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私、マージョリー・フローレスには、同い年の婚約者がいる。
相手は、公爵家の嫡男であるギュスターヴ・クロフォード。
子爵家とは名ばかりの貧乏貴族の娘である私には、もったいないくらいの完璧な婚約者だ。
何故、私が彼の婚約者になれたのかというと、フローレス家の当主──つまり、私の父がギュスターヴの命の恩人だからだ。
というのも、ギュスターヴは幼い頃に一度、川で溺れかけて九死に一生を得ているのだが。
その際、命をかけて彼を救ったのが私の父なのである。
ギュスターヴの両親は私の父に大きな恩義を感じているらしく、それ以来、家族ぐるみの付き合いが始まった。
私の父親とギュスターヴの父親はすっかり意気投合し、やがてお互いの子供同士を結婚させようという話にまでなったのだとか。
……これが、私とギュスターヴが許嫁同士になった経緯だ。
***
ある日の夕方。
私とギュスターヴは、王都の路地裏を歩いていた。
この路地裏にある長い階段の上から見る景色は、いつ見ても素晴らしい。
ここは、密かに私のお気に入りの場所だったりする。
「それで、ギュスターヴ。話って、一体何かしら?」
そう尋ねながら、私は大好きなギュスターヴの隣を歩く。
彼の輝くような金髪が、夕陽に透けてきらきらと光っている。
やっぱり、自分の婚約者はいつ見ても素敵だ。
そんな風に思っていると。彼はゆっくりと口を開き、言いづらそうに話を切り出した。
「ああ、そうだったね。その事なんだけど──」
透き通るようなアメジスト色の瞳に見つめられて、心臓が思わずドキリと跳ね上がる。
私は、婚約者のことが大好きだ。その気持ちは、初めて顔を合わせたあの幼い日から変わっていない。
だからなのか、いつまで経ってもこうしてまじまじと顔を見られることに慣れないのだ。
──それにしても……急に改まっちゃって、一体どうしたのかしら?
何故かわからないけれど、嫌な予感がした。
けれど、続きを聞かないわけにもいかず……私は、ドキドキしつつもギュスターヴの次の言葉を待つ。
「申し訳ないけれど、君との婚約を破棄させてほしい」
「え……? ごめんなさい。今、何て?」
聞き間違いだと思った。いや、聞き間違いであってほしかった。
だから、聞こえなかったふりをした。
聞き返せば、「冗談に決まっているじゃないか、マージョリー」と、いつものようにそんな戯けた言葉が返ってくるような気がして。
けれど──
「マージョリー。君との婚約を破棄させてほしいんだ」
現実は、あまりにも非情だった。
そう、ギュスターヴが言い放った言葉は冗談なんかではなかったのだ。
「……理由を教えて」
溢れそうになる涙を必死に堪えながら、そう尋ねた。
「本当の愛を見つけたんだ。マージョリー、本当に申し訳ないけれど、君に対して僕は今まで一瞬でも異性として好意を抱いたことはなかった。ただ、親が決めた相手だから仕方なく婚約者でいただけで……。だから、頼む。僕と別れてほしい」
懇願するように頼み込まれ、最早頷くしかなくなる。
「そう……そうだったのね。わかったわ。それで、あの……お相手は誰なの? 私の知っている方かしら?」
できるだけ、気丈に振る舞いながらそう尋ねた。
「アリーゼ嬢だよ。ほら、君の同級生の……」
「ああ、あのヘイズ家の……?」
アリーゼ・ヘイズ。ヘイズ伯爵家の令嬢で、私が通っている学園の同級生だ。
何度か、義理でお茶会に招待されたことならある。
クラスも違うためそれ以上親しくなることはなかったが、同性から見ても魅力的な女性なのは間違いなかった。
──そっか、そうよね。私なんかが、あのご令嬢に敵うわけないわよね……。
昔から自己評価が低かった私は、何故か妙に納得してしまう。
「彼女とは、以前参加した夜会で知り合ってね。すっかり意気投合したんだ。こんなに合う相手がいるのかと驚いたくらいだよ。それくらい、彼女とは気が合うんだ」
意図的なのか、そうでないのかは分からないが、ギュスターヴはアリーゼとの相性の良さを強調してくる。
「──というわけだからさ。今までありがとう、マージョリー。何だかんだ、君といた日々は楽しかったよ。これからも、友人としてよろしく頼む」
言いながら、ギュスターヴは右手を差し出してくる。
とてもじゃないけれど、すぐに気分を切り替えることなんてできそうにない。
だから、無理やりにでも笑顔を作った。
「ええ、こちらこそよろしく」
握手を交わした私達は、路地裏を歩き進め、やがて前方に見えてきた長い階段を上り切った。
隣に並ぶギュスターヴの顔は、やけに晴れやかだ。
「ねえ、ギュスターヴ。夕日がとても奇麗ね」
「ああ……そうだね」
「もう、二人でここに来ることは二度とないのかしら?」
「そうなるだろうね。今後、僕らは友人同士になるんだから」
「……残念だわ。私、この階段の上から見る景色が大好きだったのだけれど」
「別の相手と来ればいい。きっと、君ならすぐに素敵な恋人ができるよ」
そんな会話をしながら、私達は黄昏時の城下町を望む。
とりあえず、婚約解消の件については、後日二人で揃ってお互いの両親に報告しに行くことになった。
