97 / 122
最初に選ばれし者
しおりを挟む
三〇一号室・海老沢氏の部屋。連続密室殺人の第一現場。
深夜四時過ぎ。もう間もなく夜明け。
いつ警察が突入してもおかしくない。
警察が到着する前にすべてを解決出来るだろうか?
「こんなまどろっこしい真似しないでこいつを絞めあげればいいだろ? 」
真犯人に殴り掛ろうとする暴挙。
「駄目ですよ黒木さん! 暴力では何の解決にもなりません」
必死に宥める。さすがに黒木も本気ではない。
だがこれ以上騒げば相棒に間に入ってもらうことに。
自分が狙われたことで気が立っている。どうやら震えは治まったらしい。
「冗談だって探偵さん。ははは…… 」
黒木はまだ自分の犯した罪の重さに気付いてない。何と愚かしいことか。
悲しいことに誰も彼に同情する者はいない。
それもそのはず。生き残った者は犯罪被害者の会のメンバーがほとんど。
料理人だって元彼を失っている。
この中で冷静な判断が出来るのは我々を除けばガイドさんぐらいなもの。
ただあれだけ第一発見者にされたのだ冷静とはいかないか。
とすれば真犯人を許せないはず。
彼女が黒木の唯一の味方となり得る。嫌われてなければだが。
私だって同情するつもりはない。
一連の殺人事件が復讐ならばそれなりの理由があってのこと。擁護出来なくもない。
探偵としてどちらにも肩入れ出来ない。いやにここまで来れば真犯人の味方かな。
「まあまあ黒木さん。お気持ちも分かりますがこれ以上は……また縛り付けますよ」
脅しを掛けると急に大人しくなった。それでいい。これも黒木自身の為。
「私の予想ではあらかじめ殺す順番が決められていたと考えています」
真犯人を見るが目を逸らしてしまう。
「それは驚いたね。だったらあの男はどうして最初に選ばれたんだい? 」
小駒さんが口を挟む。
「第一被害者、海老沢さんのある癖を見抜いた。それが何だか分かりますか? 」
誰に問うでもなく独り言のようなもの。
「いいや。早く続けておくれよ」
お婆さんは降参だと喚く。
「もう少し考えてみてはいかがですか? ねえ海老沢さん」
覆われてるとは言え亡骸を弄ぶのは憚れるがこれも真犯人を挙げる為。
「いいから早くしてくれよ! 」
我慢の限界の黒木がイライラし始める。
タバコに手を掛けるがここはもちろん禁煙。
「まさかこれか? 」
トンチンカンな答えに辿り着く黒木。今はふざけてる時ではない。
「冗談はさておき私は彼の人隣りを知りません。生前一度もお会いしてませんので。
海老沢さんを知る皆さんにご協力願います」
黒木は沈黙。誰も具体的な指摘が出来ない。
「そう言えばかなりせっかちでした。お年も召していたようですし」
突破口を開いたのはガイドさん。よく観察している。
「はいその通りです。海老沢さんにはショックでしょうね。
まさか真犯人が癖を見抜いて最初のターゲットに選ぶとは夢にも思わないはず。
せっかちはお年寄りによく見受けられる癖。
元々せっかちな人は年を取れば余計に。どうしても急ぐ傾向にある。
誰しも年を取れば酷くなっていくもの。
もちろん真犯人は確実に海老沢さんをとは考えていなかったはず」
「それはどう言うことでしょう探偵さん? 」
ガイドさんが合いの手を入れる。
「確率が高いだけでもちろん他の方でも問題はありません。
犯人役の黒木さん以外なら誰でも良かった。
ただ運よく狙い通りに海老沢さんが動き、第一の犠牲者に。
「ああ、もううるさいね! 鈍くてイライラする。もっと早く出来ないのかい? 」
小駒さんが痺れを切らす。
「ははは…… 小駒さんも危なかったですよ。せっかちな方ですから」
「ふん! 殺される謂れはないね! 黒木は最低な人間だから当然さ! 」
一言も二言も多い小駒さんはトラブルをわざと引き起こしてる様にしか見えない。
「何だと婆さん。調子に乗りやがって! 」
「やるのかい? 」
「いいだろう。勝負してやる! 」
二人だけで勝手に盛り上がってるが今はそんな時ではない。
私の完璧な推理を聞き、ひれ伏すべき時だ。
二人には厳重注意。
「せっかちな人は特に何でも急ごうとします。
部屋のチェックインも然り。他の人よりも早くしないと気が済まない。
一秒でも早く。この癖は自分ではどうにもなりません。いくら注意しても無駄です。
海老沢さんは残念ながら死に急いでしまいました。
彼もまた詐欺集団の一人。当然狙われていた訳です。
黒木さんはその辺は詳しいですよね? お話願いますか」
黒木は罪に問わないことを条件に協力した。
まったく抜け目がない。まだ逃れようとしているらしい。
いい加減に己の罪を認め深く反省すべき。
続く
深夜四時過ぎ。もう間もなく夜明け。
いつ警察が突入してもおかしくない。
警察が到着する前にすべてを解決出来るだろうか?
