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第1話
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「あら? 私が誰だか知っていて、そのようなことをおっしゃっているのですわよね?」
私は扇を広げ、目の前の男性を見下すように言います。
「はい……もちろんでございます。しかし」
「しかし? 更に口答えをしようと?」
「いいえ! 何でもございません!」
だったら初めから口答えをしなくてよろしいですのに。
本当に愚かな者。
「アフィーリア! また騒ぎを起こしているのか!」
あら? ヤダヤダ。正義感を振りかざした旦那様がやってきましたわ。
声のするほうに視線をむけると、怒りを宿した鳶色の瞳と目が合いました。
「騒ぎというほどではありませんわよ?」
今日は我がファングラン公爵家主催の社交会です。貴族同士の親交を深めようという建前のもと、腹の探り合いをする場です。
主催者として、この日のために誂えたブルーグレーのイブニングがよくお似合いですわね。
まるで腕にくっつけている方と合わせたような色合いです。
ええ、私は私の瞳に合わせた赤いドレスですもの。
「これを騒ぎと言わずなんだと言うのだ!」
旦那様が一人で騒いでいるだけですわ。私は声を荒げたりしておりませんもの。
私はわざとらしく背中に流した金髪をふわりと浮かせるように振り返ります。
「ファングラン公爵家に定期的に納品するはずだったものを、別の方に横流しをしていたのですよ? それはおかしいと指摘するべきではないのでしょうか?」
「それはアフィーリアが無理を言っただけだろう!」
あら? あら? また、私が悪いことになってしまいましたわ。
「まぁ? 私が悪いと?」
クスクスと笑いがこぼれ出てしまいました。
私は必要なことしかしていませんわ。
「誰のお陰で、ファングラン公爵家がここまでの栄光を取り戻したと思っていらしゃるのですか?」
私は踵をカツンと鳴らしながら一歩を踏み出します。
「三年前までは、このような夜会など開けませんでしたのに?」
カツンと音を立てながら、また一歩を踏み出します。
公爵家という名を何とかプライドだけで保っていたファングラン公爵家。そこにラヴァルエール公爵家が援助をするという形で私が嫁いできたのです。
領地の采配の権利を私に委ねるという条件でです。
だから、旦那様に文句を言う資格はありませんわ。
「アフィーリアがそんな態度だから、悪い噂が広まっているんだ!」
それは貴族というのは足の引っ張り合いですから、あらを探して色々言ってくる者はいるでしょう。
そんなことで動じてどうするのです。
「しかしそれも今日までだ! 貴様と離縁する! ファングラン公爵夫人という名を好き勝手に使った報いだ!」
はぁ……別に好き勝手に使ってはいませんわよ。少し強引な手を使ったことは認めますが。
「そして、隣国の皇女であるメアリーローズ皇女を妻に迎えることになった。これが皇帝陛下からの親書だ!」
高々に懐から出した紙を掲げる旦那様。そうですか。
「まぁ? メアリーローズ皇女様をただの公爵夫人に? 今まで領地のことなど放置だった旦那……ミカエル様が領地の運営を?それは私が嫁ぐ前に戻ってしまいますわね?」
二人の目の前に立ち、扇越しに首を傾げます。馬鹿にしたような視線つきで。
「貴様のような女は、悪女と言うのだ! 俺のメアリーローズに何かしてみろ! ただでは済まさないぞ!」
「キャッ! ミカエル様♡」
私に怒りの視線を向けながら、ミカエル様は隣りにいる皇女様を抱き寄せています。そのミカエル様に身を寄せるメアリーローズ皇女。
「私が悪女ですか」
そう言いながらメアリーローズ皇女を見ます。しかし、直ぐにミカエル様が私の視線から隠すようにメアリーローズ様を背後に引き寄せました。
ふふふ。とてもおかしいですわ。
「何を笑っている!貴様はファングラン公爵夫人でもなんでもない! さっさと出ていけ!」
