ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

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出発

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『ドスグロ山の雷人~探偵はいつか…… 』

「えー本日はお日柄もよろしく絶好のハイキング日和でそれから…… 」
バスには随分余裕があり、それぞれ好きなところに座って寛いでいる。
俺は後方で皆の様子を見守る。
「ええ続きまして手前に見えるのはあの有名な…… 」
果たして何人の者がガイドの話を聞いてるやら。

これから二泊三日のバスの旅が始まる。
何とこれは日頃の感謝を込めて会員限定の無料招待。
無料招待とは言え高級なフランス料理が振る舞われる。
だから食事の心配もない。
お金の心配だって必要ない。
まあこれはショッピングをしない場合に限るが。
強者は財布を持たずにやって来たと豪語する。
後で後悔するのは自分自身なので好きにしたらいいと思う。
へへへ! 楽しみだ。後は旅のお供でもいてくれたら最高なのだが。
まあそう現実は甘くもなくドラマチックでもない。
つい心の声が漏れる。だが大丈夫。こううるさくては誰にも聞こえはしない。

バスが突然ストップ。
どうやら最後のお客が乗り込んできたらしい。
「すみません。お隣よろしいですか」
偶然隣になったのは若作りの女性。
化粧はナチュラルメイクなのか薄く見えるが服は派手だ。
獣柄のキラキラ。下は黒のミニ。
挑発的な格好で俺たち男を狩ろうとしているかのよう。
へへへ…… 無料だもんな仕方ないな。
今夜は危険な予感。

「自分は山田。山田凡太って言います。よろしく」
「あら偶然ですね。私も山田って言います。ふふふ…… 」
偶然の一致? いや違う。彼女は合わせてるだけ。
俺に気を使って合わせてるだけ。
バス旅行だ。本名を使う者などいない。
いやそれも違う。実際は逆。
俺が適当に作った名前それが山田凡太。
「では凡太さん。今夜どうですか? 」
一体俺の何を気に入ったのか積極的だ。
俺も男だ。誘われたら断れない。
確かミサだっけ。まあ綺麗な人だ。
このチャンスは絶対に逃すものか。

「あっ! 」
どうやら忘れ物でもしたのか立ち上がる。
車内はガイドを入れて十三名。
運転手は目的地に着いたら引き返すので合計で十二名。
そんな二泊三日の会員旅。
ただ俺にはこの会社の会員になった覚えがない。
それはミサさんもそうだとか。

「傘置いてきちゃった! 」
そういくら無料のバス旅だとしても出発地まではお金がかかる。
だから財布を持ってこなかったと自慢していたお婆さんは嘘をついてる。
いやただスイカを持ってるだけなのかもしれないが。
でも最寄りの駅では使えないはず。
だとすれば待ち合わせ場所までは歩きで来たか送ってもらったか。
要するに近くに住んでいることになる。まあそんなことはどうだっていいか。
「大丈夫だってきっと降らないよ」
他愛ない話で二人は愛を深めていく。いや早過ぎか。
彼女に出来るだけ自分を知ってもらいたい。
自分が作り上げた虚像を評価してもらえれば。
偶然にも苗字が同じ幸運。
勝手に想像を膨らませて取り返しがつかなくなるがまあこれが旅の醍醐味って奴だ。
男はどうしたってこの手の女に弱い。鼻を伸ばしほいほいついて行くのが男の性。
この後悲惨な未来が待っているのが分かっていても。それでもだ。

「はいそれではお食事にします」
ガイドの指示に従う。
海の幸をふんだんに使った海鮮丼。
この地方の名物で何とイクラが乗っている。
俺はどちらかって言うと食い過ぎて飽きているが……
それでも最近不漁続きのイクラにちょっとのウニが乗った海鮮丼は贅沢な一品。
これが無料とは頭が下がる。
ただし調子に乗ってお替りなどしようものなら一気に跳ね上がる。

イクラか…… ウニは好きなんだよな。でもイクラはちょっと……
イクラが嫌いとかではなく昔毎日のように食べていたものだからもういいかな。
だが意外にも新鮮で塩加減がちょうどよく高級なものを提供しているのが分かる。
これなら問題なく完食。ウニの甘みも程よい。
「もう食べれない! 」
ミサが捨てようとするので残りを食ってやる。
これも彼女の手なのだろう。経験豊富な俺は騙されやしないがまあいいじゃないか。
ただでもう一杯は悪くない。
昼を終えバスに戻る。

                     続く
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