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6.幸せな時間
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「言ってなかったけどさ……俺、父さんのこと嫌いなんだよ」
「お父さんって……血の繋がった、本当のお父さんなんでしょ? どうして……」
凄く不思議だった。
レオくらいの歳なら、普通はまだまだ親に甘えたい盛りのはずだ。
反抗期でもないだろうに、殺したいほど憎いなんて……一体、どんな事情があるのだろう?
「父さんはさ、俺のことを跡継ぎとしてしか見ていないんだよ。勉強でもなんでも、できないとすぐに怒るんだ。それに、ハンスのことも嫌っているんだよ。まだ俺が生まれる前の話なんだけどさ、ある時『お前みたいな人間、私の弟として認めない。この家から出ていけ』なんて言ったらしくて……それで大喧嘩になって、結局ハンスはあの家を出たんだ」
言いながら、レオはちらりとハンスの方を一瞥する。
「……だから、ここに住んでいるのね」
納得しつつ、呑気に大きな欠伸をしているハンスの横顔を見つめた。
飄々とした態度からは想像もつかないけれど、それなりに暗い過去を持っているようだ。
「それで、お前は? 殺したいほど嫌いな奴って誰なんだよ?」
「……お父様よ」
今更隠しても仕方がない、と思い素直に相手が自分の父親であることを教える。
とはいえ、完全に胸襟を開くことはできない。
前世は婚約者に殺害された子爵令嬢で、気づいたら自分を殺した婚約者の娘になっていた……なんて言ったところで、到底信じてはもらえないだろう。
「そっか」
「って……それだけ!?」
意外にも理由を聞いてこなかったため、拍子抜けしてしまう。
「何か問題でもあるのか?」
「その……気にならないの? 理由とか」
「別に。それに……お前、言いたくなさそうじゃん」
「そうなんだけど……」
「まあ、相談に乗ってほしくなったら言えよ。話なら、いつでも聞いてやるからさ」
言って、レオはニッと笑う。
「友達って、そういうもんだろ?」
「……!」
根掘り葉掘りしつこく聞かず、辛い時はそっと寄り添ってくれる──私は、ずっとそんな存在を求めていたのかもしれない。
そう考えたら、胸の奥が熱くなった。
ついでに涙が出そうになったので、見られないように慌てて俯いた。
「おい、ガキども。景色は堪能したか? 風が冷たくなってきたから、そろそろ下りるぞ」
ハンスにそう声をかけられ、私達は頷く。
一先ず、もう陽も沈みかけていたので、塔内の見学はこの辺で切り上げて三人でペントハウスに向かうことにした。
***
翌日の朝。
私とレオとハンスは、席について朝食をとっていた。
ちなみに、朝食を作ってくれたのはハンスだ。
生活能力がないタイプかと思いきや、意外と家庭的な面もあるらしい。
「……美味しい。ハンスさんが、こんなに料理が上手だとは思わなかったわ」
ベーコンエッグを口に運んだ私は、思わず舌鼓を打ってしまう。
「んー? なんだぁ? その言い方は……」
「だ、だって……ハンスさんって髪はボサボサだし、髭も伸ばしっぱなしだし、とても料理ができるようには見えないんだもの」
「……悪かったな。やることが多いと、つい身だしなみを整えるのを忘れるんだよ」
「やることって?」
不思議に思い、思わず聞き返す。
「読書。何のための本棚だと思ってんだ?」
ハンスは部屋の一角にある天井まで届く本棚を指差した。
ああ、そう言えば。この本棚、飾りじゃなかったのね。
なんて言ったらまた怒られそうなので、黙っておく。
「ハンスさんは、読書家だったのね」
「そんなに意外か?」
……なんというか、見た目や口調が趣味と一致しないのよね。
などと考えつつも、苦笑する。
「そうだ、ハンスさん。早起きしたついでに、髭を剃ったら?」
「はぁ?」
「ハンスさん、せっかく格好良いのにもったいないわよ」
「……褒めても何も出ねーぞ」
