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ジミート 神々の森

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神々の森入口。

昨日の男(振られたかわいそうな人)の話が本当ならばここからが神々の森。
そう思うとなんとなく不気味な感じがする。

木々が騒めいている。
風もないのになぜ?
我らを招いている?

令司の忠告を無視して前に進む。

「カン待って! 」
「プラスティ―急いで。置いていくよ」

「兄貴。ゆっくり。足が震えちまっていけない」
パックは得体の知れない何かに恐れを抱き、さっきから冷や汗と震えが止まらない。

カンの背中を掴み下を向き目をつぶる。

プラスティ―はちゃっかり手をつなぐ。

誰かいる? 
緑に覆われた道の終着点に人が待ち構えていた。

「歩を進めるものよ。この先は引き返すことはできぬぞ。
それでも良いと言うならば来るがよい! 」

「どうするカン? 」
「もう今さら迷っている暇はない。行こう! 」
「さすがは兄貴。そうこなくっちゃ! 」

前進。

「ここは神々の森。お前ら人間の想像も及ばない聖域。本当に良いのだな? 」
「ハイ! 」

「よろしい。我はムトウ。神々の森を管理する者」

「たまに酔っぱらって侵入する者もおり人間が来るのも珍しくない。
まあここ百年の話だがな」

「あなたは人間? 」
「当たり前だ! 」 

見た目は平凡なおじさん。強そうにも凄そうにもレスラーにも見えない。
身長だってどちらかと言えば低い。普通だ。

「我は世話係の一人」
「他にもいるの? 」
「ああ十二人いる。我は十番目の下僕じゃ」

交代制らしい。十月は彼が担当するのだそうだ。

「忙し! 特に今は忙しい! お前らの相手などしていられないんだがな」

そうは見えないが彼の話では今月はえらく忙しいとのこと。


「もう働き過ぎた。膝が膝が痛い! 」
「大丈夫ですかムトウさん? 」
「ああ、何とかな」

「これをどうぞ」
プラスティ―が薬草を差し出す。

「おお! 気が利くな。そうそうこれが効くんだよな」
ムトウは笑みを見せた。

ありがとう。では詳しい説明をするぞ。

「よく聞け…… 
赤紫の世界が広がっている。
地図などは無いが念じれば必ず辿り着く」

「まず第二エリアから。
チート神がおられる」

「次に第三エリア。
八百万の神がおられる」

「第四エリアは魔王が住んでいる」

「第五エリアは全てを司る神がおられる」

「そして第一エリアはジミートが修行している」

「ジミート? 修行? 」
「ああそうか。お前たちはジミートを知らないのか」

ジミートとは一体?
 
「まだ神になりきれない者。
修行を重ねチート神となるのだ。
地味なチート神とでも理解すればよかろう」

「なんとなく分かりました」

「そうか。おおっと忘れるところだった。
今はチート神も含め神々はこの地を離れておる」

「はあ? 居ないの? 」
「ああ、出発あそばされた。お戻りになるには早くても半月以上はかかる」

「そんなに待てない! 」
「落ち着いてプラスティ―」

「どうすればいい? 」
「待つもよし。行くもよし」

「はあ? 」

「ジミートはまだ修行の身であり大したチートを授けられないがそれでいいと言うなら行くがよい」

「どうしようカン? 」
「時間が無いんだろ。俺も待ってられない! 」
「兄貴行きましょうや」

「よし決まりでいいのだな? 」
「ハイ! 」

「では最後にサービスだ」
「サービス? 」

「ああ、薬草のお礼だ。もしこのまま進んでも決して辿り着けはしない。
仮にうまくいっても何年かかるか分からないぞ
それでもいいと言うなら止めない」

「時間が無いんです! 」
「だろう。ならば我に従え! 」

「いいか。迷いなく進むにはすべてを理解することだ」

「具体的に言えば己を晒せ。
懺悔せよ!
今までのこと。これまでのこと」

「少なくても最近。いやここひと月以内の己を省みろ! 」

「パック頼む」
「兄貴自分には理解できません」
「私は問題ないわよね? 」

「早くせよ! 日が暮れるぞ。順に言って行け! 」

「仕方ない。俺から」
「さすが兄貴! 」
「リーダーお願いね」

「俺が最近やらかしたのは村を追い出されたこと」

「具体的には? 」

「親方の本を濡らし、慌ててマッチに火をつけて乾かそうとした。
でもいつの間にか部屋全体に火が付き親方の家を全焼させてしまった。
その責任を取って村を出て行くことになった」

「他にもまだあるだろ? 」
「ドコダシティーからも追い出された」

「理由は? 」

「些細な事。親切にも旅館を案内してくれた男らの裏切りに遭い金をむしり取られた。結局逃げる羽目に」

「良かろう! 次! 」

「自分は良く覚えてないっす。
物心ついたときには兄貴たちと悪い事ばかりしていて。
旅人を襲うのが仕事みたいなもの」

「でも今の兄貴に会ってからは悪さはしてません」

「そうか。今までの事を反省しているか? 」
「ああ。もちろん」

「後悔してるな? 」
「してます! 」

「素直でよろしい! 決して償えるものではないが更生の道も残っている」

「最後の者! 」

プラスティ―の出番。

「私? 私は別に何も…… 」
「おい、プラスティ―。嘘はまずいよ」
「そうっすよ。性格悪いんだから何かあるでしょう? 」
「バカ! でも本当に思い当たらないのよね…… 」

「神は見ている! 」
脅しをかけられ己の罪に向き合うプラスティ―。

「私、私! そう…… そうだわ! 神をお疑いになったわ。
今はいないのではないかと」

「それは正しい。問題ない。他には? 」
「うーん。特に…… 些細な事ならいくつか」

「包み隠さずに言ってみよ! 」
「カンの手紙を出さずに破いて捨てちゃった」

「ええ? なんてことを! 」
「そうっすよ。兄貴の大事な手紙破くなんてまったく! 」

「それじゃあ届いてないの? 」
「ごめんねカン。むしゃくしゃしてたからつい」

「嘘をついてはならん! 」
「本当よ! 」
「ごまかされんぞ! 」

「もう本当に細かいわね。ちょっと嫉妬しただけじゃない」

「嫉妬? 兄貴気をつけてくだせい」

「プラスティ―! 」
「カン。あなただって勝手にお風呂に入って来たでしょう。しかも覗きまでして」
「兄貴! 見損ないました! いえ、立派な悪でございます」

「メチャクチャだよ! 」

「カンが悪いの! 」

「兄貴は…… えっと…… 庇いきれません」

「ほれ、もう良い! 充分反省してるみたいだ。これまで! 」

「いいか。今ここで吐き出した醜い事を心にためておけば道のりは必ず辛いものとなっただろう。疑心暗鬼に陥り、苦しみだし互いに攻撃し合うかもしれない」

「それだけお主らは弱いと言う事じゃ。
心を入れ替え三人仲良く団結するのだ」

「分かりました。二人とももういいな? 」
「カンが許してくれるなら」
「兄貴! 自分は着いていきます」

「では改めて」

「カン! 」
「ハイ! 」

「パック! 」
「へい! 」

「プラスティ―! 」
「はーい」

「三人とも達者でな。
行くがよい。神々の森へ! 」

扉は開かれた。

                    続く
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