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第2話
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ファングラン公爵家とラヴァルエール公爵家の結婚式当日。
式が終わり後は、披露宴を兼ね備えた晩餐会を残すのみとなったとき、アレが訪ねてきたのです。
「貴女。わたくしにファングラン公爵夫人の座を渡しなさい」
銀髪の青い目をした少女が、突然私の控室にやってきたのです。そして常識を疑うことを言ったのでした。
「まぁ? おかしなことを知らない方から言われましても困りますわ」
もちろん私は相手が誰かは存じております。
ヴァンデルト帝国の第三皇女メアリーローズ様だと。
兄であるラヴァルエール公爵が勉学のために留学していて、皇族の方々と懇意にしていたとは聞いていました。
しかし本日いらっしゃるとは聞いていませんでしたわよ。
「メアリーローズ。今日は祝の席に駆けつけたのですよ。何を言っているのですか」
背後から似たような容姿の男性が、皇女メアリーローズ様を諫めました。
ええ、この方も存じております。兄と懇意にしておられるカインヴァール第二皇子です。
「妹が失礼なことを。本日はラヴァルエール公爵の妹君の結婚式という『お兄様! わたくしはあの方と結婚します!』……メアリーローズ。そのようなわがままは通りませんよ」
メアリーローズ皇女と比べて、カインヴァール皇子は良識人のようです。よかったですわ。
「メアリーローズ。今回は『ラヴァメイヤーブランド』のオーナーのラヴァルエール公爵令嬢に会えると楽しみにしていましたよね。さぁ、ご挨拶をしなさい」
『ラヴァメイヤーブランド』それは私が立ち上げた化粧品ブランドです。流行に敏感な貴族の夫人方を対象にしたブランドでしたが、最近はご令嬢方にも人気ですわね。
「わたくしがファングラン公爵夫人になって差し上げますわ! 光栄に思いなさい!」
この方はいくつだったでしょうか? 確か私より二つ下の十六歳。
皇族としての良識は身につけてないのかしら?
私はその兄であるカインヴァール皇子に視線をむけます。お引き取りをお願いしたいですわ。
「別に良いんじゃないのか」
「愚兄は黙っていてください」
部屋の入り口に寄りかかっている兄を睨みつけます。人の良さそうな笑顔を浮かべて平気に毒舌を吐く兄です。
大抵の人は兄の見た目に騙されます。光を反射しているような金髪に、整った容姿、そして人を魅了するような赤い瞳。
ええ、見た目は人が良さそうな雰囲気をまとっていますが、合理的主義であり、不要な者はバッサリと切り捨てる冷徹さを持っています。
「だって、元々この縁談は国王陛下から『どうにかならぬかのぅ』と押し付けられた縁談だからね。ラヴァルエールとしては全くメリットはない」
はい。全くラヴァルエール公爵家の利益にならない縁談です。
「ですから、ファングラン公爵家への出資金は私の個人資産から賄っているではありませんか。愚兄が口を出す権利はありません」
そう、この縁談に渋っていた兄を説得し、ファングラン公爵家に対してかかる金銭は私個人で受け持つという話に持っていったのです。
「ま……まさか、それほどミカエル様を愛していらっしゃると! しかし負けませんわ!」
皇女様は何をおっしゃっているのですか?
この縁談に勝ち負けなど存在しません。
「別にアフィーリアのままごとなら、新しいブランドでも立ち上げればいい」
その言葉にカチンと頭にきました。私はカツカツとわざとらしく足音を立て、兄に詰め寄ります。
「ままごとですって! 女の私に領地の采配を託してくれる縁談がどこに転がっているのです!」
「普通は無いね」
「だったら、この縁談は私にとって良縁です! 愚兄は黙っていてください!」
「それがままごとなんだよ」
そう言って、いつもいつも私を無能扱いして! 見返したく立ち上げた化粧品ブランドを成功させたのに『よくできている方じゃないのかな』ですって!
「あ! わかりました! 貴女を第二夫人として領地のことを任せればいいってことね」
何がわかったのよ! そんなこと許されないとわからないの? この脳内お花畑皇女!
