夢で見た話をまとめてみた

とみー

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赤子を背負う女の話

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街と街は森によって隔てられている。
森には異形の怪物が蔓延り、1人で抜けることなど到底不可能。
異形とは或いは動物。或いは昆虫。或いは植物。或いは大地。
森は、まさしく異界そのもの。
街に住む人間は時折やってくる騎士団の巡礼に合わせる以外に、街と街を移動する手段はない。
そしてその巡礼でさえ、街と街を渡る時には騎士団の約3分の1が帰らぬものとなり、一般人を守る余裕など到底ないのである。

その森に立ち入る女がいた。
中折れのハット、肩からの長いマント、動きやすそうな・・・・・・或いは裂けたパンツとシャツ。赤黒い、そんな印象の女。
そして何よりも目を引くのは、マント越しにしがみつくまだ幼い赤子。
女が手を添えるでもなく、自力で背中にしがみついている。

森が動く。
女と赤子を捕らえる為、自らの養分とする為に。
或いはその牙と爪で、或いは液体と羽で、或いは蔦と棘で。
そしてその何れも、2人には届かなかった。
武器が牙と爪を砕き、動きが液体と羽を鈍らせ、速さが蔦と棘を相打ちにさせる。
その鮮やかさは、人の目には追い切れないだろう。なにより、見とれてしまえば森の餌食となってしまう。
背中の赤子は動くことなくしがみついている。少しも離れることはない。
不意に、女の死角から牙を向いた植物が襲いかかる。
その植物は、女に届くことなく消えた。
背中の赤子が顔を向けた途端に千切れて落下したのだ。
女は何も言わない。ただひたすらに街を目指して異界の森を進んでいく。
途中、騎士団の巡礼の残骸だろう馬車があったが、すでに全てが無きものとなっていた。
森は、2人を襲う事を止めない。
2人も応戦しながら進むことを止めない。
森の終わりであろう、教会が見える。
本来巡礼であれば門から入る所を、2人は教会の屋根に着地し、塔の鐘から教会へ入っていった。

教会の対応は冷たい。
内部から入ったこともあり、泊まる宿は用意してくれたものの、不信感から誰1人話しかけては来なかった。
1人で森を抜けたこと、背中の赤子への興味等、聞きたいことは山ほどあるはずだが、女の雰囲気がそれをさせなかったこともある。
そのため、教会も冷たい対応を取るしかなかった。
女もそれでよかった。
この街で情報収集を終えたらすぐにでも森へ入り旅を続ける。余計は感情は必要ない。この世は弱肉強食。強いものしか生き残れない。
私を守る背中の子がいる限り、私は戦う。
いつか目的を果たす、その時まで。

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