【完結】わするるもの 〜龍の騎士団と片翼族と神子令嬢〜

丸山 あい

文字の大きさ
16 / 69

鷲獅子 Ⅱ

しおりを挟む
 改めてしでかしたことの重大さを突きつけられ、ロンフォールは返す言葉がない。

「あんたは、神子守長でもあったんだよ、その神子の」

 吐き捨てるスレイシュの言葉を聞き、ロンフォールは恐る恐るリュングと子響の顔を見る。彼らは一様に、視線を伏せぎみ合わせず頷くのみ。

「我々は、禍事の神子について、人間族の手に余ると踏んでいる。一部ではそう豪語している片翼族もいる。導師が神にも等しい双翼となったのであれば、その導師のもとで神子を御すべきだ、と」

「そうした意見を、人間族はおろか、この世全てを支配しようと目論んでいる、と極端に解釈して、片翼族__特に、ノヴァ・ケルビム派を危険視しているのです」

「でも、どうして乗り込んできたんだ? 夜にこそこそと乗り込んだ、ってことなんだろ?」

 こつこつ、と指先でスレイシュは幾度も叩く。

 乾いた小さい音だが、とても際立っているようにロンフォールの耳には届き、そちらに視線を移す。

「何度も、何度も、こっちは対話を求めた。だが、お前ら帝国の奴らは、相手にもしなかったじゃねえか。だから強硬手段に出ざるを得なかった。挙句、導師を__。本当に、都合がいいよな、当事者のくせに記憶をどっかやっちまうなんて」

「俺だって、好きでなくしたんじゃ__」

 バン、とスレイシュが食卓を叩くので、ロンフォールは思わず言葉を詰まらせた。

 その音を主人の危機と思ったのか、シーザーが身構える気配がしたので、ロンフォールは咄嗟に、待て、と制する。

 そう強めに短く言えば、止まるということは、子響の助言あって理解できたことだった。__よく訓練されているなら、強い命じ方で、思うとおりになるはずだ、と。

 命令を受けた狗尾は、毛を逆立て、若干牙を見せてはいるものの、やや下がったように見える。

 その犬の様子を鼻で笑うスレイシュ。

「どうだかな。帝国様としては都合がよかったんじゃないか? 無断で踏み入ったことで、導師を殺める口実をえられたんだし。__ああ、そうか……そうなるよう仕向けたのかもしれないな。狡猾だともきいているし、帝国は」

「スレイシュ、いい加減にしないか」

 子響の諫言を以ってしても、スレイシュの態度は改められない。

 それどころか、賛同を得られないことが不服のようで、彼は席を立って踵を返した。

「どこへ行く、スレイシュ」

 リュングの声に、ノブに手を置いたまま動きを止める。

「すみませんが、席を外させていただきます」

 首さえこちらに向けないその態度。子響が咎めようと席を立つが、それをリュングが手で制す。

「……ならば、頭を冷やしてから、改めて私の部屋へ来い」

 御意、とそれだけ答え、扉の向こうへ姿を消す。

 大きな音を立てて閉まった扉__その向こうへ消えた後姿を思いながら、しばらくロンフォールは見つめていた。

「レーヴェンベルガー卿、すまないな」

 呆然とそれを見送っていると、リュングが謝るので、怪訝にして彼を見た。

「あれは、自分に対して腹立たしいのだ。導師と行動を共にしながら、守れなかったこともそうだが、それ以上に、敬愛する導師が招き入れた客人に対して、受け入れることができない自分の狭量さにな」

 記憶のない自分が、ただ単に腹立たしいのではないのだろうか。

 スレイシュの目に、白を切って責任逃れをしているように映っているからこそ、彼の怒りを増長させているのではないのか。

 必死に分かろうとしている姿そのものが、また腹立たしいのかもしれない。

 リュングは、スレイシュが去っていた扉を、遠い視線で見つめながら続けた。

「__幼さ、だ。レーヴェンベルガー卿が気にすることではない。これは、彼自身が作り出している問題だからな」

 それはそうと、とリュングがロンフォールへ視線を戻すので、それに応じるようにロンフォールは姿勢を正した。

「__とても悩んだのだが、今日、導師に会っていただこうと思っている」

 唐突な提案にロンフォールは、どきり、とした。

「でも、眠っているって……」

「そうだ。だからこそ悩んだ」

「導師の無様を晒すことになるし、無防備なのだから危険すぎる、とスレイシュは猛反対していたのもあって……。それで、あの悪態をついてしまっていたのだと思います」

「そうだったんだ……」

「導師は、貴方を希望と仰っていた。我々の希望は、導師の目覚めだ。もし、その希望の意味するところが、我々の考えた答えだとするならば、あるいは……と思ってな」

「だから、今朝、部屋に得物を置いてきてもらったんです」

 ロンフォールは腰の当たりに手を伸ばすが、そこには昨日、刷いていた太刀はない。食堂へ移動する際、子響に指示されて、太刀は部屋においてきていた。

「それに、導師の顔を見れば、それが記憶を戻すきっかけになるかも知れない。あなたにとっても有益だとおもえますが」

 子響の言いたいことは分かる。

 期待もあるが、同時に不安もある。

「会ってどうしたらいい……?」

「導師の顔を見るだけでいい」

 なんとも拍子抜けする、あっさりとした回答だ。

 たったそれだけでいいのであれば、大丈夫だろう。だが、本当にそれだけで解決になるのだろうか__。

 疑問を抱くロンフォールは、やや間をおいて、わかった、と頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...