「あの……奥様。晩餐会の準備が整いました」
「執事トーマス。緊急事態です。晩餐会のあとミカエル様に一服盛りなさい」
「奥様。それは……」
「常識知らずの皇女様のお相手をしなければなりませんからね」
「まぁ? わたくしが非常識だとおっしゃっておりますの?」
「人の結婚式で旦那様が欲しいというのは非常識ではないのですか?」
「それの何がいけませんの? わたくしが欲しいと言ったのですよ?」
この皇女の教育はどうなっていますの! 思わずカインヴァール皇子を睨みつけてしまいました。
「そう! ひと目でわたくしは恋に落ちたのです。あの方こそわたくしの王子様だと……」
頭痛がしてきて、思わず額に手を当ててしまいました。
「お嬢様……奥様、お薬でもお持ちしましょうか?」
私付きの侍女に手を振って不要だと伝えます。
先程から皇女様の一人語りを聞かされているのです。
私の結婚相手であるミカエル様が、皇女様にとっては理想の王子様に見えるそうです。
思わず鼻で笑いそうになりましたわ。
確かに金髪に甘いマスク、光加減によっては金色に見える瞳。
それなら私がこの結婚の話を受けなくてもよかったのです。見た目だけでいいのであれば、それは婚約者の一人や二人はいたでしょうね。
今まで私がこの縁談を受けるまで、ミカエル様に婚約者はいませんでした。
これが意味するところはおわかりですか? ファングラン公爵家は借金だらけで首が回らない状態なのです。
誰がこんなところに嫁ぎたいと思うのでしょう。
「皇女様」
「メアリーローズと呼んでくださいね?」
「メアリーローズ様。貴女個人で自由にできるお金はどれほどですか?」
「え? そんなものお父様に頼めばいくらでも出してくれますわ」
「帝国の民の血税を他国の民に使うとおっしゃっているのですか?」
「わたくしは皇女ですもの。わたくしのために使われるのであれば、当然のことでしょう?」
話になりませんわ!
「カインヴァール皇子殿下。少々お話しをよろしいでしょうか?」
これは保護者として付き添っている皇子と話した方がいいでしょう。
「いいですよ」
最初は皇女様を諫めていましたのに、今は諦めてしまったのか、一言も発言しなくなった皇子を離れた場所に誘導します。
「現状としてファングラン公爵家は三億の借金を抱えています。皇女様はこれをまかなう能力はおありなのですか?」
「無いですね」
はっきりと言いますわね。
「私は一年間かけて借金返済プランを立てて兄を説得して、今回の結婚に持ち込んだのです。それを皇族だからといって、横やりを入れてくるのは横暴というものではありませんか?」
「アフィーリア。言い過ぎだ」
「愚兄は黙っていてください」
無礼を承知で言っているです。私の人生プランを台無しにしようとしている皇女の横暴は許しがたいです。
「確認したいのですが」
「なにをですか?」
「その話だと、借金返済プランと言うものを実行してみたいと聞き取れますね」
「そうですが?」
「それだとラヴァルエール公爵の言うこともわかります」
きっ! 私のやっていることがままごとだと言いたいのですか!
結局だれも彼も、女が采配をすることを良しとしない。悔しいですわ。
私は無能ではありませんわ。
結局だれも彼も権力に跪き、地位に膝まずく。女の私は政治の道具。
そんなことはないと私は突きつけるのです! 絶対に! 絶対に!
