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覚悟を決めた男と耳の遠いお婆さんとの心温まる銭湯物語
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その日は雨が降っていた。
予報では昼過ぎまで雨だそうで客足は遠のくばかり。
「お義母様。本当に一人でよろしいんですか? 」
「ああん? 何か言ったかい? 最近耳が遠くてね」
「では店番頼みましたよ」
「分かってるって。楽しんで来な。どうせこの雨では客は来んよ」
「聞こえてるじゃない。間違いないでくださいね。
赤の暖簾が男性。青の暖簾が女性。
絶対に間違えないでください。大変なことになるんだから」
昔は男性は青で女性は赤で統一できていた。
最近は多様性があってなかなか昔のようには行かなくなった。
先月までは昔ながらの暖簾。青が男性で赤が女性でやって来た。
それを一新した時あえて反対に。これで時代の波に乗り遅れることはないだろう。
ただ銭湯には銭湯の問題がある。第三の性についてどう対応するか。
その辺を突っ込むべきか。ただ昔ながらの銭湯。大正からの歴史がある。
資金的にも限界がある。だからあえて昔のままで。
午後二時。開けてすぐに男が駆け込んで来た。
「あれ珍しいね。初めてかい? 」
常連さんが駆け込むのが常だがいつも一番のお爺さんは腰を痛めて静養中。
二番手の男も風邪を引いたと律儀に電話を掛けて来た。
だからほぼ人のいない雨の日は暇を持て余すことになる。
ただ今日は週一日のサービスデーなのであと一時間もすれば混み合うだろう。
「大人一枚」
「毎度! これサービスの半額券だよ。次回からどうぞ」
男はただ頷くのみ。無口なのだろう。
「そうだ。お兄さん初めてだったよね? 分かるかい? 」
再び頷く。耳が遠いのでその方が何かと分かりやすいのでいいのだが……
「あの…… 男性の方は? 」
「ああん? はい? もうちょっとはっきり! 」
「だから…… もういいです」
「よくない! 分からないことがあったらちゃんと聞いてくれって」
「トイレは? 」
「まっすぐさ。それではごゆっくり」
そう言ってもはや男の方を見ていない。
せんべいとお茶でラジオを聞きつつ大音量のテレビを流し見る。
トイレ。漏らされても困るしお年寄りはトイレが近いから。
事前にトイレを済ますのが大人のマナー。子供もそれを見て真似をする。
だから違和感もないし男の決意にも気づけなかった。
男サイド。
もう限界だ。今日ですべてを終わらせてやる。
覚悟は決めた。さあ今こそ決行の時だ!
男は赤い暖簾をくぐる。
緊張の一瞬だ。脱衣所にはまだ誰もいない。一番だからな。
続けて風呂へ。 さあもう後戻りはできない。
大丈夫。覚悟は決めている。もう捕まる覚悟は決めて来た。
ここで怖気づいて堪るか。
体を洗ったら風呂へ。
もう気持ちいいとかは熱いとか感じてる余裕はない。
あちち! 何十度に設定してるんだよここの銭湯はよ?
ヒートショックでお亡くなりになっちまうぞまったく。
おっと…… 冷静に冷静に。
さあそろそろやって来る頃だろう。
何と言っても今日は週に一度のサービスデー。
これを目当てにやって来る若い女の子だっているさ。
ここは都会だからな。へへへ……
こうして準備が整った男に待ち受ける運命は。
逮捕か? 自首か? 執行猶予か? 無罪放免か?
