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お見舞い
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エイドリアス村。セピユロスの実家。
火事の被害から運よく逃れ残ったみずほらしい家屋。
案内がなければ危うく通り過ぎるところでした。
「おおセピユロス。戻ってきてくれたのかい? 」
「こちらの方たちは? 」
ただでさえ不安な時に大人数で押し掛けて面を喰らう二人。
セピユロスのご両親だ。
両親? 挨拶?
私はどうしたらいいの? 何と自分を紹介すればいいのか分からない。
セピユロスお願い。今あなたに頼るしかない。
ヴィーナの母ですと名乗ればいいのでしょうか?
でもセピユロスは私を愛してくれた。だからそれはおかしい。
だとすれば婚約相手として名乗るべき?
それではボノはどうするの? 私たちはまだ別れてもいない。
ヴィ―ナは一人娘として紹介すればいいの?
頭が真っ白になる。
ここは無難に名前を名乗るに留めるべき?
どうしましょう。どうしましょう。
ヴィーナを見ても笑顔を浮かべるだけ。
まあお見舞いですからね。不機嫌な顔されるよりはいいですけど。
ただもう少し神妙な面持ちで。笑顔は力にもなりますが失礼にも当たります。
もうセピユロスに任せるしかない。ただ元気がないのが心配。
「こちらは大変お世話になっている方たちです。お話があります」
「どうしたのセピユロス? 改まって」
非常時に婚約者を紹介していいものか彼も迷っているのでしょう。
「二人とも私と…… 」
「待って! 迷惑はかけたくない。そのようにお考えですよね? 」
ヴィーナが遮る。想定外の展開。
セピユロスは悔しそうに唇を噛む。
「何を? セピユロス説明なさい! 」
混乱するばかりの両親。それは私も同じ。ヴィーナは一体何を言ってるの?
「ごめん母さん。実は受け入れたいんだけど部屋が狭いんだ。
だからこちらの方のご好意を受けて欲しい」
「部屋が狭い? あなたの家ね。大丈夫よお父さんと二人なら何とかなるでしょう」
楽観的なお母様。私も同意します。でもそれを認めない者が一人。
「お母様。ぜひ我が家にお越しください」
ヴィーナが勝手に話を進める。
「どう言うことセピユロス? 一緒に住むって約束したじゃない! 」
今、村では住処を探してる真っ最中。
いい避難場所があればそれに越したことはない。
「ごめん母さん。出来れば二人には彼女の屋敷で過ごして欲しいんだ」
「そんな…… 薄情言わないでさセピユロス。息子だろ? 」
疲れ切った表情のお母様。私と十も違わないはずが随分と老けて見える。
まったくヴィーナの非情さと我がままには呆れる。
なぜ死人に鞭を打つような真似をするの?
いえもちろん比喩ですよ。縁起でもないことをつい。これはいけない。
ヴィーナを甘やかし過ぎた。我が娘ながら恥ずかしい。
「これは決まったこと。村の非常時なんだ。我慢して欲しい」
セピユロスが説得する。
その目には涙が。彼も辛いのだろう。
どうやら両親はセピユロスと共に暮らす気でいたらしい。
それが一番なんですけどね。
「そんな…… 」
「少しの間さ。僕はもう行かなくちゃ。皆にも伝えておいて」
非情なセピユロス。彼がここまで薄情だと思わなかった。
どうしてこうも二人は非情で居られるのか。
ああセピユロス。あなたはどうしてしまったのです?
「話はこれで。村の者と一緒に来て。
落ち着くまでは僕も滞在するつもりだから心配しないで」
「セピユロス」
「母さんごめん…… 」
「分かったよセピユロス」
「父さん! 」
どうにか説得した。
果たしてこれで良かったのか疑問が残る。
二人は端から決めていたようだけど。
見ていて居た堪れない。どうしてこんな残酷なことを?
「もう行くのかい? 」
「ああ。母さんたちもすぐに。受け入れ態勢は整っていると思うから」
寂しそうなセピユロス。
「お母様。これで失礼します」
口出しは出来ない。このまま見届けよう。
この家を村の者に明け渡すつもりだと言っていたが早まったよう。
これならばここに残り代わりに村の者に行ってもらった方がいいのでは?
