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爽やかな風が吹いているのか心地よい。ゆりかごが揺れるような夢見心地に一度開いた目は再び閉じられる。このまま今日一日は惰眠を貪るのも良いのかもしれない。ウトウトとまた眠りの世界に入っていこうとしていたが、揺れが大きくなって身体が転がっていき目が覚めた。
「キエェ!?(何事じゃ!?)」
すぐに臨戦態勢に移ろうとしたが身体がおかしい事に気づく。そういえば、ケダマに生まれかわったのだったな。現実を思い出しこの揺れの原因を探れば、籠にしがみついているジジイことバオム。
「おはようございます若様! 本日も爽やかな朝ですぞ! 朝日が身に沁みますじゃ」
「キェ……(ジジイ……あぁ、おはよう)」
「バオジイとお呼びください」
あの謎の葉っぱで出来た両手でしがみついてニコニコと笑う花がそこにいる。昨日のあの庭で自己紹介をしていたが、彼は樹人の一族でまだまだひよっこであるそうだ。幼女の付き人は精霊族で名をガイストと言っていた。
バオジイは今生でも俺のお目付け役をするつもりなのか同じ部屋で寝ていた。ここは一応はあの幼女の部屋で、窓際の日当たりが良い場所に土を詰めた大きな鉢が置かれており、そこが彼の寝床になった。
くあぁっと欠伸をして身体を伸ばす。今はバオジイと自分しかいないみたいなので前世での事を聞いておこうと思う。
「キュエェ?(バオジイは死んだときの事を覚えておるか?)」
俺はいつもどおりに過ごしていたはずだ。死んだときの事など覚えていない。思い出そうとしてもやはり浮かんでこないがバオジイはどうだったのだろうか。
「若様は覚えておらんのですか? あの日は若様に歯向かった雌を一匹処分しておりました」
雌?あぁ、刺客か何かの女が俺を刺そうとしていたな。尾で軽く払ったら吹っ飛んでいき、なにやら騒いでいたのを思い出した。刺そうとした短刀を検分している間にどこかに連れて行かれて処分されたのだろう。短刀にも呪いなどは見当たらなかったが後で清めておこうと考えていたら眩しい光に包まれたのだったか。
「あの日、天が急に落ちてきたのです。おそらくあれで若様もワシも皆も……全滅でしょうな。世界そのものが滅んだのかもしれません」
バオジイが首を横に振っているので、きっと彼の言う通りなのだろう。多くの配下達もあの思い入れのある場所も……すべてが一瞬で消え去ってしまった。そして、こうして新しい生を手に入れてまた会えたのは、どれだけの奇跡なのだろうか。
つい、しんみりとしてしまったな。
「ですがこうしてまた若様にお会い出来ました! もしかしたら、かつてのあやつらもこちらにおるのかもしれません」
「キュイ(そうだな)」
また会えたら面白いのかもしれないが、今のこの姿を見られるのは屈辱だ。絶対に笑うであろうし、馬鹿にされる。
こうなったら再び大妖怪への道を駆け上がるしかない。かつての自分のようにもう一度それを目指すのも面白いではないかと、つい血が騒いで笑みがこぼれる。
「うむうむ。若様はそのように不敵に笑う姿が似合いますな! 毛玉ですが」
「キエ!(やかましい!)」
毛玉は余計じゃ!絶対にかつてのような姿を取り戻してやるからな!
あの決意に燃えた時間はなんだったのであろうか、幼女がガイストと二人で考えたというと俺のための特訓内容が地獄だったのだが……。
あの後、部屋に戻ってきた幼女は起きている俺を見て嬉しそうに近づいて来た。
「妖様、おはようございます。よくお眠りになれましたでしょうか?」
「キュイ」
「よく眠れたそうですじゃ」
「まぁ、それはようございましたわ。最高級鳥籠は制作に鋭意取り組んでおりますので少々お待ちくださいね」
どんな鳥籠を作ろうとしているのかずいぶんと気合がこもっている。この鳥籠でも十分なのだが彼女がそうしたいのなら任せておこう。
「姫様、こちらを」
「そうでした、ガイストと一緒に妖様がお強くなるための特訓メニューを考えてきましたの」
何やら俺のために考えてくれたらしい。昨日も支援してくれると言っていたからこの事だろう。いったいどんな特訓なのだろうか。
「初級コースで、まずは基礎体力の底上げからですわね。安全を考えて中庭を五十周し、俊敏性を上げるために反復横跳び五十回、えぇーっとそれから……」
長々とその内容が語られていくがそれは本当に初級なのだろうか。今のこの毛玉に合わされているのがそれだというのか自分にはわからないので従うしかない。
「特訓前に食事にいたしましょう。朝ですのでお野菜を用意しましたわ。こちら魔素の強い土壌で育った魔レタスと魔トマトです。さぁ、お召し上がりください!」
昨日と同じように差し出してきた野菜をモシャモシャと食べていく。濃い味わいでなかなか美味である。バオジイも何を食べているのかよくわからないが、あの不気味なニコニコ笑顔なのできっとおいしかったのだろう。最後に朝露の天然水とやら飲んで朝食は終了。少し食休みをしてから中庭に移動する。その際はやはり鳥籠の中に入れられたままだった。
