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元の世界

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「よしこの者たちを連れてこい! 」

王子はどうやら許してくれそうにない。あの地下牢にでも閉じ込めておくつもりだろう。

あーあ。嫌になっちゃう。

「ガム…… 」

もう五分を切った。

「大丈夫です。落ち着いてください」

冷静なガム。

「チャンスはまだあります。必ずあります」

ガムの励ましに元気づけられる。もうそれだけで満足。

チャンスなどあるはずがない。ただ為されるがまま。


「待たんか! 」

うん? この声は? 

元国王の姿を捉えた。

「これはこれは国王様ではありませんか。お久しぶりですね」

「お前ら何をしておる? 儂が相手だ! 」

爺の剣捌き。王子など相手ではない。

「かかって来い! 」

元国王が注意を惹きつけている間に再び川に入水。

隊はバラバラ。

弓矢部隊は爺の仲間によって急襲され動きを封じられる。

これで飛び道具が使えなくなった。

形勢逆転。

あとは王子を捕まえればやたらな真似はできない。王子を人質に取られてはどうすることもできないだろう。

「何をしている? 早く行かぬか! 」

年を感じさせない俊敏な身のこなし。

長年地下牢に閉じ込められていたとは思えない体の衰えを感じさせない動き。

戦士その者。老戦士とでも言えばいいのか。

「早く! 行きますよ! 」

もう大声を出しても誰も気にしていない。

「ガム! 」

残り三分もない。

体が限界を迎えている。

「急いでステーテル! 本当に時間が無い! 」


ガムと共に川の奥に進む。

徐々に深くなっていく。

これはまずい。溺れる。

どの道もう助からない。冷たいまま。凍ったまま。

それが私の運命。

ああ神様。お助け下さい。

そして私の罪をお許しください。

「ガム! 」

前を行くガムは反応しない。

きっともうダメね。

ド・ラボーとはなんと罪深いのでしょう。

ド・ラボーにならなければよかった。

後悔? 諦め?

ああもうダメ。水に覆われ万事休す。

もう息もできない。

世界が歪んでいく。

さあ受け入れましょう。

たとえどうなろうとも私なら大丈夫。だってド・ラボーなんですから。

体に力が入らない。もう感覚はない。

手も足も凍っている。

体全体が固まったら最後。もうどうすることもできない。

「ステーテル…… 」

ガムの言葉が消えていく。


真っ暗な橋の真ん中で横になっていた。

「助かった? 夢? 幻? 」

「ほら大丈夫ですか? 」

凍り付いた体をガムが温めてくれる。

「ああステーテル! 」

「ガム! ガム! 」

橋の中心で体を抱き合う。

唇と唇を重ねる。

ああ温かい。ガムの熱が直に伝わる。

「よく頑張りました。ステーテル」

「ガム…… ありがとう」

「もう心配いらない。さあ眠りなさい。スティ―! 」

「お姉さま! 」

優しいガムがそこにはいた。

「スティ―! 」

「お姉さま! 」

強く強く抱きしめる。

もう一度唇を重ねる。

もう怖くない。死を招く接吻などもうこの世界には存在しない。

そうここは元の世界。

シーチャット。


おーい! 
おーい!

ランタンを持った二人組が駆け寄ってきた。

「おお! よく戻ってきなさった」

「大丈夫だったかいお嬢さんたち」

橋で出会った老人とおばさんの二人組だった。

「ありがとうございます」

礼を述べる。

「何。こちらの落ち度だからな。当然のことさ」

「まさかお前さん方が話を聞かずに行ってしまうとは思わなかったからな」

「お爺さんのおかげです」

「いや。帰り道を示したに過ぎん」

「それで国王はどうだった? 」

「分かりません。王子たちと争いになっていましたが」

「そうか。では国王は解放されたのだな? 」

「ええ、私たちの手で」

「それは何と頼もしい」

「まあお若いのにご立派だこと」

「国王は民衆から尊敬されていた。すぐにでも反逆者は捕まるだろう」

「あれお爺さんたちはなぜそのことを? 」

「ああ。それは我々があの屋敷で仕えていたからだ」

「ええ。私はメイド。こっちは執事」


「危機が迫ったので先に逃げて来たのだがまさか国王が捕まってしまうとはな。

我々は戻ることなく近づく者を遠ざけていたのだ。これも国王の命によるもの。従うしかあるまい。

まあこの勢いだとシーチャットの再興は近いのかもしれない。我々は国王の帰りを待つつもりだ」


「そうね。それまでは役割を果たすことが肝心だわ」

「ありがとうございます」

改めて礼を述べ別れる。

シーチャットともお別れ。

次の国ゴーチャットは目の前だ。


朝。

目の前に見えるゴーチャットには船でしか行けない。

十分ほど船に乗り目的地のゴーチャットへ入る。

                 続く
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