と言いつつ、満更でもなさそうな顔をしている。
「俺も、剃ったほうがいいと思うぜ。何なら、手伝ってやろうか?」
黙々と朝食を食べていたレオも加勢してくる。
やはり、甥としても叔父にはいつも格好良くいてほしいのだろう。
「あー……分かった、分かった。剃ればいいんだろ、剃れば。今、剃ってくるから待ってろ」
私達に根負けしたのか、ハンスは渋々バスルームに向かう。
そのまま待っていると、先ほどとは打って変わってこざっぱりとしたハンスが戻ってきた。
「似合ってるわよ、ハンスさん! 絶対、そっちのほうがいいと思う!」
「俺もそう思う。てかさ、そっちのほうが普通に司書っぽいよ」
レオの口から「司書」という言葉が飛び出した途端、私は目を瞬かせる。
「し、司書……? って、あの司書のこと……?」
「ん? ああ、そうだけど? あれ? 言ってなかったっけ?」
「ええと……初耳だけど?」
レオの話によると、ハンスは同じ建物内にある図書館で司書を務めているらしい。
つまり、平日は下の階の図書館で沢山の本に囲まれながら働いているのだ。
「……全っ然、似合わないっ!」
ハンスが司書として真面目に働いているところを想像した途端、思わずそんな言葉が口をついて出た。
「お前なぁ……そんなにはっきり言わなくてもいいだろ」
「そうそう。いくら本当のことでも、そんなにはっきり言ったら流石にハンスも傷つくって」
「……おい、おめーもだ。レオ」
言って、ハンスはレオのこめかみを拳でぐりぐりとしながら静かに怒りをアピールした。
「いだだだだだっ!! ご、ごめんって! だから、もうやめ──いだだだ!」
「……ふふっ」
容赦なく続くこめかみへのぐりぐり攻撃に戦慄しつつも、ふと、笑みがこぼれてしまう。
こんなに心の底から笑ったのは、いつぶりだろう?
もう、随分と長いこと笑っていなったような気がする。
──なんか……今、凄く幸せだわ。復讐に生きると決めたあの日から、自分には幸せなんて二度と訪れないと思っていたのに……。
そんなことを考えつつも、私は食べかけだったベーコンエッグを口へと運んだ。
「お父さんって……血の繋がった、本当のお父さんなんでしょ? どうして……」
凄く不思議だった。
レオくらいの歳なら、普通はまだまだ親に甘えたい盛りのはずだ。
反抗期でもないだろうに、殺したいほど憎いなんて……一体、どんな事情があるのだろう?
「父さんはさ、俺のことを跡継ぎとしてしか見ていないんだよ。勉強でもなんでも、できないとすぐに怒るんだ。それに、ハンスのことも嫌っているんだよ。まだ俺が生まれる前の話なんだけどさ、ある時『お前みたいな人間、私の弟として認めない。この家から出ていけ』なんて言ったらしくて……それで大喧嘩になって、結局ハンスはあの家を出たんだ」
言いながら、レオはちらりとハンスの方を一瞥する。
「……だから、ここに住んでいるのね」
納得しつつ、呑気に大きな欠伸をしているハンスの横顔を見つめた。
飄々とした態度からは想像もつかないけれど、それなりに暗い過去を持っているようだ。
「それで、お前は? 殺したいほど嫌いな奴って誰なんだよ?」
「……お父様よ」
今更隠しても仕方がない、と思い素直に相手が自分の父親であることを教える。
とはいえ、完全に胸襟を開くことはできない。
前世は婚約者に殺害された子爵令嬢で、気づいたら自分を殺した婚約者の娘になっていた……なんて言ったところで、到底信じてはもらえないだろう。
「そっか」
「って……それだけ!?」
意外にも理由を聞いてこなかったため、拍子抜けしてしまう。
「何か問題でもあるのか?」
「その……気にならないの? 理由とか」
「別に。それに……お前、言いたくなさそうじゃん」
「そうなんだけど……」
「まあ、相談に乗ってほしくなったら言えよ。話なら、いつでも聞いてやるからさ」
言って、レオはニッと笑う。
「友達って、そういうもんだろ?」
「……!」
根掘り葉掘りしつこく聞かず、辛い時はそっと寄り添ってくれる──私は、ずっとそんな存在を求めていたのかもしれない。