エイドリアス村を後にする。
続く
火事の被害から運よく逃れ残ったみずほらしい家屋。
案内がなければ危うく通り過ぎるところでした。
「おおセピユロス。戻ってきてくれたのかい? 」
「こちらの方たちは? 」
ただでさえ不安な時に大人数で押し掛けて面を喰らう二人。
セピユロスのご両親だ。
両親? 挨拶?
私はどうしたらいいの? 何と自分を紹介すればいいのか分からない。
セピユロスお願い。今あなたに頼るしかない。
ヴィーナの母ですと名乗ればいいのでしょうか?
でもセピユロスは私を愛してくれた。だからそれはおかしい。
だとすれば婚約相手として名乗るべき?
それではボノはどうするの? 私たちはまだ別れてもいない。
ヴィ―ナは一人娘として紹介すればいいの?
頭が真っ白になる。
ここは無難に名前を名乗るに留めるべき?
どうしましょう。どうしましょう。
ヴィーナを見ても笑顔を浮かべるだけ。
まあお見舞いですからね。不機嫌な顔されるよりはいいですけど。
ただもう少し神妙な面持ちで。笑顔は力にもなりますが失礼にも当たります。
もうセピユロスに任せるしかない。ただ元気がないのが心配。
「こちらは大変お世話になっている方たちです。お話があります」
「どうしたのセピユロス? 改まって」
非常時に婚約者を紹介していいものか彼も迷っているのでしょう。
「二人とも私と…… 」
「待って! 迷惑はかけたくない。そのようにお考えですよね? 」
ヴィーナが遮る。想定外の展開。
セピユロスは悔しそうに唇を噛む。
「何を? セピユロス説明なさい! 」
混乱するばかりの両親。それは私も同じ。ヴィーナは一体何を言ってるの?
「ごめん母さん。実は受け入れたいんだけど部屋が狭いんだ。
だからこちらの方のご好意を受けて欲しい」
「部屋が狭い? あなたの家ね。大丈夫よお父さんと二人なら何とかなるでしょう」
楽観的なお母様。私も同意します。でもそれを認めない者が一人。
「お母様。ぜひ我が家にお越しください」
ヴィーナが勝手に話を進める。
「どう言うことセピユロス? 一緒に住むって約束したじゃない! 」
今、村では住処を探してる真っ最中。
いい避難場所があればそれに越したことはない。
「ごめん母さん。出来れば二人には彼女の屋敷で過ごして欲しいんだ」
「そんな…… 薄情言わないでさセピユロス。息子だろ? 」
疲れ切った表情のお母様。私と十も違わないはずが随分と老けて見える。
まったくヴィーナの非情さと我がままには呆れる。
なぜ死人に鞭を打つような真似をするの?
いえもちろん比喩ですよ。縁起でもないことをつい。これはいけない。
ヴィーナを甘やかし過ぎた。我が娘ながら恥ずかしい。
「これは決まったこと。村の非常時なんだ。我慢して欲しい」
セピユロスが説得する。
その目には涙が。彼も辛いのだろう。
どうやら両親はセピユロスと共に暮らす気でいたらしい。
それが一番なんですけどね。
「そんな…… 」
「少しの間さ。僕はもう行かなくちゃ。皆にも伝えておいて」
非情なセピユロス。彼がここまで薄情だと思わなかった。
どうしてこうも二人は非情で居られるのか。
ああセピユロス。あなたはどうしてしまったのです?
「話はこれで。村の者と一緒に来て。
落ち着くまでは僕も滞在するつもりだから心配しないで」
「セピユロス」
「母さんごめん…… 」
「分かったよセピユロス」
「父さん! 」
どうにか説得した。
果たしてこれで良かったのか疑問が残る。
二人は端から決めていたようだけど。
見ていて居た堪れない。どうしてこんな残酷なことを?
「もう行くのかい? 」
「ああ。母さんたちもすぐに。受け入れ態勢は整っていると思うから」
寂しそうなセピユロス。
「お母様。これで失礼します」
口出しは出来ない。このまま見届けよう。
この家を村の者に明け渡すつもりだと言っていたが早まったよう。
これならばここに残り代わりに村の者に行ってもらった方がいいのでは?
エイドリアス村を後にする。
続く
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