ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

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最初に選ばれし者

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三〇一号室・海老沢氏の部屋。連続密室殺人の第一現場。
深夜四時過ぎ。もう間もなく夜明け。
いつ警察が突入してもおかしくない。
警察が到着する前にすべてを解決出来るだろうか?

「こんなまどろっこしい真似しないでこいつを絞めあげればいいだろ? 」
真犯人に殴り掛ろうとする暴挙。
「駄目ですよ黒木さん! 暴力では何の解決にもなりません」
必死に宥める。さすがに黒木も本気ではない。
だがこれ以上騒げば相棒に間に入ってもらうことに。
自分が狙われたことで気が立っている。どうやら震えは治まったらしい。

「冗談だって探偵さん。ははは…… 」
黒木はまだ自分の犯した罪の重さに気付いてない。何と愚かしいことか。
悲しいことに誰も彼に同情する者はいない。
それもそのはず。生き残った者は犯罪被害者の会のメンバーがほとんど。
料理人だって元彼を失っている。
この中で冷静な判断が出来るのは我々を除けばガイドさんぐらいなもの。
ただあれだけ第一発見者にされたのだ冷静とはいかないか。
とすれば真犯人を許せないはず。
彼女が黒木の唯一の味方となり得る。嫌われてなければだが。

私だって同情するつもりはない。
一連の殺人事件が復讐ならばそれなりの理由があってのこと。擁護出来なくもない。
探偵としてどちらにも肩入れ出来ない。いやにここまで来れば真犯人の味方かな。
「まあまあ黒木さん。お気持ちも分かりますがこれ以上は……また縛り付けますよ」
脅しを掛けると急に大人しくなった。それでいい。これも黒木自身の為。

「私の予想ではあらかじめ殺す順番が決められていたと考えています」
真犯人を見るが目を逸らしてしまう。
「それは驚いたね。だったらあの男はどうして最初に選ばれたんだい? 」
小駒さんが口を挟む。
「第一被害者、海老沢さんのある癖を見抜いた。それが何だか分かりますか? 」
誰に問うでもなく独り言のようなもの。
「いいや。早く続けておくれよ」
お婆さんは降参だと喚く。
「もう少し考えてみてはいかがですか? ねえ海老沢さん」
覆われてるとは言え亡骸を弄ぶのは憚れるがこれも真犯人を挙げる為。

「いいから早くしてくれよ! 」
我慢の限界の黒木がイライラし始める。
タバコに手を掛けるがここはもちろん禁煙。
「まさかこれか? 」
トンチンカンな答えに辿り着く黒木。今はふざけてる時ではない。
「冗談はさておき私は彼の人隣りを知りません。生前一度もお会いしてませんので。
海老沢さんを知る皆さんにご協力願います」
黒木は沈黙。誰も具体的な指摘が出来ない。

「そう言えばかなりせっかちでした。お年も召していたようですし」
突破口を開いたのはガイドさん。よく観察している。
「はいその通りです。海老沢さんにはショックでしょうね。
まさか真犯人が癖を見抜いて最初のターゲットに選ぶとは夢にも思わないはず。
せっかちはお年寄りによく見受けられる癖。
元々せっかちな人は年を取れば余計に。どうしても急ぐ傾向にある。
誰しも年を取れば酷くなっていくもの。
もちろん真犯人は確実に海老沢さんをとは考えていなかったはず」
「それはどう言うことでしょう探偵さん? 」
ガイドさんが合いの手を入れる。
「確率が高いだけでもちろん他の方でも問題はありません。
犯人役の黒木さん以外なら誰でも良かった。
ただ運よく狙い通りに海老沢さんが動き、第一の犠牲者に。

「ああ、もううるさいね! 鈍くてイライラする。もっと早く出来ないのかい? 」
小駒さんが痺れを切らす。
「ははは…… 小駒さんも危なかったですよ。せっかちな方ですから」
「ふん! 殺される謂れはないね! 黒木は最低な人間だから当然さ! 」
一言も二言も多い小駒さんはトラブルをわざと引き起こしてる様にしか見えない。
「何だと婆さん。調子に乗りやがって! 」
「やるのかい? 」
「いいだろう。勝負してやる! 」
二人だけで勝手に盛り上がってるが今はそんな時ではない。
私の完璧な推理を聞き、ひれ伏すべき時だ。
二人には厳重注意。

「せっかちな人は特に何でも急ごうとします。
部屋のチェックインも然り。他の人よりも早くしないと気が済まない。
一秒でも早く。この癖は自分ではどうにもなりません。いくら注意しても無駄です。
海老沢さんは残念ながら死に急いでしまいました。
彼もまた詐欺集団の一人。当然狙われていた訳です。
黒木さんはその辺は詳しいですよね? お話願いますか」
黒木は罪に問わないことを条件に協力した。
まったく抜け目がない。まだ逃れようとしているらしい。
いい加減に己の罪を認め深く反省すべき。

                続く
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