ガヤガヤ
ガヤガヤ
ついに動き出した。
「はいいらっしゃい。ああ女性は青の暖簾だよ。奥さん間違いないでね」
「へえ変わったんだね? 新しくなったんだ。分かりました」
「本当に間違えるんじゃないよ! 」
こうして女性は青の暖簾を男性は赤の暖簾をくぐる。
その結果覚悟を決めた男の元へ汗臭い男どもが入って来る。
その刹那男の悲鳴が響き渡る。
<完>
予報では昼過ぎまで雨だそうで客足は遠のくばかり。
「お義母様。本当に一人でよろしいんですか? 」
「ああん? 何か言ったかい? 最近耳が遠くてね」
「では店番頼みましたよ」
「分かってるって。楽しんで来な。どうせこの雨では客は来んよ」
「聞こえてるじゃない。間違いないでくださいね。
赤の暖簾が男性。青の暖簾が女性。
絶対に間違えないでください。大変なことになるんだから」
昔は男性は青で女性は赤で統一できていた。
最近は多様性があってなかなか昔のようには行かなくなった。
先月までは昔ながらの暖簾。青が男性で赤が女性でやって来た。
それを一新した時あえて反対に。これで時代の波に乗り遅れることはないだろう。
ただ銭湯には銭湯の問題がある。第三の性についてどう対応するか。
その辺を突っ込むべきか。ただ昔ながらの銭湯。大正からの歴史がある。
資金的にも限界がある。だからあえて昔のままで。
午後二時。開けてすぐに男が駆け込んで来た。
「あれ珍しいね。初めてかい? 」
常連さんが駆け込むのが常だがいつも一番のお爺さんは腰を痛めて静養中。
二番手の男も風邪を引いたと律儀に電話を掛けて来た。
だからほぼ人のいない雨の日は暇を持て余すことになる。
ただ今日は週一日のサービスデーなのであと一時間もすれば混み合うだろう。
「大人一枚」
「毎度! これサービスの半額券だよ。次回からどうぞ」
男はただ頷くのみ。無口なのだろう。
「そうだ。お兄さん初めてだったよね? 分かるかい? 」
再び頷く。耳が遠いのでその方が何かと分かりやすいのでいいのだが……
「あの…… 男性の方は? 」
「ああん? はい? もうちょっとはっきり! 」
「だから…… もういいです」
「よくない! 分からないことがあったらちゃんと聞いてくれって」
「トイレは? 」
「まっすぐさ。それではごゆっくり」
そう言ってもはや男の方を見ていない。
せんべいとお茶でラジオを聞きつつ大音量のテレビを流し見る。
トイレ。漏らされても困るしお年寄りはトイレが近いから。
事前にトイレを済ますのが大人のマナー。子供もそれを見て真似をする。
だから違和感もないし男の決意にも気づけなかった。
男サイド。
もう限界だ。今日ですべてを終わらせてやる。
覚悟は決めた。さあ今こそ決行の時だ!
男は赤い暖簾をくぐる。
緊張の一瞬だ。脱衣所にはまだ誰もいない。一番だからな。
続けて風呂へ。 さあもう後戻りはできない。
大丈夫。覚悟は決めている。もう捕まる覚悟は決めて来た。
ここで怖気づいて堪るか。
体を洗ったら風呂へ。
もう気持ちいいとかは熱いとか感じてる余裕はない。
あちち! 何十度に設定してるんだよここの銭湯はよ?
ヒートショックでお亡くなりになっちまうぞまったく。
おっと…… 冷静に冷静に。
さあそろそろやって来る頃だろう。
何と言っても今日は週に一度のサービスデー。
これを目当てにやって来る若い女の子だっているさ。
ここは都会だからな。へへへ……
こうして準備が整った男に待ち受ける運命は。
逮捕か? 自首か? 執行猶予か? 無罪放免か?
ガヤガヤ
ガヤガヤ
ついに動き出した。
「はいいらっしゃい。ああ女性は青の暖簾だよ。奥さん間違いないでね」
「へえ変わったんだね? 新しくなったんだ。分かりました」
「本当に間違えるんじゃないよ! 」
こうして女性は青の暖簾を男性は赤の暖簾をくぐる。
その結果覚悟を決めた男の元へ汗臭い男どもが入って来る。
その刹那男の悲鳴が響き渡る。
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