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七、薬草と私
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あの悲しみの日から二年が経ち、私は誕生日を迎え六歳になった。
「アマリアお嬢様、王都から手紙が届いております」
「ありがとう。こちらの机に置いてもらえるかしら」
今は手が離せないので、落ち着いたら読もうと思う。手紙を置いてくれたメーリから目線を本に戻し、ゆっくりと字を追っていく。この本は植物について書かれたもので、先日迎えた誕生日のお祝いにと父から贈られた物だった。母からは鍵の付いた日記帳を、姉からはかわいいクマのぬいぐるみ。そして――。
「あら、グロリアったら、またそんな事を書いて……」
ふふっと声をもらし先程の手紙を読み進める。最後まで読み切った手紙を封等に戻し、大事に仕舞っておくための綺麗な装飾の箱にそっと入れた。中には手紙の他に押し花で作られたしおりや、メッセージカードなどが入れられている。
これらはすべてグロリアから贈られた物だった。直接会えないグロリアは、こうやって隙あらばと色々な物を私に贈ってくれる。そう、グロリアには直接会えない。今の彼女は、ほとんどの時間があの人なのだ。
グロリアが倒れてあの人と入れ替わってしまった事により、グロリアは表に出て来られなくなった。だが意識ははっきりしており、内側からあの人の言動や行動、思考、感情等といった色々な物を見ているそうだ。そして、あの人が眠りについた時間が、グロリアが表に出てくる事が出来る時間となる。その僅かな時間で家族と語り合い、手紙を書いたりなどと行動する。とはいえ、肉体も休息しなくてはいけないので、グロリアの身体の状態を見ながらおこなわれる。
メッセージカードを手に取り文字をそっとたどれば「たんじょうびおめでとう」とグロリアの文字で書かれている。
私の誕生日はこちらでお祝いしてもらった。両親と姉も来てくださり贈り物もいただいた。<ヒョウイシャ>であるグロリアは監視対象となっており、王都にある屋敷から出る事が許されない。よって直接受け取る事は出来なかったが、彼女から預かってきたと私に手渡され、私も彼女に用意した贈り物を預ける。
グロリアはちゃんとここにいる。消えてなどいないのだと手紙が届くたびに実感し、彼女の姿を思い浮かべる。不安は未だに拭えない。でも、希望の光は消えてなどいないのだと信じるしかないのだ。
私はこの二年間で魔術のコントロールが上達した。そのおかげか体調も良くなり、熱で寝込む事もほぼ無い。始めたばかりは上手くいかず落ち込む時も多かったが、お祖母様は根気よく私に付き合ってくださり、メーリ達も励ましてくれた。
お祖父様は遠乗りに連れって行ってくださった。一緒に乗った馬は大きくて最初は怖かったが、そんな気持ちもすぐに消えてまわりの自然を楽しんだ。お祖父様の愛馬は優しい目をしていて、そっと触れれば温もりを感じる。優しく撫でれば気持ちが良かったのかブルルッと鼻を鳴らして喜んでいるようだ。
「かわいい……」
動物に触れるのも初めてだが、馬がこんなにかわいいとは思わなかった。遠目で見ている時は大きくて怖かったけど、お祖父様が一緒だから大人しいだけなのかもしれないが、いつか私も一人で乗れるようになりたい。お祖父様にそう伝えれば、まだ私には早いがもう少し大きくなった時に乗馬を教えてくれると約束してくださった。
「おじい様、約束ですわよ!」
「かわいいアマリアとの約束だ! 必ずじいじが叶えてあげような!」
ぎゅっとお祖父様の首に抱き着いて約束をした。その時のお祖父様のお顔がでろでろに緩んでいたと後でイーロ達が可笑しそうに教えてくれた。お祖父様は孫のお願いにとても弱かったのだ。
