ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

文字の大きさ
3 / 122

バス旅

しおりを挟む
昼食を済ましバスに戻る。
さあ次だ。ミサさんも上機嫌。距離もグッと縮まった気がする。
思い込みでなければ好感触。これは行ける。
うん。良い雰囲気だ。このままどこまでも。
そんな雰囲気をぶち壊す出来事が。
バスが出発するとすぐに気持ち悪いと訴える奴が。

ガイドが近くに行きお世話。
まったくあの男少し格好いいからと弱った振りでガイドの気を引こうとして。
何て厚かましいガキだ。
おっとつい興奮してしまった。冷静に冷静に。
彼女が今回のツアーの責任者。それともう一人。先行してホテルで出迎える者。
合わせて二名。彼女たちのおもてなしを受ける。
パンフレットには二人の顔が載っている。
写真よりも実物の方が何倍いいか。
彼女がこうなのだからもう片方だって期待できる。
二人と仲良くなれたらと。

男はまだ気持ち悪いと泣き言ばかり。
まったく無料のバス旅でどんだけ甘えてるんだか。
怒りさえ覚える。
そんな奴放っておけ!
つい感情的になるがさすがに本人の前では言えない。
「どうしたの気になる? 」
「いや大丈夫かなと。吐かれたら大変だろ? 」
「ふふふ…… そうね」 
構ってくれなくなった。どうしたまさかあの男に興味が移ったか?
嫌になるなまったく。あいつ何者だよ?
このバス旅の空気を乱すとんでもない野郎。

うわあくさ!
ついにブツを出しちまった。
どうやら彼のあれは演技ではなかったようだ。
ちょっと若く野心家のこの男。
まだ二十代だろうがいい服を着てやがる。
白のジャケットはブランドものだしズボンも個性的。
時計はブルガリ。靴はダメだ。もう分からない。
被害は個性的なズボンにまで及ぶ。
明後日までの旅程をどう乗り切るつもりだ?
まさか一人目の脱落者。
まあ今帰った方が賢明。
俺にすべて持って行かれる前に逃走するがいい。
この臆病者!
勝手に決めつけてしまう。悪かったかな。

バスは二時間程市街を回りついに最終目的地に向かう。
「皆さんここでトイレを済ませてください」
トイレ休憩。
こういう時に必ず遅れてくるだらしない奴。
待つほうの身にもなって欲しい。
学校の遠足ではないんだから。
汗を垂らした汚らしいおっさん。
洗ったんだか洗ってないんだかの手をズボンの後ろで拭き下手な言い訳に終始する。
ああ蛯子さん? いや違った海老沢さんだ。
その横で同じように言い訳をこねるのはさっきの男。
まあ彼の場合は仕方がないか。許してやろう。いや許さない!
「さあ早くしてください。出発しますよ! 」

今は三時過ぎ。
目的地まではノーストップ二時間弱の旅。
ただ気になることが一つ。
日程だ。いくら無料でもこの後の予定が知らされていない。
何でもホテルは山の上にあるのだとか。
まあ比喩だろうがとにかくそんなとこに今から連れて行かれる。
一体何しに? 俺は暇だったから応募したが他の者は一体何しに来たのだろう? 

ついに始まる。騙し騙されの化かし合い。
どちらが勝とうが運命に身を任せるしかない。

「えー今から登る山はドスグロ山と言いましていわくつきの山であります」
誰も聞いてやしない。それぞれ景色を見たりおしゃべりをしたりゲームをしたり。
俺だって今はミサさんとべったり。
いい感じに仕上がっていく。男共の視線が辛い。
それにしてもこの道不安定だ。
ちょっとでも立ち上がろうとしたらよろけてしまう。
ついミサの方によろけてしまうから困り果てる。
「もう大丈夫? 気を付けてね」
俺はまだ若い。だからそんな風に労わらないでくれ。
思ってたよりもいい子かも知れない。第一印象よりも好感度が増す。
これも彼女の手ってか? 疑り深くていけない。
「あのーミサさん。いくつなの? 」
気になる。こんな風に自然に聞けば教えてくれるはず。
「もう! 教えてあげない! 」
まあ確かに女性に年を聞くのはご法度。
だがそれは同時に三十を過ぎてることにもなる。うーんどうも間違えたかな。

「間もなく雷道です」
誰もガイドの話を聞いていない。
これではいくら何でもかわいそう。やる気を失ったらどうする?
「雷道は雷人さんの通り道とされています。
地元ではこれ以上行くと雷人さんに叱られるとめったに登りません。
ですからここからは人が通ることはないでしょう」
ガイドの案内を誰も聞かずに皆好き勝手に過ごす。

雷道に差し掛った。

                   続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...