「そう、帝国の民の血税を他国の公爵家の借金返済に使うことは問題ないということですか」
私は挑発的に言う。
「既に式を挙げているので、私が公爵夫人だと周知されているなか、何も非がない私の立場を奪う皇女様は周りからなんと言われることでしょう?」
既に結婚式と披露宴の晩餐会を終えたのです。それも公爵家同士の婚姻ですので、多くの貴族を呼んで開いた結婚式。
今更無かったことになどできませんわ。
「貴族の婚姻は家同士の婚姻。他国の皇女様のわがままで借金だらけの公爵家に降嫁される。国内外からどういう目で見られることでしょう?」
帝国の皇帝の無能さを遠回しに言う。帝国にとって意味がない婚姻を許可した皇帝の無能さをです。
するとパンッという音と共に左頬に衝撃が走ります。思わず椅子から転げ落ちるほどの衝撃。
「アフィーリア。口を慎め」
愚兄が私に向かって手を上げたようでした。
「奥様!」
トーマスに起こされ、座っていたの元の長椅子に腰を下ろします。
「私めの発言を許していただけるでしょうか」
「許そう」
トーマスの言葉に許可を与えるカインヴァール皇子。
「奥様が旦那様の婚約者になられるまで、使用人には給金は払われておりませんでした」
「え?」
「私たち使用人の給金は全て奥様のポケットマネーで支払われております。皇女様が公爵夫人になられた場合も、同様にしていただけると思ってよろしいのでしょうか?」
「うーん。これは……」
「十年前の大災害でファングラン公爵領の特産であったワインのブドウの木はほとんど無くなり、災害の復興すらままなっておりません。それを奥様は外から人を雇って領地の改革を既に行っていただいております」
「既に始めているのですか」
「それから、前ファングラン公爵様との契約で、離縁する場合は、奥様がファングラン公爵領のために使った金額を全額返納する契約になっております」
私はトーマスが話している間に、侍女が持ってきた冷えたタオルで頬を冷やしています。愚兄、絶対に許しません。
女の顔を叩く男など後ろから突き落としてやりますわ。
そしてカインヴァール皇子は離れたところにいる皇女様に向って声をかけました。
「メアリーローズ。諦めなさ……」
「嫌ですわ! 私の王子様を見つけたのですもの!」
はぁ、頭が痛いほど話しにならないからカインヴァール皇子と話をしているのです。
「アフィーリア」
「人の頬を殴る愚兄の言葉など聞きません」
「いいから聞きなさい。三年。三年でファングラン公爵領を復興させなさい。そうすればアフィーリアの望みは叶うだろう?」
「それはその後は公爵夫人の座を譲れといっているのですか! 人を馬鹿にするのも大概にしてください!」
私は愚兄に詰め寄ります。
「別に馬鹿にはしていない。しかし、帝国との関係を良好にしておくべきだ。そうだろう?」
「納得できません」
「できるできないじゃなくて、するんだよ」
だから! 納得できないと言っているのです。
ふん! 愚兄がそんなことを言うなら、私も無理難題を言ってもいいですわよね!
「では、三年間、そこにいらっしゃるカインヴァール皇子殿下を私の侍従にするというので手を打ちますわ。そっちがわがままを言うのであれば、私のわがままも聞いてくれますよね?」
「アフィーリア!」
また手を出してきた兄の手首に畳んだ扇を当てて、その手を止めます。
何度も食らいませんわよ。
「如何かしら?」
これは絶対に了承されない条件。兄が出した条件など、私をいいようにあしらおうというのが見え見えです。
「いいですよ」
カインヴァール皇子からの返答に一瞬耳を疑いました。
「は? 私の侍従ですよ? お役目とかありますよね?」
「私の仕事など誰でもできるものですから」
ちょっと待ってください。それはそれで私が困りますわ。絶対に了承されないはずでしたのに!
「それに、こちらの国のことを勉強しようと数年は滞在の予定をしていましたから、丁度よかったのではないのですか?」
こ……これは予想外過ぎます。
そして、三日後に銀色だった髪を茶色に染めたカインヴァール皇子が私の目の前に現れたのです。
「ラヴァルエール公爵からアフィーリア様にお仕えするように仰せ仕りました。侍従兼護衛のカインと申します。よろしくお願い申し上げます」
くっ! 第二皇子とあろう御方が、他国の公爵夫人に仕えるなどあってはならないことです。
「カインヴァールお……」
「アフィーリア様。私はただのカインです。お間違えなきよう」
