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ふたりは攻撃の間合いから離れて、じりじりと距離をとった。リーヌスは訴え続ける。
「僕は行かない……あなたの気持ちには、答えられません」
「どうして」
「……まだわからない。でも、行かない」
婚約をしたからだ、と答えるのは簡単だった。でも、それだけではない気がした。いま言葉にできる限りの誠実な答えのつもりで、リーヌスはアルブレヒトをまっすぐに見つめた。
ずっと嘘をついては距離を作っていたことを、今になって改めて反省する。
「ごめんなさい」
リーヌスの謝罪に、アルブレヒトが苦しげに、切なげに顔を歪める。
部屋の中の重たい空気は、部屋に駆け込んできた警備の兵たちの勢いで霧散した。
テオフィルの指示で、衛兵たちがアルブレヒトを取り囲む。そこでようやくリーヌスは、テオフィルがふたりの話が終わるまでは傍観に努めていたことに気がついた。
アルブレヒトは抵抗することなく、兵たちに囲まれて部屋を去った。彼が振り向くことはもうなかった。
長椅子に落ちていた首輪を、テオフィルが拾い上げてリーヌスに渡す。鍵は錠に刺さったまま。リーヌスが首輪をつけ直し、その鍵を再び腕につけても、テオフィルは何も言わなかった。
「……なぜ、鍵を僕に預けた?」
アルファが所有しているべき鍵をオメガが持っていたのを見て、アルブレヒトは驚いていた。リーヌス自身もそんな例は聞いたことがない。
婚約のときにははぐらかされた問いに、今なら答えがもらえると思えた。
形のよい唇が開く。
「その首輪をひらくのはお前であるべきだ」
テオフィルの答えは簡潔だった。簡潔であるがゆえに、リーヌスはひどく動揺した。
それに、蝋燭の灯が揺らぐ黒い瞳にじっと見つめられていると、押さえつけられるような、舞い上がるような、とにかくじっとしていられない心地がする。
「……選択の余地をくれていたのか」
「いいや?」
テオフィルが片眉を釣り上げる。
「中庭にしか窓のない部屋に閉じ込められておいて、本当にそう思うのか?」
「……じゃあ、……」
困惑し言い淀むリーヌスをよそに、テオフィルは寝室へと続く扉を開いた。
首輪の鍵は渡すけれど、邸からは出さない。その不可思議な許可の意図がまったく読めない。一般的には、首輪の鍵をアルファが握り、オメガは自由な外出を許される。許されないこともあるが、そのようにオメガを閉じ込めれば世論の批判に晒されやすい。
「来い」
「今日も?あんなことがあったのに」
首肯が返される。先の騒動はまだ生々しく感じられたが、テオフィルにとっては過ぎたことのようだった。
婚約者の背にに続いて寝室に入ったリーヌスの目は、寝台横の机に置かれた張型に吸い寄せられた。かっと頬が熱くなる。あれを使われたこと、使ったことがまざまざと体に蘇り、リーヌスは思わず自らを抱きしめた。
「っ……」
テオフィルが寝台に腰掛け、張型に潤滑油を垂らす。ガラスの小瓶に満たされていた香油は一気に半分ほどまで減った。それもそのはず、今晩テオフィルが選んだ張型は三つもあった。
使ったことのある一番小さいもの、次に大きいもの、その次に大きいもの。一番目のものは指を二本寄せたより少し大きいくらいだが、三番目のものは、それより二回りほどは大きい。
三つのどれも男性器を模したものだったが、テオフィルが捨て置いた他の張型の中には奇妙にねじれたものや、いぼのような丸みを帯びた突起が浮き上がっているものがあった。痛そうなものを使われないことに胸を撫で下ろす。
リーヌスも寝台にのぼると、夜着を肩から滑り落とし、下着も脱いで裸の姿になった。
「足を開け」
「言われなくたって……」
「言われなくても開くと?」
「……」
枕に体を預けて足を開く。
テオフィルの指先が後穴の入り口に触れ、ゆっくりと沈んでいく。穴があっさりと二本の指を呑み込むのを確認すると、テオフィルは頷いて一番目の張型を手に取った。
「昨日は怠けなかったようだな」
「あなたがやれと言った……ぁ……っ」
