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七分咲き
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二人はデートの約束を果たす。
「どこにします? 」
「せっかくだからゆっくりこの桜並木を歩こうか」
桜を愛でる。この季節の定番。
周りを見れば似たような男女が歩いている。
夕暮れの桜もまたいいものだ。
ロマンチックなシチュエーションが二人の関係を発展させるだろう。
「さあ、早く行くよ」
彼女はお構いなしに歩き出す。情けないことに彼女のスピードについていけない。
「ちょっと! 待って! 速い! 速すぎる! 」
マイペースな彼女の後ろにつく。
振り返ってはからかい半分に急かすヨシノさん。
しかし僕が遅すぎるのか。彼女が速ぎるのか。
「いや、だから待って。ヨシノさーん。普通デートって言ったら並んで歩くものですよ。これじゃあデートの意味がない」
何とか追いつき彼女の横をキープ。
なおも急ごうとする彼女。その手を掴もうとするが振り切られてしまう。
仕方なくやや後方から左肩を掴む。
「痛! ちょっと…… 」
服の上から軽くだ。痛いはずがない。それなのに。
一瞬顔を引きつらせるがすぐに笑顔に戻る。
「すみません。ヨシノ先輩。痛かったですか」
「ちょっとね。でも大丈夫だから。それに君のせいではないよ」
明らかに元気が無い。表情を曇らせ下を向く彼女。
「本当に、本当に大丈夫ですか? 」
「心配しないで。君と初めて会った夜に酔っぱらいに絡まれちゃってさ。
ほらこの左腕を痛めたんだ。たぶん骨折まではしてない。軽い捻挫かな。
腫れてきて少しだけ痛い。ははは…… 」
そう言って左手を回し確認。痛みはあるようだが問題ないそうだ。
ただ急に患部を触られるとダメらしい。
完治するまでは大人しくしているしかない。
気丈に振る舞う彼女。問題ないとしても心配だ。
「先輩。ほらあそこにベンチがあります。無理しないで少し休みましょう」
「本当にここでいいの? ふふふ…… 」
「どういう意味ですか。先輩。ほら辛いんでしょう? 」
彼女は意外な反応を見せる。
ふざけているのだろうか? その真意が読み取れない。
「もっと先の方で休みたいんじゃないの? ほらもう陽も落ちてさ…… 」
含みを持った物言いで男を挑発する。
「先輩」
確かに公園を抜け、道路を少し行くと見えてくるのはホテル街。
僕がその事を知らない訳もなく……
だからと言って最初のデートでお願いする根性はない。そんな人間ではないのだ。
自分にそう言い聞かせる。理性が吹っ飛んでしまう前に。
「先輩。いい加減ふざけないで早く座ってください。飲み物を買ってきますから」
彼女は不気味に笑いだす。
上を向き満開の桜を眺め満足そうな顔をしている。
夕陽のオレンジと桜のピンクのコントラストに心奪われるヨシノ先輩。
僕からすれば彼女の美しさが桜にも勝る。それだけ彼女に神秘性を感じる。
自分でも何を言っているのかわからないがとにかく彼女は凄い人だ。
もうすぐライトアップ。これはこれでいいものだ。
夜桜を見に来た客が集まり始めた。
早くも酔客が喚いている。関わり合いにはなりたくないので避けて進む。
ライトアップに釣られてやって来た花見客で混雑し始める。
歩くのも一苦労。花見客を押しのけて百メートル先の自販機へ。
ガヤガヤしてとにかく不快だ。
だがそんなことは言ってられない。ヨシノ先輩を待たせているのだ。
大声で話しているおばさんたち。僕は抵抗しない。
「ねえ、この桜も今年が見納めね」
「本当。本当。来年からは別の場所を見つけなくちゃね」
「大丈夫よ二人とも。徐々にだから。来年は半分になっちゃうけどその分花見客も減って見やすくなるわよ」
「まあ何にしろ新しい場所を見つけないとだわ」
「私は近所だから便利でよかったのに。残念」
「便利って奥さん。はっはは……」
自販機の前でおばちゃん連中に巻き込まれてしまう。
うるさくて敵わない。いい迷惑だ。
何とか脱出し飲み物を抱えてベンチへ。