被せて言われましたわ。これはどうすればいいのですか! 過去に戻って、苛ついてあんな事を言ってしまった自分を殴りたい気分ですわ。
しかしまぁ、第二皇子がよく私の侍従を務めたと言いたいところです。が、意地悪で無理難題を押し付けてもサクッとこなす有能さ。部下に欲しいと思ってしまうスペックの高さでした。
そして、お茶を淹れさせれば私が淹れるより美味しいという腕前。
褒めると「トーマスに教えていただきました」と普通に返されました。
ここで覚えてその腕前、能力の高さに嫉妬を覚える程です。
そうして、三年間という短いファングラン公爵夫人の生活が始まったのでした。帝国の第二皇子を侍従兼護衛として。
式が終わり後は、披露宴を兼ね備えた晩餐会を残すのみとなったとき、アレが訪ねてきたのです。
「貴女。わたくしにファングラン公爵夫人の座を渡しなさい」
銀髪の青い目をした少女が、突然私の控室にやってきたのです。そして常識を疑うことを言ったのでした。
「まぁ? おかしなことを知らない方から言われましても困りますわ」
もちろん私は相手が誰かは存じております。
ヴァンデルト帝国の第三皇女メアリーローズ様だと。
兄であるラヴァルエール公爵が勉学のために留学していて、皇族の方々と懇意にしていたとは聞いていました。
しかし本日いらっしゃるとは聞いていませんでしたわよ。
「メアリーローズ。今日は祝の席に駆けつけたのですよ。何を言っているのですか」
背後から似たような容姿の男性が、皇女メアリーローズ様を諫めました。
ええ、この方も存じております。兄と懇意にしておられるカインヴァール第二皇子です。
「妹が失礼なことを。本日はラヴァルエール公爵の妹君の結婚式という『お兄様! わたくしはあの方と結婚します!』……メアリーローズ。そのようなわがままは通りませんよ」
メアリーローズ皇女と比べて、カインヴァール皇子は良識人のようです。よかったですわ。
「メアリーローズ。今回は『ラヴァメイヤーブランド』のオーナーのラヴァルエール公爵令嬢に会えると楽しみにしていましたよね。さぁ、ご挨拶をしなさい」
『ラヴァメイヤーブランド』それは私が立ち上げた化粧品ブランドです。流行に敏感な貴族の夫人方を対象にしたブランドでしたが、最近はご令嬢方にも人気ですわね。
「わたくしがファングラン公爵夫人になって差し上げますわ! 光栄に思いなさい!」
この方はいくつだったでしょうか? 確か私より二つ下の十六歳。
皇族としての良識は身につけてないのかしら?
私はその兄であるカインヴァール皇子に視線をむけます。お引き取りをお願いしたいですわ。
「別に良いんじゃないのか」
「愚兄は黙っていてください」
部屋の入り口に寄りかかっている兄を睨みつけます。人の良さそうな笑顔を浮かべて平気に毒舌を吐く兄です。
大抵の人は兄の見た目に騙されます。光を反射しているような金髪に、整った容姿、そして人を魅了するような赤い瞳。
ええ、見た目は人が良さそうな雰囲気をまとっていますが、合理的主義であり、不要な者はバッサリと切り捨てる冷徹さを持っています。
「だって、元々この縁談は国王陛下から『どうにかならぬかのぅ』と押し付けられた縁談だからね。ラヴァルエールとしては全くメリットはない」
はい。全くラヴァルエール公爵家の利益にならない縁談です。
「ですから、ファングラン公爵家への出資金は私の個人資産から賄っているではありませんか。愚兄が口を出す権利はありません」
そう、この縁談に渋っていた兄を説得し、ファングラン公爵家に対してかかる金銭は私個人で受け持つという話に持っていったのです。
「ま……まさか、それほどミカエル様を愛していらっしゃると! しかし負けませんわ!」
皇女様は何をおっしゃっているのですか?
この縁談に勝ち負けなど存在しません。
「別にアフィーリアのままごとなら、新しいブランドでも立ち上げればいい」
その言葉にカチンと頭にきました。私はカツカツとわざとらしく足音を立て、兄に詰め寄ります。
「ままごとですって! 女の私に領地の采配を託してくれる縁談がどこに転がっているのです!」
「普通は無いね」
「だったら、この縁談は私にとって良縁です! 愚兄は黙っていてください!」
「それがままごとなんだよ」
そう言って、いつもいつも私を無能扱いして! 見返したく立ち上げた化粧品ブランドを成功させたのに『よくできている方じゃないのかな』ですって!
「あ! わかりました! 貴女を第二夫人として領地のことを任せればいいってことね」
何がわかったのよ! そんなこと許されないとわからないの? この脳内お花畑皇女!