引き抜かれていく指が快いところを擦り、リーヌスは体をびくりと竦ませた。じわじわと腹の奥に熱が灯る。
指の代わりに据えられた張型がゆっくりと押し込まれていく。卑猥な見た目に羞恥心を煽られ、顔を背ける。張型は徐々にその全身を沈め、穴が完全に最後まで咥えると動きを止めた。
「ふ……、くっ」
肉が木をぎゅうぎゅうと喰み、その形をありありとリーヌスの中に刻みつける。恐る恐るテオフィルの顔を窺うが、彼は表情ひとつ変えずにリーヌスの姿を観察していた。視線に気づかれ、ばっちりと目が合う。
黒い瞳に射抜かれ、畏怖に胸が跳ねた。野生の猛獣に出会ったらきっとこんな心地になるのだろう。
「動かすぞ」
「ん……」
中を押し広げるように、張型がゆっくりと左右に動かされる。そのたび、潤滑油か愛液か、濡れた音がした。もどかしい感覚に身が捩れる。
次第に入り口がほぐれて、抜き差しや揺らす動作が大胆さを増していく。内壁を擦り上げる張型は遠慮なく上下して、リーヌスの中を好き勝手にかき回した。
「うう、ああ……っ!」
しかしもう少しで絶頂に導かれるという直前で、張型は引き抜かれる。
「な、なんで……」
「次だ」
明後日、リーヌスはこの男と繋がってうなじを噛まれる。あくまでこの行為はその下準備のためでしかない。快楽を追い求める情事とは違うのだ。
二本目の張型を求めて後穴がひくついた。太さも長さも、先ほどのものより少し大きい。それでも、一度見たテオフィルの男性器には遠く及ばない。
テオフィルが張型をリーヌスの後穴に埋めていく。よく解されていたためか、さして苦痛はなかった。しかしまだ触れられたことのない奥を張型の先がひらいていくと、圧迫感で息苦しくなる。
時間をかけて、張型はようやくリーヌスの腹に収まった。
「このまま馴染むまで待つ」
「ん……」
頷き、深く息を吸い込み、吐き出す。何度かそれを繰り返すうち、次第にくるしさが薄れていく。
「もう動かしていい」
「まだ待て。怪我をしたくないだろう」
体が快楽を求めて逸るが、テオフィルはまだ動かない。リーヌスは自分の焦れったさを隠しきれている気がしなかった。
「僕は行かない……あなたの気持ちには、答えられません」
「どうして」
「……まだわからない。でも、行かない」
婚約をしたからだ、と答えるのは簡単だった。でも、それだけではない気がした。いま言葉にできる限りの誠実な答えのつもりで、リーヌスはアルブレヒトをまっすぐに見つめた。
ずっと嘘をついては距離を作っていたことを、今になって改めて反省する。
「ごめんなさい」
リーヌスの謝罪に、アルブレヒトが苦しげに、切なげに顔を歪める。
部屋の中の重たい空気は、部屋に駆け込んできた警備の兵たちの勢いで霧散した。
テオフィルの指示で、衛兵たちがアルブレヒトを取り囲む。そこでようやくリーヌスは、テオフィルがふたりの話が終わるまでは傍観に努めていたことに気がついた。
アルブレヒトは抵抗することなく、兵たちに囲まれて部屋を去った。彼が振り向くことはもうなかった。
長椅子に落ちていた首輪を、テオフィルが拾い上げてリーヌスに渡す。鍵は錠に刺さったまま。リーヌスが首輪をつけ直し、その鍵を再び腕につけても、テオフィルは何も言わなかった。
「……なぜ、鍵を僕に預けた?」
アルファが所有しているべき鍵をオメガが持っていたのを見て、アルブレヒトは驚いていた。リーヌス自身もそんな例は聞いたことがない。
婚約のときにははぐらかされた問いに、今なら答えがもらえると思えた。
形のよい唇が開く。
「その首輪をひらくのはお前であるべきだ」
テオフィルの答えは簡潔だった。簡潔であるがゆえに、リーヌスはひどく動揺した。
それに、蝋燭の灯が揺らぐ黒い瞳にじっと見つめられていると、押さえつけられるような、舞い上がるような、とにかくじっとしていられない心地がする。
「……選択の余地をくれていたのか」
「いいや?」
テオフィルが片眉を釣り上げる。
「中庭にしか窓のない部屋に閉じ込められておいて、本当にそう思うのか?」
「……じゃあ、……」
困惑し言い淀むリーヌスをよそに、テオフィルは寝室へと続く扉を開いた。
