ、靴につけるだけで、早く走ることができるし、運動のセルフバティでもあるんだ」


 「うそ?!すごい…」


 「うん。周りの空気、重力、すべての機能を利用したんだ。そうしたらこんなのが出来た。」



玲はそう言って得意げに笑った。

玲は昔からそういうのを作るのが大好きだった。


でも、姫奈達も、こんなセルフバティを作ってしまうとはきっと思っても見なかったはずだ。


 「さすがだよ、兄さん。こんど僕のセルフバティも色んな機能をつけてもらおうかな」



千尋はそう言って腕のセルフバティを見つめた。




 みんな、凄いセルフバティ持ってるんだな。それに比べて私のは…




姫奈は心の何処かで悲しく呟いた。



姫奈は自分のセルフバティを握る手に力をいれた。



姫奈は自分のセルフバティを見せることなんて出来なかった。

胸のあたりでぎゅっと握って離すことができない。



なぜなら、姫奈のセルフバティは使えないから。



 「姫ちゃんのセルフバティは?」


美帰の言葉に、ズキっと胸が痛むのを感じた。


姫奈は「あはは」と苦笑いをした。その笑顔を見て、3人は顔を見合わせた。



 「まだ……あのセルフバティなの?」



千尋が優しく聞く。姫奈ははずかしそうにこくりと頷いた。




 「だって…このセルフバティは大切だから。壊れて使えなくなっても、大切だから。いつか直るって信じてる。他のセルフバティ以外使いたくない…」



沈黙が流れる。



その沈黙を破ったのは美帰だった。




 「そっか、大事なんだね。」




美帰はそう言ってにっこり笑った。



姫奈のセルフバティは二年ほど前に壊れてしまった。


壊れてしまったセルフバティは取り替えるのが普通。

でも姫奈は取り替えなかった




母からもらった大事なもの。


今は修理できないけど能力や機能が進化して、いつかこのセルフバティが修理できることを待っていた。



 ーーーーーーーばぁーん……





その時、鋭い音が店内に響き渡った。



ーーバン!バン!バン!



銃のような音が三連発…。



 「な、なに…?!」




姫奈は思わず立ち上がった。

周りにいたお客さんたちもパニックになり始める。



 「まさか、強盗とか?」


千尋の言葉に、四人に緊張が走る。

ドクンと姫奈の胸がなった。



美帰は反射的に自分の銃、いやセルフバティを腰から取り出した。



弾を入れると引き金を引く。

カシャっと音がして準備が整う。




「任せて、みんな外に出るよ」



美帰はそう言って立ち上がった。




 「任せてって…まさか、美帰…やりあうつもり?!」


姫奈の身体に緊張感が走る。



姫奈がハッとした時には、3人は店の外に出ていた。




姫奈も慌てて外に飛び出した。



そこに広がっていた光景に姫奈は息をのんだ。

ドクンと胸が嫌な音で鳴る



そこにいたのは、銀色の銃を両手に持ったダブルガン。



金髪で綺麗な長い髪の毛。綺麗なキレのある目。赤い瞳。

一言で言って綺麗な少女だった。






 「あぁー…アビリティ持った子に運悪く遭遇しちゃうなんてね。任務失敗しちゃうじゃない」


綺麗な少女は左手の銃を美帰に向けた。

ーーードクン…。




「や、やめて…」


姫奈の声が震える。



姫奈の目の後ろに"あの時"の記憶が宿る。


怖くて、何日も眠れなかった…


あの地獄のような…



 「や…やめてっっ!」



姫奈は慌てて美帰と少女の前に立ちはだかった。



 「な、なんじゃ、おまえ」




少女は少し慌てた様子で姫奈を見つめた。


 「ご、ごめんなさい。うちの妹が…やり合うつもりなんてないの。だから、見逃してください」



姫奈はそう言って頭を下げた。




 「あははっははっ!!なんや、あんた、結構面白いわ。」


少女の甲高い声が急に響いて姫奈は顔をあげた。

少女はにっこりと笑い姫奈を見つめている。



 「別に、殺し合いするつもりないけど?その子と私のレベルっていかにも違うでしょ?私、仕事以外で喧嘩はしたくなくってね。」


少女はそう言って持っていた銃を一回転させて、ある一点に狙いを定めた。




「もう、仕事は終わったんだけどね」





姫奈は何が何だか、わからなかった。


そんな姫奈に少女はにっこりと微笑んだ。



「報酬、もらいにいく。またな。ちなみに私も、貴族やで。君たちと違ってちゃんとチームに所属してんからね。またね!」



少女はそういうと金髪の髪の毛を綺麗に流しながら去って行った。




 「あいつ、魔導科師高校の制服きてたよな」


玲が腕を組みながらそう呟いた。




 「魔導科師高校?!何それ、ホント?!」

 「うん、確かに魔導科師高校の制服だった…」



千尋もこくりと頷く。



魔導科師高校と聞いて姫奈もハッとした。



魔導科師高校とは、小学生からのエスカレーター式、貴族だけが受験でき入学することができるができる学園だ。



校舎は、全国で6校舎。


主に、トレーニングをメインにしている。



姫奈達も魔導科師高校に受験をして、来週から魔導科師高校、メイン校舎の生徒だ。


もちろん美帰と千尋は魔導科師中学だ。



その学園に通えることを姫奈達は生まれた時から楽しみにしていたのだ。








日本一の貴族学園だから、成績も試される。


今まで普通の学校にいた姫奈達もやっと魔導科師高校の生徒なのだ。
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