【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり

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91話 最初で最後のプレゼント

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———チュン、チュン、ピチチ

鳥の鳴き声が聞こえ、だんだんと意識がはっきりしてくる。

コンコン

なんだかぼうっとして、返事せずにいると、

「お嬢様?入りますよ?」

と、エレナのお付きの大ベテランの侍女ベルナが入ってきた。

「…ベルナ?…私何してたんだっけ?」

「お嬢様、いつまでも寝ぼけてないで、
早くお支度してくださいな!
今日は魔法学園の卒業式でございますよ‼︎」

そう言って、ベルナはまだぼんやりしているエレナのシーツを剥ぎ取ると、ベッドから追い出した。

エレナは転がされるようにして追い出されたベッドの脇に立ち、呆然となって考えていた。

私は生きている。
何か死んだことがあったような…
なんだったかな…すごく長い長い夢…

あれ?何かとっても大切な人を忘れてるような…


コンコンッ ガチャ

ダダダダ、ドンッ

「きゃっ!」
「おはよう!姉上!」

と、ノックに返事もしないうちから扉を開けて、エレナに飛び付いてきたのは、

ルーカスだった。

「もう!びっくりするじゃない、ルーカスったら。ふふっ、可愛いからいいけど」

そう言って、優しく微笑みながら、ふわふわの金色の髪を撫でる。

「姉上大好きー」

と言って、ルーカスはさらにギュッとエレナに抱きつく。


———ツカツカツカ…

「…エレナ姉様、ルーカス、おはよう。開けっ放しだから入って来ちゃったわよ?

もう、いつもやめてよね?みっともない!何歳だと思ってるのよ!」

「姉上!ほっといてください!これは僕とエレナ姉様との儀式なんですから!」

「はぁ?おかしいんじゃないの?ほんとやってられないわ。私先に行くわね」

「あっ、待って、カトリーナ!一緒に行きましょう?」

「何言ってるんですか⁇エレナお姉様にはもうすぐ殿下が迎えにいらっしゃるでしょ?」

「あっ、そっ、そうね」

「じゃあ、行って参ります、ではまた学園で」

そう言うとカトリーナは部屋を出て行った。


「はぁ…本当に今思ってみても、僕にもう一人姉上がいたなんてびっくりだよね?

昔、母が暴力を振るう父から逃げる時に、どうしてもカトリーナ姉様を離さなかったらしいけど、

大変な暮らしをさせるくらいなら、最初から母に託してくれれば良かったのに。

学園で姉上が僕に声を掛けてくれてなかったら、ずっと気づかないところだった。

母上も姉上が一緒に住めることになって本当に喜んでるし、姉上はまだ意地を張ってるけど、実は照れてるだけみたいだしね?」

「ふふっ。ずっと会えなかったんだから、そう簡単にはいかないでしょうけど、あの優しいお母様ならきっと大丈夫だわ。

でも、本当に苦労して1人で頑張ってきたみたいだし、せめてここからは私たちでカトリーナを大切にして、幸せにしてあげましょう」

エレナはカトリーナの可愛いらしい顔を思い浮かべて微笑んだ。

「そんなこと言って、エレナ姉様は卒業したらすぐに結婚していなくなっちゃうくせに」

ルーカスは拗ねたようにエレナを可愛いく睨む。

「ふふっ、あなたも早く好きな子を見つけなさい?」

つれないことを言われたルーカスが、がっくりと肩を落としていると、またカトリーナが舞い戻ってきた!

「ルーカス!やっぱりあんたも一緒に行くわよ!

どうせまた2人の邪魔をする気なんでしょ?

ろくでもないこと考えてないで、現実見なさいよね?ほんとに金持ちの坊ちゃんはこれだから困るのよ!

私があんたに合ういい子見つけてあげるから安心しなさい!ほんとにもう!大事な弟が歪んだ人生歩んだりしたら、とんでもないわ!」

そう言いながら、ルーカスの首元を掴んで引っ張って行くカトリーナに、

「いてててっ、やめてよ!カトリーナ姉様!姉様だって今は公爵令嬢じゃないか!って、あれ?今大事な弟って言った?」

と、ルーカスは驚いた顔でカトリーナを見る。

「うっ、うるさいわね!

はぁ…それにしても、ほんとに金持ちもろくなもんじゃないわね。

窮屈なドレスに愛想笑いだらけのパーティー。せっかくの美味しい料理もちまちま食べて、毎日勉強勉強だし、ほんと死にそうよ!やってられないわ!」

「めちゃくちゃだなぁ…カトリーナ姉様は」

ルーカスはもう諦めて素直に引きずられて行った。

エレナはその様子をクスクス笑いながら眺めていると、

「エレナ様!殿下がお見えですよ!」

と、ベルナがまた呼びに来た。

「はーい」

エレナはそう言って、エントランスで待つアークに階上から手を降ると、アークは笑顔で手を振り返して迎えてくれる。

階段を急いで駆け上がってくると、エレナを思わず抱き上げた。

「おはよう、エレナ!今日も可愛いな!
やっと、やっと、卒業……からの結婚だ!
すぐに結婚式を挙げよう!」

目がなくなるほどの満面の笑みでそう言って、そっとエレナを降ろした。

「と言いたいところだが…

一人息子の結婚式は盛大にとかなんとか言って、あと1ヶ月も準備にかかるらしい!

はぁ…嘘だろ、ほんとに」

肩を落とすアークが可愛く思えて、エレナは微笑んだ。

「ふふっ、結婚してもしなくても、私はずっとずっとアーク様のものですよ?」

いたずらっぽく笑ったエレナを、アークは思いきり抱きしめた。

「大好きだ、エレナ。きっと死ぬまで幸せにするよ」

「はい、私もアーク様を死ぬまで幸せに致します」

そう言って幸せそうに笑い合う2人を、侍女ベルナの姿の大魔女ベルは複雑な笑顔で眺めていた。


フェリス、これで良かったかい?
あの子はとても幸せそうだ…心配ないよ
ちょっと時間を未来へ進めて色々いじったのは
あたしからあんたへの最初で最後のプレゼントだ。
あの子の笑顔があんたの幸せなんだろ?

あんたのことは、誰が忘れても
あたしがずっとおぼえといてやるよ。
安心しな…

ベルは、フェリスの優しい微笑みを頭に思い浮かべながら、エレナの幸せそうな笑顔をいつまでも見つめていた。

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