「まだ、離婚届にサインをしていないので、私がファングラン公爵夫人に変わりありませんわよ」
馬鹿ですか。いくら皇帝陛下の許可があろうが、我が国の国王陛下の許可の方が優先度が高いのです。それに正式な書類に私はサインをしておりませんわよ。
「では今までラヴァルエール公爵家が出資した二億五千万を今直ぐ返済してください。そういう契約でしたわよね。そうでなければ離婚には応じませんわ」
すると絶望的な顔をされるミカエル様。そういうところが詰めが甘いのです。
私達の婚姻が何のためだったのか全くわかっていらっしゃらなかったとは、嘆かわしいですわね。
「そ……それなら、わたくしがお支払いします」
「あら? メアリーローズ様が? まぁまぁ、籍も入れていないのに、お優しいですのね?」
「そうだ! メアリーローズは貴様とは違う!」
はぁ、これはミカエル様がおバカだと皆に知らしめているようなものですわ。皇女様に頼らなければ、ラヴァルエール公爵家への返済ができないと公言しているようなものです。
「そうですか。でしたら、離婚に応じましょう。では皆様、今宵の夜会は始まったばかり、楽しんでくださいね」
私はそう言って会場の出入り口の扉に向かいます。そして扉が開けられたところで、思い出したように振り返りました。
煌々と照らされた会場。会場の華やかさを演出する演奏。今日のためにしつらえた煌びやかな衣装を身にまとった貴族たち。
その貴族たちの視線が私に集中していました。
「忘れていましたわ。今までのファングラン公爵家からの援助資金は私個人の資産でしたので、打ち切らせていただきます。もうファングラン公爵夫人ではないので、仕方がありませんわよね? 改めてファングラン公爵家と契約してくださいませ」
あちらこちらから悲鳴が上がっているのを扉越しに聞きながら、私は廊下を進んでいきます。
「お疲れさまでした。アフィーリア様」
「くだらないシナリオね」
私の背後から声をかけたのは、侍従兼護衛のカインです。
「これで満足かしら?」
横目でカインを見ます。相変わらず何を考えているのかわからない笑みを浮かべていますわ。
「はい」
「そう、だったらいいわ」
私はそのまま玄関ホールに向かいます。そして、そこで待っていた初老の男性に声をかけました。
「執事トーマス。短い間だったけどお世話になったわ」
「奥様、本当に申し訳ございません」
「あら? 貴方が謝ることなんてなにもないのよ?」
そして差し出された書類にサインをします。離婚届です。
あとの処理は彼に任せましょう。
「さようなら。執事トーマス。早く後任に譲って、ゆっくりと老後を過ごしなさいね」
「痛み入ります。奥様」
「ふふふ。もう奥様じゃないわよ」
そう言って、私は開けられた玄関を出ていきます。すると背後から肩にストールがかけられました。
「あら? 気が利くわね?」
「アフィーリア様の侍従ですから、これぐらい当たり前です」
「ふん。まぁ、それも後少しの間よ」
玄関を出ると目の前には黒塗りの車が扉を開けて停まっています。事前に今回のことが分かっていたかのようにラヴァルエール公爵家の家紋がついた車が待っているのです。
私は当然のようにカインの手を取って乗り込みました。
扉が閉められ、誰の見送りもなく出発する車。広い車内にため息がこぼれ出ます。
「はぁ……」
未練に後ろ髪が引かれますわ。
どうしてこんなことに。
まだやりたいことは沢山ありましたのに。
結局は地位と権力ですか。
「アフィーリア様。ミカエル・ファングラン公爵に未練がおありですか?」
「無いわよ。そんなもの。小麦のひと粒さえも」
正面に座って馬鹿なことを聞いてきたカインを睨みつけます。
私はあの男と結婚しましたが、どちらかと言えば、ファングラン公爵家と結婚したのです。
あんな見た目だけの皇女に騙される男に興味すら湧きません。
「やはり、三年では足りなかったという意味よ。何が悪女よ。貴方の妹の方がよっぽど悪女じゃない」
「その件は納得いただけたと思っていましたが?」
納得? 納得させられたのよ!
そう、三年前の結婚式当日のことよ。
私は扇を広げ、目の前の男性を見下すように言います。
「はい……もちろんでございます。しかし」
「しかし? 更に口答えをしようと?」
「いいえ! 何でもございません!」
だったら初めから口答えをしなくてよろしいですのに。
本当に愚かな者。
「アフィーリア! また騒ぎを起こしているのか!」
あら? ヤダヤダ。正義感を振りかざした旦那様がやってきましたわ。
声のするほうに視線をむけると、怒りを宿した鳶色の瞳と目が合いました。
「騒ぎというほどではありませんわよ?」
今日は我がファングラン公爵家主催の社交会です。貴族同士の親交を深めようという建前のもと、腹の探り合いをする場です。
主催者として、この日のために誂えたブルーグレーのイブニングがよくお似合いですわね。
まるで腕にくっつけている方と合わせたような色合いです。
ええ、私は私の瞳に合わせた赤いドレスですもの。
「これを騒ぎと言わずなんだと言うのだ!」
旦那様が一人で騒いでいるだけですわ。私は声を荒げたりしておりませんもの。
私はわざとらしく背中に流した金髪をふわりと浮かせるように振り返ります。
「ファングラン公爵家に定期的に納品するはずだったものを、別の方に横流しをしていたのですよ? それはおかしいと指摘するべきではないのでしょうか?」
「それはアフィーリアが無理を言っただけだろう!」
あら? あら? また、私が悪いことになってしまいましたわ。
「まぁ? 私が悪いと?」
クスクスと笑いがこぼれ出てしまいました。
私は必要なことしかしていませんわ。
「誰のお陰で、ファングラン公爵家がここまでの栄光を取り戻したと思っていらしゃるのですか?」
私は踵をカツンと鳴らしながら一歩を踏み出します。
「三年前までは、このような夜会など開けませんでしたのに?」
カツンと音を立てながら、また一歩を踏み出します。
公爵家という名を何とかプライドだけで保っていたファングラン公爵家。そこにラヴァルエール公爵家が援助をするという形で私が嫁いできたのです。
領地の采配の権利を私に委ねるという条件でです。
だから、旦那様に文句を言う資格はありませんわ。
「アフィーリアがそんな態度だから、悪い噂が広まっているんだ!」
それは貴族というのは足の引っ張り合いですから、あらを探して色々言ってくる者はいるでしょう。
そんなことで動じてどうするのです。
「しかしそれも今日までだ! 貴様と離縁する! ファングラン公爵夫人という名を好き勝手に使った報いだ!」
はぁ……別に好き勝手に使ってはいませんわよ。少し強引な手を使ったことは認めますが。
「そして、隣国の皇女であるメアリーローズ皇女を妻に迎えることになった。これが皇帝陛下からの親書だ!」
高々に懐から出した紙を掲げる旦那様。そうですか。
「まぁ? メアリーローズ皇女様をただの公爵夫人に? 今まで領地のことなど放置だった旦那……ミカエル様が領地の運営を?それは私が嫁ぐ前に戻ってしまいますわね?」
二人の目の前に立ち、扇越しに首を傾げます。馬鹿にしたような視線つきで。
「貴様のような女は、悪女と言うのだ! 俺のメアリーローズに何かしてみろ! ただでは済まさないぞ!」
「キャッ! ミカエル様♡」
私に怒りの視線を向けながら、ミカエル様は隣りにいる皇女様を抱き寄せています。そのミカエル様に身を寄せるメアリーローズ皇女。
「私が悪女ですか」
そう言いながらメアリーローズ皇女を見ます。しかし、直ぐにミカエル様が私の視線から隠すようにメアリーローズ様を背後に引き寄せました。
ふふふ。とてもおかしいですわ。
「何を笑っている!貴様はファングラン公爵夫人でもなんでもない! さっさと出ていけ!」
「まだ、離婚届にサインをしていないので、私がファングラン公爵夫人に変わりありませんわよ」
馬鹿ですか。いくら皇帝陛下の許可があろうが、我が国の国王陛下の許可の方が優先度が高いのです。それに正式な書類に私はサインをしておりませんわよ。
