断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴

文字の大きさ
25 / 72

25 悲しき存在

しおりを挟む
 私は拘束している腕から抜けだそうとするが、全く動くことができない。痛くはないけど、動くことができない。不思議だ。 

「起きたいのだけど?」

 起きているかわからないけど、声をかけてみる。圧迫感が増した。どうやら起きてはいるらしい。
 しかし、私の内側からの圧迫感も増している。まだ、別に体に影響があるわけではないけれど、不快ではある。

「ジクジクするから、そろそろ一服吸いたいのだけど?」

 そう、訴えてみると、勢いよく解放された。

「何処か痛むのか?」

 心配そうな黒く濁った目が私を見て来た。私は体を起こし、煙管キセルを取り出し、煙を肺いっぱいに満たす。

 ふぅと息を吐き魔力の籠もった煙を外に出す。赤髪の男は相変わらず黒い鱗紋様を纏っている。痛むのは自分自身だろうに。

「別に不快感があるだけ。で、なぜ私はココで寝ているのか聞いても良い?昨日も一昨日も私は居間で寝ていたはずだけど?」

 長椅子では無く床で寝ていた可能性の方が高いので、そう聞いてみた。

「大丈夫なら良かった」

 ········私の質問の答えはどうした!寝ぼけて私がベッドに潜り込んだということはないはず。例え寝相が相当悪かろうが、夢遊病の癖はない。そんなものがあれば、魔物討伐時に致命的になってしまう。その前に誰かが指摘をしてきたはずだ。だから、そこまで酷くはないはず。

「なぜ、私はここで寝ていた?」

 煙管キセルを咥え同じことを聞いてみる。まぁ、床で寝ていたので連れてきたというところだろうか。
 答える様子がないので、日課を行う為にベッドを下り寝室を出ていった。


 今日はいつもの白いワンピースではなく、昨日作ってもらった黒い戦闘服に袖を通す。白いシャツを着て、その上に黒い短パンと黒い軍服にも見える上着を着る。そして、ニーハイソックスにショートブーツ。黒い髪はそのまま背中に流す。完璧にコスプレだね。

 室内では黒に見えるが、光の加減では赤にも見える。なぜ、赤なのだろう。目立たないようにするなら、緑とか青の方が目立たないと思うのになぁ。
 そして、朝日が横から差し込んでいる畑に出て日課の魔力の放出を行う。ああ、ドラゴンの長老にここを出ると言っておかなければならない。



シヴァ Side

 どう答えようかと迷っていると、アリアは部屋を出ていってしまった。そのまま言ってもよかったのだろうか。

 夜中にドサッというモノが落ちる音がしたと思ったら、ドカッとモノがぶつかる酷い音がして、不審に思って様子を見に行けば、テーブルの脚に蹴りを入れているアリアが居たと答えてもよかったのだろうか。

 いや、自覚はあるのだろう。回復の陣と思える物が常時展開されていたのだから。

 ここに世話になってからは時々モノが落ちる音がしていたが、どうやらアリアが寝ていた長椅子から床に落ちた音だったらしい。

 それで、納得ができた。部屋の大きさには不釣り合いなほど大きなベッドがある理由だ。多分、あの大きさでないと不都合があるのだろうと。

 目の前で寝返りと打とうとしてるアリアは今度は長椅子に裏拳を叩き込もうとしているところで、その手を受け止めた。

 贅沢に回復の陣を発動をしておかないと、確かにこれは痛いだろう。
 それで、ベッドに運んだのだが、駄目だったのだろうか。

 いや、側に居たかったというのが本音だ。アリアの側にいると苦しみが和らぐような気がするからだ。回復の陣のおかげかもしれないが、アリアの魔力はキラキラして心地よい。


 あの妖精女王も言っていた。アリアが食事を作ると言って消えたあとのことだ。

『そなたは銀の姫に側にるつもりかのぅ』

「ああ」

『そうかそうか。なら妾が懸念することはないのぅ。銀の姫は悲しき存在じゃ。妾は友としてしか居れぬ。』

 悲しき存在?なんだそれは?

『そなたの内なるモノは解放してはならぬ。じゃが、そなたはその内なるモノと共に在らねばならぬ。それがそなたがその姿で生きながらえた罪じゃ』

 生きながらえた罪。まるで俺が生きていること自体がおかしいと言われているみたいだ。

「女王は俺の意識を乗っ取るモノがどんなモノかご存知なのか?」

『知っておるといえば知っておる。知らないといえば知らぬ。妾の祝福はソレを外に出さぬようにしているが、ただそれだけじゃ。ソレとはそなたが死ぬまで付き合わなければならぬ。逆に言えば死ねば解放される。そう全てじゃ』


 そう、妖精女王は言った。何を知っており何を知っていないのかは教えてもらえなかった。

『銀の姫の側にいるのなら、ソレも抑えられよう。銀の姫の魔力は心地よい。キラキラしたものは妾も好きじゃ』

 妖精女王も俺と同じくアリアのキラキラした魔力が好きなようだった。



イヤ、チガウ
アレがホシイ

 アリアは俺を人としては扱ってくれる。

キラキラしたアノモノがホシイ

 アリアは不快な目で俺を見ることはなかった。

アレが側にイルと心地ヨイ

 アリアの側はとても居心地がいい。

アア、アノ柔ラカイ腹ヲ食イ破ッテ、血肉ヲ啜レバ此ノ渇キガ満タサレルダロウカ

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』の捨てられヒロインである侯爵令嬢、ベルメ・ルビロスに転生した主人公、ベルメ。転生したギャルゲーの主人公キャラである第一王子、アインアルドの第一夫人になるはずだったはずが、次々にヒロインが第一王子と結ばれて行き、夫人の順番がどんどん後ろになって、ついには婚約破棄されてしまう。  しかし、それは、一夫多妻制度が嫌なベルメによるための長期に渡る計画によるもの。  無事に望む通りに婚約破棄され、自由に生きようとした矢先、ベルメは元婚約者から、新たな婚約者候補をあてがわれてしまう。それは、社交も公務もしない、引きこもりの第八王子のオクトールだった。  『おさがり』と揶揄されるベルメと出自をアインアルドにけなされたオクトール、アインアルドに見下された二人は、アインアルドにやり返すことを決め、互いに手を取ることとなり――。 【この作品は、別名義で投稿していたものを改題・加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

私は聖女じゃありませんから〜ただのパン屋の娘です〜

白雲八鈴
恋愛
 パン屋の娘の私が店の裏口の路地で倒れている人にパンを施したら、なつかれてしまった。  俺の聖女になってくれ?本物の聖女様に頼めばいい。それは殺されるから無理?いや、私は聖女じゃないし、ただのパン屋の娘だ。  私、何かに巻き込まれている?最悪なんだけど? *主人公の女性は口が悪いです。 *番とは呪いだと思いませんかと同じ世界観です。本編を読んでいなくても問題ありません。 *誤字脱字は程々にあります。 *小説家になろう様にも投稿させていただいております。

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...