断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴

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59 戦場のお茶会

「いやー。懐かしいッスね」

 休憩を始めて1時間ほど経った頃、背後から声を掛けられた。私と彼は南の方を向いて座っているので、王都側から来た者がいると、必然的に背後から声を掛けられることになるのだ。

「ラズ、何かあった?」

 第0小隊のラズだ。イオブライの使いっ走りとしてよく使われている人物だ。私は前方から視線を外さずに尋ねる。

「せ、リーゼ様のご要望通り、騎士団長閣下・・副長・・を連れてきました!プッ」

 いや、私はそんな事を要望はしていない。話を聞いてきてくれと言っただけだ。で、その笑いは何?

「リーゼ様、御前失礼してもよろしいでしょうか?」

 この声はヴァザルデス師団長ということは、その後ろにはクァドーラ魔術師長がいるのだろう。来てしまったのなら直接聞けばいいか。

「そこに座って」

 私は空いているソファを指し示しながら言うと、ラズが一番に席に座って、クッキーに手を出している。

「ラズ、はしたないですよ」

 そう言いながら次にイオブライが私の90度斜め前のソファに座った。
 次いで、私の正面にヴァザルデス師団長が、魔王様の前にクァドーラ魔術師長が席についた。私はティーカップを取り出し、彼らの前にお茶を出し、追加でサンドイッチと菓子を並べる。

「この雰囲気は久しぶりですね。このお茶会、実は好きだったのですよ」

 そう言いながらイオブライはサンドイッチに手を出している。別にお茶会ではないのだけど、長引くと休憩も兼ねて作戦会議をしたことは幾度かある。だから、お茶会ではない!·····はず。

「あの、せ····リーゼ様。そこの御仁はどなたですか?高ランクの冒険者に見えなくもないですが、そのような御仁は見聞きした記憶はありません」

 ヴァザルデス師団長が彼を見ながら聞いてきた。確かに、冒険者ではない。っていうか、彼が側にいる限り皆に毎回聞かれるの?面倒くさい。

「戦力増強。そんなことより今はこの後のことを聞きたいのだけど?」

「すみません。はい、聖女ミエーヌから言われたことでありますね。ただ、私もクァドーラも詳しくは聞かされていないのです。明日の·····もう日付が変わりましたので、本日の夜明け前に北門に集合と言われました」

 北門ね。

「それで?」

「以上であります」

 は?それだけ?

「西門や東門については言われなかった?」

「いいえ。何も」

 何も!何も言われていない!え?アルレット伯爵令嬢は聖女として今回のスタンピードの対応を命ぜられたのよね。そして、彼らは騎士達に命令を出す立場の者達だ。それが北門に来いと言っただけ?

 なんか腹が立ってきた。私がなんでその国王に命令された討伐の指揮を取っているの?本当はそのアルレット伯爵令嬢がすべきじゃないの?

 ガリっと思わず煙管キセルを噛んでしまった。

 そのフラグを私がバキッと折ってあげよう。私をタダ働きをさせたのだ。ヒロインかなにか知らないけど、魔力だけはクソチートな私をナメんなよ。

「ふふふっ。北門ねぇー。代わりに私が行ってあげる。だから、第4波は第1から4小隊に任せる。第5小隊の魔術師小隊は補助に回って」

「「はっ!」」




ヴァザルデス騎士団長 side

 俺は遠目に見える光景に打ち震えていた。真夜中にも関わらず昼間のように光り輝くあの方の魔力。それが夜空に打ち上がり、恐らくイオブライから報告があったロードクラスの討伐のために打ち上げられた光の魔術。
 心がとても高揚する。ああ、あの方の元に行き、剣を振るいたいと右手が震えている。

 あの方に魅入られている者は皆、同じ気持ちなのだろう。
 しかし、あの者は何者なのだろうか。あの方の側で剣を振るっている赤髪の男。俺の記憶にはあの様な男が存在していたなど見たことも聞いたこともない。

「ヴァザルデス騎士団長閣下」

 この声はイオブライか。相変わらず影の者達は声を掛けられるまで、存在がわからない。

「何だ?」

「リーゼ様に報告に行っていた者が戻ってきまして、閣下に聞きたい事があると」

「聞きたい事?」

「はっ!リーゼ様から聖女と呼ばれている者を探るように言われまして、閣下に聞いて来いと」

 俺の目の前に居たのは奇っ怪な仮面を被ったギルスだった。奇っ怪な仮面も、貴重な魔眼石もあの方が自ら与えた物だ。う、羨ましい。

「それで、夜明け前に北門に集合とはどういうことでしょうか?」

 魔眼石の力を使ったのか。以前俺が使って欲しいと頼んでも『無理です』と断って来たのに。いや、あの方の崇拝者ならその態度は仕方がないのか。

「それは直接私がリーゼ様に報告をしよう」

 あの方から失望されたままではいけない。そして、あの方の元で剣を振るいたい。






「この雰囲気は久しぶりですね。このお茶会、実は好きだったのですよ」

 イオブライがサンドイッチを手に取りながらそんな事を口にした。
 血と死の匂いが立ち込めている戦場で、腹が減っては戦はできぬと、作戦会議をしようと言いながらお茶の用意を唐突に始めるリーゼ様。俺も好ましく思っていた。荒んだ心に潤いを与えてくれるひととき。

 しかし、俺はリーゼ様の隣にいる男が何故か気に食わない。

 多分、隊服に似た衣服もギルスの仮面に似た仮面もリーゼ様から与えられたものなのだろう。しかし、その男の腰にある剣はどう見てもリーゼ様の剣だ。リーゼ様がこだわり過ぎるぐらいに、こだわって作った剣を他の誰かに渡すとは思えない。
 だから、思いきって聞いてみた。

 ·····が、そんな事よりと一蹴されてしまった。確かにこの場では必要のない質問だったかも知れないが、気になるものは気になる。

「本日の夜明け前に北門に集合と言われました」

「それで?」

「以上であります」

「西門や東門については言われなかった?」

「いいえ。何も」

 そう答えた瞬間、リーゼ様の雰囲気が変わった。怒っていらっしゃる。何か間違った答えをしてしまったのだろうか。

「ふふふっ。北門ねぇー。代わりに私が行ってあげる」

 その言葉を聞いた瞬間理解した。聖女ミエーヌがリーゼ様の癇に障ったようだ。
 そのリーゼ様の姿を眩しく見つめる。とても楽しそうに笑っているリーゼ様をまた目にする事ができる日が来るとは思っていなかった。




 オレたちはリーゼ様の命令を実行するために、王都の方に戻る。

「あの聖女さん、殺されるんじゃないッスか?」

 ラズがそんな事を言いだした。流石にあの方が人を手にかけるとは····いや、しかし、聖女ミエーヌはあの方の居場所を奪ったのだ。それ程のことをあの方にしている。

「それはないでしょう。リーゼ様は元から聖女モドキの事は相手にしていませんでしたから」

 イオブライ!モドキは流石に言いすぎだろ!あれでも主神から選ばれたのだ!

「偽聖女がどうなろうと知ったことでは無い。リーゼ様からの信頼を取り戻すのが先決だ」

 偽聖女!クァドーラ、ずっと黙ってると思ったら、そんな事を考えていたのか!

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