「では今までラヴァルエール公爵家が出資した二億五千万を今直ぐ返済してください。そういう契約でしたわよね。そうでなければ離婚には応じませんわ」
すると絶望的な顔をされるミカエル様。そういうところが詰めが甘いのです。
私達の婚姻が何のためだったのか全くわかっていらっしゃらなかったとは、嘆かわしいですわね。
「そ……それなら、わたくしがお支払いします」
「あら? メアリーローズ様が? まぁまぁ、籍も入れていないのに、お優しいですのね?」
「そうだ! メアリーローズは貴様とは違う!」
はぁ、これはミカエル様がおバカだと皆に知らしめているようなものですわ。皇女様に頼らなければ、ラヴァルエール公爵家への返済ができないと公言しているようなものです。
「そうですか。でしたら、離婚に応じましょう。では皆様、今宵の夜会は始まったばかり、楽しんでくださいね」
私はそう言って会場の出入り口の扉に向かいます。そして扉が開けられたところで、思い出したように振り返りました。
煌々と照らされた会場。会場の華やかさを演出する演奏。今日のためにしつらえた煌びやかな衣装を身にまとった貴族たち。
その貴族たちの視線が私に集中していました。
「忘れていましたわ。今までのファングラン公爵家からの援助資金は私個人の資産でしたので、打ち切らせていただきます。もうファングラン公爵夫人ではないので、仕方がありませんわよね? 改めてファングラン公爵家と契約してくださいませ」
あちらこちらから悲鳴が上がっているのを扉越しに聞きながら、私は廊下を進んでいきます。
「お疲れさまでした。アフィーリア様」
「くだらないシナリオね」
私の背後から声をかけたのは、侍従兼護衛のカインです。
「これで満足かしら?」
横目でカインを見ます。相変わらず何を考えているのかわからない笑みを浮かべていますわ。
「はい」
「そう、だったらいいわ」
私はそのまま玄関ホールに向かいます。そして、そこで待っていた初老の男性に声をかけました。
「執事トーマス。短い間だったけどお世話になったわ」
「奥様、本当に申し訳ございません」
「あら? 貴方が謝ることなんてなにもないのよ?」
そして差し出された書類にサインをします。離婚届です。
あとの処理は彼に任せましょう。
「さようなら。執事トーマス。早く後任に譲って、ゆっくりと老後を過ごしなさいね」
「痛み入ります。奥様」
「ふふふ。もう奥様じゃないわよ」
そう言って、私は開けられた玄関を出ていきます。すると背後から肩にストールがかけられました。
「あら? 気が利くわね?」
「アフィーリア様の侍従ですから、これぐらい当たり前です」
「ふん。まぁ、それも後少しの間よ」
玄関を出ると目の前には黒塗りの車が扉を開けて停まっています。事前に今回のことが分かっていたかのようにラヴァルエール公爵家の家紋がついた車が待っているのです。
私は当然のようにカインの手を取って乗り込みました。
扉が閉められ、誰の見送りもなく出発する車。広い車内にため息がこぼれ出ます。
「はぁ……」
未練に後ろ髪が引かれますわ。
どうしてこんなことに。
まだやりたいことは沢山ありましたのに。
結局は地位と権力ですか。
「アフィーリア様。ミカエル・ファングラン公爵に未練がおありですか?」
「無いわよ。そんなもの。小麦のひと粒さえも」
正面に座って馬鹿なことを聞いてきたカインを睨みつけます。
私はあの男と結婚しましたが、どちらかと言えば、ファングラン公爵家と結婚したのです。
あんな見た目だけの皇女に騙される男に興味すら湧きません。
「やはり、三年では足りなかったという意味よ。何が悪女よ。貴方の妹の方がよっぽど悪女じゃない」
「その件は納得いただけたと思っていましたが?」
納得? 納得させられたのよ!
そう、三年前の結婚式当日のことよ。
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