「こんなまどろっこしい真似しないでこいつを絞めあげればいいだろ? 」
真犯人に殴り掛ろうとする暴挙。
「駄目ですよ黒木さん! 暴力では何の解決にもなりません」
必死に宥める。さすがに黒木も本気ではない。
だがこれ以上騒げば相棒に間に入ってもらうことに。
自分が狙われたことで気が立っている。どうやら震えは治まったらしい。
「冗談だって探偵さん。ははは…… 」
黒木はまだ自分の犯した罪の重さに気付いてない。何と愚かしいことか。
悲しいことに誰も彼に同情する者はいない。
それもそのはず。生き残った者は犯罪被害者の会のメンバーがほとんど。
料理人だって元彼を失っている。
この中で冷静な判断が出来るのは我々を除けばガイドさんぐらいなもの。
ただあれだけ第一発見者にされたのだ冷静とはいかないか。
とすれば真犯人を許せないはず。
彼女が黒木の唯一の味方となり得る。嫌われてなければだが。
私だって同情するつもりはない。
一連の殺人事件が復讐ならばそれなりの理由があってのこと。擁護出来なくもない。
探偵としてどちらにも肩入れ出来ない。いやにここまで来れば真犯人の味方かな。
「まあまあ黒木さん。お気持ちも分かりますがこれ以上は……また縛り付けますよ」
脅しを掛けると急に大人しくなった。それでいい。これも黒木自身の為。
「私の予想ではあらかじめ殺す順番が決められていたと考えています」
真犯人を見るが目を逸らしてしまう。
「それは驚いたね。だったらあの男はどうして最初に選ばれたんだい? 」
小駒さんが口を挟む。
「第一被害者、海老沢さんのある癖を見抜いた。それが何だか分かりますか? 」
誰に問うでもなく独り言のようなもの。
「いいや。早く続けておくれよ」
お婆さんは降参だと喚く。
「もう少し考えてみてはいかがですか? ねえ海老沢さん」
覆われてるとは言え亡骸を弄ぶのは憚れるがこれも真犯人を挙げる為。
「いいから早くしてくれよ! 」
我慢の限界の黒木がイライラし始める。
タバコに手を掛けるがここはもちろん禁煙。
「まさかこれか? 」
トンチンカンな答えに辿り着く黒木。今はふざけてる時ではない。
「冗談はさておき私は彼の人隣りを知りません。生前一度もお会いしてませんので。
海老沢さんを知る皆さんにご協力願います」
黒木は沈黙。誰も具体的な指摘が出来ない。
「そう言えばかなりせっかちでした。お年も召していたようですし」
突破口を開いたのはガイドさん。よく観察している。
「はいその通りです。海老沢さんにはショックでしょうね。
まさか真犯人が癖を見抜いて最初のターゲットに選ぶとは夢にも思わないはず。
せっかちはお年寄りによく見受けられる癖。
元々せっかちな人は年を取れば余計に。どうしても急ぐ傾向にある。
誰しも年を取れば酷くなっていくもの。
もちろん真犯人は確実に海老沢さんをとは考えていなかったはず」
「それはどう言うことでしょう探偵さん? 」
ガイドさんが合いの手を入れる。
「確率が高いだけでもちろん他の方でも問題はありません。
犯人役の黒木さん以外なら誰でも良かった。
ただ運よく狙い通りに海老沢さんが動き、第一の犠牲者に。
「ああ、もううるさいね! 鈍くてイライラする。もっと早く出来ないのかい? 」
小駒さんが痺れを切らす。
「ははは…… 小駒さんも危なかったですよ。せっかちな方ですから」
「ふん! 殺される謂れはないね! 黒木は最低な人間だから当然さ! 」
一言も二言も多い小駒さんはトラブルをわざと引き起こしてる様にしか見えない。
「何だと婆さん。調子に乗りやがって! 」
「やるのかい? 」
「いいだろう。勝負してやる! 」
二人だけで勝手に盛り上がってるが今はそんな時ではない。
私の完璧な推理を聞き、ひれ伏すべき時だ。
二人には厳重注意。
「せっかちな人は特に何でも急ごうとします。
部屋のチェックインも然り。他の人よりも早くしないと気が済まない。
一秒でも早く。この癖は自分ではどうにもなりません。いくら注意しても無駄です。
海老沢さんは残念ながら死に急いでしまいました。
彼もまた詐欺集団の一人。当然狙われていた訳です。
黒木さんはその辺は詳しいですよね? お話願いますか」
黒木は罪に問わないことを条件に協力した。
まったく抜け目がない。まだ逃れようとしているらしい。
いい加減に己の罪を認め深く反省すべき。
続く
0
あなたにおすすめの小説
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
梵珠山に、神は眠らない ―八峰 遥の豪運―
事業開発室長
ミステリー
神の気まぐれか、何かの意思か――
八峰 遥が遭遇する不可思議な出来事と強運の連続。
彼女を呼ぶ声は一体? 現実とオカルトが交錯する、
全10話完結の短編ミステリー。
シリーズ第2弾【十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―】 公開中
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
私の存在
戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。
何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。
しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。
しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】
藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。
そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。
記憶を抱えたまま、幼い頃に――。
どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、
結末は変わらない。
何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。
それでも私は今日も微笑む。
過去を知るのは、私だけ。
もう一度、大切な人たちと過ごすために。
もう一度、恋をするために。
「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」
十一度目の人生。
これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる