上官に恋人役を頼んだら婚約届を渡された件

白雲八鈴

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第4話 ああ、嫌だ……


「フィアロッド班長。着替えるのにいったいどれほど時間をかけているのですか!」

 え?私は着替える前に入浴もさせられたけど?きっと副部隊長には知らされていなかったのだろう。

 私は前フェンテヒュドール侯爵の膝の上から降り、片足を引き膝を曲げ、普通より短いスカートを少し上げ、腰から頭を下げる。

「この度はフェンテヒュドール侯爵令息様のご厚意によりこの様な場を用意していただいたことに感謝いたします」

 全くもって思っていないが、貴族というものは建前が重要だ。ここに連行され子供用のドレスに着替えさせられ、再教育を受けることに感謝の言葉を言う。ああ、反吐がでそうだ。

 そして、頭を上げて副部隊長を見れば、なんだコイツという顔をしていた。いや、ここに連れてきて着替えさせるように命令したのは副部隊長だし。私が悪いような雰囲気を出さないで欲しい。

 そして、カツカツと踵を鳴らしながら、近づいて来た副部隊長に私は頬を抓られている。いや、なんで私の頬を抓っているわけ?

「ふくちょー。痛いですぅー」

 もしかして、偽物かと勘違いしているのかと判断し、いつもの口調で話してみると、私の頬は解放された。
 連れてきた癖に嫌がらせを受けただけか!これは仕返しをしなければ、私の腹の虫が収まらない。

 私は振り返り、前フェンテヒュドール侯爵の膝の上に再び腰を下ろした。

「じーじ。私連れて来られて、無理やり着替えさせられて、このような格好をしていますのに、酷いですわ。これは虐めだと思います」
「おお、エミリアちゃん。ルーフェイスに虐められたのか。可愛いほっぺが赤くなっているではないか」

 前フェンテヒュドール侯爵も乗ってくれたようだ。そして、私と前フェンテヒュドール侯爵の茶番劇を見て、動揺をするように視線をオロオロと私と前フェンテヒュドール侯爵に向ける副部隊長。

「二人は知り合いで?」
「エミリアちゃんがこんな小さい時から知っている」
「じーじ。そんな、どんぐりのような大きさだったときはありませんわ」
「はははっ!そうだったな」

 私が3歳からの知り合いなので、程々に長い付き合いと言えばいいのだろうか。

「ルーフェイス。エミリアちゃんは可愛いだろ?それにかなり頭が切れる。まだ私が第1師団長の時に作戦を作らせてみれば、完璧だった」
「なんの冗談ですか?お祖父様が師団長だったときとは10年も前のときですよね。その時フィアロッド班長は8歳のはず」

 普通であれば、8歳の小娘が騎士団に出入りすることはできない。そこは私が父にへばりついてゴリ押しをしたからに決まっている。誰が好き好んで男共の巣窟に足を踏み入れるものか。私は私の人生を掛けた戦いに挑んでいた。それは今も変わってはいない。

「そうだ。そうだな、8年前かアグレイ地方であったオーガの大量発生。ルーフェイスお前は何をしていた?」

 前フェンテヒュドール侯爵は意地悪な質問をした。普通は命令系統の指示に従って、行動をするのが常識だ。それ以外に普通はありえない。

「何をしていたも何も」
「ただ、指示に従っていたか?お前には戦局が見えていたか?」

 戦局もなにも、あれはオーガの海を切り裂いていた、そんな言葉が似合う戦場だった。
 そして、私の頭にポンっと大きな手が置かれた。剣を持つ分厚い手の平だ。

「そのとき、エミリアは部隊にいなかっただろう?あとになってお前はエミリアを叱咤していたらしいが、あの戦場で生き残ったのはエミリアのお陰と言っていい」
「どういうことですか?」

 あ、うん。あの時はめっちゃ怒られた。『剣を持つことを決めたのであれば、逃げるのではなく、その剣を敵に向けてふるいなさい』と綺麗な笑顔を向けられて言われた。部隊長からこっそり、あれは怒っているときほど笑っているからなと教えられた。第0部隊に配属されて初めての戦場だったから余計だったのだろう。

「エミリアはオーガの軍勢を率いるオーガキングがいると見抜いていた。それで最前線で戦っているフィアロッド子爵の元に単独で行き、事情を話して第1師団の精鋭を10人引き連れてオーガキングを討伐しに行ったんだよ。フィアロッドは突然統制が無くなったように感じたと言っていたから、そのまま戦っていたら、その内押されていたことだろう」

 副部隊長は信じられない者を見るような視線を私に向けてきた。そして、何か考えるような素振りを見せ、それを言葉にする。

「1ヶ月前の新人教育で訪れたキヤイアット山で途中で消えたのは何故です?足が凹地にハマったと馬鹿な言い訳をしていましたが」

 また、バカと言われた。ということは本気で私が凹地足を取られたと思っていないということだ。

「それは、大規模のゴブリンの集落を発見したので、駆逐していたのですよ」

 新人5人に対して、やる気のない同僚1人と副部隊長と私では横から強襲されれば、対処困難だ。いや、新人を見捨てれば対処可能だが、足手まといがいては、逃げるのもゴブリンを駆逐するのも中々厳しい戦いとなるところだった。

 私はニコリと微笑んで答える。すると、副部隊長は前フェンテヒュドール侯爵の向かい側のソファに足を組んで座った。

「この国の歴史を順序立てて言いなさい」

 え?これは何かの試験ですか?

「初代国王は賢王と名高き…………」



 一通りの質問に答えていると、夕日が部屋に差し込んでくる時間帯になっていた。私はどれだけ答えればいいのだろうかと、内心疲れ果てていた。

「はぁ、何故その真面目さを普段から出さないのです。そうすれば、第0部隊に配属されることは無かったでしょう」
「私の人生計画は完璧です。今回のことがなければ、更によかったのですが、致し方がありません」

 王様の王太子に甘々なところが悪い。何で、未婚の貴族の令嬢を集める必要があるのだ!まぁ、気になる話も耳に入ってきたので、その場を用意したってことだろうか。

 そして、第0部隊に配属されたことに何も不満はないと言う。ここ最近は各個人個人で行動することが多いので、特に好ましいと思っている。なんせ、私は鍵付きの部屋に閉じこもっていればいいのだから。

「エミリアは重度の男嫌いだからな。それは仕方がない」
「その割には膝の上に乗っていますが?」
「クロードに可愛い孫自慢をするための取引だ」

 堂々と言い切った自分の祖父に対してため息がこぼれ出ている副部隊長。何かと双子の兄弟で張り合っていることが多いらしい。まぁ、前フェンテヒュドール侯爵としては複雑な思いを抱いているのだろう。

「フィアロッド班長が、ここまで聡明だと初めて知りましたし、男嫌いというのも初めて知りましたね」

 話していませんからね。
 そして、副部隊長は本題に入った。

「それで、肝心のダンスはどうなのですか?」
「ワルツなら、踊れます。それ以外は時間が無くて習得できていません」

 非常識な行動を取るには常識を知っていなければ、どの行動が非常識かわからないため、父の姉にあたる伯母に貴族の基礎を学んだのだ。そのことは父は知らず、母は子爵令嬢に高位貴族の知識はいらないのではと言われたが、貴族の常識を知るためには必要だと判断して、毎週一回教えてもらっていた。だけど、他の知識を優先したために、ダンスはワルツのみになってしまったのが実状だ。

「では、実践してみますか」
「嫌ですよ」

 直ぐ様否定する。外は既に日が落ちて暗くなってしまってる。それに私は精神的に凄く疲れた。帰って早く寝たい。

「遅くなりましたので、帰ります」

 そう言って私は立ち上がる。ああ、私の隊服を持って帰らないと。

「何を言っているのですか?一ヶ月はフィアロッド子爵家には帰れませんよ」
「は?」
「第1師団長から再教育を頼まれましたし、フィアロッド子爵夫人からもよろしくお願いしますとの手紙を受け取りましたし、帰っても追い出されるだけですよ」

 え?なにそれ、私はもしかして母と父に売られた?母は私に再教育なんて必要ないことは知っているはずだ。
 知らない仲でもなく、私を上手く扱えるルーフェイスアルドに押し付けようとしていないか?ない!絶対に有り得ない!

 私はいつのもようにへらりと笑う。

「ふくちょー。わたしーストレスが溜まりすぎたので、ちょっと発散してきますぅー。探さないでください」
「王命に逆らうなんて、フィアロッド班長は勇気がありますね」

 ぐふっ!王命に逆らうと父と母に迷惑がかかってしまう。それはできない。
 私は真顔で副部隊長に訴える。

「副部隊長といると私の脳細胞が死滅すると思うので、嫌です」
「そのようにいつもしていれば、頭を叩くことはありません」

 これでも駄目か。あー嫌だ嫌だ。
 今の私のストレスは溜まりに溜まっている状態だ。
 知らないところってこともあるけど、先程から知らない使用人の男性がいることがストレスだ。それも私を嫌な目つきで見てくる。私を好きだとか、ホレたとか言ってきた前世の男共と同じ目つきで私を見てくる。

 そう、今の私は長い前髪を横に流しているので、母に似たキュルルン可愛い系の素顔が晒されているのだ。

 ああ、本当にイヤ。私は私の右手を顔の前に持ってくる。それも爪を立てるように構える。

「そこの者さっさと、この部屋から出ていくがよい!」

 私の右手を掴んだ前フェンテヒュドール侯爵が私の事を見ていた使用人の男性を部屋の外に出るように言い渡す。

「ルーフェイス。エミリアは男嫌いだと教えたはずだぞ。何の為にいつも顔を隠していたと思っているんだ?放置していると、エミリアは自分の顔を傷つけ始めるから、気をつけなさい。それから、エミリア。嫌なら我慢せずに嫌だと言いなさい」
「え?もう家に帰っていいですか?ストレスが溜まりすぎて、殺意が芽生えそうです」
「じゃ、じーじと久しぶりに手合わせしてもらおうか」

 あの?可愛い孫という存在は剣の手合わせはしないと思う。私はイヤイヤと首を横に振る。
 最後に手合わせをしたときから、随分経っているけれど、いくつもの死線をくぐり抜けてきた、前フェンテヒュドール侯爵に勝てる要素は未だに見いだせない。

 そんな私を子供を抱えるように抱きかかえ、別の場所に移動させられるたのだった。

 そして、結論から言えば、私は第1師団長にまでなった前フェンテヒュドール侯爵に惨敗した。剣以外も使っていいのなら、勝てる見込みがあるのに!!




ルーフェイスアルド Side

 祖父に連れられて部屋を出るフィアロッド嬢を呆然と見送った。はっきり言えば、この部屋に入って祖父の膝の上に座っている令嬢はいったい誰かと、疑問に思ったのは勿論だが、目が離せないと感じたのも事実だ。

 あの目。第1師団長と同じ魔力を帯びた金色の魔眼だ。

 それは人の心を引き付ける魔眼だ。第1師団長であるフィアロッド子爵は正に武人と言っていい人物だ。その人物が魔眼を持っていても、憧れであり尊敬という視線を集めるだけだ。

 だが、フィアロッド嬢の容姿で魔眼を持つと別の意味合いに取られる。人の心を魅了する魔眼だ。
 あどけない少女と言っていい容姿に金色の瞳。下心を持ってフィアロッド嬢を見る者も当然出てくる。先程の使用人のようにだ。

 だから、顔を隠していた。だから、隊員同士の交流が少ない第0部隊に配属されたことに不満はない。

 恐らく祖父の率いる第1師団の者たちはフィアロッド子爵になれていたので、拒否することが無かったのだろう。いや、自傷すると言っていたな。人の視線にストレスを感じて、フィアロッド嬢は自分の顔を傷つけることになると。

 聡明であり、騎士としても一定の功績がある。子爵令嬢だが、父親は伯爵家の出であり、第1師団を長年率いるフィアロッド子爵。普通であれば、婚約者がいてもおかしくない年齢。

 その全てをあのふざけた口調と長い髪で覆い隠していたということか。

 少し、考え直そう。まずは第1師団長であるフィアロッド子爵の許可をもらってくるか。

 そろそろ、両親からも身を固めろと言われていたことだし、あのあどけない少女の容姿で祖父の覚えが良いと言うなら、反対されることもないだろう。
 まぁ、ふざけた演技をしなければの話だが。

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