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89話 暴動

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カトリーナの目を見て闇魔法にかけられた大貴族たちは、皆こぞって聖女カトリーナの味方に切り替わった。

しかしそのせいで、

今度は第二王子派閥たちが第一王子に聖女をとられ、

第二王子にエレナを押しつけられたと怒り出した。

その反発は瞬く間に大きくなり、

闇魔法のため精神状態が異常なことも相まって、王の間で大暴動が発生すると、

あちこちで罵声が飛び交い、殴り合い、恐ろしい修羅場が生まれてしまった。

衛兵たちが抑えに来るが、大貴族たちはもともと訓練を重ねている者たちで、簡単には取り押さえられない。

衛兵まで混ざったことが、余計に暴動に拍車を掛けていた。

エレナたちも大乱闘の渦に巻き込まれて、大きな男たちの人の波にのまれてしまった。

「エレナ‼︎エレナ‼︎大丈夫か⁉︎エレナ‼︎」

アークはエレナを必死に呼んで殴り合う人の群れを掻き分けながら探した。

闇魔法によって邪魔者扱いされているエレナに、この場所は危険すぎる。

そう思ったアークは血の気が引く思いでエレナを探した。

揉み合う男たちの隙間に、あの綺麗な薄紫の髪が見えた!

「エレナ‼︎」

なんとか近寄って、エレナの腕を掴むと、力一杯自分の側へ引き寄せた。

「きゃっ‼︎あっ⁉︎アーク様!」

「ああ、よかった!エレナ!」

アークはエレナを抱きしめて無事を確かめた。
エレナもアークに抱きしめられて心底安堵する。

「さぁ、急いでここを出よう。こっちだ」

入り口は塞がっていたため、アークはそう言うと、勝手知ったる王の間の抜け道に向かって進んだ。

しかし!それを見つけた貴族の1人が短剣を持ってエレナに襲いかかって来た。

「やめろ!!」

後ろからエレナを追いかけて来たフェリスがそれを見つけて、短剣を振り翳す貴族を取り押さえた。

しかし、その様子を見て、エレナを殺そうと第二王子派閥が何人も狙おうとしてきていた。

ドンッ

と、フェリスはその波に突き飛ばされた。

パリンッ

「あっ‼︎」

胸ポケットに潜ませていた小瓶が地面に落ちた衝撃で割れた…

カトリーナの命を奪うための毒が…
全て溢れて…だめになってしまった…
いや、まだだ、諦めるな
別に毒じゃなくてもやれる!

フェリスがそう思っていた時…

フェリスを探していたカトリーナが、それをめざとく見つけて、

毒で2人を殺せなくなったことに気づくと、目を光らせて暴徒たちに、『ころせ』と暗示をかけた。

その洗脳を受けた者たちが次々に2人に襲いかかろうとする。

アークは必死でエレナを守っていた。



フェリスにはその地獄のような様が、音も掻き消え、急にゆっくり動いているように見えた。


自分1人別世界にいるような、そんな不思議な感覚だった。


絶望ってこういう感じなのかな…


フェリスはそう思った。


もう…だめだ…
ベル、助けてよ…
お願いだから、あの女からあの魔法を取り上げてよ
お願いだから…
僕は消えて無くなっても、本当にいいんだよ
頼むよ、ベル…

フェリスの頬に涙が伝った。


その時、


室内の時間が突然止まり、その場にいた人間全ての動きがピタリと止まった。

フェリスを除いて。


大魔女ベルがふわりと上から降りてきて、フェリスの目の前にゆっくりと立った。
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