【完結】政略結婚はお断り致します!

かまり

文字の大きさ
3 / 59

2話 医師か薬師か

しおりを挟む
「きゃっ‼︎」

 意識を失っていたはずの男性が、急にアイリスの手を掴んだ。

「……な、…何を…する…!」

 整った顔をひどく歪めながら、少しだけ目を開けた男性は、アイリスを睨みつけると呻くようにそう言った。

「あ、あのっ、お怪我がないか確かめようとしただけです!あなたが私の家の前で倒れて目を覚さないし、服もぼろぼろだから怪我をしてないかと思って」

 と、別に何も悪い事をしていないのに、急に咎められて慌てたアイリスは、言い訳するように事情を説明した。

「……そう…か……すまない…すぐここから消えるから…許してほしい…」

 そう言って男性は起き上がろうとするが、なんとか立ち上がったものの、ふらふらしてまたドサッと膝をついてしまった。
 
「きゃっ!…これって…⁉︎あなた、どこか怪我してるんじゃないの⁉︎」

 男性が起き上がったあとの地面をアイリスは青ざめて凝視する。その視線の先には血の跡が残されていた。  

 慌てて男性に目をやると、肩の辺りのローブに血が滲んでいるのが見えた。

「やっぱり!…ちょっとこっちへ入って?」

「…いや…大丈夫…気にしないで…」

「何言ってるの⁉︎全然大丈夫じゃないじゃない!」

 アイリスは無理しようとする男性が心配のあまり、怒りながら家の扉を開けると、

「ほらっ、掴まって?」

 と、力の入らない男性に肩を貸し、なんとか部屋の中へ入れて小さなベッドに座らせた。

「…怪我をみますから、ちょっと上の服、脱いで貰えますか?」

「…君…医者…なの?」

 男性は少し驚いたようにアイリスを見た。

「いいえ?違いますけど、ここには私しかいないんだから仕方ないでしょ?ほらっ、早くしないと傷が悪化しちゃいますよ!」

 アイリスの勢いに気圧されたのと、徐々に意識がはっきりすると共に、怪我の痛みがズキズキしてきた男性は、観念して大人しく上半身の服を脱いだ。

「きゃっ!」

アイリスは慌てて手で目を覆った。

「??」

「あっ、ああ、いえ、何でもないです!じゃあ、ちょっとみますねっ?」

 家族以外の男性の生身の身体を見たのが初めてだった事に、その時になって気づいてしまったアイリスは、急に恥ずかしさが込み上げてきてしまったが、今はそんなこと言っている場合じゃないと、なんでもないふりをして怪我の様子を見た。

 服を着ている時は細身だと思っていたのに、鍛え上げられているその身体を見て内心驚いたが、その肩を見て、そんなことを考えている場合ではないと青ざめた。

 傷口はぱっくりと開き、血が流れ出ている。傷口に溜まる血の色はどす黒く、傷はかなり深いように思われた。

 その様子を見て血の気が引いたアイリスは、一瞬気を失いそうになったが、助けられるのは自分しかいないと思うとなんとか踏ん張れた。

 急いで清潔な布を取って来ると、傷口に当てて、男性の手を取り、そこを押さえさせた。

「ごめんなさい、ちょっとこれで押さえてて貰えますか?私、薬草を準備してきますから」

「…君…薬師なの?」

「いいえ?ちょうど採ってきたばかりの傷に効く薬草があるので、持ってきます」

 そう言いながらアイリスはもう部屋の奥へ行ってしまった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

恩知らずの婚約破棄とその顛末

みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。 それも、婚約披露宴の前日に。 さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという! 家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが…… 好奇にさらされる彼女を助けた人は。 前後編+おまけ、執筆済みです。 【続編開始しました】 執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。 矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

貴方の知る私はもういない

藍田ひびき
恋愛
「ローゼマリー。婚約を解消して欲しい」 ファインベルグ公爵令嬢ローゼマリーは、婚約者のヘンリック王子から婚約解消を言い渡される。 表向きはエルヴィラ・ボーデ子爵令嬢を愛してしまったからという理由だが、彼には別の目的があった。 ローゼマリーが承諾したことで速やかに婚約は解消されたが、事態はヘンリック王子の想定しない方向へと進んでいく――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...