魔術コントロールが少しずつ上達しているのを感じられるようになれば、まわりにも目がいくようになる。ハーブに興味を持った私に、お祖母様は薬草園の事を教えてくれた。キルッカ領では薬草を栽培し、製薬を事業としていた。自然界にある薬草を研究し人の手で育てあげ、国内に薬が行き渡る様にと代々続けてきたのだ。人の手が入った薬草は自然界の物より効能が落ちてしまうのだが、それでも手に入りやすくなった事で多くの人達の元へ届く。広い薬草園をお祖母様と見て回り、ここで働いてくれている領民達に挨拶する。みんなが生き生きと働いているのがわかる。
最後に温室に寄って城へ戻る事にした。ここでは量産に目途がたっていない薬草が育てられていた。黄色の小さな花を咲かせたかわいい薬草に目がいき、近づいて見てみる。
「かわいいお花が咲いていますね。こちらも薬草なのですか?」
「えぇ、そうですよ。でも、この花は毒草なの」
「えっ!?」
毒草と聞き、ぱっと離れてお祖母様にしがみつく。
「あら、驚かせてしまったわね。毒があるのは根の部分なのよ。花を触っただけでは毒がまわったりしないから安心しなさい」
ふふっと笑いをこぼしたお祖母様は、安心する様にと私の頭を撫でてくれた。お祖母様に引っ付いたまま、そっと黄色の花を見つめる。
「確かにこの花は毒草なのだけど、薬にもなるのよ」
「毒なのにですか?」
「えぇ……きちんと調合すれば薬になるの。逆に毒でもない薬草も、調合を間違えれば毒薬になってしまう。だからそのような事がないようにとしっかり学び、責任を持って扱わねばなりません」
毒なのに薬になって、薬なのに毒にもなる……すごく不思議だった。でもこれが、私が薬草に興味を持ち薬学を学ぶ切欠となる。
知りたい事、やってみたい事が増えていく。グロリアに報告したい事がまた増えた。お気に入りの便箋に書き綴っていけば、枚数がとんでもない事になっている。苦笑いしてインクが乾くのを待つ。
手紙が送れるのはグロリアの負担にならないように、週に一度の決められた日のみ。だから一週間分の報告みたいになっている。動ける時間が限られているグロリアは自由とは呼べないかもしれない。それでも、私が決めた目標を応援してくれる。まっすぐな彼女に誇れるように、私はもっと精進していこう。
「アマリアお嬢様、王都から手紙が届いております」
「ありがとう。こちらの机に置いてもらえるかしら」
今は手が離せないので、落ち着いたら読もうと思う。手紙を置いてくれたメーリから目線を本に戻し、ゆっくりと字を追っていく。この本は植物について書かれたもので、先日迎えた誕生日のお祝いにと父から贈られた物だった。母からは鍵の付いた日記帳を、姉からはかわいいクマのぬいぐるみ。そして――。
「あら、グロリアったら、またそんな事を書いて……」
ふふっと声をもらし先程の手紙を読み進める。最後まで読み切った手紙を封等に戻し、大事に仕舞っておくための綺麗な装飾の箱にそっと入れた。中には手紙の他に押し花で作られたしおりや、メッセージカードなどが入れられている。
これらはすべてグロリアから贈られた物だった。直接会えないグロリアは、こうやって隙あらばと色々な物を私に贈ってくれる。そう、グロリアには直接会えない。今の彼女は、ほとんどの時間があの人なのだ。
グロリアが倒れてあの人と入れ替わってしまった事により、グロリアは表に出て来られなくなった。だが意識ははっきりしており、内側からあの人の言動や行動、思考、感情等といった色々な物を見ているそうだ。そして、あの人が眠りについた時間が、グロリアが表に出てくる事が出来る時間となる。その僅かな時間で家族と語り合い、手紙を書いたりなどと行動する。とはいえ、肉体も休息しなくてはいけないので、グロリアの身体の状態を見ながらおこなわれる。
メッセージカードを手に取り文字をそっとたどれば「たんじょうびおめでとう」とグロリアの文字で書かれている。
私の誕生日はこちらでお祝いしてもらった。両親と姉も来てくださり贈り物もいただいた。<ヒョウイシャ>であるグロリアは監視対象となっており、王都にある屋敷から出る事が許されない。よって直接受け取る事は出来なかったが、彼女から預かってきたと私に手渡され、私も彼女に用意した贈り物を預ける。
