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4話 わからないんだ…
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「…わからないけど、思い出せないから…そうなのかも…?」
思い出すことに必死だった男性は、なぜ思い出せないのかわからず戸惑ったが、しっかりしたアイリスに記憶喪失と言われて、少し納得することができた。
「……え?…それじゃあ、何か憶えてることってある?例えば、何歳かとか、どこで生まれたとか育ったとか、家族とか、友達とか、何か思い出せることってあるかしら?」
「……そう言われてみると…全部…わからない…な…」
「ええーっ⁉︎」
アイリスはとんでもないモノを拾ってしまったと頭を抱えて叫んでしまった。
男性は、不安と申し訳無い感情が入り混じった悲しそうな顔をする。
それを見たアイリスは一番辛くて大変なのはこの男性なのだと反省した。
「ご、ごめんなさい、叫んだりして。ちょっとびっくりしちゃって」
「いや、いいんだ…。誰だって驚くさ」
諦めたように微笑む男性がアイリスには憐れに思え、
「…あの…あなたさえ良ければ、…思い出すまでここに居てもいいわよ?…実は私も1人は寂しかったから、丁度良いわ」
そう言って男性を安心させるように優しく微笑んだ。
「…いいの?僕がどんな奴かもわからないのに?」
男性は自分で自分のことが悪い人間かもしれないという不安と、相手の警戒心の足りなさを心配して聞いた。
「全く問題ないわよ?全部忘れてるなら、いい人でも悪い人でもないってことでしょ?それなら、これから新しいあなたを知っていけばいいだけじゃない?」
アイリスは明るく微笑んでそう言うと、男性はとても救われたような気持ちになり、
「…ありがとう…」
と礼は言ったが、まだ申し訳なさそうにしていた。
「いいの、いいの。気にしないで?それより、あなたの名前がわからないのは不便よね?何て呼べばいいかしら?」
困った人を放って置けない性格のアイリスは、早く前向きになって貰いたくて、戸惑っている男性に少々強引に話を進めた。
「……何でも、君が好きなように呼んでくれればいいよ…」
男性は困り顔で微笑した。
何も思い出せない不安と恐怖でそれどころじゃないんだろうと思ったアイリスは、自分で何か考えることにした。
「わかった、じゃあね…ええっと、あなたすごくカッコいいから、似合う名前にしないとね?…うーん、…あっ!そうだ!あなたの目!」
思案しながらじーっと男性を見つめていたアイリスが小さく叫んだので、男性は少しビクッとなる。
「とっても綺麗な透き通った水色で宝石のアクアマリンみたいだから、アクアってどう?」
「……いいよ」
本当に何でも良かったその男性は無表情に答えた。しかしアイリスは、今の不安を抱えたこの人では、どんな名前を付けたところで喜ぶことはないだろうと思い、気にせずそれで押し切ることにする。
「じゃあ決まり!よろしくね?アクア?」
アイリスはニコっと微笑んだ。
「…ああ、よろしくね?イリス」
つられてアクアも微笑んだ。
思い出すことに必死だった男性は、なぜ思い出せないのかわからず戸惑ったが、しっかりしたアイリスに記憶喪失と言われて、少し納得することができた。
「……え?…それじゃあ、何か憶えてることってある?例えば、何歳かとか、どこで生まれたとか育ったとか、家族とか、友達とか、何か思い出せることってあるかしら?」
「……そう言われてみると…全部…わからない…な…」
「ええーっ⁉︎」
アイリスはとんでもないモノを拾ってしまったと頭を抱えて叫んでしまった。
男性は、不安と申し訳無い感情が入り混じった悲しそうな顔をする。
それを見たアイリスは一番辛くて大変なのはこの男性なのだと反省した。
「ご、ごめんなさい、叫んだりして。ちょっとびっくりしちゃって」
「いや、いいんだ…。誰だって驚くさ」
諦めたように微笑む男性がアイリスには憐れに思え、
「…あの…あなたさえ良ければ、…思い出すまでここに居てもいいわよ?…実は私も1人は寂しかったから、丁度良いわ」
そう言って男性を安心させるように優しく微笑んだ。
「…いいの?僕がどんな奴かもわからないのに?」
男性は自分で自分のことが悪い人間かもしれないという不安と、相手の警戒心の足りなさを心配して聞いた。
「全く問題ないわよ?全部忘れてるなら、いい人でも悪い人でもないってことでしょ?それなら、これから新しいあなたを知っていけばいいだけじゃない?」
アイリスは明るく微笑んでそう言うと、男性はとても救われたような気持ちになり、
「…ありがとう…」
と礼は言ったが、まだ申し訳なさそうにしていた。
「いいの、いいの。気にしないで?それより、あなたの名前がわからないのは不便よね?何て呼べばいいかしら?」
困った人を放って置けない性格のアイリスは、早く前向きになって貰いたくて、戸惑っている男性に少々強引に話を進めた。
「……何でも、君が好きなように呼んでくれればいいよ…」
男性は困り顔で微笑した。
何も思い出せない不安と恐怖でそれどころじゃないんだろうと思ったアイリスは、自分で何か考えることにした。
「わかった、じゃあね…ええっと、あなたすごくカッコいいから、似合う名前にしないとね?…うーん、…あっ!そうだ!あなたの目!」
思案しながらじーっと男性を見つめていたアイリスが小さく叫んだので、男性は少しビクッとなる。
「とっても綺麗な透き通った水色で宝石のアクアマリンみたいだから、アクアってどう?」
「……いいよ」
本当に何でも良かったその男性は無表情に答えた。しかしアイリスは、今の不安を抱えたこの人では、どんな名前を付けたところで喜ぶことはないだろうと思い、気にせずそれで押し切ることにする。
「じゃあ決まり!よろしくね?アクア?」
アイリスはニコっと微笑んだ。
「…ああ、よろしくね?イリス」
つられてアクアも微笑んだ。
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