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幼き王子

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部屋から話し声が漏れる。

どうしよう……

「さあ行きますよ」

思い切って中に入る。

部屋には二人。少年とその世話係。

「ではごゆっくり」

男は出て行く。

少年は王子だとか。ついつい見とれてしまう。

これが噂の王子様。

この国の王子。まだ子供だ。

「ガム! お願い」

「ええ私から? 」

「だって…… 」

「騒がしい! 早く用件を言え! 」

イライラ気味の王子。ご機嫌斜め?

「うん。お嬢さん」

まだガキだと言うのに一丁前に格好をつける。

手にした剣を使い立ち上がる。

剣を鞘に戻し頭を下げる。

「これは失礼しました。私はこの国の第四王子シーシャ。兄上たちはここを離れており現在父上の帰りを待っているところです。どうぞお近づきの印に」

強引に引っ張られる。

ガムは助けてくれようとしない。

腕を掴むと手に軽くキス。

「何をするのですか! 」

一瞬の出来事。恥ずかしさから手を引っ込める。

「この無礼者! 王子とは言え許しませんよ! 」

「ははは! ただの挨拶ではないか 」

まだ幼いのか笑顔が可愛らしい。

年が離れているが彼も立派な王子。

十か条にも反していない。

できれば可愛らしい王子とは思っていたが…… まあいいでしょう。

ガムは相変わらず畏まっている。まあ王子であるから当然そうよね。

「私はステーテル。ニーチャットから参りました」

「噂は耳にしている。何でもド・ラボーだとか」

「あら詳しいのね。フフフ…… 」

「子供扱いしないでもらいたい! 」

「はいはい」

つい子供だと思って軽くあしらってしまう。

「ステーテルよ。気に入ったぞ! 」

もう単純なんだから。これだから子供は……

「あらあら王子様ったら可愛い」

「馬鹿にするな! 」

「ふふふ…… 」

いくら王子と言え子供相手。誰か話の分かる者を探さなくてはいけない。

「ねえ王子様。ここには他に誰も居ないのですか? 」

王子の表情が曇った。

「留守番役に爺がいたんだがもう年で寝ている。後の者は知らん! どこかに出かけたのだろう」

あらあら話の通じる大人はいないのね。

とりあえず部屋を用意してもらう。

詳しい話は明日にでも。


早朝。

王子の誘い。

「ちょうど退屈しておった。どうだ歩かないか」

「はい。王子」

素直に従う。ガムも一緒なら安心。

「よしこっちだ」

広場にやってきた。

ただ広いだけで何かがあるわけではない。

「小さい頃兄弟でよく玉を転がして遊んだものだ。兄上たちには最後まで敵わなかったな。
夏には村人を招待して盛大に遊んだ記憶がある。ああ懐かしい」

小さい頃って今でも十分に小さいんだけどな。

「ねえ王子。何か寒くありませんか」

「そうか気のせいだろ。まあいい。食事にしよう」

村々を回る。

フレンドリーな王子。

村の者からは慕われておりちょくちょくご馳走になるのだとか。

爽やかな朝とはいかずに何か重苦しい雰囲気。

靄なのか霧なのか良く分からないが視界を奪っている。

寒い! どうしたんだろう。なぜか異常に冷える。

風邪でも引いたかしら?

手は冷たい。血の気が引いている。

何だか嫌な予感。

体が何かに反応しているようだ。

第六感が働く。

ここを離れないさい。そう警告している気がする。

「ステーテル。どうしたこっちに来て食事をしよう」

王子ともあろう者が村人の質素な食事にありつこうなんてどうかしている。

どう考えてもおかしい。

「さあお嬢さんもどうぞ」

勧められては断れない。

ガムも一緒なら問題ないか。

きれいなお家。整理されていて物があまり置いておらず広々としていて快適……

というよりも広々しすぎていて違和感だらけ。

ここに本当に人は住んでいるの?

食事はどこから持ってきたのか?

どうやって作ったの?

ついつい見回してしまう。

「ああ。心配しないで。ここは広いだけが取り柄なんだ。昔はねよく集めてたんだけど。興味を失ってもうすべて捨てちまったよ」

「そうですか」

違和感はあるがまあ気にすることでもないか。

「ほら冷めないうちにどうぞ」

スープから匂う独特な臭い。

美味しいかと聞かれれば微妙と答えるしかない。

濃くてまずいのではなく薄くて味気ない。まあ健康にはいいでしょうけどね。

私はまだいいけれど王子はまだ子供。心配になる。

これはガムに頼るしか……

「結構なお味で! 」

ガムが褒め称える。

嘘でしょう? どこが?

どうやらガムは宮廷で出される豪勢な食事に飽きたらしい。

それだけではなく好みまで変わった? 

ただ体に優しいものを欲しているのかは不明だが困ってしまう。

                         続く
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