グロリアはちゃんとここにいる。消えてなどいないのだと手紙が届くたびに実感し、彼女の姿を思い浮かべる。不安は未だに拭えない。でも、希望の光は消えてなどいないのだと信じるしかないのだ。
私はこの二年間で魔術のコントロールが上達した。そのおかげか体調も良くなり、熱で寝込む事もほぼ無い。始めたばかりは上手くいかず落ち込む時も多かったが、お祖母様は根気よく私に付き合ってくださり、メーリ達も励ましてくれた。
お祖父様は遠乗りに連れって行ってくださった。一緒に乗った馬は大きくて最初は怖かったが、そんな気持ちもすぐに消えてまわりの自然を楽しんだ。お祖父様の愛馬は優しい目をしていて、そっと触れれば温もりを感じる。優しく撫でれば気持ちが良かったのかブルルッと鼻を鳴らして喜んでいるようだ。
「かわいい……」
動物に触れるのも初めてだが、馬がこんなにかわいいとは思わなかった。遠目で見ている時は大きくて怖かったけど、お祖父様が一緒だから大人しいだけなのかもしれないが、いつか私も一人で乗れるようになりたい。お祖父様にそう伝えれば、まだ私には早いがもう少し大きくなった時に乗馬を教えてくれると約束してくださった。
「おじい様、約束ですわよ!」
「かわいいアマリアとの約束だ! 必ずじいじが叶えてあげような!」
ぎゅっとお祖父様の首に抱き着いて約束をした。その時のお祖父様のお顔がでろでろに緩んでいたと後でイーロ達が可笑しそうに教えてくれた。お祖父様は孫のお願いにとても弱かったのだ。
魔術コントロールが少しずつ上達しているのを感じられるようになれば、まわりにも目がいくようになる。ハーブに興味を持った私に、お祖母様は薬草園の事を教えてくれた。キルッカ領では薬草を栽培し、製薬を事業としていた。自然界にある薬草を研究し人の手で育てあげ、国内に薬が行き渡る様にと代々続けてきたのだ。人の手が入った薬草は自然界の物より効能が落ちてしまうのだが、それでも手に入りやすくなった事で多くの人達の元へ届く。広い薬草園をお祖母様と見て回り、ここで働いてくれている領民達に挨拶する。みんなが生き生きと働いているのがわかる。
最後に温室に寄って城へ戻る事にした。ここでは量産に目途がたっていない薬草が育てられていた。黄色の小さな花を咲かせたかわいい薬草に目がいき、近づいて見てみる。
「かわいいお花が咲いていますね。こちらも薬草なのですか?」
「えぇ、そうですよ。でも、この花は毒草なの」
「えっ!?」
毒草と聞き、ぱっと離れてお祖母様にしがみつく。
「あら、驚かせてしまったわね。毒があるのは根の部分なのよ。花を触っただけでは毒がまわったりしないから安心しなさい」
ふふっと笑いをこぼしたお祖母様は、安心する様にと私の頭を撫でてくれた。お祖母様に引っ付いたまま、そっと黄色の花を見つめる。
「確かにこの花は毒草なのだけど、薬にもなるのよ」
「毒なのにですか?」
「えぇ……きちんと調合すれば薬になるの。逆に毒でもない薬草も、調合を間違えれば毒薬になってしまう。だからそのような事がないようにとしっかり学び、責任を持って扱わねばなりません」
毒なのに薬になって、薬なのに毒にもなる……すごく不思議だった。でもこれが、私が薬草に興味を持ち薬学を学ぶ切欠となる。
知りたい事、やってみたい事が増えていく。グロリアに報告したい事がまた増えた。お気に入りの便箋に書き綴っていけば、枚数がとんでもない事になっている。苦笑いしてインクが乾くのを待つ。
手紙が送れるのはグロリアの負担にならないように、週に一度の決められた日のみ。だから一週間分の報告みたいになっている。動ける時間が限られているグロリアは自由とは呼べないかもしれない。それでも、私が決めた目標を応援してくれる。まっすぐな彼女に誇れるように、私はもっと精進していこう。
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