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王子の選択

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妹思いの兄と門番との話がまとまる。

「それであんたらは? 」

面倒臭そうに頭を掻きながらいやらしい目を向ける。

「何か用か田舎者? 」

連れが連れなだけに舐められる始末。

「ちょっと…… 」

ガムが前に出る。

「この方はステーテル。ド・ラボーの資格があります。私はお付のガム。王子に用があって参りました」

「どうしようかな。王子は忙しいお方でここにはおられないんだ」

「ではどこに? 」

「それは教えられない」

「ほらな。いつもこれなんだ」

少年は諦め顔。

「もう仕方がないですね」

ガムが懐から金貨を一枚取り出す。

「これでどうでしょう? 」

「えへへ悪いな。貰っておくぜ」

金に目が眩んだ門番は王子の居場所を吐く。

「俺が言ったってのは内緒だからな! 」

「はいはい」

それくらいは心得ている。どうせ他にも知っていることを吐いてもらうことになるだろうから。

情報源は秘匿するに限る。


元の道を引き返す。

山を越えて森に入ったところで向きを変える。

教えられた通りに歩き続けると小さな家が見えた。

木こりでも住んでいそうな佇まい。そこにいるのはもちろん王子と……

おーい! ベイリー!

少年が叫びながら中へ。

「無礼者! 」

王子が剣を抜く。

王子と少年は睨み合ったまま動こうとしない。

もちろん少年は武器など持ち合わせていない。

どう考えても無謀。だがしかし……

「お止めください! この人は私の兄です」

ベイリー発見。

「どうかお止めください! 」

「ならん! 許しはしない! 」

「ベイリー! 」

「お兄ちゃん! 」

二人は手を取り合う。久しぶりの再会。

目に涙を溜めるベイリー。

ベイリーは兄にそっくりで小さくてかわいいらしい。さすがに私と同じド・ラボーなだけある。


王子とベイリーはこの小さな家で婚姻の儀まで二人で過ごす。

それがこの国の伝統であり習わし。他の者と接触は禁じられている。

だからベイリーの精神状態も気になる。

「ベイリー大丈夫か? 」

「ええ。とってもワクワクしてるの」

やはり兄の早とちりだったようだ。

「王子と本気で結婚するつもりか? 」

「ええ。それが運命。そうですよね王子様? 」

「ああ」

そういいながらこちらをチラチラ見る。

浮気者の王子。女癖が悪いと見える。

「どうしたのですか王子? 」

「いやお美しい。どのような御用でしょうか? 」

王子が迫る。

ガムを見るが助けてくれない。一人で対処しろと言うことだろう。

それにしても意地悪なガム。

今夜は相手してあげない。

そう心に決めるが果たして……


「私はニ―チャットからやって参りました。ド・ラボーの資格があります」

「それは素晴らしい。何が好きかな? 故郷はどうだい? 明日は暇かい? 」

王子は私の魅力の虜に。

ベイリーと言う婚約者がいながら私にちょっかいを出す。

困った王子様。

見た目は完璧。瞳も大きく緑色に輝いている。足も長く身長も高め。

可愛いと言うより格好いい。女癖は良くないのでそこが減点ポイント。

これで白馬にでも乗ってさらってくれた言うことないんだけどなあ。

「あの王子様。ご兄弟は? 」

「上に兄が二人。弟が一人。妹が二人おります」

十か条にも反していない。王子として申し分ない。

「ちなみに兄たちはとっくに婚姻は済ませてある。今度は我の番だ」

「ではお幸せに」

ここらで切り上げるのがいい。


「ちょっと待ってください。あなたがド・ラボーだと聞き驚きました。これも運命なのかもしれません。
どうでしょう。花嫁候補になってはくれませんか? 」

王子の美声にやられそうになる。声もいいなんて反則だわ。完璧。

どうしましょう?

ベイリーの表情が曇った。女としてのプライドが傷つけられたのだろう。

泣きまではしないが自信を失ったのか伏し目がちになる。王子のベイリーへの愛情はこの程度だったのだと知れる。

「ガム? 」

頷く。

「分かりました」

「おお。そうかならばよかった。ではさっそく話を通すとしよう」

二股をかけようとする王子。

ベイリーのいる前でなんてことを?

最低だ。

待って…… 私も同類じゃない。でも違う。

これはベイリーを王子から引き離す作戦。

妹思いの兄の願い。どうか傷つかないで欲しい。

ゴミ王子争奪戦が開始された。

              続く
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