「あの……奥様。晩餐会の準備が整いました」
「執事トーマス。緊急事態です。晩餐会のあとミカエル様に一服盛りなさい」
「奥様。それは……」
「常識知らずの皇女様のお相手をしなければなりませんからね」
「まぁ? わたくしが非常識だとおっしゃっておりますの?」
「人の結婚式で旦那様が欲しいというのは非常識ではないのですか?」
「それの何がいけませんの? わたくしが欲しいと言ったのですよ?」
この皇女の教育はどうなっていますの! 思わずカインヴァール皇子を睨みつけてしまいました。
「そう! ひと目でわたくしは恋に落ちたのです。あの方こそわたくしの王子様だと……」
頭痛がしてきて、思わず額に手を当ててしまいました。
「お嬢様……奥様、お薬でもお持ちしましょうか?」
私付きの侍女に手を振って不要だと伝えます。
先程から皇女様の一人語りを聞かされているのです。
私の結婚相手であるミカエル様が、皇女様にとっては理想の王子様に見えるそうです。
思わず鼻で笑いそうになりましたわ。
確かに金髪に甘いマスク、光加減によっては金色に見える瞳。
それなら私がこの結婚の話を受けなくてもよかったのです。見た目だけでいいのであれば、それは婚約者の一人や二人はいたでしょうね。
今まで私がこの縁談を受けるまで、ミカエル様に婚約者はいませんでした。
これが意味するところはおわかりですか? ファングラン公爵家は借金だらけで首が回らない状態なのです。
誰がこんなところに嫁ぎたいと思うのでしょう。
「皇女様」
「メアリーローズと呼んでくださいね?」
「メアリーローズ様。貴女個人で自由にできるお金はどれほどですか?」
「え? そんなものお父様に頼めばいくらでも出してくれますわ」
「帝国の民の血税を他国の民に使うとおっしゃっているのですか?」
「わたくしは皇女ですもの。わたくしのために使われるのであれば、当然のことでしょう?」
話になりませんわ!
「カインヴァール皇子殿下。少々お話しをよろしいでしょうか?」
これは保護者として付き添っている皇子と話した方がいいでしょう。
「いいですよ」
最初は皇女様を諫めていましたのに、今は諦めてしまったのか、一言も発言しなくなった皇子を離れた場所に誘導します。
「現状としてファングラン公爵家は三億の借金を抱えています。皇女様はこれをまかなう能力はおありなのですか?」
「無いですね」
はっきりと言いますわね。
「私は一年間かけて借金返済プランを立てて兄を説得して、今回の結婚に持ち込んだのです。それを皇族だからといって、横やりを入れてくるのは横暴というものではありませんか?」
「アフィーリア。言い過ぎだ」
「愚兄は黙っていてください」
無礼を承知で言っているです。私の人生プランを台無しにしようとしている皇女の横暴は許しがたいです。
「確認したいのですが」
「なにをですか?」
「その話だと、借金返済プランと言うものを実行してみたいと聞き取れますね」
「そうですが?」
「それだとラヴァルエール公爵の言うこともわかります」
きっ! 私のやっていることがままごとだと言いたいのですか!
結局だれも彼も、女が采配をすることを良しとしない。悔しいですわ。
私は無能ではありませんわ。
結局だれも彼も権力に跪き、地位に膝まずく。女の私は政治の道具。
そんなことはないと私は突きつけるのです! 絶対に! 絶対に!