人混みが凄すぎてなかなか前に進まない。
ヨシノ先輩今すぐ行きます。
続く
「どこにします? 」
「せっかくだからゆっくりこの桜並木を歩こうか」
桜を愛でる。この季節の定番。
周りを見れば似たような男女が歩いている。
夕暮れの桜もまたいいものだ。
ロマンチックなシチュエーションが二人の関係を発展させるだろう。
「さあ、早く行くよ」
彼女はお構いなしに歩き出す。情けないことに彼女のスピードについていけない。
「ちょっと! 待って! 速い! 速すぎる! 」
マイペースな彼女の後ろにつく。
振り返ってはからかい半分に急かすヨシノさん。
しかし僕が遅すぎるのか。彼女が速ぎるのか。
「いや、だから待って。ヨシノさーん。普通デートって言ったら並んで歩くものですよ。これじゃあデートの意味がない」
何とか追いつき彼女の横をキープ。
なおも急ごうとする彼女。その手を掴もうとするが振り切られてしまう。
仕方なくやや後方から左肩を掴む。
「痛! ちょっと…… 」
服の上から軽くだ。痛いはずがない。それなのに。
一瞬顔を引きつらせるがすぐに笑顔に戻る。
「すみません。ヨシノ先輩。痛かったですか」
「ちょっとね。でも大丈夫だから。それに君のせいではないよ」
明らかに元気が無い。表情を曇らせ下を向く彼女。
「本当に、本当に大丈夫ですか? 」
「心配しないで。君と初めて会った夜に酔っぱらいに絡まれちゃってさ。
ほらこの左腕を痛めたんだ。たぶん骨折まではしてない。軽い捻挫かな。
腫れてきて少しだけ痛い。ははは…… 」
そう言って左手を回し確認。痛みはあるようだが問題ないそうだ。
ただ急に患部を触られるとダメらしい。
完治するまでは大人しくしているしかない。
気丈に振る舞う彼女。問題ないとしても心配だ。
「先輩。ほらあそこにベンチがあります。無理しないで少し休みましょう」
「本当にここでいいの? ふふふ…… 」
「どういう意味ですか。先輩。ほら辛いんでしょう? 」
彼女は意外な反応を見せる。
ふざけているのだろうか? その真意が読み取れない。
「もっと先の方で休みたいんじゃないの? ほらもう陽も落ちてさ…… 」
含みを持った物言いで男を挑発する。
「先輩」
確かに公園を抜け、道路を少し行くと見えてくるのはホテル街。
僕がその事を知らない訳もなく……
だからと言って最初のデートでお願いする根性はない。そんな人間ではないのだ。
自分にそう言い聞かせる。理性が吹っ飛んでしまう前に。
「先輩。いい加減ふざけないで早く座ってください。飲み物を買ってきますから」
彼女は不気味に笑いだす。
上を向き満開の桜を眺め満足そうな顔をしている。
夕陽のオレンジと桜のピンクのコントラストに心奪われるヨシノ先輩。
僕からすれば彼女の美しさが桜にも勝る。それだけ彼女に神秘性を感じる。
自分でも何を言っているのかわからないがとにかく彼女は凄い人だ。
もうすぐライトアップ。これはこれでいいものだ。
夜桜を見に来た客が集まり始めた。
早くも酔客が喚いている。関わり合いにはなりたくないので避けて進む。
ライトアップに釣られてやって来た花見客で混雑し始める。
歩くのも一苦労。花見客を押しのけて百メートル先の自販機へ。
ガヤガヤしてとにかく不快だ。
だがそんなことは言ってられない。ヨシノ先輩を待たせているのだ。
大声で話しているおばさんたち。僕は抵抗しない。
「ねえ、この桜も今年が見納めね」
「本当。本当。来年からは別の場所を見つけなくちゃね」
「大丈夫よ二人とも。徐々にだから。来年は半分になっちゃうけどその分花見客も減って見やすくなるわよ」
「まあ何にしろ新しい場所を見つけないとだわ」
「私は近所だから便利でよかったのに。残念」
「便利って奥さん。はっはは……」
自販機の前でおばちゃん連中に巻き込まれてしまう。
うるさくて敵わない。いい迷惑だ。
何とか脱出し飲み物を抱えてベンチへ。
人混みが凄すぎてなかなか前に進まない。
ヨシノ先輩今すぐ行きます。
続く
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