なぜお義母様と呼ばないのです

元の二人

セピユロスが扉も締めず出て行った。
紳士らしからぬ振る舞い。相当堪えたのでしょう。
これでいいのです。ついに元の二人に戻った。
私からとは随分勝手だと思ったこと。
でもこれはあなたの為でもあるのです。

セピユロスへの未練を断ち追い払う。
心を鬼して彼の為に追い払う。
まるで仔犬のように尻尾を振るセピユロス。
可愛らしい仔犬から目を背け来ないように叱り飛ばす。
聞き分けの悪い仔犬はそれでもなおじゃれようと寄ってくる。
今、自分が物凄く自分勝手な人間だって気付かされる。
いくら彼の為とは言えあまりに急でしたからね。
暗殺失敗を根に持ってる訳ではもちろんありません。
ですが密会を重ねればセピユロスに邪な心が生まれないとも限らない。
そんな悲劇を見ていたくない。

セピユロスが開けっ放しにした扉からチャウチャウが入って来た。
偶然なのだろうが主人の気持ちに寄り添ってくれているよう。
「チャウチャウ。さあ一緒に寝ましょう」
抱き上げベッドに連れて行く。
チャウチャウも観念したのか大人しい。
一緒に寝ることに。
慰めてくれるのチャウチャウ？
こうしてセピユロスを断ち切った。
これが正しいかったかまだ良く分からない。
でももういいのです。彼とは一時の気の迷いだったのです。
優しいセピユロスをつい勘違いしてしまった。
これでいいのです。これでいいのです。
自分に言い聞かす。
だがすぐに不安になる。
そこでチャウチャウを抱きしめる。
ああ温かい。うん……　その上臭い？
これはまたつまみ食いしたな。甘やかしてもう。
まったくこれだから最近のメイドは。
チャウチャウが太っちゃうじゃない。
ああどうしましょう。国王様のようにブクブクに太ったら。
もう手遅れな気もしますけど。

次の日。
ぐっすりとは行かなかったもののどうにか眠れた。
チャウチャウ？　チャウチャウ？
いつの間にかいなくなっていた。
勝手に開けて出て行ったのだろう。
ガシガシした痕が残されている。
「ご主人様。ご機嫌が優れないようですが」
さすがは我がメイド。何でもお見通し。
「大丈夫です。それよりもセバスチャンに来るように伝えて」
「それでは午後の予定は何も入れない方針で」
「心得てるようね。午後からはご挨拶に伺おうと思います」
セピユロスの両親がいる。
もう彼とは何でもない訳だから心置きなくご挨拶が出来ると言うもの。
まあ本来私からご挨拶に伺うのはおかしいのだけどこれも敬意を込めて。
セピユロスの両親ですものね。大切に扱わなくてはなりません。

「ではセバスチャンを」
念を押す。
彼は使用人の一人。
普段は雑用係。
庭の手入れをしている。
彼は元々手先が器用で何でもやってのけてしまう。
庭の作品のほとんどが彼の手で作られている。
「お呼びでしょうかご主人様」
「お願いするわ」
セバスチャンが髪にハサミを入れる。
優秀な方をお呼びしてもよいのだがここは生憎田舎。
センスのある者は皆無。
そこでセバスチャンの登場だ。
「どうでしょう。全体的に切られてはいかがでしょう」
彼のセンスは間違いない。言われるままに。

一時間経過。
ロングヘア―をバッサリ。
あーすっきりした。
自分では良く分からないのでメイドに感想を聞いて回る。
そうすると皆一応に言葉を詰まらせる。
これは失敗した？
「素敵ですね。ご主人様」
一拍遅れて返事がある。
まあどうでもいい。気分転換なのですから。
さあひとまずお昼まで時間があります。
屋敷内を歩き回る。

メイドの普段の行動を観察。
これも地味だけど大切な仕事。
気持ちを新たに役割を全うしようではありませんか。
まずはメイドたちの仕事ぶりを評価してあげる。
「ご主人様」
「いつもご苦労ね」
皆言われなくてもしっかりと仕事をこなす。
明日も明後日もそれは変わらない。
あれまた迷ってしまったみたい。
自分の屋敷で迷うなどふふふ……　よくあること。

この部屋は？
久しぶりに訪れる場所。
ボノの部屋。
周りには誰もいない。
いきなり訪ねて良かったのか。
でもそろそろボノと話し合わなければね。
セピユロスとの関係を終わらせた今ならボノと真剣に向き合える気がする。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く