首輪の鍵は渡すけれど、邸からは出さない。その不可思議な許可の意図がまったく読めない。一般的には、首輪の鍵をアルファが握り、オメガは自由な外出を許される。許されないこともあるが、そのようにオメガを閉じ込めれば世論の批判に晒されやすい。
「来い」
「今日も?あんなことがあったのに」
首肯が返される。先の騒動はまだ生々しく感じられたが、テオフィルにとっては過ぎたことのようだった。
婚約者の背にに続いて寝室に入ったリーヌスの目は、寝台横の机に置かれた張型に吸い寄せられた。かっと頬が熱くなる。あれを使われたこと、使ったことがまざまざと体に蘇り、リーヌスは思わず自らを抱きしめた。
「っ……」
テオフィルが寝台に腰掛け、張型に潤滑油を垂らす。ガラスの小瓶に満たされていた香油は一気に半分ほどまで減った。それもそのはず、今晩テオフィルが選んだ張型は三つもあった。
使ったことのある一番小さいもの、次に大きいもの、その次に大きいもの。一番目のものは指を二本寄せたより少し大きいくらいだが、三番目のものは、それより二回りほどは大きい。
三つのどれも男性器を模したものだったが、テオフィルが捨て置いた他の張型の中には奇妙にねじれたものや、いぼのような丸みを帯びた突起が浮き上がっているものがあった。痛そうなものを使われないことに胸を撫で下ろす。
リーヌスも寝台にのぼると、夜着を肩から滑り落とし、下着も脱いで裸の姿になった。
「足を開け」
「言われなくたって……」
「言われなくても開くと?」
「……」
枕に体を預けて足を開く。
テオフィルの指先が後穴の入り口に触れ、ゆっくりと沈んでいく。穴があっさりと二本の指を呑み込むのを確認すると、テオフィルは頷いて一番目の張型を手に取った。
「昨日は怠けなかったようだな」
「あなたがやれと言った……ぁ……っ」
引き抜かれていく指が快いところを擦り、リーヌスは体をびくりと竦ませた。じわじわと腹の奥に熱が灯る。
指の代わりに据えられた張型がゆっくりと押し込まれていく。卑猥な見た目に羞恥心を煽られ、顔を背ける。張型は徐々にその全身を沈め、穴が完全に最後まで咥えると動きを止めた。
「ふ……、くっ」
肉が木をぎゅうぎゅうと喰み、その形をありありとリーヌスの中に刻みつける。恐る恐るテオフィルの顔を窺うが、彼は表情ひとつ変えずにリーヌスの姿を観察していた。視線に気づかれ、ばっちりと目が合う。
黒い瞳に射抜かれ、畏怖に胸が跳ねた。野生の猛獣に出会ったらきっとこんな心地になるのだろう。
「動かすぞ」
「ん……」
中を押し広げるように、張型がゆっくりと左右に動かされる。そのたび、潤滑油か愛液か、濡れた音がした。もどかしい感覚に身が捩れる。
次第に入り口がほぐれて、抜き差しや揺らす動作が大胆さを増していく。内壁を擦り上げる張型は遠慮なく上下して、リーヌスの中を好き勝手にかき回した。
「うう、ああ……っ!」
しかしもう少しで絶頂に導かれるという直前で、張型は引き抜かれる。
「な、なんで……」
「次だ」
明後日、リーヌスはこの男と繋がってうなじを噛まれる。あくまでこの行為はその下準備のためでしかない。快楽を追い求める情事とは違うのだ。
二本目の張型を求めて後穴がひくついた。太さも長さも、先ほどのものより少し大きい。それでも、一度見たテオフィルの男性器には遠く及ばない。
テオフィルが張型をリーヌスの後穴に埋めていく。よく解されていたためか、さして苦痛はなかった。しかしまだ触れられたことのない奥を張型の先がひらいていくと、圧迫感で息苦しくなる。
時間をかけて、張型はようやくリーヌスの腹に収まった。
「このまま馴染むまで待つ」
「ん……」
頷き、深く息を吸い込み、吐き出す。何度かそれを繰り返すうち、次第にくるしさが薄れていく。
「もう動かしていい」
「まだ待て。怪我をしたくないだろう」
体が快楽を求めて逸るが、テオフィルはまだ動かない。リーヌスは自分の焦れったさを隠しきれている気がしなかった。
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