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恐怖 歩くサライちゃん
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地元の方との交流も悪くない。
もちろん長話でもしつこくもなくこちらの欲しい情報が得られればだが。
「すみません。電話しようと館内を見回してもどこにもなくて。困っていたんです」
「ああ観光の方は皆さんそれで参ってるわね。電波が届かない山奥ですからね」
「あらまあ」
「のんびりした村だから。人もそんなには多くないし集落の者村の皆が家族であり兄弟であり仲間なの。都会の人には分からない感覚だろうけど」
はいはい。
「だから電話なんて必要ない。歩けばすぐに会えるし家と家が非常に近いのよ。
毎日顔を突き合わせてるんだから必要ないと思わない?
でも当然、急病も事故もあるし非常時に鐘一つと言うのも心もとないでしょう。
だから村にも数か所は設置してあるの。生憎この旅館には置いてないけどね」
「はあそうですか」
ついついため息がでる。
「ほらほらスマイルスマイル。笑顔が健康の秘訣なんだから。楽しく笑顔でほら」
「こうですか」
無理に取り繕うものだからどうしても自然な表情にならない。
上せてしまったのか立ち上がろうとするとクラクラ。
「上がったら詳しく教えてあげる。でも今日は遅いから大人しく寝てね。
明日にでも電話するといいわ。旦那さん心配してるでしょうから」
「いえ独り身なんです」
そうは口が裂けても言えないがついつい口が裂ける。
「でも急いでるんです。あの子たちは無事なのか心配で心配で」
「あら息子さん? 」
「ええ…… はいそのようなところです」
濁す。息子と言うか孫と言うか甥っ子と言うか。情けないあの子。
「でも本当に遅いから止めておきなさい。この村では夜の出歩きはご法度。
特に女性の一人歩きは危険だわ」
時刻は八時を回っている。確かに急用ではないが彼らの安否が気になる。
女性は突然真剣な顔をして脅しにかかる。
「地元の者の言うことは素直に従うものよ。
何が出ると思う? サライちゃん。サライちゃんよ。
この辺りに伝わる伝説。夜遅くに出歩くとね呪われるの。
サライちゃんが歩く姿を見た者は姿を消すってね。
嘘じゃないわ。実際に起きたってもっぱらの噂だもの」
脅かしてるつもりかしら? 子供だましもいいところだわ。
伝説が残っているとはいえ噂程度で怯えるとでも。
「ちょっとダメでしょう。いたずらに言い触らすなんて。余計なことを言えばあなたも同じ目に遭うわよ」
地元の者と思しき女性が割って入る。
「はっはっは この年まで生きてるんだ。大丈夫さ」
「何を言ってるの? あなたも今聞いた話は忘れなさい。呪われるわよ。
いい? よそ者に余計なことを言わないの。
この村に伝わる伝説をベラベラ話すなんてどうかしてる」
「気にしない。気にしない。ただの伝説よ。誰も信じやしないって。ねえ」
返答に困ってしまう。
彼女は観光客をからかうおかしな人なのか。はたまたすべてを知る切れ者なのか。
面白そうと相手を持ち上げて詳しい話を聞くべきか迷う。
しかしかえって不審に思われるのも良くない。
「それからね。この村に伝わるアリサさんが」
「本当に止めなさいって。こんな話聞いても面白くないでしょう。
聞くだけムダ。ほら困ってるじゃない」
「もううるさい」
「ねえそれより聞いたあの話? 」
置いてけぼりに。地元の話題をワイワイガヤガヤと楽しそうにおしゃべり。
すっかりこちらの存在を忘れてしまったようだ。
もう少し聞いていたいが生憎もう限界。このまま続ければ本当に上せてしまう。
お先に失礼と言って切り上げる。
サライちゃん? アリサさん?
この村には一体どんな恐ろしい言い伝えや伝説が残されているのか。
まだまだ情報が足りない。自分の手に負えるかしら?
