断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴

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6 お肉食べたいなぁ

 シトシトと地面に落ちる雨音で目が覚めた。はぁ。雨が降る前に森に行きたかったのに、昨日の事で行くことが出来なくなってしまった。この雨は夜半には嵐になるだろう。この時期に度々起こる大嵐で、3日ほど空が荒れ狂う。空の王といっていいドラゴンからの情報だ。間違いはない。

 今のうちに畑で収穫できる物を収穫しておかないと、これも昨日するはずだったのに予定が全て狂ってしまった。

 取り敢えず寝室のけが人の様子を見てみるかと伸びをする。長椅子は寝るのには適さないな。背中が痛い。

 煙管キセルを取り出し火をつける。もう、癖というより煙管キセルを手放すのが怖いと言い換えた方がいいほど、薬草に頼り切っている。
 魔力を使っていれば問題はないと言うことは理解している。しかし、全身を壊されるような痛みを体験するのは二度と嫌なのだ。いつ終わるのか。死んだ方が楽なのではないのかと。

 ああ、あの呪われた男も同じなのかもしれない。そう思いながらも関わることは避けたいと紫煙を吐き出す。



 寝室の扉を開け中に入れば、大人しく寝ている人物が見える。起こさないように足音と気配を殺し近づけば、苦悶の表情をしていた。傷が痛むのか、呪いに苦しめられているのか、はたまた両方なのか。

 私は男の額に手を当て癒しの魔術を施す。傷が熱を持っているのか体温が上がっていた。この癒やしの魔術は無くなった腕や足を治すものではない。ただ、体調を整える軽いものだ。

 無くなった体の一部を治すのはとてつもない痛みを伴う······らしい。私は魔術を施す側なので、どれだけ痛いかはわからないが、今まで色々治療してきた中で共通していた事は、失った患部を治癒される側は辺境の討伐隊の人たちや騎士の人たちが患者を抑え込まなければ、まともに治療ができなかった。
 ここには私一人しかいない。どうするかは本人が目覚めてから確認してみるか。


 目線を下に向けると表情が穏やかになって眠っている。煙管キセルを咥えながらふと思う。

 ここが乙女ゲームの世界だと仮定すると、この人物はとても怪しい。私がここ竜の谷に来たのは偶然だと言っていい。本来なら国外追放されていたのだ。
 それを知らずに白銀の聖女を訪ねて来たこの人物は呪い持ち。そして、例の伯爵令嬢は聖女を自称している。攻略対象その8だったりするのだろうか。

 見た目はいい。呪い持ちという闇を抱えている。聖女が呪いを解いてハッピーエンド。

 今すぐどこぞかに打ち捨てたくなってきた。

 あの者たちとは二度と関わりたくない。ここに来て困ることは無かったので出ていくことは考えていなかったけど、この人物を追い出した後はここを出ていく事も視野に入れておいたほうがいいかもしれない。
 この人物から私が······いや、この竜の谷に生きている人が居ると伝わってしまえば、とても面倒くさいことになりそうだ。


 額から手を離し、煙を吐く。1月後には出て行ってもらおうと心に決め、寝室を後にする。
 私は背中を見つめる目があることに気がつくことは無く部屋を出ていった。


 外套を羽織り雨が降る中、外に出る。少し風が出てきたのか、生暖かい風が頬を撫でた。
 野菜や薬草を植えている畑に向い、収穫できる物を次々籠の中に入れていく。昨日の晴れているときに収穫したかった。

 今日は何を食べようか。ここに来てから朝と昼の食事を一緒にして一日2食ですましている。
 お肉食べたいなぁ。何のお肉にしようか。

 そんな事を考えながら収穫をしていると、手元が陰り辺り一帯が影に覆われた。頭上を仰ぎ見ると黒いドラゴンが結界の上にのしかかっている。

「何か用?」

『早く住処に戻れ、もう直ぐ嵐が来る』

「知っているけど、酷くなるのは夜でしょ?」

『いや、もう直ぐだ。風の精霊が騒がしい』

 どうやら、昨日聞いていたよりも早まるようだ。仕方がない。収穫出来なかったものは諦めるしかない。家の周りを確認してから中に入ることにしよう。

「黒いのありがとう。助かった」

『お前には助けられているから、これぐらい大したことじゃない』

 私がお礼を言うと、照れたようにそっぽを向き、黒いドラゴンは飛び立った。あのドラゴンも住処に帰るのだろう。

 空を仰ぎ見て手を上に掲げる。

「『女神の豊穣と護りを』」

 今ある結界に術をかける。気休めにすぎないけど、少しでもこの畑が守れるならと。
 ここは私の命綱と言っていい薬草があるのだ。できるだけ、無傷で残しておきたい。

 さて、収穫した野菜と薬草が入った籠を持ち家の周りを回ってから、家の中に入った。ご飯は何を食べようかな。
 黒いドラゴンが飛び去った空を見上げ、お肉······ドラゴンのお肉美味しいよねー。
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