しばらく、そんな風に今後について話をした後、私達は気まずい雰囲気のまま帰路についた。
相手は、公爵家の嫡男であるギュスターヴ・クロフォード。
子爵家とは名ばかりの貧乏貴族の娘である私には、もったいないくらいの完璧な婚約者だ。
何故、私が彼の婚約者になれたのかというと、フローレス家の当主──つまり、私の父がギュスターヴの命の恩人だからだ。
というのも、ギュスターヴは幼い頃に一度、川で溺れかけて九死に一生を得ているのだが。
その際、命をかけて彼を救ったのが私の父なのである。
ギュスターヴの両親は私の父に大きな恩義を感じているらしく、それ以来、家族ぐるみの付き合いが始まった。
私の父親とギュスターヴの父親はすっかり意気投合し、やがてお互いの子供同士を結婚させようという話にまでなったのだとか。
……これが、私とギュスターヴが許嫁同士になった経緯だ。
***
ある日の夕方。
私とギュスターヴは、王都の路地裏を歩いていた。
この路地裏にある長い階段の上から見る景色は、いつ見ても素晴らしい。
ここは、密かに私のお気に入りの場所だったりする。
「それで、ギュスターヴ。話って、一体何かしら?」
そう尋ねながら、私は大好きなギュスターヴの隣を歩く。
彼の輝くような金髪が、夕陽に透けてきらきらと光っている。
やっぱり、自分の婚約者はいつ見ても素敵だ。
そんな風に思っていると。彼はゆっくりと口を開き、言いづらそうに話を切り出した。
「ああ、そうだったね。その事なんだけど──」
透き通るようなアメジスト色の瞳に見つめられて、心臓が思わずドキリと跳ね上がる。
私は、婚約者のことが大好きだ。その気持ちは、初めて顔を合わせたあの幼い日から変わっていない。
だからなのか、いつまで経ってもこうしてまじまじと顔を見られることに慣れないのだ。
──それにしても……急に改まっちゃって、一体どうしたのかしら?
何故かわからないけれど、嫌な予感がした。
けれど、続きを聞かないわけにもいかず……私は、ドキドキしつつもギュスターヴの次の言葉を待つ。
「申し訳ないけれど、君との婚約を破棄させてほしい」
「え……? ごめんなさい。今、何て?」
聞き間違いだと思った。いや、聞き間違いであってほしかった。
だから、聞こえなかったふりをした。
聞き返せば、「冗談に決まっているじゃないか、マージョリー」と、いつものようにそんな戯けた言葉が返ってくるような気がして。
けれど──
「マージョリー。君との婚約を破棄させてほしいんだ」
現実は、あまりにも非情だった。
そう、ギュスターヴが言い放った言葉は冗談なんかではなかったのだ。
「……理由を教えて」
溢れそうになる涙を必死に堪えながら、そう尋ねた。
「本当の愛を見つけたんだ。マージョリー、本当に申し訳ないけれど、君に対して僕は今まで一瞬でも異性として好意を抱いたことはなかった。ただ、親が決めた相手だから仕方なく婚約者でいただけで……。だから、頼む。僕と別れてほしい」
懇願するように頼み込まれ、最早頷くしかなくなる。
「そう……そうだったのね。わかったわ。それで、あの……お相手は誰なの? 私の知っている方かしら?」
できるだけ、気丈に振る舞いながらそう尋ねた。
「アリーゼ嬢だよ。ほら、君の同級生の……」
「ああ、あのヘイズ家の……?」
アリーゼ・ヘイズ。ヘイズ伯爵家の令嬢で、私が通っている学園の同級生だ。
何度か、義理でお茶会に招待されたことならある。
クラスも違うためそれ以上親しくなることはなかったが、同性から見ても魅力的な女性なのは間違いなかった。
──そっか、そうよね。私なんかが、あのご令嬢に敵うわけないわよね……。
昔から自己評価が低かった私は、何故か妙に納得してしまう。
「彼女とは、以前参加した夜会で知り合ってね。すっかり意気投合したんだ。こんなに合う相手がいるのかと驚いたくらいだよ。それくらい、彼女とは気が合うんだ」
意図的なのか、そうでないのかは分からないが、ギュスターヴはアリーゼとの相性の良さを強調してくる。
「──というわけだからさ。今までありがとう、マージョリー。何だかんだ、君といた日々は楽しかったよ。これからも、友人としてよろしく頼む」
言いながら、ギュスターヴは右手を差し出してくる。
とてもじゃないけれど、すぐに気分を切り替えることなんてできそうにない。
だから、無理やりにでも笑顔を作った。
「ええ、こちらこそよろしく」
握手を交わした私達は、路地裏を歩き進め、やがて前方に見えてきた長い階段を上り切った。
隣に並ぶギュスターヴの顔は、やけに晴れやかだ。
「ねえ、ギュスターヴ。夕日がとても奇麗ね」
「ああ……そうだね」
「もう、二人でここに来ることは二度とないのかしら?」
「そうなるだろうね。今後、僕らは友人同士になるんだから」
「……残念だわ。私、この階段の上から見る景色が大好きだったのだけれど」
「別の相手と来ればいい。きっと、君ならすぐに素敵な恋人ができるよ」
そんな会話をしながら、私達は黄昏時の城下町を望む。
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