連れて来られた中庭の広さに顔は引きつり、それでも時間をかけて根性でやり遂げた特訓内容は翌日から半分以下に減らされていた。特訓初日は死んだように眠ったのは言うまでもないだろう。
「キエェ!?(何事じゃ!?)」
すぐに臨戦態勢に移ろうとしたが身体がおかしい事に気づく。そういえば、ケダマに生まれかわったのだったな。現実を思い出しこの揺れの原因を探れば、籠にしがみついているジジイことバオム。
「おはようございます若様! 本日も爽やかな朝ですぞ! 朝日が身に沁みますじゃ」
「キェ……(ジジイ……あぁ、おはよう)」
「バオジイとお呼びください」
あの謎の葉っぱで出来た両手でしがみついてニコニコと笑う花がそこにいる。昨日のあの庭で自己紹介をしていたが、彼は樹人の一族でまだまだひよっこであるそうだ。幼女の付き人は精霊族で名をガイストと言っていた。
バオジイは今生でも俺のお目付け役をするつもりなのか同じ部屋で寝ていた。ここは一応はあの幼女の部屋で、窓際の日当たりが良い場所に土を詰めた大きな鉢が置かれており、そこが彼の寝床になった。
くあぁっと欠伸をして身体を伸ばす。今はバオジイと自分しかいないみたいなので前世での事を聞いておこうと思う。
「キュエェ?(バオジイは死んだときの事を覚えておるか?)」
俺はいつもどおりに過ごしていたはずだ。死んだときの事など覚えていない。思い出そうとしてもやはり浮かんでこないがバオジイはどうだったのだろうか。
「若様は覚えておらんのですか? あの日は若様に歯向かった雌を一匹処分しておりました」
雌?あぁ、刺客か何かの女が俺を刺そうとしていたな。尾で軽く払ったら吹っ飛んでいき、なにやら騒いでいたのを思い出した。刺そうとした短刀を検分している間にどこかに連れて行かれて処分されたのだろう。短刀にも呪いなどは見当たらなかったが後で清めておこうと考えていたら眩しい光に包まれたのだったか。
「あの日、天が急に落ちてきたのです。おそらくあれで若様もワシも皆も……全滅でしょうな。世界そのものが滅んだのかもしれません」
バオジイが首を横に振っているので、きっと彼の言う通りなのだろう。多くの配下達もあの思い入れのある場所も……すべてが一瞬で消え去ってしまった。そして、こうして新しい生を手に入れてまた会えたのは、どれだけの奇跡なのだろうか。
つい、しんみりとしてしまったな。
「ですがこうしてまた若様にお会い出来ました! もしかしたら、かつてのあやつらもこちらにおるのかもしれません」
「キュイ(そうだな)」
また会えたら面白いのかもしれないが、今のこの姿を見られるのは屈辱だ。絶対に笑うであろうし、馬鹿にされる。
こうなったら再び大妖怪への道を駆け上がるしかない。かつての自分のようにもう一度それを目指すのも面白いではないかと、つい血が騒いで笑みがこぼれる。
「うむうむ。若様はそのように不敵に笑う姿が似合いますな! 毛玉ですが」
「キエ!(やかましい!)」
毛玉は余計じゃ!絶対にかつてのような姿を取り戻してやるからな!
あの決意に燃えた時間はなんだったのであろうか、幼女がガイストと二人で考えたというと俺のための特訓内容が地獄だったのだが……。
あの後、部屋に戻ってきた幼女は起きている俺を見て嬉しそうに近づいて来た。
「妖様、おはようございます。よくお眠りになれましたでしょうか?」
「キュイ」
「よく眠れたそうですじゃ」
「まぁ、それはようございましたわ。最高級鳥籠は制作に鋭意取り組んでおりますので少々お待ちくださいね」
どんな鳥籠を作ろうとしているのかずいぶんと気合がこもっている。この鳥籠でも十分なのだが彼女がそうしたいのなら任せておこう。
「姫様、こちらを」
「そうでした、ガイストと一緒に妖様がお強くなるための特訓メニューを考えてきましたの」
何やら俺のために考えてくれたらしい。昨日も支援してくれると言っていたからこの事だろう。いったいどんな特訓なのだろうか。
「初級コースで、まずは基礎体力の底上げからですわね。安全を考えて中庭を五十周し、俊敏性を上げるために反復横跳び五十回、えぇーっとそれから……」
長々とその内容が語られていくがそれは本当に初級なのだろうか。今のこの毛玉に合わされているのがそれだというのか自分にはわからないので従うしかない。
「特訓前に食事にいたしましょう。朝ですのでお野菜を用意しましたわ。こちら魔素の強い土壌で育った魔レタスと魔トマトです。さぁ、お召し上がりください!」
昨日と同じように差し出してきた野菜をモシャモシャと食べていく。濃い味わいでなかなか美味である。バオジイも何を食べているのかよくわからないが、あの不気味なニコニコ笑顔なのできっとおいしかったのだろう。最後に朝露の天然水とやら飲んで朝食は終了。少し食休みをしてから中庭に移動する。その際はやはり鳥籠の中に入れられたままだった。
連れて来られた中庭の広さに顔は引きつり、それでも時間をかけて根性でやり遂げた特訓内容は翌日から半分以下に減らされていた。特訓初日は死んだように眠ったのは言うまでもないだろう。
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