そう考えたら、胸の奥が熱くなった。
ついでに涙が出そうになったので、見られないように慌てて俯いた。
「おい、ガキども。景色は堪能したか? 風が冷たくなってきたから、そろそろ下りるぞ」
ハンスにそう声をかけられ、私達は頷く。
一先ず、もう陽も沈みかけていたので、塔内の見学はこの辺で切り上げて三人でペントハウスに向かうことにした。
***
翌日の朝。
私とレオとハンスは、席について朝食をとっていた。
ちなみに、朝食を作ってくれたのはハンスだ。
生活能力がないタイプかと思いきや、意外と家庭的な面もあるらしい。
「……美味しい。ハンスさんが、こんなに料理が上手だとは思わなかったわ」
ベーコンエッグを口に運んだ私は、思わず舌鼓を打ってしまう。
「んー? なんだぁ? その言い方は……」
「だ、だって……ハンスさんって髪はボサボサだし、髭も伸ばしっぱなしだし、とても料理ができるようには見えないんだもの」
「……悪かったな。やることが多いと、つい身だしなみを整えるのを忘れるんだよ」
「やることって?」
不思議に思い、思わず聞き返す。
「読書。何のための本棚だと思ってんだ?」
ハンスは部屋の一角にある天井まで届く本棚を指差した。
ああ、そう言えば。この本棚、飾りじゃなかったのね。
なんて言ったらまた怒られそうなので、黙っておく。
「ハンスさんは、読書家だったのね」
「そんなに意外か?」
……なんというか、見た目や口調が趣味と一致しないのよね。
などと考えつつも、苦笑する。
「そうだ、ハンスさん。早起きしたついでに、髭を剃ったら?」
「はぁ?」
「ハンスさん、せっかく格好良いのにもったいないわよ」
「……褒めても何も出ねーぞ」
と言いつつ、満更でもなさそうな顔をしている。
「俺も、剃ったほうがいいと思うぜ。何なら、手伝ってやろうか?」
黙々と朝食を食べていたレオも加勢してくる。
やはり、甥としても叔父にはいつも格好良くいてほしいのだろう。
「あー……分かった、分かった。剃ればいいんだろ、剃れば。今、剃ってくるから待ってろ」
私達に根負けしたのか、ハンスは渋々バスルームに向かう。
そのまま待っていると、先ほどとは打って変わってこざっぱりとしたハンスが戻ってきた。
「似合ってるわよ、ハンスさん! 絶対、そっちのほうがいいと思う!」
「俺もそう思う。てかさ、そっちのほうが普通に司書っぽいよ」
レオの口から「司書」という言葉が飛び出した途端、私は目を瞬かせる。
「し、司書……? って、あの司書のこと……?」
「ん? ああ、そうだけど? あれ? 言ってなかったっけ?」
「ええと……初耳だけど?」
レオの話によると、ハンスは同じ建物内にある図書館で司書を務めているらしい。
つまり、平日は下の階の図書館で沢山の本に囲まれながら働いているのだ。
「……全っ然、似合わないっ!」
ハンスが司書として真面目に働いているところを想像した途端、思わずそんな言葉が口をついて出た。
「お前なぁ……そんなにはっきり言わなくてもいいだろ」
「そうそう。いくら本当のことでも、そんなにはっきり言ったら流石にハンスも傷つくって」
「……おい、おめーもだ。レオ」
言って、ハンスはレオのこめかみを拳でぐりぐりとしながら静かに怒りをアピールした。
「いだだだだだっ!! ご、ごめんって! だから、もうやめ──いだだだ!」
「……ふふっ」
容赦なく続くこめかみへのぐりぐり攻撃に戦慄しつつも、ふと、笑みがこぼれてしまう。
こんなに心の底から笑ったのは、いつぶりだろう?
もう、随分と長いこと笑っていなったような気がする。
──なんか……今、凄く幸せだわ。復讐に生きると決めたあの日から、自分には幸せなんて二度と訪れないと思っていたのに……。
そんなことを考えつつも、私は食べかけだったベーコンエッグを口へと運んだ。
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