公爵令嬢の幸せな夢

IROHANI

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二十一、いもうと

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「すまない、機嫌を直してくれないかアマリア嬢」
「私は怒ってなどおりませんわ」

 そう、怒ってなどいないのだ。恥ずかしかったから誤魔化すように怒っているふりをしているだけで、きっとそれも見抜かれていているのではないだろうか。こういう拗ねている態度が子供っぽいのではと思うが、フェルン様の前では淑女のように上手くかわせない。
 私の向かい側に座られたフェルン様を見ないようにしているが、くつくつと笑う声が聞こえる。フェルン様の口調はいつの間にかくずしたものになっていた。

「アマリア嬢が可愛いからつい」
「かわっ、からかっておりますわね!」

 可愛いだなんて言われて、ついフェルン様の方に顔を向けてしまった。笑っていらっしゃるが、その顔は何だか優しくて微笑ましく見守るようで……。
 そんな顔で見るなんてずるいと思う。

「可愛いよ……殿下達の気持ちがよくわかる。妹がいたらこんなかんじなのかと」
「い、いもうと……ですか?」

 あぁ、ずるい。ひどい。こんなに好きにさせておいて妹だなんて……。
 でも、しかたがないのだろう。五歳も下の子供っぽい女の子なんて、私が望むようなそんな女性として見てもらえるわけがない。妹としてでも見てもらえるのだからいいのではないか。その他大勢の他人ではない、少なくとも可愛いと思ってもらえている……いもうと。

「アマリア嬢?」

 苦しいけど我慢しなくては。大丈夫、最初からわかっていたでしょう?

「お兄様がまたひとり増えてしまいましたわ」

 笑って。こういう時は姉のように淑女の仮面をかぶって笑えばいいのよ。
 震える手を隠すようにぎゅっと力を入れて微笑む。大丈夫よ、私はきっと上手く笑えているはずだから。



 あの後は当たり障りのない話をして、フェルン様にはお疲れでしょうからと休む事を勧めた。一人になってからは本をめくっても頭に何も入ってこなくて無駄にページをめくっていた。私の顔が酷かったのだろう。メーリに部屋に戻るようにうながされ、本を返してゆっくり部屋へ戻った。
 途中で誰にも会わなくてよかった。そんな事を考えながらぼーっとしていれば「失礼します」と言ってメーリが抱きしめてくれる。

「アマリア様」
「うん、いいのよ。わかっていたの……」

 きっと殿下達を見て私にも優しく接してくださったのだろう。自分でも妹分としか見られていないのではと思っていたじゃない。わかっていた事なのだから……。

「うっ、わかって……」
「はい、泣いてくださいアマリア様。今は私しかいません。泣いて泣いて、そうしたらまた前を向いて頑張りましょう」
「うん、うんっ」
「私のアマリアお嬢様なら立ち上がれますわ。そして見返してやりましょう。妹なんかではない、こんなにも素敵な女性なのだと惚れさせてやるのです!」

 メーリの腕の中で我慢していた涙が溢れていく。それを切欠に涙は止まらなくて、彼女の言葉に頷く事しかできない。
 ありがとうメーリ。今だけは泣かせてね。この涙が止まったらまた頑張れるわ。こんな事で私の気持ちを諦めたくなどない。諦められるほど簡単でちっぽけな想いなどではない。今すぐは無理でも絶対に振り向かせてみせるのだから。
 だから、いまだけは泣いてしまう弱い私を許してください。



 涙が止まれば、あとはまた前を向いて頑張るだけだ。部屋に飾られたブルーラベンダーのドレスの前で、もう一度決意を新たにする。
 そして、彼の目の色と同じ青紫のリボンにそっと触れた。

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