村に伝わる恐ろしい伝説。これはもはや文化人類学のジャンル。
私は別にフィールドワークをしている訳ではない。
ただ助手として先生の手助けとお世話している。
できるだけたくさんの情報を収集して先生の力になりたい。
それにしても先生一人で行かせて本当に良かったのか。
いやいや一人ではなかったっけ。
もう先生には新しい助手がいる。
あの頼りない男の子が先生の新しい助手。
まあ本当に頼りにはならなそうだけど一人で行かせるよりは幾分かマシ。
大丈夫よね。きっと……
とにかくなるべく早く連絡をつけたい。
でも一体どこに掛ければいいやら。
続く
もちろん長話でもしつこくもなくこちらの欲しい情報が得られればだが。
「すみません。電話しようと館内を見回してもどこにもなくて。困っていたんです」
「ああ観光の方は皆さんそれで参ってるわね。電波が届かない山奥ですからね」
「あらまあ」
「のんびりした村だから。人もそんなには多くないし集落の者村の皆が家族であり兄弟であり仲間なの。都会の人には分からない感覚だろうけど」
はいはい。
「だから電話なんて必要ない。歩けばすぐに会えるし家と家が非常に近いのよ。
毎日顔を突き合わせてるんだから必要ないと思わない?
でも当然、急病も事故もあるし非常時に鐘一つと言うのも心もとないでしょう。
だから村にも数か所は設置してあるの。生憎この旅館には置いてないけどね」
「はあそうですか」
ついついため息がでる。
「ほらほらスマイルスマイル。笑顔が健康の秘訣なんだから。楽しく笑顔でほら」
「こうですか」
無理に取り繕うものだからどうしても自然な表情にならない。
上せてしまったのか立ち上がろうとするとクラクラ。
「上がったら詳しく教えてあげる。でも今日は遅いから大人しく寝てね。
明日にでも電話するといいわ。旦那さん心配してるでしょうから」
「いえ独り身なんです」
そうは口が裂けても言えないがついつい口が裂ける。
「でも急いでるんです。あの子たちは無事なのか心配で心配で」
「あら息子さん? 」
「ええ…… はいそのようなところです」
濁す。息子と言うか孫と言うか甥っ子と言うか。情けないあの子。
「でも本当に遅いから止めておきなさい。この村では夜の出歩きはご法度。
特に女性の一人歩きは危険だわ」
時刻は八時を回っている。確かに急用ではないが彼らの安否が気になる。
女性は突然真剣な顔をして脅しにかかる。
「地元の者の言うことは素直に従うものよ。
何が出ると思う? サライちゃん。サライちゃんよ。
この辺りに伝わる伝説。夜遅くに出歩くとね呪われるの。
サライちゃんが歩く姿を見た者は姿を消すってね。
嘘じゃないわ。実際に起きたってもっぱらの噂だもの」
脅かしてるつもりかしら? 子供だましもいいところだわ。
伝説が残っているとはいえ噂程度で怯えるとでも。
「ちょっとダメでしょう。いたずらに言い触らすなんて。余計なことを言えばあなたも同じ目に遭うわよ」
地元の者と思しき女性が割って入る。
「はっはっは この年まで生きてるんだ。大丈夫さ」
「何を言ってるの? あなたも今聞いた話は忘れなさい。呪われるわよ。
いい? よそ者に余計なことを言わないの。
この村に伝わる伝説をベラベラ話すなんてどうかしてる」
「気にしない。気にしない。ただの伝説よ。誰も信じやしないって。ねえ」
返答に困ってしまう。
彼女は観光客をからかうおかしな人なのか。はたまたすべてを知る切れ者なのか。
面白そうと相手を持ち上げて詳しい話を聞くべきか迷う。
しかしかえって不審に思われるのも良くない。
「それからね。この村に伝わるアリサさんが」
「本当に止めなさいって。こんな話聞いても面白くないでしょう。
聞くだけムダ。ほら困ってるじゃない」
「もううるさい」
「ねえそれより聞いたあの話? 」
置いてけぼりに。地元の話題をワイワイガヤガヤと楽しそうにおしゃべり。
すっかりこちらの存在を忘れてしまったようだ。
もう少し聞いていたいが生憎もう限界。このまま続ければ本当に上せてしまう。
お先に失礼と言って切り上げる。
サライちゃん? アリサさん?
この村には一体どんな恐ろしい言い伝えや伝説が残されているのか。
まだまだ情報が足りない。自分の手に負えるかしら?
村に伝わる恐ろしい伝説。これはもはや文化人類学のジャンル。
私は別にフィールドワークをしている訳ではない。
ただ助手として先生の手助けとお世話している。
できるだけたくさんの情報を収集して先生の力になりたい。
それにしても先生一人で行かせて本当に良かったのか。
いやいや一人ではなかったっけ。
もう先生には新しい助手がいる。
あの頼りない男の子が先生の新しい助手。
まあ本当に頼りにはならなそうだけど一人で行かせるよりは幾分かマシ。
大丈夫よね。きっと……
とにかくなるべく早く連絡をつけたい。
でも一体どこに掛ければいいやら。
続く
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