「そう、帝国の民の血税を他国の公爵家の借金返済に使うことは問題ないということですか」
私は挑発的に言う。
「既に式を挙げているので、私が公爵夫人だと周知されているなか、何も非がない私の立場を奪う皇女様は周りからなんと言われることでしょう?」
既に結婚式と披露宴の晩餐会を終えたのです。それも公爵家同士の婚姻ですので、多くの貴族を呼んで開いた結婚式。
今更無かったことになどできませんわ。
「貴族の婚姻は家同士の婚姻。他国の皇女様のわがままで借金だらけの公爵家に降嫁される。国内外からどういう目で見られることでしょう?」
帝国の皇帝の無能さを遠回しに言う。帝国にとって意味がない婚姻を許可した皇帝の無能さをです。
するとパンッという音と共に左頬に衝撃が走ります。思わず椅子から転げ落ちるほどの衝撃。
「アフィーリア。口を慎め」
愚兄が私に向かって手を上げたようでした。
「奥様!」
トーマスに起こされ、座っていたの元の長椅子に腰を下ろします。
「私めの発言を許していただけるでしょうか」
「許そう」
トーマスの言葉に許可を与えるカインヴァール皇子。
「奥様が旦那様の婚約者になられるまで、使用人には給金は払われておりませんでした」
「え?」
「私たち使用人の給金は全て奥様のポケットマネーで支払われております。皇女様が公爵夫人になられた場合も、同様にしていただけると思ってよろしいのでしょうか?」
「うーん。これは……」
「十年前の大災害でファングラン公爵領の特産であったワインのブドウの木はほとんど無くなり、災害の復興すらままなっておりません。それを奥様は外から人を雇って領地の改革を既に行っていただいております」
「既に始めているのですか」
「それから、前ファングラン公爵様との契約で、離縁する場合は、奥様がファングラン公爵領のために使った金額を全額返納する契約になっております」
私はトーマスが話している間に、侍女が持ってきた冷えたタオルで頬を冷やしています。愚兄、絶対に許しません。
女の顔を叩く男など後ろから突き落としてやりますわ。
そしてカインヴァール皇子は離れたところにいる皇女様に向って声をかけました。
「メアリーローズ。諦めなさ……」
「嫌ですわ! 私の王子様を見つけたのですもの!」
はぁ、頭が痛いほど話しにならないからカインヴァール皇子と話をしているのです。
「アフィーリア」
「人の頬を殴る愚兄の言葉など聞きません」
「いいから聞きなさい。三年。三年でファングラン公爵領を復興させなさい。そうすればアフィーリアの望みは叶うだろう?」
「それはその後は公爵夫人の座を譲れといっているのですか! 人を馬鹿にするのも大概にしてください!」
私は愚兄に詰め寄ります。
「別に馬鹿にはしていない。しかし、帝国との関係を良好にしておくべきだ。そうだろう?」
「納得できません」
「できるできないじゃなくて、するんだよ」
だから! 納得できないと言っているのです。
ふん! 愚兄がそんなことを言うなら、私も無理難題を言ってもいいですわよね!
「では、三年間、そこにいらっしゃるカインヴァール皇子殿下を私の侍従にするというので手を打ちますわ。そっちがわがままを言うのであれば、私のわがままも聞いてくれますよね?」
「アフィーリア!」
また手を出してきた兄の手首に畳んだ扇を当てて、その手を止めます。
何度も食らいませんわよ。
「如何かしら?」
これは絶対に了承されない条件。兄が出した条件など、私をいいようにあしらおうというのが見え見えです。
「いいですよ」
カインヴァール皇子からの返答に一瞬耳を疑いました。
「は? 私の侍従ですよ? お役目とかありますよね?」
「私の仕事など誰でもできるものですから」
ちょっと待ってください。それはそれで私が困りますわ。絶対に了承されないはずでしたのに!
「それに、こちらの国のことを勉強しようと数年は滞在の予定をしていましたから、丁度よかったのではないのですか?」
こ……これは予想外過ぎます。
そして、三日後に銀色だった髪を茶色に染めたカインヴァール皇子が私の目の前に現れたのです。
「ラヴァルエール公爵からアフィーリア様にお仕えするように仰せ仕りました。侍従兼護衛のカインと申します。よろしくお願い申し上げます」
くっ! 第二皇子とあろう御方が、他国の公爵夫人に仕えるなどあってはならないことです。
「カインヴァールお……」
「アフィーリア様。私はただのカインです。お間違えなきよう」
被せて言われましたわ。これはどうすればいいのですか! 過去に戻って、苛ついてあんな事を言ってしまった自分を殴りたい気分ですわ。
しかしまぁ、第二皇子がよく私の侍従を務めたと言いたいところです。が、意地悪で無理難題を押し付けてもサクッとこなす有能さ。部下に欲しいと思ってしまうスペックの高さでした。
そして、お茶を淹れさせれば私が淹れるより美味しいという腕前。
褒めると「トーマスに教えていただきました」と普通に返されました。
ここで覚えてその腕前、能力の高さに嫉妬を覚える程です。
そうして、三年間という短いファングラン公爵夫人の生活が始まったのでした。帝国の第二皇子を侍従兼護衛として。
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